バイク事故で寝たきりに…後遺症や請求できる慰謝料を弁護士が解説
バイク乗車中の交通事故では、重傷になることが多く、後遺障害で寝たきりになるケースもあります。そのようなケースでは、適切な賠償の計算が複雑になり、被害者やそのご家族だけで対応するのが難しくなりがちです。
本記事では、バイク事故で重傷を負われた場合の対応について、交通事故の賠償請求に詳しい弁護士が解説していきます。
この記事の監修者
弁護士 梅澤 匠
弁護士法人サリュ福岡事務所
福岡県弁護士会
【略歴】
2009年 3月 明治大学法学部 飛び級入学のため中退
2012年 3月 同志社大学司法研究科 修了
2012年 9月 司法試験合格
2013年 弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【公職】
同志社大学司法研究科兼任教員(民法演習担当)
-獲得した画期的判決-
【大阪高裁平成30年1月26日・判例タイムズ1454号48頁】(交通事故事件)
歩行者との非接触事故につき,自動車運転者の過失責任が認められた事例
【神戸地裁令和元年6月26日判決・自保ジャーナル2054号110頁】(交通事故事件)
転回時の衝突事故について有利な過失割合が認定された事例
【神戸地裁令和元年7月24日・交通事故民事裁判例集52巻4号913頁】(交通事故事件)
併合14級の後遺障害逸失利益の算定について、減収がなかったものの逸失利益を認定した事例
その他複数
【交通事故解決件数】1500件以上(2023年1月時点)
【弁護士梅澤の弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例336:死亡事故で被害者参加制度を利用。遺族の気持ちを加害者に直接伝えたい
事例344:異議申立てで、むちうち症状の後遺障害等級を第14級9号から第12級13号へ覆した事例
事例158:後遺障害申請サポートで13級を獲得。示談交渉時256万円の提示だったが、訴訟提起で1030万円を獲得
目次
1 バイク事故で寝たきりになることは珍しくない
⑴ バイク事故は重傷になりやすい
バイク事故は、自動車同士の事故に比べ、同じ事故態様でも重傷になりやすいです。これは、生身の体に直接衝撃が加わるためです。特に、頭部や首や腰に大きな怪我を負うと、寝たきりの状態となってしまうこともあります。
頭部
頭部外傷とは、何らかの外力が加わって、頭部の軟部組織(皮膚、皮下組織)、頭蓋骨、頭蓋内(脳、髄膜など)に損傷が起こることを言い、程度によっては脳に深刻な損傷が生じる場合があります。
脳の損傷が疑われる具体的な傷病名としては、頭蓋骨骨折、脳挫傷、くも膜下出血、びまん性軸索損傷などがあり、脳の損傷や出血は、認知機能や運動機能に深刻な影響を与えることがあります。
また、脳に重大な損傷を受けた場合には昏睡状態や意識喪失が生じる可能性があり、これによって寝たきり状態になることがあります。
首
首のけがは、頚椎(首の脊椎)に影響を及ぼすことがあります。具体的な傷病名としては、頚椎捻挫や頚椎骨折の他に、頚髄という神経の損傷であるいわゆる脊髄損傷などの病名があります。
軽い損傷では手足がしびれる程度ですが、強く損傷した場合には、手足が動かなくなるような四肢麻痺が生じ、寝たきり状態となってしまうことがあります。
腰
腰のけがは、腰椎(腰の脊椎)に影響を及ぼすことがあります。具体的な傷病名としては腰椎椎間板ヘルニアが有名ですが、首と同様に腰髄という神経の損傷として脊髄損傷などの病名もあります。
腰髄を損傷した場合は、腰や下半身の運動、感覚に問題を引き起こす可能性があり、重篤であれば、下半身の麻痺や腰から下の機能障害が起こることがあり、これによって寝たきり状態となってしまうことがあります。
⑵ 「寝たきり」になぜなるのか
まず、「寝たきり」とは、長期間にわたって一日の大半をベッドの上で過ごし起き上がれない状態のことを言い、大きく分けて本人の意識がある場合と意識がない場合があります。
このうち、意識がない状態の場合、昏睡状態に陥って他人と意思疎通ができなくなる障害、すなわち、「遷延性意識障害」(いわゆる植物状態)と言います。
脳の損傷により昏睡状態となった場合(遷延性意識障害)や脊髄損傷による四肢もしくは下半身の麻痺を生じた場合、「寝たきり」となることがあります。
2 家族がバイク事故で寝たきりになったら
⑴ 介護のために必要なこと
