• 後遺障害

CRPS(RSD)

CRPS(RSD)について

RSDとは、反射性交感神経ジストロフィーないしは反射性交感神経萎縮症と呼ばれているもので、神経因性疼痛の代表的なものです。交通事故で外傷を受けると、交感神経が反射し、神経伝達物質であるアドレナリンが放出されます。アドレナリンは血管を収縮させて出血を抑制する働きがありますが、外傷が治癒されたにもかかわらず、アドレナリンが過剰に放出され続けると、血管収縮による血流障害が生じ、慢性の痛みや痺れなどを誘発します。以下のページでは、RSDの基礎知識や、損害賠償請求において重要なポイントを解説します。

このRSDと類似した症状としてカウザルギーと呼ばれる傷病があります。カウザルギーは末梢神経損傷を伴わないRSDとは区別されますが、実際にRSDとカウサルギーの病態としては共通点が多いので、これらを総称してCRPSと呼び、RSDはCRPSのTypeⅠ、カウザルギーはCRPSのTypeⅡと分類されています。以下、RSDについて説明しますが、カウザルギーについても基本的には同様です。

CRPS(RSD)の後遺障害等級

自賠責の後遺障害認定において、RSDが認められるためには、症状固定時に、①関節拘縮、②骨萎縮、③皮膚変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という3要件が、健側と比較して明らかに認められること、という条件を満たす必要があります。RSDと認められると、後遺障害等級は7級、9級、12級のいずれかに該当する可能性があります。

7 級 4 号 軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの
9 級 10 号 通常の労務に服することはできるが、疼痛により時に労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当程度に制限されているもの
12 級 13 号 労働には通常差し支えないが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの

CRPS(RSD)の治療法

治療法の代表的なものとしては、星状神経節ブロック、硬膜外ブロック、神経根ブロック、交感神経節ブロック、局所神経ブロック、局所静脈内交感神経ブロック等の神経ブロック療法、副腎皮質ホルモン、疼痛などのために抑うつ症状がみられる場合には抗うつ剤が投与される薬物療法、温冷交代浴や可動域訓練等の理学療法などがあります。
RSDかどうかの診断は非常に困難です。したがって、少しでもRSDの疑いがあると思われたら、早期に専門医に相談して治療をすることが必要です。

CRPS(RSD)の特徴

RSDの特徴的な症状としては、

  1. 疼痛・灼熱痛で代表される極めて激烈な自発痛を訴える。
  2. 著しい腫脹(炎症などが原因で体の組織や器官の一部が腫れ上がること)が起こる。
  3. 関節拘縮…発症後、3-4週頃から骨萎縮が起き、患肢の広範囲に拡大する。
  4. 皮膚変化…時間の経過と共に、皮膚は光沢や緊張を失い、蒼白となり、皮膚温が低下すると共に乾燥してくる。

以上のような4つの兆候が認められれば、同傷病が強く疑われます。
受傷後時間が経過し、医学的には治癒段階ではないかという時期に発症することが多いのも特徴で、四肢に多く見られます。

CRPS(RSD)の立証

①診断基準

RSDを発症すると、後遺障害等級は7級、9級、12級に該当する可能性があります。では、どうすれば適切な後遺障害等級を獲得できるのでしょうか。
RSDは症状が多様で、医学的にRSDの診断基準の項目が、他の病気の症状と類似している部分が多いことから、立証が困難な傷病名だと言われています。したがって、適切な後遺障害等級を獲得するためには、繰り返しになりますが、早期に、高度な専門医に治療と立証をお願いしなければなりません。
RSDの立証は、従来、Gibbonsの診断基準に限定されていましたが、今後はISAP、Kozinらの診断基準も追加して立証する必要があります。参考までにギボンズの診断基準を紹介します。

右記の診断基準の他にも、RSDを立証するには、疼痛の程度、知覚測定、腫脹・浮腫の程度、発汗の程度、皮膚の血流状態、骨萎縮の程度、神経障害・筋肉の活動状態等を把握しなければなりません。ただ、疼痛の程度などは、被害者の主観に左右されるため、主治医がその程度を理解するのが困難です。そこで、疼痛の程度の立証に関しては、癌患者と医療スタッフとの間で、実際に使用されている以下のスケールが利用されることが多いようです。

