事例278:画期的!裁判で、交通事故によるストレスが関節の機能障害7級相当として現れた転換性障害を認定させる

Yさん(20代)は、公務員として真面目に勤務しておりましたが、追突事故に遭い、頚椎捻挫、腰椎打撲捻挫、左膝打撲という診断を受けました。交通事故から1週間程度経った頃から足に力が入らなくなり、症状はどんどん悪化し、最終的には足首や指が自力で全く動かせなくなりました。Yさんは何とか原因を探そうと大学病院や規模の大きい病院を駆けまわり、電気生理学的検査や脊髄造影検査等を受けましたが、病院によって検査結果がバラバラで、神経損傷の明確な所見が無く、複数の病院では心因性の麻痺の可能性も指摘されていました。
Yさんは、交通事故に遭うまで精神科への通院歴も全くなく、仕事も人一倍こなせていたため、動かない足首の治療法や後遺障害の申請に不安をいだき、サリュに相談にきました。
サリュは、顧問医と協力の上、症状と交通事故の因果関係に関する意見書を作成し、それまで通院してきた病院に医療照会を重ね、後遺障害の申請を行いました。Yさんの症状は、確かに、医学的メカニズムは不明なところがあっても、交通事故後麻痺が発症したことは、一見して明らかでした。Yさんの左足は、自ら動かすことができず、日頃から足を杖のように使用するため、足裏以外の部分が、地面とこすれることにより、接地箇所の皮膚が硬質化していました。しかし、自賠責は、外傷による所見は無いという理由で左下肢麻痺については、後遺障害は無く、腰痛について14級しか認められないという判断をしてきました。あまりの症状と等級のギャップに、サリュは、あきらめず異議申し立てを2回、紛争処理申請を1回行いました。それでも、自賠責は、他覚所見がないという理由で結論を変えません。
そこで、サリュは訴訟を提起しました。訴訟では、交通事故による神経損傷を主張しましたが、これまでの医療証拠を前提に自賠責が後遺症を否定している場合、裁判所は、新たな証拠がなければ、自賠責の結論をほとんど変えません。サリュは、新たな証拠を求めて、鑑定の申し立てを行いました。鑑定とは、裁判所が選ぶ中立的な専門家に、因果関係等の争点に関する意見を求める裁判手続きです。必ずしも原告に有利な結論が出るとは限りません。それでもサリュは、鑑定人にYさんの現在の症状を訴えました。その結果、「下肢麻痺を説明しうる器質的原因が腰痛に認められなかったとしても、交通事故後に麻痺を生じたのであり、交通事故が無関係と言えない」「原告の症状の深刻さから考えると自賠責保険の後遺障害には該当しないとの決定は如何なものかと思われる。」という交通事故との因果関係を肯定する意見を得ることができました。もちろん、これだけで勝訴したわけではありませんが、この鑑定が裁判所を動かし、訴訟提起から約3年後、2200万円の和解案が出ました。そのときには、Yさんは、若年であるにも関わらず症状のため公務員を退職していました。Yさんは、判決で、自分の症状が交通事故により生じたことをはっきりさせたいと考え、私たちは和解案を拒否し、最終的には遅延損害金を含め2662万円の支払いを命ずる判決を得ました。この判決では、結局、交通事故による器質的な損傷を認めさせることはできなかったのですが、交通事故によるストレスが関節の機能障害(7級相当)として現れる転換性障害という病態の認定を正面から認め、心因性の可動域制限は、他動値ではなく、自動値で後遺障害を判断するなど、交通事故実務に影響を与える判断がなされました。
時間はかかり、Yさんには大変な心労をかけてしまいましたが、事件終結後Yさんが何度もサリュの事務所を訪れ、感謝の言葉をかけてくださいました。