保険会社から「医療照会の同意書」が届いたら署名すべき?むちうち治療中に確認する範囲と注意点
「同意書を返送しないと、治療費を払ってもらえなくなるのでしょうか」
「事故とは関係のない昔の病気や通院歴まで、保険会社に全部知られてしまうのが不安です」
「空欄の多い同意書に、そのまま署名してよいのか判断できません」
交通事故でむちうちや頚椎捻挫の治療を受けていると、加害者側の任意保険会社から「医療照会同意書」「診療情報取得同意書」「医療機関照会承諾書」などの書類が届くことがあります。治療費を医療機関へ直接支払う一括対応を続けるために必要だと説明され、十分に内容を読まないまま署名を急いでしまう方も少なくありません。
結論からいうと、保険会社が事故による治療内容や治療費を確認するために、一定範囲の医療情報を取得すること自体には合理的な目的があります。
もっとも、届いた同意書には何でも署名すればよいわけではありません。事故後の通院先だけを対象にしたものもあれば、事故前の既往歴、過去の画像、投薬歴、他科の診療録まで広く取得できる文言になっているものもあります。署名前に、少なくとも「対象医療機関」「対象期間」「取得する資料」「利用目的・提供先」を確認し、空欄や不明確な表現があれば質問しましょう。
また、署名を拒んだからといって、交通事故の損害賠償請求権が直ちに消えるわけではありません。ただし、保険会社が治療費の必要性や事故との因果関係を確認できず、一括対応を始めない、または継続しない可能性はあります。全面的に拒否するか無条件に署名するかの二択ではなく、必要な範囲を確認し、限定した同意や別の資料提出で対応できないかを検討することが大切です。
この記事では、医療照会同意書が必要とされる理由、署名前に見るべき項目、既往症の照会を受けるときの注意点、署名しない場合の影響、保険会社との具体的なやり取りを、治療中の方にも分かるように順番に解説します。
この記事でわかること
まずは、この記事で確認できるポイントを整理します。すでに同意書が届いている方は第4章・第7章、既往症の照会が心配な方は第5章、署名を保留している方は第8章から読むと整理しやすいでしょう。
- 保険会社が医療照会同意書を求める理由
- 医療情報が個人情報保護法上どのように扱われるか
- 署名前に確認する対象医療機関・期間・資料・目的
- 既往症や事故前の通院歴を照会されるときの対応
- 広すぎる同意書、空欄のある同意書への対処法
- 署名しない場合に起こり得ることと代替案
- 同意書を提出した後に残しておきたい記録
ケース別の読み方
同意書を今日中に返送するよう求められている方は第7章、事故前から肩こりや首痛がある方は第5章、すでに署名済みで何を照会されたか分からない方は第6章、保険会社から治療費対応を断られた方は第8章を確認してください。

交通事故解決件数 1,200件以上
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【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した
1. 結論|同意書は内容を確認し、必要な範囲で署名します
最初に、医療照会同意書への基本的な向き合い方を確認します。同意書は、保険会社に無制限の調査権限を与える書類でも、署名した瞬間に請求内容が決まる書類でもありません。保険会社が事故対応に必要な医療情報を取得するための根拠となる書類です。
1-1. 事故後の治療情報を確認する同意には合理性があります
加害者側の保険会社が医療機関へ治療費を直接支払う場合、誰が、どの事故で、どの傷病について、いつからどのような治療を受けているのかを確認する必要があります。診断書、診療報酬明細書、施術証明書などがなければ、治療費の内容、通院日、診断名、検査や処置の内容を判断できません。
そのため、事故後の通院先から必要な資料を取得し、治療費の支払い、損害額の算定、事故との因果関係の調査に使うという範囲であれば、同意書への署名は通常の事故対応の一部といえます。同意書が届いたという理由だけで、保険会社が不当な調査をしていると決めつける必要はありません。
1-2. 「何でも照会できる同意」になっていないかは確認します
一方で、同意書の文言が広すぎる場合には注意が必要です。たとえば、対象医療機関が空欄のまま、対象期間に終期がなく、「一切の診療情報」「その他保険会社が必要と認める資料」などの表現だけが置かれていると、被害者が想定していた範囲を超えて照会される可能性があります。
