事故前から肩こり・首痛があるとむちうちの慰謝料は減る?因果関係と素因減額を解説
「事故前にも肩こりで整形外科へ通ったことがあり、今回のむちうちは事故と関係ないと言われました」
「MRIで加齢性の変化があるため、慰謝料や治療費を減らすと言われて不安です」
「保険会社が“素因減額”と言っていますが、過失割合とは何が違うのでしょうか」
追突事故で首や肩を痛めた方の中には、事故前から軽い肩こりや首痛があった方、過去に頚椎症や椎間板ヘルニアと診断された方、画像検査で加齢性変化を指摘された方もいます。保険会社から「以前から悪かったので事故のけがではない」「既往症があるから賠償額を減らす」と言われ、痛みまで否定されたように感じることもあるでしょう。
結論からいうと、事故前から肩こりや首痛があったという事情だけで、治療費・休業損害・慰謝料・後遺障害損害が当然に否定されたり、一律に減額されたりするわけではありません。確認すべきなのは、事故前にどの程度の症状があったか、事故によって新しい症状が生じたか、以前の症状がどの程度悪化したか、既往の疾患が損害の発生・拡大にどの程度寄与したかです。
「素因減額」とは、被害者の疾患や心因的要素などが事故による損害の発生・拡大に寄与した場合に、損害の公平な分担という観点から賠償額を調整する考え方です。事故について被害者にも落ち度がある場合の「過失相殺」とは、理由が異なります。また、最高裁判例は、通常の体格・体質の範囲にある身体的特徴について、疾患に当たらない限り、原則として減額の事情にできないと示しています。
一方、事故前から同じ症状で継続治療を受け、既往疾患が治療の長期化や後遺症の重さに具体的に寄与したと認められる場合には、因果関係の範囲や素因減額が争われる可能性があります。重要なのは、既往症を隠すことではなく、事故前の状態と事故後の変化を、診療録、画像、勤務資料、生活記録などで具体的に比較することです。
この記事では、既往症がある場合の3段階の考え方、素因減額の法的枠組み、減額が争われやすい事情・されにくい事情、保険会社へ提出する資料、後遺障害申請での注意点を順番に解説します。
この記事でわかること
- 事故前から肩こり・首痛があっても請求できる場合
- 「事故との因果関係」「事故による増悪」「素因減額」の違い
- 素因減額と過失相殺が別の問題である理由
- 最高裁判例が区別する「疾患」と「身体的特徴」
- 既往症を理由に減額されやすい事情・されにくい事情
- 事故前後を比較するための医療・仕事・生活資料
- 保険会社から減額を主張されたときの対応手順
ケース別の読み方
事故前にも同じ病院へ通っていた方は第5章、MRIで変性所見を指摘された方は第3章・第4章、保険会社から減額割合を示された方は第7章、後遺障害申請を予定している方は第8章を確認してください。

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【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した
1. 結論|既往症があるだけでは慰謝料は減りません
最初に、本記事の結論をもう少し具体的に確認します。既往症がある交通事故では、事故と症状との関係を「ある・ない」の二択で考えると整理しにくくなります。
1-1. 事故前に症状があっても、事故による悪化は別に評価します
事故前から月に数回肩がこることと、追突後に毎日強い頚部痛が続き、手のしびれや頭痛が加わり、仕事や家事に支障が出たことは同じではありません。以前の症状が軽く、治療も不要で、日常生活に支障がなかったのであれば、事故後の変化を具体的に示すことが重要です。
反対に、事故前から同じ部位の強い痛みで頻繁に通院し、事故後も症状の程度や治療内容がほとんど変わっていない場合には、事故により増えた損害の範囲が問題になります。事故前後の診療録と生活状況を比較しなければ結論は出せません。
1-2. 画像の変性所見だけで事故との関係は決まりません
頚椎のレントゲンやMRIでは、年齢に応じた骨棘、椎間板の膨隆、狭窄などが見つかることがあります。日本整形外科学会も、外傷性頚部症候群の診断では、画像上の変性変化と外傷との関係を区別し、骨折や脱臼の有無を確認することが必要だと説明しています。
