交通事故慰謝料の相場と計算|通院日数1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の場合

交通事故の慰謝料とはなんのことでしょうか。どのような種類があり、どのように算定されるのでしょうか。今回のコラムでは、交通事故の被害に遭われた方向けに、交通事故の慰謝料について解説しています。ぜひご覧ください。

この記事の監修者
弁護士 平岡 将人

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以下の動画でも簡潔に解説しています。ぜひご覧ください。

1 交通事故の慰謝料とは

交通事故の慰謝料とは何のことでしょうか。交通事故に遭って怪我をすると、被害者は痛みを感じたり、病院にいかなければいけなくなったり、たくさん嫌な思いをします。交通事故の賠償でもらえる慰謝料とは、こういった精神的苦痛に対する賠償のことを指し、休業損害や治療費同様、損害賠償項目の一つです。

2 交通事故の慰謝料の種類

「慰謝料」には、以下のような種類があります。

(1)入通院慰謝料

入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、交通事故から治療終了までの間、痛みを抱え続けながら日常生活を送った精神的苦痛、時間を割いて病院に行かざるを得なかった精神的苦痛を補填するものです。一般的には、傷病の程度、入通院の期間等により計算されます。

(2)後遺障害慰謝料(後遺症慰謝料)

後遺障害慰謝料(後遺症慰謝料)は、交通事故によって後遺障害が残存した場合に、将来にわたって残り続ける痛み、機能障害等による精神的苦痛を補填するものです。

関連記事:後遺障害慰謝料【交通事故】等級相場・計算方法・もらい方を解説

(3)死亡慰謝料

死亡慰謝料は、交通事故によって被害者が命を失うことになった場合に、その亡くなった本人の無念さを補填するものです。ただし、本人が亡くなっている以上、この死亡慰謝料は相続人がもらうことになります。

関連記事:交通事故の死亡慰謝料の相場は?賠償金・保険金の受け取り方を解説

このページでは、上記のうち、(1)入通院慰謝料(傷害慰謝料)について解説します。以下では、特に説明が必要な場合を除いて入通院慰謝料を単に「慰謝料」と記載して説明します。

3 交通事故でもらえる慰謝料の相場と計算方法

(1)慰謝料の金額はどうやって決まるのか

交通事故による痛みの感じ方や日常生活への影響の程度は、人により大きく異なるため、怪我をした部位、症状の重さ、入院通院の有無・期間等によって、慰謝料の金額も増減されるべきものです。

しかし、交通事故は、日本中で毎日のように発生しており、被害者の状況をそれぞれ考慮して慰謝料を決めていくと、解決が先延ばしになり、賠償金の支払いが滞ってしまいます。

そこで、日本の損害賠償実務では、慰謝料に支払基準を定め、迅速かつ公平な賠償手続きとなるよう運用されています。ここで問題なのが、支払基準は、弁護士や裁判所が使う基準以外にも複数あるということです。これを知らないまま示談をしてしまうと、大変後悔することになるので注意しましょう。

(2)交通事故の慰謝料に関する3つの基準

通院慰謝料の計算には、3つの基準があるといわれています。それは、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)です。詳しく説明していきます。

  ①自賠責基準

自賠責保険は、交通事故の被害に遭った方の最低限の補償を確保する保険です。そのため、自賠責基準の慰謝料は、低廉な場合が多いです。

自賠責基準の慰謝料の計算方法は、

4300円×通院日数×2

と、

4300円×総治療日数(期間)

のどちらか金額の低い方

となります。

※もっとも、この基準は令和2年4月1日以降に発生した事故に適用される基準であり、平成22年4月1日以降令和2年3月31日までに発生した事故については4300円ではなく4200円となります。

たとえば、6か月(180日間)の治療期間で、通院日数(病院に治療に行った日)が80日だとした場合は、

①4300円×80日×2=688,000円

②4300円×180日=774,000円

となり、①<②ですので、自賠責基準で計算される慰謝料は688,000円となります。

なお、実際に半年間治療した場合、治療費や交通費、休業損害、慰謝料の合計が自賠責保険の上限である120万円を超えるケースが多く、その場合は120万円に満つるまでの慰謝料が計算されるに過ぎません。