個人情報保護委員会のガイドラインは、第三者提供の同意を得る際、本人が判断するために必要な合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示すことを求めています。どこまで同意するのかが理解できない書類については、空欄を埋めてもらう、別紙を示してもらう、質問への回答をメールで残すといった対応を取りましょう。
1-3. 全面拒否と無条件署名の中間にある選択肢を検討します
事故前の既往症が争点になっている場合でも、過去の全診療記録を無期限に取得することだけが唯一の方法とは限りません。事故前の一定期間に限定する、対象診療科を限定する、被害者自身が必要な診療録を取り寄せて提出する、照会事項を具体化してもらうといった方法があります。
もっとも、保険会社が合理的に必要とする資料の提出まで拒むと、治療費の一括対応や損害調査が進まなくなる可能性があります。何を心配しているのかを伝え、事故との関係を確認するために本当に必要な範囲を話し合うことが現実的です。
要点
同意書は「署名するか、しないか」だけで考えません。事故対応に必要な範囲が明確かを確認し、広すぎると感じる部分は理由を尋ね、必要に応じて限定方法を相談します。
2. 保険会社が医療照会を行う3つの理由
同意書の内容を判断するには、保険会社が何を確認しようとしているのかを知る必要があります。主な目的は、治療費の直接支払い、事故との因果関係の確認、損害額・後遺障害の調査です。
2-1. 医療機関へ治療費を直接支払うためです
任意保険会社が医療機関へ治療費を直接支払う取扱いは、一般に「一括対応」と呼ばれます。被害者が窓口で全額を立て替えずに治療を受けられるため便利ですが、保険会社は医療機関から請求された費用が事故による治療に対応するものかを確認しなければなりません。
その確認には、診断名、受傷部位、通院日、検査、投薬、処置、リハビリなどの情報が必要です。同意書の対象が事故後の通院先、事故日以降の治療、診断書や診療報酬明細書に限定されている場合は、この目的との関係が比較的分かりやすいでしょう。
2-2. 事故と症状との因果関係を確認するためです
むちうちでは、痛み、張り、頭痛、めまい、しびれなど自覚症状が中心になり、レントゲンで骨折や脱臼が確認されないこともあります。そのため、事故後いつ症状が出たのか、初診はいつか、同じ部位の症状が続いているか、必要な診察や治療を受けているかが問題になります。
事故前から同じ部位を治療していた場合や、受診が遅れた場合、通院に長い空白がある場合には、保険会社が事故前後の診療記録を比較しようとすることがあります。ただし、既往症があるというだけで事故との因果関係が否定されるわけではありません。事故前の状態、事故後の変化、治療経過を区別して説明することが大切です。
2-3. 治療期間・後遺障害・損害額を判断するためです
保険会社は、治療の必要性や相当な期間、休業損害との関係、症状固定後の後遺障害申請なども検討します。後遺障害等級の申請では、後遺障害診断書だけでなく、診断書、診療報酬明細書、診療録、画像、検査結果、治療経過などが判断材料になります。
ただし、任意保険会社による医療照会と、自賠責保険の後遺障害等級認定は同じ手続ではありません。誰が、どの目的で、どの資料を取得しようとしているのかを区別し、同意書の提出先と利用目的を確認しましょう。
3. 医療情報は要配慮個人情報として慎重に扱われます
医療照会同意書を確認するうえでは、診療情報が通常の連絡先などとは異なる性質を持つことを理解しておくとよいでしょう。
3-1. 病歴や診療情報は要配慮個人情報に当たります
個人情報保護法上、病歴、診療や調剤に関する情報などは、本人に対する不当な差別や偏見などが生じないよう特に配慮を要する情報として扱われます。医療機関が患者の診療情報を保険会社へ第三者提供する場合、法令上の例外に当たらない限り、原則として本人の同意が必要です。
このため、保険会社は被害者から同意書を取得し、医療機関へ提示したうえで診断書や診療録等の提供を受けます。同意書は単なる事務書類ではなく、誰にどの医療情報を渡すことを認めるかという意思表示を含む書類です。
3-2. 同意の判断に必要な内容が分かることが重要です
個人情報保護委員会の通則ガイドラインは、本人の同意を得る際、判断に必要な合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示すことを求めています。交通事故の同意書でも、少なくとも提供先、対象情報、利用目的が読み取れることが望ましいといえます。