変性所見があるから現在の症状がすべて事故前から存在したとも、事故が原因で変性所見そのものが生じたとも直ちにはいえません。事故前の症状、事故時の衝撃、事故後の発症時期、診察所見、治療経過を合わせて検討します。
1-3. 素因減額の割合に一律の表はありません
「既往症があれば20%」「ヘルニアなら30%」という法律上の一律基準はありません。疾患の内容、事故前の症状、事故の衝撃、治療経過、損害拡大への寄与、年齢や生活状況などを個別に検討します。
保険会社から割合だけを示された場合は、その根拠となる診療記録、医師の意見、裁判例、計算方法を確認しましょう。割合の主張と、事故により発生した損害の範囲の主張が混在していることもあります。
要点
既往症の有無だけでなく、①事故前の状態、②事故後の変化、③既往の疾患が損害拡大にどの程度寄与したかを分けて確認します。
2. 既往症がある場合に分けて考える3つの問題
保険会社から「既往症がある」と言われたとき、実際には複数の論点が含まれています。まず何を否定・減額しようとしているのかを明確にしましょう。

2-1. 現在の症状が事故によって生じたかという因果関係
第一の問題は、事故と現在の症状との間に相当因果関係があるかです。事故前には症状がなく、追突直後または翌日から頚部痛が生じ、早期に整形外科を受診し、同じ症状が継続している場合には、事故との時間的・医学的なつながりを説明しやすくなります。
一方、事故から長期間たって初めて症状を申告した、事故前から同じ症状が継続していた、事故後の治療に長い空白があるといった事情があると、事故との関係を争われやすくなります。
2-2. 事故により既往症がどの程度悪化したかという増悪の範囲
第二の問題は、事故が既往症を悪化させたとして、どの範囲が事故による損害かです。事故前の症状が「痛み2」で事故後に「痛み8」になったとしても、数字だけで損害を分割できるわけではありません。
事故前後の通院頻度、投薬、検査、仕事の制限、家事・育児への支障、睡眠への影響などを比較します。事故前は月1回の受診だけだったのに、事故後は週数回のリハビリが必要になったという経過も、増悪を説明する材料になります。
2-3. 疾患が損害を拡大した場合の素因減額
第三の問題が素因減額です。事故による損害の発生・拡大に、被害者がもともと有していた疾患が寄与し、損害の全部を加害者へ負担させることが公平を欠くと評価される場合に、賠償額を調整することがあります。
ここで重要なのは、素因減額は「事故との関係がない」という判断とは異なることです。事故による損害であることを前提に、既往疾患の寄与を考慮して額を調整する場面があるということです。
3. むちうちと加齢性変化・既往症の医学的な整理
既往症を争われたときは、診断名だけでなく、事故前後の症状と医学的所見を検討します。
3-1. 「むちうち」は一つの診断名ではありません
一般に「むちうち」と呼ばれる状態には、外傷性頚部症候群、頚椎捻挫、頚部挫傷、神経根症など、さまざまな病態が含まれます。日本整形外科学会は、医学的な傷病名ではないため、神経学的所見を含む診察や、病状に応じたレントゲン・MRIなどの精査を受けることを勧めています。
事故前から「肩こり」があったとしても、事故後の診断が頚椎捻挫で、頚部の可動域制限、圧痛、手のしびれなど新たな所見がある場合には、その違いを確認します。
3-2. 画像上の変性所見は年齢とともにみられることがあります
頚椎の椎間板変性、骨棘、狭窄などは、事故がなくても年齢とともにみられることがあります。画像所見があるだけで、事故前から症状があったとは限りません。また、事故前は無症状だった変性所見が、事故を契機に症状化したと主張される場合もあります。
画像は、骨折や脱臼、神経圧迫、既存の変性を確認する重要な資料ですが、画像だけで因果関係や寄与割合が自動的に決まるわけではありません。
3-3. 事故前の診療録は不利な資料とは限りません
事故前の診療録に、症状が軽かったこと、治療が終了していたこと、事故直前には薬を使っていなかったことが記録されていれば、事故後の変化を示す資料になります。事故前の画像と事故後の画像を比較できる場合もあります。
既往症の資料を提出することに不安を感じても、隠すより、何が変わったのかを説明できる資料として活用する視点が大切です。
4. 素因減額の法的な考え方