  ②任意保険基準

任意保険基準とは、交通事故の加害者が加入している対人賠償責任保険の内部基準のことをいいます。被害者側はこの基準にしたがう義務はなく、保険会社から提示された慰謝料の金額が低ければ、堂々と増額を求めるべきです。

参考までに、旧任意保険基準の表をご紹介します。なお、すべての任意保険会社が以下の表のとおりの金額を提示するわけではなく、残念ながら、自賠責基準とほとんど変わらない金額を提示する保険会社が多いのが実情です。

縦軸が通院期間、横軸が入院期間となります。単位は万円です。

※6か月以上の入院期間の場合は、さらに金額が加算されます。詳細は当事務所までお問い合わせください。

旧任意保険基準による入通院慰謝料の表

  0か月 1か月 2か月 3か月 4か月 5か月 6か月
0か月 0 25.2 50.4 75.6 95.8 113.4 128.5
1か月 12.6 37.8 63 85.7 104.6 121 134.8
2か月 25.2 50.4 73.1 94.5 112.2 127.3 141.1
3か月 37.8 60.5 81.9 102.1 118.5 133.6 146.1
4か月 47.9 69.3 89.5 108.4 124.8 138.6 151.1
5か月 56.7 76.9 95.8 114.7 129.8 143.6 154.9
6か月 64.3 83.2 102.1 119.7 134.8 147.4 157.4
7か月 70.6 89.5 107.1 124.7 138.6 149.9 160
8か月 76.9 94.5 112.1 128.5 141.1 152.5 162.5
9か月 81.9 99.5 115.9 131 143.7 155 165
10か月 86.9 103.3 118.4 133.6 146.2 157.5 167.5
11か月 90.7 105.8 121 136.1 148.7 160 170

 

この表によると、たとえば6か月通院した場合は、643,000円の慰謝料となります。なお、保険会社が自賠責基準を下回る金額を被害者に提示をすることは禁止されていますので、自賠責基準の方が高くなれば、そちらが採用されます。

自賠責基準も、任意保険基準も、後で説明する弁護士基準(裁判所基準)に比べて低額な場合が多く、弁護士を介入させることで大幅な慰謝料の増額が可能となります。

  ③弁護士基準

次に、弁護士基準について説明します。交通事故の被害者が慰謝料の相場や計算方法を知ろうとする場合、この弁護士基準をしっかり理解しておくことが重要です。

弁護士基準とは、実際に訴訟をした場合に裁判官が参考にする慰謝料の基準のことを指します(そのため、「裁判基準」ともいわれます)。裁判所は、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行の「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」(いわゆる赤い本)にしたがい、迅速かつ公平な観点から基準化された慰謝料を計算するケースが多いです。

また、弁護士基準の慰謝料を算定する場合、以下のようにケガの内容に応じて二つの表を使い分けます。

・通常の場合の弁護士基準の表(別表Ⅰ)

通常の場合の基準とは、骨折や他覚的所見のある半月板損傷、腱板損傷といったケガの場合の基準です。赤い本では「別表Ⅰ」として記載されており、以下の表のように慰謝料が基準化されています。

縦軸が通院期間、横軸が入院期間になります。単位は万円です。

※6か月以上の入院期間の場合は、さらに金額が加算されます。詳細は当事務所までお問い合わせください。

別表Ⅰ

  0か月 1か月 2か月 3か月 4か月 5か月 6か月
0か月   53 101 145 184 217 244
1か月 28 77 122 162 199 228 252
2か月 52 98 139 177 210 236 260
3か月 73 115 154 188 218 244 267
4か月 90 130 165 196 226 251 273
5か月 105 141 173 204 233 257 278
6か月 116 149 181 211 239 262 282
7か月 124 157 188 217 244 266 286
8か月 132 164 194 222 248 270 290
9か月 139 170 199 226 252 274 292
10か月 145 175 203 230 256 276 294
11か月 150 179 207 234 258 278 296
12か月 154 183 211 236 260 280 298
13か月 158 187 213 238 262 282 300
14か月 162 189 215 240 264 284 302
15か月 164 191 217 242 266 286  