もちろん、個人情報保護法の規定だけから、個々の保険会社の同意書が直ちに有効・無効と決まるわけではありません。しかし、被害者が内容を理解できないまま署名するのではなく、分からない部分を確認するという判断の基礎になります。
3-3. 保険会社の内部利用や委託先も確認します
医療情報は、保険会社の担当部署だけでなく、医療調査会社、顧問医、損害調査機関などへ提供されることがあります。同意書や個人情報取扱方針に、委託先への提供、共同利用、保存期間などが記載されている場合は確認してください。
外部の専門家へ医療意見を求めること自体が直ちに不当というわけではありませんが、どの資料が、誰に、何の目的で渡るのかが分からない場合は、担当者へ説明を求めるとよいでしょう。
4. 同意書で確認する4つの範囲
ここからは、実際の同意書を手元に置きながら確認したい項目を整理します。書式は保険会社ごとに異なりますが、重要な視点は共通しています。

| 確認項目 | 具体的に見る部分 | 注意したい例 |
|---|---|---|
| 対象医療機関 | 事故後の病院、整骨院、薬局、検査機関、既往症の通院先 | 医療機関名が空欄、将来受診するすべての医療機関を含む |
| 対象期間 | 事故日から現在まで、事故前の何年間、同意の終了時期 | 開始日・終了日がなく無期限 |
| 取得する資料 | 診断書、診療録、画像、検査結果、投薬歴、既往歴 | 「一切の資料」「その他必要な資料」のみで具体性がない |
| 利用目的・提供先 | 治療費支払い、因果関係、損害調査、委託先や顧問医 | 誰が利用するか、何に使うかが分からない |
4-1. 対象医療機関が特定されているか
事故後に受診した整形外科だけを対象にするのか、事故前に肩こりや首痛で受診した病院も対象にするのかで、取得される情報は大きく変わります。医療機関名が空欄の場合には、保険会社が後から自由に記入できる趣旨なのか、被害者が記入するのかを確認してください。
複数の医療機関へ通っている場合は、同意書を医療機関ごとに分ける方法もあります。特定の診療科だけを対象にすることが可能かも相談しましょう。
4-2. 対象期間が事故との関係で相当か
事故後の治療費確認であれば、事故日以降の期間が中心になります。既往症が問題になる場合でも、何十年も前の全診療記録が常に必要とは限りません。保険会社がどの症状との比較のために、どの程度遡る必要があると考えているのかを尋ねます。
同意の有効期間が無期限になっている場合、治療終了や示談成立後も照会できる趣旨なのかを確認します。必要に応じて、症状固定まで、示談成立まで、特定の日付までなど、終了時期を明らかにします。
4-3. 取得する資料が具体的に書かれているか
診断書や診療報酬明細書と、診療録全体、看護記録、画像、検査結果、投薬歴では、情報量が異なります。保険会社がまず必要としているのが治療費支払いのための診断書・明細書なのか、因果関係調査のための診療録なのかを分けて確認します。
医療機関への「面談」や「医療照会」が含まれる場合、保険会社や医療調査会社が医師へどのような質問をする予定なのか、質問書の写しを受け取れるかを尋ねてもよいでしょう。
4-4. 利用目的と提供先が分かるか
治療費の直接支払い、治療期間の検討、休業損害の確認、後遺障害申請の準備など、目的によって必要資料は異なります。同意書に複数の目的が並んでいる場合には、今回の事故でどの目的が想定されているのかを確認します。
また、保険会社以外の調査会社や顧問医へ資料を渡す場合、その名称や役割、再提供の有無、資料の保管方法も確認できると安心です。
5. 既往症・事故前の通院歴を照会されるときの注意点
むちうち治療中の医療照会で最も不安が大きいのが、事故前の肩こり、首痛、頭痛、しびれ、整形外科通院などの既往歴です。既往歴は隠すのではなく、事故前と事故後を比較できる形に整理します。
5-1. 既往症があるだけで請求が否定されるわけではありません
事故前から同じ部位に症状があっても、事故により症状が新たに生じた、明らかに悪化した、治療頻度や生活支障が増えたという場合があります。保険会社が既往歴を確認することと、事故との因果関係を否定することは同じではありません。
事故前の診療録に「軽い肩こり」と記録され、事故後には強い頚部痛や手のしびれが継続しているのであれば、その違いを説明する資料になります。反対に、事故前から同じ症状で頻繁に治療していた場合は、事故による増悪の範囲が争点になります。