GibbonsのRSDスコア

  1. 疼痛異常・過敏
  2. 灼熱痛
  3. 浮腫
  4. 皮膚色や発毛の異常(蒼白・光沢・脱毛)
  5. 発汗異常(過多・過小)
  6. 皮膚温度の異常(低下・上昇)
  7. XP上の骨萎縮像(ズディック骨萎縮)
  8. 血管運動障害(レイノー現象・冷感・紅潮)
  9. 骨シンチグラフィーの異常所見(集積像)
  10. 交感神経ブロックが有効

陽性=1点、陰性=0点、不明瞭=0.5点でカウントし、合計点が2.5以下はRSDでない、3~4.5点はRSDの可能性あり、5以上をRSDと診断します。

②痛みのスケール

①NRS(数値的評価スケール)

痛みが全くない状態を0、患者が想像できる最大の痛みを10として、現在の痛みが、どの程度のものなのかを表すスケールです。

②VRS(カテゴリースケール)

痛みを、なし、軽度、中程度、強度、最悪の5段階で表示し、現在の痛みが、どの程度のものなのかを表すスケールです。

③フェイススケール

6段階の顔の表示から、現在の痛みに当てはまる顔がどれなのかを患者に選択させて現在の痛みの程度を表すスケールです。

上記スケールの他にも、Neurometer(末梢神経検査装置)、サーモグラフィー、レーザードップラー検査等、それぞれに応じた適切な検査が必要です。
もっとも、医師がこれらの診断ないし検査結果等を後遺障害診断書に反映してくれないと、RSDで適切な後遺障害等級を獲得することは困難です。
したがって、医師にこれらの検査結果等を、後遺障害診断書に具体かつ詳細に記載してもらうことが重要です。
また、納得いく等級が獲得できたとしても、保険会社等は、RSDを発症したのは被害者の心因的な要素が大きいとして損害額の減額を主張(これを「素因減額」といいます。)し、結局、話がまとまらず、裁判になることも稀ではありません。
以下、参考までにRSDに関する裁判例を紹介します。

<大阪地裁平成14年8月31日判決>
事案 原告が原動機付自転車で走行中突然開けられた加害車両の助手席のドアに右手を接触、また転倒した際歩道上に積載されていた工事用の電線の束に右手指を強く打ちつけ、右環指側副靭帯損傷等からRSDを発症した
症状 環指の疼痛・腫脹、中指、親指、小指も他動的に曲げると痛みがはしる
認定 12級
労働能力喪失率 10年14% 原告の職業は一級建築士で設計事務所経営 48歳男子
素因減額 なし
<横浜地裁平成20年6月13日判決>
事案 原告がタクシーを運転中、渋滞のため停車していたところ、後ろから乗用車に衝突されて、頚椎捻挫、腰背部打撲・捻挫、左腸骨部打撲等からRSDを発症した
症状 左下肢に力が入らない、左上肢が動かない、左半身に痛みと痺れが起こる
認定 9級10号→7級4号(異議申立後)
労働能力喪失率 34年56% 原告の職業はタクシー運転手 30歳男子
素因減額 なし

CRPS(RSD)の進行度合

①第1期(急性期:3ヵ月)

外傷の大きさに相応の疼痛が生じた後、次第に灼熱痛に変化し運動により疼痛が増強してきます。また、皮膚の発赤、皮膚温上昇、腫脹(浮腫)等の症状も出てきます。
次いで皮膚の冷感、発汗の亢進が起こると共に、発症後3-4週を過ぎると骨萎縮(脱カルシウム、骨粗鬆症)が始まり、経過と共に症状が進行してきます。

②第2期(亜急性期:3〜12ヵ月)

疼痛はさらに増強し広範囲に進展してきます。腫脹(浮腫)は硬く固定されると共に、皮膚は徐々に蒼白になり、乾燥してきます。また、皮膚・皮下脂肪は萎縮してきます。さらに、関節拘縮も発生してきて、レントゲンでは典型的な斑点状骨萎縮像を呈するようになります。

③第3期(慢性期:12ヵ月〜2年)

疼痛はやや緩和されることもありますが、関節拘縮と皮膚萎縮が進行すると共に、関節可動性は低下してきます。また、爪の屈曲変形と指尖の萎縮が生じると共に、骨萎縮の増強と患肢全体の廃用化が進んできます。