たとえば、6か月通院した場合には、116万円の慰謝料となります。入院3か月、通院6か月の場合は211万円の慰謝料が認定されることになります。

このように、弁護士基準の慰謝料は、自賠責基準や任意保険基準の倍近い金額となります。ご自身の治療期間と照らし合わせてみて、相場を確認してみましょう。

・むちうち症で他覚的所見のない場合(別表Ⅱ)

頚椎捻挫、腰椎捻挫、打撲、擦り傷等の場合、骨折等に比べて痛みが小さいうえ、日常生活への影響も大きくないことから、慰謝料は通常の場合よりも低く計算されます。赤い本では以下の表のとおり、「別表Ⅱ」として基準化されています。

縦軸が通院期間、横軸が入院期間となります。単位は万円です。

※6か月以上の入院期間の場合は、さらに金額が加算されます。詳細は当事務所までお問い合わせください。

別表Ⅱ

  0か月 1か月 2か月 3か月 4か月 5か月 6か月
0か月   35 66 92 116 135 152
1か月 19 52 83 106 128 145 160
2か月 36 69 97 118 138 153 166
3か月 53 83 109 128 146 159 172
4か月 67 95 119 136 152 165 176
5か月 79 105 127 142 158 169 180
6か月 89 113 133 148 162 173 182
7か月 97 119 139 152 166 175 183
8か月 103 125 143 156 168 176 184
9か月 109 129 147 158 169 177 185
10か月 113 133 149 159 170 178 186
11か月 117 135 150 160 171 179 187
12か月 119 136 151 161 172 180 188
13か月 120 137 152 162 173 181 189
14か月 121 138 153 163 174 182 190
15か月 122 139 154 164 175 183  

たとえば、6か月の通院期間の場合、89万円の慰謝料となり、3か月の通院期間の場合、53万円の慰謝料となります。

このように、むちうち症であった場合でも、弁護士基準で計算した慰謝料は自賠責基準や任意保険基準よりも高額になることが多いです。 

(3)【むちうち】の場合の慰謝料はいくらか

  むちうちで通院1か月の場合

むちうちで1か月間(30日)に、週2回程度のペースで合計8回整形外科に通院した場合、それぞれの基準で算出される慰謝料は以下の通りです。

自賠責基準68,800円
任意保険基準126,000円
弁護士基準190,000円

  むちうちで通院3か月の場合

むちうちで3か月間(90日)に、週2回程度のペースで合計24回整形外科に通院した場合、それぞれの基準で算出される慰謝料は以下の通りです。

自賠責基準206,400円
任意保険基準378,000円
弁護士基準530,000円

  むちうちで通院6か月の場合

むちうちで6か月間(180日)に、週2回程度のペースで合計48回整形外科に通院した場合、それぞれの基準で算出される慰謝料は以下の通りです。

自賠責基準412,800円
任意保険基準643,000円
弁護士基準890,000円

関連記事:追突事故の慰謝料はいくら?むちうち慰謝料の相場と計算方法を解説

(4)【骨折・靭帯損傷などの大きな怪我】の場合の慰謝料はいくらか

  骨折で入院1か月、通院6か月の場合

骨折で入院1か月(30日)、通院6か月(180日、実通院日数70日)だった場合のそれぞれの基準で算出される慰謝料は以下のとおりです。

自賠責基準-  ※
任意保険基準832,000円
弁護士基準1,490,000円

自賠責基準には120万円の上限があります。この上限額は、治療費、交通費、休業損害、慰謝料などの治療期間に生じた損害の全てが含まれます。骨折で入院1か月、通院6か月の場合、多くのケースで自賠責基準の上限に達しますので、この場合、120万円の上限額に満までの慰謝料がもらえるに過ぎません。

  骨折で入院2か月、通院8か月の場合

骨折で入院2か月(60日)、通院8か月(240日、実通院日数100日)だった場合のそれぞれの基準で算出される慰謝料は以下のとおりです。

自賠責基準-  ※上記同様
任意保険基準1,121,000円
弁護士基準1,940,000円

関連記事:後遺障害等級12級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説
関連記事:交通事故で脳挫傷となり意識不明に|症状・後遺症・慰謝料を解説

4 慰謝料に関するよくある相談内容

(1)慰謝料の対象となる期間はいつまでですか?

慰謝料は、事故日から治療終了日(症状固定日)までの期間を対象として算定されます。したがって、症状固定日を迎えると、それ以降の通院は、慰謝料算定の対象期間とはなりません。症状固定を決める際は、この点も踏まえて検討することが重要です。

(2)入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の違いは何ですか?