5-2. 事故前の情報を隠すと信用性を損ねることがあります
問診票や保険会社への回答で既往歴を否定した後、医療照会で過去の通院が判明すると、症状全体の信用性を争われるおそれがあります。「以前から通院していたが事故前は仕事や家事に支障がなかった」「事故後に痛みの部位・強さ・頻度が変わった」など、事実を分けて説明しましょう。
医療機関へも、事故前の症状と事故後の変化を正確に伝えます。医師の記録と保険会社への説明が大きく食い違わないことが重要です。
5-3. 事故と関係のない情報まで広く取得する必要性を確認します
首の痛みが争点であるのに、事故と関係のない診療科の全記録や、非常に古い病歴まで一律に求められた場合には、なぜ必要なのかを確認します。対象診療科、傷病、期間を限定できないかを相談してください。
ただし、服薬や基礎疾患が現在の症状や治療に影響することもあるため、本人の判断だけで「無関係」と決めつけるのは避けます。保険会社の理由を聞き、必要に応じて主治医や弁護士へ相談したうえで範囲を決めましょう。
6. 署名後も照会内容と取得資料を記録します
同意書を提出したら終わりではありません。どの同意書を、いつ、誰に提出し、その後どの医療機関へどのような照会が行われたかを把握できるようにします。

6-1. 署名済み同意書の写しを必ず残します
原本を郵送する前に、全ページをコピーまたは撮影してください。裏面、別紙、個人情報取扱いに関する説明も含めて保存します。署名日、発送日、送付先、担当者名、追跡番号がある場合は同じフォルダに記録します。
後から「どこまで同意したのか」が問題になったとき、手元に写しがなければ確認が困難になります。空欄を埋めてもらった場合や、手書きで限定事項を追記した場合には、その状態が分かる写しを残します。
6-2. 医療機関への質問内容を確認します
保険会社が主治医面談や書面照会を行う場合、質問事項の写しを事前または事後に受け取れるか確認します。治療の必要性、症状固定時期、既往症の影響、事故との因果関係など、質問の仕方によって回答の意味が変わることがあります。
医師に特定の結論を書いてもらうよう求めるのではなく、診察に基づく医学的判断が正確に記録されることが大切です。保険会社の質問に事実誤認がある場合は、早めに訂正を求めます。
6-3. 取得された資料と自分の説明を照合します
診断書、診療録、画像、検査結果などを被害者自身も取り寄せられる場合があります。事故日時、初診時の症状、既往歴、通院経過が、保険会社へ説明した内容と整合しているかを確認します。
記録に誤りや伝達漏れがある場合、医療記録を都合よく書き換えてもらうことはできませんが、次回診察で事実を正確に伝え、補足が必要かを主治医へ相談することはできます。

電話で無料相談する方は、下記をクリックしてください。
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7. 同意書に署名する前の6ステップ
同意書が届いたら、次の順序で確認すると、急いで署名した後に不安になることを防ぎやすくなります。

STEP1. 同意書一式を保存します
封筒、案内文、同意書、別紙、返信期限が分かる状態で保存します。スマートフォンで撮影する場合は、文字が読める解像度で全ページを撮り、ファイル名に日付を入れます。
STEP2. 対象医療機関・期間・資料・目的を囲みます
同意書の中で、誰に、いつからいつまでの、どの資料を、何の目的で提供するのかをマーカー等で確認します。空欄、包括的な文言、別紙参照の箇所を見落とさないようにします。
STEP3. 分からない点を一つずつ質問します
「事故前何年分を取得する予定ですか」「主治医面談の質問書を確認できますか」「委託先の名称は何ですか」など、具体的に尋ねます。電話で聞いた場合も、日時、担当者名、回答をメモし、重要な点はメールで確認します。
STEP4. 必要に応じて限定方法を相談します
医療機関ごとに同意書を分ける、対象期間を記載する、取得資料を列挙する、被害者自身が資料を取り寄せるなどの方法を相談します。保険会社の書式へ一方的に削除線を引くと受理されないことがあるため、変更方法は事前に確認します。
STEP5. 内容を理解したうえで署名・提出します
署名欄、日付、住所、事故日、証券番号などを確認し、空欄が残っていない状態で提出します。医療機関名や対象期間を追記した場合、保険会社と認識が一致していることを確認してください。