素因減額は、法律に「既往症があれば何%減額する」と直接書かれている制度ではありません。損害の公平な分担に関する判例法理として整理されています。
4-1. 民法722条2項の過失相殺を類推する考え方です
民法722条2項は、被害者に過失がある場合、裁判所がそれを考慮して損害賠償額を定めることができると規定しています。素因減額では、被害者に事故発生の過失がなくても、既往疾患等が損害の発生・拡大に寄与した場合に、この規定を類推して調整することがあります。
したがって、素因減額は過失割合と同じではありません。追突事故で被害者の過失が0%でも、疾患の寄与が別途争われることはあります。反対に、既往症があっても素因減額が認められないこともあります。
4-2. 疾患と通常の身体的特徴は区別されます
最高裁平成8年10月29日判決は、被害者が平均的体格・通常の体質と異なる身体的特徴を有していても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情がない限り、損害賠償額の算定で考慮できないと示しました。人の体格や体質には個体差があり、通常の範囲の特徴まで被害者の負担にするのは適切でないという考え方です。
同じ日に言い渡された別の最高裁判決では、疾患が損害の拡大に寄与した事案で、疾患の存在を考慮し得るとされました。実務では、単なる個体差・加齢変化なのか、損害拡大に具体的に寄与した疾患なのかが問題になります。
4-3. 心因的要素も機械的な減額理由ではありません
痛みが長引く背景に、不安、ストレス、事故後の生活環境など心理的要素が関係することがあります。しかし、「自覚症状が中心」「不安が強い」というだけで、心因的素因として機械的に減額できるわけではありません。
治療経過、医師の診断、精神科・心療内科の受診状況、事故以外の要因、損害拡大への具体的な寄与を慎重に確認します。
注意
素因減額と、事故前から存在した損害を請求対象から除くことは、理論上別の問題です。保険会社の計算書で何が控除されているのかを確認してください。
5. 事故前後を比較するために集める証拠
既往症が争点になったときは、「事故前はどうだったか」「事故後に何が変わったか」を第三者が確認できる資料で示します。

5-1. 事故前の診療記録を取り寄せます
保険会社から過去の通院を指摘されたら、医療機関名、受診期間、診断名、治療内容を確認します。健康保険の医療費通知、お薬手帳、診察券、領収書などから通院先を特定できることがあります。
事故前の診療録を読むと、同じ「首痛」でも、部位、左右、程度、随伴症状が異なる場合があります。事故前は肩の張りだけで、事故後に後頭部痛や手指のしびれが生じたなど、違いを一覧にします。
5-2. 事故直後の初診記録を重視します
事故から受診までの期間、初診時に何を訴えたか、事故との関係を説明したかが重要です。既往症がある方ほど、医師へ「事故前にも症状はあったが、事故後にこのように変わった」と具体的に伝えます。
事故後しばらくして新しい症状を申告した場合は、なぜ初診時に伝えられなかったのか、いつからどのように出たのかを整理します。
5-3. 仕事と生活の変化を具体化します
事故前は通常どおり勤務し、残業や運転業務も行っていたのに、事故後は長時間のパソコン作業ができず、早退や業務変更が増えたという場合、勤怠記録や上司との連絡が資料になります。
家事・育児では、買い物袋を持てない、子どもを抱けない、掃除機をかけられない、運転を家族へ代わってもらったなど、事故前後の違いを具体的に残します。
6. 保険会社が既往症を理由に主張しやすいこと
保険会社の説明が「既往症があるから減額」という一言だけの場合、どの論点を指しているかを確認します。

6-1. 「事故でけがをしていない」という全面的な因果関係否定
事故前から同じ症状があり、事故の衝撃も小さいとして、事故による受傷自体を否定する主張です。この場合は、事故態様、車両損傷、初診時期、事故後の症状変化、診察所見をまとめます。
6-2. 「一定期間以降の治療は既往症による」という期間限定の否定
事故直後の頚椎捻挫は認めるものの、数か月後に残る症状は既往疾患や加齢変化によるとして、治療費の一括対応を終了する主張です。治療効果、症状の推移、主治医の見通し、事故前の状態を確認します。
6-3. 「損害の一部を素因減額する」という割合の主張