慰謝料算定の対象となる時点に違いがあります。入通院慰謝料は、事故日から治療終了日(症状固定日)までの期間を対象として算定するのに対し、後遺障害慰謝料は、症状固定日以降、将来にわたって残存する症状を対象としています。

また、後遺障害慰謝料も、以下のとおり、自賠責基準と弁護士基準に大きな違いがあります。

  自賠責基準 弁護士基準
別表第1 別表第2
1級 1650万 1150万 2800万
2級 1203万 998万 2370万
3級   861万 1990万
4級   737万 1670万
5級   618万 1400万
6級   512万 1180万
7級   419万 1000万
8級   331万 830万
9級   249万 690万
10級   190万 550万
11級   136万 420万
12級   94万 290万
13級   57万 180万
14級   32万 110万

(3)慰謝料はどのタイミングでもらうことができますか?

通院慰謝料は、最終治療日までの通院日数、治療期間等によって金額が変わるため、通院慰謝料の金額が確定するのは治療終了日(症状固定日)となります。後遺障害の申請をしない場合には、治療終了後に、保険会社が被害者に対して文書等で提示することが一般的です。

そのため、通院が継続している間は原則として慰謝料をもらうことはできません。もっとも、事案によっては、被害者が請求することで通院慰謝料の内払い(先払い)に応じる保険会社もあります。

(4)病院に通う回数が多ければ多いほど慰謝料は増えるのですか?

交通事故の慰謝料を計算する際、自賠責基準によると、通院日数(病院に行った回数)が多ければ多いほど、慰謝料の額は高くなります。そのため、とにかくたくさん通ってもらえる慰謝料を多くしようと考える方もいます。しかし、それはあまりお勧めできません。

それは、通院日数を計算根拠にする自賠責基準は120万円の上限があるため、多く通いすぎるとすぐに上限額に達してしまい、かえって、保険会社が治療費の対応を早く打ち切る可能性があるためです。

なお、弁護士基準における通院慰謝料は通院期間の長さをもとに算出します。通院日数(実際に病院に行った回数)との比例関係はありません。最低でも週1、2回程度の通院頻度を維持していれば、週2回だろうが4回だろうが、通院慰謝料の金額に変化はありません(極端に通院日数が少ない場合は、十分な弁護士基準の慰謝料がもらえない場合がありますので注意が必要です)。

(5)通院期間が長ければ長いほど慰謝料は増えるのですか?

弁護士基準の慰謝料は、原則として通院期間が長ければ長いほど金額が上がります。そうすると、通院期間を長引かせた方が良いのでは?と思う方もいるかもしれません。しかし、これはあまりお勧めできません。

すべての交通事故治療には、賠償上の妥当な治療期間というものがあります。治療の結果、症状に改善傾向があれば治療を継続するべきですが、改善傾向がないにもかかわらず長期にわたり治療を継続してしまうと、その治療期間は不相当であると判断される可能性があります。仮に、保険会社が病院に治療費を支払っていても(一括対応をしていても)、不相当な治療期間と判断されてしまうと、過剰診療の問題が生じてしまいます。その場合、保険会社が治療費を多く支払ったことになり、もらえる慰謝料が少なくなってしまう可能性があります。そのため、十分な慰謝料をもらうためには、必要以上に長く治療をしないよう注意が必要です。

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(6)整骨院・接骨院への通院はもらえる慰謝料に影響がありますか?

整骨院や接骨院への通院により、症状が緩和する方は多くいます。また、整骨院は夜遅くまで営業しているところも多く通院しやすいため、仕事が忙しくて整形外科に通院することが困難な被害者にとって強い味方になってくれます。

しかし、整骨院への通院は、原則として医師の許諾、指示が必要であり、これがない場合は整骨院における治療の必要性や相当性が否定されてしまう場合があります。整骨院の治療について必要性や相当性を否定されてしまうと、整骨院へ通院した日数、期間は慰謝料の算定の際に有利に考慮されない場合があります。

そのため、整骨院で治療を受ける場合には、必ず主治医に相談し、できる限り明確な許諾をもらうようにしましょう。

(7)慰謝料の請求には時効がありますか?