STEP6. 提出後の照会経過を記録します
医療機関への照会日、回答日、取得資料、保険会社からの説明を記録します。治療費打ち切りや因果関係の否定につながる意見が出た場合は、どの資料のどの記載が根拠になっているかを確認します。
注意
返送期限が短い場合でも、内容を確認せず署名する必要はありません。ただし、何も連絡せず期限を過ぎると手続が止まることがあります。確認中であることと、回答予定日を担当者へ伝えましょう。
8. 署名しない・範囲を限定したい場合の対応
同意書の内容に納得できない場合、放置するのではなく、何が問題なのかを具体的に伝えます。全面拒否の影響と代替案を確認してから判断しましょう。
8-1. 署名しないと一括対応が始まらない・終わる可能性があります
任意保険会社には、被害者の治療費を医療機関へ直接支払う法律上の一般的義務があるわけではありません。そのため、任意保険会社が医療情報を確認できないことを理由に、一括対応を行わない、または継続しないと判断する可能性があります。
その場合でも、医師が治療を必要と判断しているのであれば、健康保険、労災保険、自己負担などで治療を継続し、後から請求を検討する方法があります。ただし、立て替えた治療費が必ず全額回収できるとは限りません。
8-2. 被害者自身が資料を取得して提出する方法があります
診断書、診療録、画像データなどを被害者自身が医療機関から取り寄せ、内容を確認してから保険会社へ提出する方法があります。これにより、保険会社が医療機関へ直接広い照会を行うことへの不安を減らせる場合があります。
もっとも、開示費用や時間がかかり、保険会社が追加質問を必要とすることもあります。どの資料を提出すれば一括対応や損害調査を進められるのかを先に確認しましょう。
8-3. 限定同意や個別同意を相談します
事故後の整形外科については診療録まで同意し、既往症の病院については特定期間の診断書だけにするなど、目的に応じて範囲を分ける方法があります。主治医面談は別途同意とし、質問書を確認した後に判断する方法も考えられます。
保険会社が限定に応じない場合には、その理由を文書で確認し、必要性とのバランスを検討します。
9. 医療照会が治療費・慰謝料・後遺障害に与える影響
医療照会の結果は、治療費だけでなく、慰謝料、休業損害、後遺障害等級の申請にも影響し得ます。ただし、同意書へ署名したこと自体で結論が決まるわけではありません。
| 請求項目・手続 | 医療情報で確認される主な点 | 被害者側で残したい資料 |
|---|---|---|
| 治療費 | 事故との因果関係、治療の必要性・相当性、治療期間 | 初診記録、診療録、画像、通院経過 |
| 入通院慰謝料 | けがの内容、治療期間、実通院状況 | 診断書、通院日一覧、治療内容 |
| 休業損害 | 症状と休業の必要性、就労制限 | 医師の所見、勤務・給与資料 |
| 後遺障害 | 症状固定、残存症状、医学的所見、一貫性 | 後遺障害診断書、画像、検査、経過診断書 |
9-1. 医療記録の一文だけで全てが決まるわけではありません
診療録に「軽快」と書かれていても、症状が完全に消失したことを意味するとは限りません。反対に、本人が強い痛みを訴えていても、事故との関係や治療の必要性が自動的に認められるわけではありません。
事故態様、初診時期、診察所見、症状の推移、治療効果、仕事や生活への影響を合わせて評価します。保険会社が特定の記載だけを根拠に否定した場合は、前後の記録と全体の経過を確認しましょう。
9-2. 後遺障害申請では資料の一貫性が重要です
むちうちの後遺障害では、画像上の明確な外傷所見がないこともあります。その場合、事故後から症状固定まで同じ部位の症状が続いているか、必要な診察・検査を受けているか、通院に不自然な空白がないか、医学的に説明できるかが重要になります。
同意書の段階から、事故日時、受診先、症状、検査、通院経過を正確に伝え、後の後遺障害申請と矛盾しない資料を残しましょう。
10. 弁護士法人サリュの解決事例から分かる医療資料の重要性
ここまでのポイントを、弁護士法人サリュの公開済み解決事例に照らして確認します。以下の事例は、医療照会同意書の文言そのものが争われた事例ではありませんが、診療記録や画像などの医療資料をどのように整理し活用するかの参考になります。
解決事例は結果を保証するものではありませんが、証拠の集め方と交渉の進め方を知る具体的な手がかりになります。