家族がバイク事故で寝たきりになった場合、介護が必要となります。
介護を行うにあたっては、以下の点についても考える必要があります。
誰が介護するか
①被害者のご家族などの近親者にて行う
②看護師や介護福祉士の資格を持った専門職(「職業付添人」と言います)に依頼する
近親者が対応するとしても、仕事を辞めなければいけなかったり、辞めなくても制限せざるを得なかったり、本人が寝たきりの障害を負った場合には、その近親者も対応に苦慮することがあります。
介護器具、介護用品をどうするか
介護用のベッドや車いすなどの介護器具や、シーツやおむつやなどの介護の発生によって必要となる介護用品を、どのように選択し、調達するのかが問題になることがあります。
これらの検討は、一般的には介護施設の介護士やケアマネージャーなどと相談して決めることが多いので、積極的に相談しましょう。
また、費用面については、バイク事故の場合は、加害者側保険会社に損害賠償請求をすることはもちろん、介護保険や労災保険などの使用も検討しましょう。
⑵ 症状を悪化させないための将来治療費
「将来治療費」とは、症状固定後の治療費のことを意味します。特に長期間にわたって症状固定後の治療費の必要性が見込まれる場合に「将来治療費」として請求を行うことがあります。被害者が「遷延性意識障害」(植物状態)となっている場合や、半身麻痺などの重篤な後遺障害により寝たきりとなっている場合には、症状を悪化させないようにするため、半永久的に介護や診察・リハビリが必要となりますので、将来治療費も忘れずに請求を行いましょう。
なお、将来治療費は、その治療の必要性や相当性、さらに支出の蓋然性を認めさせる必要がありますので、請求は交通事故に詳しい弁護士へ依頼することをお勧めします。
関連記事:交通事故に遭い症状固定と言われたら|今すべき対処法を弁護士が解説
関連記事:治療期間っていつまで?
⑶ 成年後見人の選任を検討しよう
バイク事故のけがにより被害者が寝たきりとなった場合には、成年後見人をつけることを検討しましょう。
寝たきりのうち、「遷延性意識障害」(植物状態)となっている場合は、被害者本人と意思疎通ができません。そのため、損害賠償請求を行っていくにあたっての承諾や署名捺印などの手続きができない状態であるため、成年後見人をつける必要があります。
一方で、被害者の意識がある場合でも、成年後見人をつけることを検討したほうがいい場合があります。例えば、バイク事故のけがにより寝たきりとなった被害者が高齢であった場合、運動不足による身体機能の低下と併せて認知的機能の低下を生じることがあります。
認知的機能とは、記憶や思考、理解、判断など、大脳で行われる「知的な機能」のことであり、認知的機能の低下の度合いによっては成年後見人を選任することを検討する必要があります。
また、被害者が高齢者ではない場合でも、バイク事故により脳を損傷し、「高次脳機能障害」と診断される被害者もいます。「高次脳機能障害」と診断された方の中には、物事を理解できない、動くことはできるものの、意思の疎通ができない、といった状態の方もいますので、そういった場合には成年後見人を選任する必要があります。
なお、成年後見人を選任する場合には、家庭裁判所への申立てが必要です。弁護士などの専門家でなくても申立ては可能ですが、必要書類の収集や申立手続きなど、負担は決して軽くはありませんので専門家へ依頼することをお勧めします。
3 バイク事故で寝たきりになったら後遺障害の可能性あり
⑴ 後遺障害認定の流れ
後遺障害とは、バイク事故などの交通事故によって残った後遺症のうち、症状の程度・内容が自賠責保険の定める等級に該当している場合に、自賠責保険において認定されるもののことです。
認定手続きは以下のような流れとなります。
自賠責保険の後遺障害認定は、原則として、自動車やバイク同士、自賠責保険の加入が義務付けられている車両が加害車両である必要があります。
自転車同士の事故や、歩行者と自転車の事故、自損事故の場合、自賠責保険は使用できません。
※その場合でも、人身傷害保険などの任意保険が使用できる場合は、任意保険が独自の損害調査により後遺障害を認定することはあります。
少しでも症状を改善させるため、治療に専念しましょう。
「症状固定」とは、治療をこれ以上続けても改善が見込めない状態のことを言います。
関連記事:交通事故に遭い症状固定と言われたら|今すべき対処法を弁護士が解説
関連記事:治療期間っていつまで?