慰謝料に限らず、治療費や休業損害なども含めた損害賠償請求権には時効があります。平成29年4月1日以降に発生した交通事故による人身損害の損害賠償請求権の場合、改正民法が適用され、5年で時効消滅となります。他方で、平成29年4月1日より前の交通事故による人身損害の損害賠償請求権の場合、旧民法が適用されるため、3年で時効消滅となります。なお、旧民法が適用され、事故発生日から3年が経過していても、保険会社が損害賠償義務の存在を承認している場合や、被害者が後遺障害認定を受けている場合等には、時効消滅を回避できる場合もあります。時効消滅しているか否かの判断は専門的な知識が必要になりますので、弁護士に相談しましょう。

(8)症状が残存しているものの、後遺障害認定を受けていない場合、慰謝料は増額されますか?

交通事故によるケガが完治せず、何らかの症状を残した場合、被害者はその症状に応じた後遺障害認定を受けることができます。その場合、通院慰謝料とは別に、後遺障害慰謝料をもらうことができます。裏を返せば、後遺障害の認定を受けていない場合は後遺障害慰謝料をもらうことはできず、完治した場合と同様に通院慰謝料がもらえるに過ぎません。

しかし、後遺障害認定を受けていない場合でも、完治したものと同様に扱うことが不相当といえる場合もあります。

例えば、交通事故によって顔に3センチ未満の線状跡が残っているに過ぎない場合、14級の後遺障害認定を受けることはできません。しかし、現に、線状のキズ跡が残っている以上、完治していることと同様に扱うのは相当ではありません。同様に、3つ未満の歯に歯科補綴を加えた場合は、14級の認定を受けることはできませんが、歯の欠損状態は生涯続く以上、この場合も完治した場合と同様に扱うことは不相当といえます。

このような場合、後遺障害慰謝料そのものを認定することは困難となりますが、通院慰謝料を増額するなどして通常よりも多くの慰謝料を認定するケースがあります。

治療の甲斐なく何らかの症状が残り、完治したものと同様に扱うことが不相当といえる場合は、慰謝料の増額を求めることが有効です。

(9)楽しんでいた趣味が交通事故による怪我のため一切できなくなりました。この場合、慰謝料は増額されますか?

通院慰謝料は、通院の煩わしさや、疼痛などの精神的苦痛を補填するものですが、それ以外の日常生活上の不便さなども補填する趣旨で支払われます。そのため、疼痛に伴って趣味ができなくなったとしても、それが故にもらえる慰謝料が増えるというわけではありません。

しかし、このような日常生活上の不便さを丁寧に伝えて、保険会社の担当者に理解してもらうことで、より妥当な慰謝料がもらえる可能性はあります。

(10)もらえる慰謝料の金額は対応する保険会社によって変わりますか?

もらえる慰謝料の金額は、対応する相手方の保険会社によって変わるわけではありません。例えば、テレビCMをしているような大手の損害保険会社であっても、弁護士基準を大きく下回る賠償金を提案してくることはありますし、ネットの損害保険会社で保険料を安く抑えている会社でも、快く弁護士基準満額の慰謝料を支払うケースがあります。

もっとも、保険会社の「担当者」によって金額が変わることはあります。法律知識や裁判実務の専門知識を多く持っており、かつ、被害者の被害状況に耳を傾けてくれる担当者であれば、妥当な賠償金が支払われることもあります。ただ、このような担当者は決して多くはないのが実情です。そのため、少しでも相手方保険会社の担当者の対応に疑問があれば、早期に弁護士に相談することが有効です。

(11)過失割合が0:100だともらえる慰謝料は増えますか?

追突事故など、加害者による一方的な過失(0:100)で発生した交通事故の場合、被害者は、発生した損害の100%をもらうことができます。しかし、これは、過失割合を理由にもらえる慰謝料が減ることはないというだけで、通常よりも多くの慰謝料がもらえるというわけではありません。

もっとも、過失割合が0:100であるだけでなく、ひき逃げや飲酒運転など、加害者側の著しく悪質な態様によって発生した交通事故の場合には、通常よりも多くの慰謝料がもらえることがあります。

5 慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリットとは?

慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリットは何でしょうか。以下では、交通事故を弁護士に依頼するメリットを説明します。

(1)弁護士基準の慰謝料を請求することで賠償金の増額が可能になる

交通事故では、多くの場合に弁護士に依頼することで慰謝料が劇的に増額します。これは、弁護士に依頼することで弁護士基準を前提にした慰謝料の交渉が可能になるからです。

保険会社としては、弁護士が被害者の代理人として出てくると、訴訟への発展を視野にいれることになります。保険会社が低い賠償金での示談に固執すれば、被害者側に訴訟提起されてしまい、弁護士基準の慰謝料はもちろん、遅延損害金や弁護士費用まで支払うことになります。

もちろん、弁護士に依頼したからといってすぐに裁判に発展するというわけではなく、ほとんど(8割以上)は示談で解決します。しかし、保険会社としては弁護士が出てきた段階で、事実上、訴訟を恐れて支払う慰謝料を多くせざるを得ないのです。

結果的に、被害者は、弁護士に依頼することで訴訟に移行することなく十分な慰謝料をもらうことができるようになります。

(2)妥当な過失割合を主張できる

保険会社は慰謝料を計算する際、被害者側に事故発生について不注意な点があると、過失相殺を主張し、支払う慰謝料を減額しようとします。

しかし、保険会社が算出する過失割合は、不当な場合もあります。この時、交通事故に精通した弁護士であれば、妥当な過失割合を主張し、もらえる慰謝料を増やすことが可能になります。

もし、保険会社から言われた過失割合に納得できないのであれば、弁護士に依頼して妥当な過失割合を主張しましょう。

(3)妥当な後遺障害を獲得できる可能性が高まる

症状が残っているにもかかわらず、後遺障害申請をせずに示談交渉を進めてしまう方がいます。しかし、症状が残っているのであれば、後遺障害申請をして、妥当な後遺障害を認定してもらいましょう。

後遺障害の認定を受ければ、後遺障害慰謝料はもちろん、後遺障害逸失利益(後遺症による仕事への影響を金銭換算した賠償項目のことです)も別途もらえます。後遺障害の申請をすべきか否か、申請時の有効な証拠は何か、妥当な後遺障害の等級は何か、示談をする前に、弁護士に相談しましょう。

(4)請求漏れを防ぐことができる

交通事故の被害で発生する損害は、慰謝料をはじめとした精神的損害だけでなく、仕事を休んだことによる損害(休業損害)や、入通院時に家族に付き添ってもらった場合の付き添い費用、交通費、お子さんの習い事の月謝代などたくさんあり、被害者によって発生する損害項目は異なります。

保険会社の担当者は、そのような個々の被害者の状況に合わせた賠償金を支払うとは限りません。このような請求漏れを防ぐためには、弁護士に依頼して適切な賠償金を算定してもらうことが確実です。

(5)交渉窓口になることで、被害者の言いたいことを十分に主張できる

保険会社の担当者は、示談交渉のプロです。そのため、被害者は保険会社の担当者に言いくるめられてしまい、言いたいことを十分に伝えることできないケースもあります。また、お仕事で忙しい方の場合、日中の保険会社からの電話が煩わしく感じることもあります。

そのようなとき、弁護士に依頼すれば法的に有利な主張を十分に保険会社の担当者に伝えることができますし、被害者は仕事や治療に集中することができます。

(6)納得した解決が可能に

弁護士が被害者と保険会社との間に入って交渉することで、法的な観点から妥当な解決を実現できますので、被害者としても納得して示談することが可能になります。「保険会社の言いなりになっているのではないか」という不安を払拭できるため、示談により精神的にもスッキリすることができます。

6 慰謝料の交渉を弁護士に依頼するデメリットとは?

(1)弁護士費用を支払うと費用倒れになってしまうのでは?

弁護士に依頼すると、弁護士費用がかかるため、もらえる慰謝料と比較して費用倒れになってしまうと不安になる方もいます。

しかし、弁護士費用特約があれば、弁護士費用は保険会社が支払ってくれるため、多くのケースで費用倒れを心配する必要がなくなります。

また、弁護士費用特約がなかったとしても、着手金が無料で費用は後払いとする法律事務所もありますので、そのような法律事務所に交渉を依頼することがおすすめです。

※弁護士法人サリュでも、着手金は無料、費用は後払いの成功報酬制ですので、初期費用を心配せずにご依頼いただけます。また、もし、ご依頼時に費用倒れになる可能性があれば、その旨をお伝えします。ご相談いただいたからといって、ご依頼を強制することはありませんのでご安心ください。

(2)弁護士を入れるとすぐに裁判になってしまうのでは?