事故との因果関係を認めつつ、疾患が損害を拡大したとして、治療費・慰謝料・休業損害・後遺障害損害等を一定割合減額する主張です。どの損害項目に、何%を、どの根拠で適用するのかを明確にします。
6-4. 「後遺障害は既往症による」という等級・逸失利益の争い
症状固定後に残った痛みやしびれについて、事故による後遺障害ではない、または労働能力への影響が小さいと主張される場合があります。事故前の就労状況、事故後の治療、神経学的所見、後遺障害診断書を整理します。

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7. 減額を主張されたときの6ステップ
STEP1. 何を否定・減額しているかを確認します
受傷自体、治療期間、後遺障害、損害額の割合のどれが問題なのかを分けます。電話だけでなく、理由と根拠資料をメールや書面で求めましょう。
STEP2. 事故前の症状・通院を時系列にします
事故前何年間に、どの病院で、何の症状を、どの頻度で治療したかを整理します。症状が消失していた期間、治療を終了していた時期、仕事や生活に支障がなかった事実も記載します。
STEP3. 事故後の変化を同じ項目で比較します
部位、左右、強さ、随伴症状、通院頻度、投薬、仕事、家事、睡眠など、事故前と同じ項目で比較します。比較表にすると違いが伝わりやすくなります。
STEP4. 主治医へ事実を正確に伝えます
既往症を隠さず、事故前の状態と事故後の変化を説明します。疾患が現在の症状にどの程度影響しているか、事故による増悪と考えられるかを、診察に基づき判断してもらいます。
STEP5. 医療・事故・生活資料をセットで提出します
診療録だけ、車両写真だけを単独で出すのではなく、事故態様、症状発現、治療、生活支障が一つの経過としてつながるように資料を整理して提出しましょう。
STEP6. 減額割合の根拠を検討し、再交渉します
保険会社が引用する医療意見や裁判例が今回の事案に当てはまるかを確認します。合意できなければ、交通事故紛争処理センター、訴訟などの手続を検討することがあります。
8. 後遺障害申請で既往症がある場合の注意点
既往症がある方が後遺障害申請を行うときは、事故前の障害と事故後の残存症状を区別し、資料の一貫性を確保します。
8-1. 後遺障害診断書だけでなく治療経過全体が見られます
後遺障害診断書に現在の症状が記載されても、初診時から一貫して同じ症状が記録されていない、通院に長い空白がある、事故前から同じ障害が存在した場合には争いになります。
事故前の症状が軽かった、治療が終了していた、事故後に新しい神経症状が出たという事情を、過去の診療録と事故後の記録で示します。
8-2. 既存障害・加重障害の問題が生じることがあります
事故前から後遺障害等級に相当する障害が存在した場合には、既存障害や加重障害として扱われる可能性があります。単なる肩こりや画像上の変性所見が直ちに既存障害になるわけではありませんが、過去の等級認定や明確な機能障害がある場合は確認が必要です。
8-3. 画像に異常がなくても経過を丁寧に残します
むちうちでは、レントゲンやMRIに事故による明確な異常が出ないことがあります。その場合、事故態様、初診時期、症状の一貫性、通院経過、神経学的所見、仕事・生活への影響が重要になります。既往症があるほど、事故前後の比較を早い段階から準備しましょう。
9. 素因減額と損害項目への影響
素因減額が認められる場合、どの損害にどのように適用するかは事案によって異なります。保険会社の計算書を項目別に確認します。
9-1. 全損害へ一律に同じ割合を掛けるとは限りません
既往疾患が治療期間の長期化には寄与しても、事故直後の治療費や車両損傷には関係しないことがあります。どの損害の発生・拡大に寄与したのかを検討します。
保険会社が全項目へ同じ割合を機械的に適用している場合は、その理由を確認しましょう。
9-2. 過失相殺・損益相殺・既払金控除と区別します
示談案では、過失相殺、素因減額、自賠責保険金、労災保険給付、既払治療費など複数の控除が並ぶことがあります。同じ金額を重ねて控除していないか、計算順序が適切かを確認します。
10. 弁護士法人サリュの解決事例から分かる資料整理