自賠責保険の後遺障害申請においては、所定の書式で後遺障害診断書を作成する必要があります。
関連記事:後遺障害診断書の書き方|等級認定に有利な記載例を弁護士が紹介
後遺障害診断書以外の必要書類を集めて、後遺障害の申請をします。後述するように、申請方法には二種類ありますので、ご自身の状況に応じて選択しましょう。
通常は、申請から1か月〜3か月で1級から14級の後遺障害が認定されます。もちろん、申請したからといって必ず等級がつくわけではなく、非該当となってしまう場合もあります。
⑵ 事前認定と被害者請求
後遺障害認定手続きには大きく2つの方法があります。
方法❶:事前認定
自賠責保険への申請を加害者側の任意保険会社にて行う方法です。
上記の流れのうち、ステップ5の部分を加害者側の任意保険会社が行います。
方法❷:被害者請求
自賠責保険への申請を被害者側にて行う方法です。
事前認定は加害者側の保険会社が行うため、最低限の資料の提出しか行わないことが多いです。そのため、適正な後遺障害認定の獲得を目指すのであれば、被害者請求にて申請を行うべきです。
なお、被害者請求は被害者(あるいはご家族)自身でも行うことが可能ですが、少しでも認定可能性を上げたい場合には、審査に有利となる資料の判断やアドバイスの出来る経験が豊富な弁護士へ依頼することをお勧めします。
⑵ バイク事故で寝たきりになった時に認められる可能性のある後遺障害の等級は?
バイク事故により寝たきりになったときは、自賠責保険の定める後遺障害等級のうち、介護を要する後遺障害として「別表第1 第1級1号」もしくは「別表第1 第2級1号」が認定される可能性があります。それぞれの認定基準は以下のとおりです。
1級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
「常に介護を要するもの」とは、食事・入浴・用便・更衣などの生命維持活動が自力で行えず、文字通り常時介護を必要とする状態を言います。一方、「随時介護を要するもの」とは、生命維持活動にあたってサポートを必要とするものの、常時介護を受けなくても問題ない状態のことです。
なお、常に介護を要するか随時介護を要するかについては、提出された資料や治療を行っていた医療機関への調査を行い、総合的に判断されていることが多いです。
ただ、基本的に自賠責保険の後遺障害認定は書面審査で手続きが進んでいくため、症状に見合った等級を獲得するためにも、提出する書類は十分吟味するべきでしょう。
4 バイク事故で寝たきりの被害者が損害賠償請求できるもの
⑴ 入通院慰謝料
「怪我を負わされたことや入通院を余儀なくさせられたことの被害者の精神的苦痛」に対する賠償。
関連記事:交通事故慰謝料の相場と計算|通院日数1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の場合
⑵ 後遺障害慰謝料
「後遺障害が残り、将来もその症状と付き合い続けなければいけないという被害者の精神的苦痛」に対する賠償。
関連記事:交通事故の後遺障害慰謝料の相場や計算方法・賢いもらい方とは?