10-1. 物損資料・経過診断書・MRI画像を組み合わせ、非該当から14級9号に変更された事例
事例369:後遺障害非該当から14級9号を獲得。賠償金も裁判所基準相当額回収に成功
事例の概要:赤信号で停車中に追突され頚椎捻挫となった方が、当初の後遺障害申請では非該当となった事例です。異議申立てでは、物損資料から頚部に加わった外力を検討し、経過診断書から症状の一貫性や治療内容を確認し、MRI画像などの医学資料も精査した結果、頚部の神経症状について14級9号が認定されました。
本記事との関係:保険会社や自賠責へ提出される医療資料の範囲と内容を把握し、事故資料と医療資料をつなげて説明することの重要性が分かります。同意書を提出する際にも、第6章のとおり、後にどの資料が取得・利用されるのかを記録しておくとよいでしょう。
10-2. 既往症を理由とする非該当を、事故前の医療記録の精査で覆した事例
事例353:聴力障害の既往症を理由に後遺障害非該当でも、医療記録を調査し異議申し立て。後遺障害14級3号の認定を受けた事例
事例の概要:歩行中に自転車と衝突し聴力障害が残った方が、事故前から聴力障害があることを理由に非該当とされた事例です。医療記録を取り寄せて事故前の状態を精査したところ、事故前には聴力障害が改善しており、事故後に悪化した事実を確認できたため、異議申立てにより14級3号が認定され、380万円を超える賠償金につながりました。
本記事との関係:第5章で説明したとおり、既往症があることと事故との因果関係が否定されることは同じではありません。事故前の医療記録は、被害者に不利に働くだけでなく、事故前後の変化を示す資料にもなり得ることが分かります。
10-3. 医療照会・MRI確認・刑事記録の収集を尽くして12級13号を獲得した事例
事例356:同一部位(首)の後遺障害に関し、既存障害14級9号のところ、異議申立で12級13号を獲得した事例
事例の概要:過去の事故で首に14級9号の認定を受けていた方が、新たな事故で頚椎捻挫を受傷した事例です。同一部位への同等級は認定されないため1回目の申請は非該当となりましたが、刑事記録の取得、MRI画像の確認、神経学的所見に関する医療照会など準備を整えて異議申立てを行い、12級13号(既存障害14級9号)が認定されました。
本記事との関係:医療照会は保険会社だけが行うものではなく、被害者側も争点に必要な医療情報を特定して収集できることが分かります。第8章で触れた「自分で資料を取得して提出する」方法の実例といえます。
10-4. 治療費対応の終了後も治療実績を残し、後遺障害認定につなげた事例
事例352:治療が打ち切られても、健康保険で治療を継続。後遺障害認定を受けにくい若年者でも、治療実績を重ねたことで後遺障害認定を受けた事例
事例の概要:停車中の追突事故で頚椎捻挫などを負い、約3か月半で保険会社の治療費対応が終了した事例です。その後は健康保険を使って治療費を立て替えながら約2か月間通院を継続し、症状固定後の後遺障害申請で各部位に14級9号が認定され、立て替えた治療費も後の交渉で支払われました。
本記事との関係:第8章で説明したとおり、同意書や一括対応をめぐって保険会社と見解が分かれても、治療の必要性は医師の判断を基礎に考えます。医療記録に治療実績が残っていたことが、後の認定を支えた例です。
10-5. 通院時の症状の伝え方から準備し、1回目の申請で併合14級が認定された事例
事例377:Aさん(60代・家事従事者)停車中の追突事故で併合14級、270万円を獲得
事例の概要:家事従事者の方が右折待ち停車中に追突され、頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状が残った事例です。日常の通院に関する対応や後遺障害診断書作成時の準備をサポートし、必要な資料を過不足なく整理したことで、1回目の申請から併合14級が認定され、主婦休業損害・主婦逸失利益を含む270万円で示談に至りました。
本記事との関係:第6章・第9章で説明した「診察時に症状を正確に伝え、医療記録と自分の説明を整合させる」ことが結果につながった例です。医療照会で取得される記録は、日々の診察の積み重ねで作られます。
解決事例を読むときの注意
解決結果は、事故態様、傷病、医療記録、年齢、仕事、相手方の対応などによって異なります。公開事例は対応の考え方を知る参考であり、同じ等級・金額・治療費の支払を保証するものではありません。
11. よくある質問
11-1. 同意書に署名しないと、治療費を払ってもらえませんか?