以下の事例は、素因減額そのものを中心に公表した事例ではありませんが、既往症や事故前の状態が問題になったときに、事故資料と医療資料を組み合わせて因果関係や後遺障害を説明する際の参考になります。
解決事例は結果を保証するものではありませんが、証拠の集め方と交渉の進め方を知る具体的な手がかりになります。
10-1. 既往症を理由とする非該当を、事故前の医療記録の精査で覆した事例
事例353:聴力障害の既往症を理由に後遺障害非該当でも、医療記録を調査し異議申し立て。後遺障害14級3号の認定を受けた事例
事例の概要:歩行中に自転車と衝突し聴力障害が残った方が、事故前から聴力障害があることを理由に非該当とされた事例です。医療記録を取り寄せて事故前の状態を精査したところ、事故前には聴力障害が改善しており、事故後に悪化した事実を確認できたため、異議申立てにより14級3号が認定され、380万円を超える賠償金につながりました。
本記事との関係:本記事の中心テーマそのものといえる例です。第3章・第5章で説明したとおり、事故前の医療記録は不利な資料と決めつけず、事故前後の変化を示す比較資料として活用できることが分かります。
10-2. 首の既存障害があっても、資料を尽くして上位等級が認定された事例
事例356:同一部位(首)の後遺障害に関し、既存障害14級9号のところ、異議申立で12級13号を獲得した事例
事例の概要:過去の交通事故で首に14級9号の認定を受けていた方が、新たな事故で頚椎捻挫を受傷した事例です。同一部位への同等級は認定されないため1回目の申請は非該当となりましたが、刑事記録の取得、MRI画像の確認、神経学的所見に関する医療照会など準備を整えて異議申立てを行い、12級13号(既存障害14級9号)が認定されました。
本記事との関係:第8章で触れた既存障害の実例です。事故前から首に障害があっても請求の道が閉ざされるわけではなく、事故前の状態と事故後の症状を資料で区別して示すことが重要だと分かります。
10-3. 物損資料と医療資料を精査し、非該当から14級9号に変更された事例
事例369:後遺障害非該当から14級9号を獲得。賠償金も裁判所基準相当額回収に成功
事例の概要:停車中の追突事故で頚椎捻挫となり、当初の後遺障害申請では非該当だった方について、物損資料から頚部に加わった外力を検討し、経過診断書やMRI画像などを精査して異議申立てを行い、頚部の神経症状について14級9号が認定された事例です。賠償金も裁判所基準相当額の回収に成功しています。
本記事との関係:画像の一部分や既往歴の一言だけで判断せず、事故の外力と症状経過をつなげて検討する点が参考になります。第5章の「医療・事故・生活資料をセットで示す」対応の実例です。
10-4. 事故前の個別事情を丁寧に主張し、形式的な計算を修正させた事例
事例349:復職後の通院頻度減少や事故前年の年収減少があったが、適切な賠償額を獲得
事例の概要:頚椎捻挫を負った方が、事故前から別の事情で休職しており、通院頻度の維持にも不安があった事例です。通院のない日も痛みの記録を残すようアドバイスし、14級を獲得しました。さらに、事故前年の年収が本来の稼働力に見合わないため、事故前々年の収入資料を取り付けて主張し、形式的な計算より約65万円の増額につながりました。
本記事との関係:第1章・第7章で説明したとおり、事故前の事情は機械的に不利に扱われるものではありません。事故前の実際の状態を資料で示せば、形式的な計算や画一的な減額を修正できることが分かります。
10-5. 頚椎捻挫の非該当から14級を獲得し、訴訟で増額した事例
事例188:頚椎捻挫非該当を14級に!訴訟で示談提示額から増額
事例の概要:頚椎捻挫の傷害を負い、当初の後遺障害申請では非該当となった方について、異議申立てや訴訟を通じて14級が認められ、示談提示額から増額した事例です。
本記事との関係:既往症の有無にかかわらず、事故態様、症状の継続、治療経過、後遺障害資料を整理し、保険会社の当初判断をそのまま受け入れないことの参考になります。第7章のSTEP6(再交渉・手続の検討)の実例です。
解決事例を読むときの注意
解決結果は、事故態様、傷病、医療記録、年齢、仕事、相手方の対応などによって異なります。公開事例は対応の考え方を知る参考であり、同じ等級・金額・治療費の支払を保証するものではありません。
11. よくある質問
11-1. 事故前に肩こりがあっただけで慰謝料は減りますか?