⑶ 休業損害
交通事故の怪我で仕事が出来ないことにより生じた収入の減少に対する賠償。会社員、自営業者、家事従事者など、被害者の職業により計算方法が異なります。
⑷ 逸失利益
被害者の身体に後遺障害が残ったことで、労働能力が減少したために将来発生すると考えられる「収入の減少」に対する賠償。
関連記事:【早見表付き】後遺障害の逸失利益はいくら?ケースごとの金額を解説
⑸ 介護費用・介護器具費
寝たきりとなった被害者の介護を行うにあたり発生する費用
必要とする介護の内容や、職業介護人か近親者による介護か等、事情により金額に差があります。
⑹ 将来治療費
症状固定後も病院での入院が必要となる場合の入院費用や、自宅療養の場合では、定期的に行われる医師の診察やリハビリの治療費など、長期に渡って必要性が見込まれる治療費。
⑺ 自宅改修費、介護車両の購入費
バイク事故で寝たきりになった場合、自宅に手すりやエレベーターの設置が必要になったり、お風呂場や洗面所などを介護者が介護しやすいように改修したりすることが必要になる場合があります。
また、通院のために介護車両を購入する費用も、必要になる場合があります。
⑻ 自賠責基準と任意保険基準と弁護士基準
賠償の支払基準には、自賠責基準と任意保険基準と弁護士基準(裁判基準)というものがあります。
自賠責基準は最低保証の基準であり、任意保険基準は任意保険会社にて定めている基準であり、自賠責基準と大差ない場合が多いです。弁護士基準(裁判基準)は、裁判所で認定される基準をベースに弁護士にて請求を行うことが出来る基準です。
特に、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」は、自賠責基準と任意保険基準に比べると弁護士基準(裁判基準)の方が高い金額となることが多いです。
5 バイク事故で寝たきりになったら弁護士に相談しましょう
⑴ 被害者ご本人やご家族だけでは大変
寝たきりとなった場合には、生活環境が事故前とは一変してしまい、将来への不安を抱えながら治療を行うこととなります。加えて、加害者側の保険会社の対応も行う必要がありますので、精神的にもかなりの負担が生じてしまうことは想像に難くありません。
⑵ 損害の計算方法・証明が難しい
賠償請求の出来る損害は上記のとおりですが、計算方法や計算に用いる基準が複数あるなど、損害の計算方法は複雑です。また、バイク事故で寝たきりになった場合には、「介護費用」「介護器具費」「将来治療費」なども請求することが可能ですが、何歳まで請求できるのか、それらの費用の必要性や相当性をどのように証明していけばいいのかなどには専門的な知識が求められます。
⑶ まずは一度法律相談を
ご自身もしくはご家族で対応することも出来ますが、やはり専門的な知識・豊富な経験を持つ弁護士へ相談することをお勧めします。適正な賠償を受けるためにも、まずは一度弁護士への法律相談をご検討ください。
6 バイク事故で寝たきりになった場合の解決事例
弁護士法人サリュでは、バイク事故で寝たきりになった被害者の損害賠償請求を多く取り扱ってきました。以下では、当事務所の解決事例を一部紹介いたします。
事例269:左片麻痺、高次脳機能障害で2級を獲得し、1億4500万円の示談金を得た事案
事例203:びまん性軸索損傷、脊髄損傷などの重傷を負った家族のために、裁判で戦う。
(歩行者の事故)事例137:高次脳機能障害の被害者の成年後見人選任までサポート。死亡後はご遺族の相談にのり、適切な賠償金を獲得
(自動車事故)事例89:遷延性意識障害の将来治療費を認めさせて、賠償金5500万円増額