署名しないだけで治療費の請求権が消えるわけではありません。ただし、任意保険会社が治療内容を確認できないため、一括対応を開始・継続しない可能性があります。署名を保留する理由を伝え、必要資料を自分で提出する方法や限定同意が可能かを確認しましょう。
11-2. 事故前の通院歴まで同意する必要がありますか?
事故前から同じ部位に症状があった、既往症が事故後の症状に影響する可能性があるなど、合理的な理由があれば一定範囲の照会が必要になることがあります。しかし、期間・診療科・資料を無制限にする必要性は個別に確認すべきです。
11-3. 空欄の同意書に署名しても大丈夫ですか?
対象医療機関、期間、資料、利用目的など重要な部分が空欄のまま署名するのは避けた方がよいでしょう。誰が記入するのか、提出前に確定できるかを担当者へ確認し、完成した状態の写しを残してください。
11-4. 同意書へ自分で削除線や条件を書き込んでもよいですか?
一方的に書き換えると、保険会社や医療機関が受理しないことがあります。限定したい部分を伝え、修正版、別紙、医療機関ごとの同意書など正式な方法を相談しましょう。
11-5. 主治医面談にも同じ同意書が使われますか?
書式によって異なります。診療録の取得だけでなく、保険会社や医療調査会社による主治医面談、口頭照会、質問書への回答を含む同意書もあります。面談の有無、質問内容、同席や回答書の写しを確認してください。
11-6. 署名した同意を後から撤回できますか?
撤回の可否や方法は、同意書の文言、すでに行われた照会、保険会社との手続状況によって異なります。撤回したい場合は、対象範囲と理由を明確にし、書面で申し入れてください。すでに取得・利用された情報まで遡って消去できるとは限りません。
11-7. 既往症が判明すると慰謝料は必ず減りますか?
必ず減るわけではありません。事故前の症状、事故後の変化、疾患が損害の発生・拡大にどの程度寄与したかを個別に検討します。単なる加齢性変化や通常の身体的特徴だけで機械的に減額されるものではありません。
11-8. 保険会社が取得した診療録を見せてもらえますか?
保険会社の取扱い、契約関係、個人情報開示手続によって異なります。まず担当者に写しの提供が可能かを尋ね、必要であれば保険会社の個人情報開示窓口や医療機関への開示請求を確認します。
12. まとめ|空欄を埋め、写しを残してから提出しましょう
医療照会同意書は、保険会社が事故による治療費を支払い、事故と症状との因果関係や損害額を調査するために用いられる書類です。事故後の通院先から診断書や診療報酬明細書などを取得する同意には合理性があり、同意書が届いたこと自体を過度に恐れる必要はありません。
一方で、医療情報は要配慮個人情報であり、対象医療機関、対象期間、取得資料、利用目的・提供先が分からないまま署名するのは避けましょう。空欄や「一切の資料」など広い文言がある場合は、なぜ必要なのか、どこまで照会する予定なのかを具体的に確認します。
既往症がある場合は隠すのではなく、事故前の状態と事故後の変化を比較できる資料をそろえます。全面的に署名を拒むと一括対応や損害調査が進まない可能性があるため、限定同意、自分での資料取得、医療機関ごとの同意などの代替案を検討してください。
最終チェックリスト
- □ 同意書の全ページと案内文をコピー・撮影した
- □ 対象医療機関が具体的に書かれている
- □ 対象期間の開始日・終了時期を確認した
- □ 診断書、診療録、画像など取得資料を確認した
- □ 利用目的と、保険会社以外の提供先を確認した
- □ 空欄や包括的な表現について担当者へ質問した
- □ 既往症がある場合、事故前後の状態を整理した
- □ 限定同意や自分で資料を提出する方法を検討した
- □ 署名日、発送日、担当者名を記録した
- □ 主治医面談や追加照会の内容を確認できるようにした
大切なポイント
同意書は、内容を理解したうえで必要な範囲に同意するための書類です。返送を急かされても、写しを残し、空欄を埋め、疑問点への回答を確認してから署名しましょう。

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