肩こりがあったというだけで一律に減るわけではありません。事故前の症状の程度、通院状況、事故後の新しい症状や悪化、疾患の寄与を個別に検討します。
11-2. MRIでヘルニアがあると、むちうちは事故と無関係ですか?
直ちに無関係とはいえません。事故前から存在した変性所見か、症状との関連があるか、事故後に症状が出た経過を合わせて判断します。主治医へ事故前後の状態を正確に伝えましょう。
11-3. 既往症を保険会社へ言わない方が有利ですか?
保険会社から具体的な説明を求められているにもかかわらず、虚偽の説明をしたり、あえて隠すことは勧められません。後の医療照会で判明すると、症状全体の信用性を損ねる可能性があります。問われていないのであれば積極的に開示すべき事柄ではありません。もっとも、保険会社から問われた場合には、正確に開示し、事故による変化を説明するべきです。
11-4. 素因減額と過失割合は同じですか?
異なります。過失割合は事故発生への落ち度、素因減額は疾患等が損害の発生・拡大に寄与したかを問題にします。追突で過失0%でも素因が争われることはあります。
11-5. 加齢性変化はすべて疾患として減額されますか?
すべてが減額対象になるわけではありません。通常みられる個体差・加齢変化なのか、損害拡大に具体的に寄与した疾患なのかを検討します。
11-6. 保険会社が30%減額すると言っていますが、決まった割合ですか?
法律上の固定割合ではありません。疾患の内容、事故前後の症状、医師の意見、事故の衝撃、損害拡大への寄与などの根拠を確認してください。
11-7. 事故前の診療録を提出すると不利になりませんか?
不利な内容が含まれることもありますが、事故前は症状が軽かった、治療が終了していたという有利な比較資料になる場合もあります。内容を確認し、事故後の変化と一緒に提出します。
11-8. 素因減額を受け入れないと示談できませんか?
合意できなければ示談は成立しません。根拠資料を確認し、交渉、交通事故紛争処理センター、訴訟などを検討できます。手続の適否は請求額と争点に応じて判断しましょう。
12. まとめ|既往症を問われたら、隠さず、事故による変化を示しましょう
事故前から肩こりや首痛があっても、その一点だけで交通事故による治療費・慰謝料・休業損害・後遺障害損害が当然に否定されたり、減額されたりするわけではありません。事故前の状態、事故後の変化、疾患の損害拡大への寄与を分けて検討します。
素因減額は、被害者の過失を理由とする過失相殺とは異なります。また、通常の体格・体質の範囲にある身体的特徴と、損害拡大に寄与した疾患は区別されます。保険会社から割合を示された場合は、何を、どの根拠で、どの損害項目から減額するのかを確認してください。
保険会社から問われたら、既往症を隠すのではなく、事故前後の診療録、画像、勤務資料、生活資料をそろえ、事故によって何が変わったのかを具体的に説明しましょう。
最終チェックリスト
- □ 事故前の症状・通院先・治療内容を整理した
- □ 事故前に仕事や生活へ支障があったか確認した
- □ 事故後に新しく出た症状、悪化した症状を分けた
- □ 初診時に事故前後の違いを医師へ伝えた
- □ 事故前後の診療録・画像を比較できるようにした
- □ 休業・業務変更・家事支障を記録した
- □ 保険会社の主張が因果関係否定か素因減額か確認した
- □ 減額割合の医学的・法的根拠を尋ねた
- □ 過失相殺、既払金控除と混同していないか確認した
- □ 後遺障害申請に向けて初診からの経過を整理した
大切なポイント
「事故前にも首が痛かった」という事実だけで結論を決めないでください。事故前にはできていたこと、事故後にできなくなったことを、医療・仕事・生活の資料で比較することが中心です。

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