交通事故は、約8割は示談で終わり、すぐに裁判になるということはあまりありません。もちろん、保険会社の対応によっては、依頼者とご相談のうえ、裁判をおすすめすることもありますが、そのようなケースは多くはありません。

また、ケースによっては、裁判外の紛争解決手続き(交通事故紛争処理センターなど)を利用することが有益な場合もあります。どのような手続きが被害者の意向にもっとも沿っているのかは、専門的な判断も必要になります。この辺りは、弁護士と解決までにかかる時間や見通しなどを十分に打ち合わせたうえで、決定していくことになります。

(3)弁護士を入れると解決までに余計に時間がかかるのでは?

弁護士を入れることで解決までに余計に時間を要すると心配される方もいます。確かに、妥当な解決を目指す場合、どうしても時間がかかってしまうケースもあります。

しかし、保険会社と被害者側との見解の相違点を早期に見つけ、有効な証拠を早い段階で提出することで、解決が早まる可能性もあります。そのため、弁護士を入れることで解決までに余計に時間がかかってしまうというわけではありません。

7 保険会社の提示から慰謝料が増額した事例

弁護士法人サリュで扱った慰謝料の増額事例をご紹介します。

(1)加害者の悪質性などを主張して慰謝料800万円増額させ示談したケース

Eさん(70代男性)は、日課である朝の散歩をしている時に、車に轢かれて亡くなりました。しかも、加害者はひき逃げをした上に衝突痕を削るなど、証拠隠滅までしようとしていました。保険会社からご遺族に提示された慰謝料は、これらの加害者側の態度を全く考慮していない、2,000万円にも満たないものでした。そこで、サリュは上記加害者側の事由が慰謝料を増額させる事由に当たる旨などを主張し、最終的に慰謝料を2,700万円以上にして約800万円増額させ、示談で解決することができました。

(2)慰謝料だけで700万円増額、全体では5,000万円以上増額させて示談したケース

Sさんは、加害者の一時停止無視による交通事故による低酸素脳症により、遷延性意識障害(いわゆる植物人間状態)となりました。自賠責も問題なく、後遺障害等級1級と認定したのですが、任意保険会社が提示してきた慰謝料は、2,400万円程度でした。
サリュは、裁判基準の慰謝料と大きく開きがありすぎることを指摘して厳しく交渉し、結果として3,100万円以上の慰謝料を勝ち取りました。なお、その他の項目も含めると全体としては5,000万円以上の増額となりました。

(3)約1ヵ月で慰謝料をほぼ倍増させて示談したケース

Cさんは、交差点で信号待ちのため停車していたところに追突され、約8ヶ月の通院を余儀なくされた上に、頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状についてそれぞれ14級の認定を受けることになりました。ところが、当初保険会社が提示してきた慰謝料の金額は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を併せても117万円程度であり、これは自賠責基準に近い、とても低いものでした。
結果として、慰謝料は約117万円から約216万円まで増額しました。また、逸失利益や休業損害などその他の項目も含めると全体では200万円以上増額し、提示額から倍以上増額して示談することができました。解決までもご依頼から約1ヶ月で終了することができ、Cさんにも大変満足していただけました。

(4)慰謝料を約2.4倍、全体でも約3.8倍に増額して示談したケース

Gさんは、就業中にバイクを運転していたところ、優先道路に無造作に出てきた車と衝突して、12級相当の左肩可動域制限が残る後遺障害を負いました。これに対し、保険会社が提示してきた金額は、慰謝料にして140万円弱、全体でも240万円程度の極めて低い金額でした。サリュは、この金額は全く不当であることをGさんに説明し、示談交渉に臨みました。弁護士が入ったことで「任意保険会社基準」は全く無意味となり、そのことを保険会社も認識していますので、当然のことながら慰謝料は「裁判基準」を前提としたものとなりました。その後も保険会社は支払いを渋りましたが、裁判を辞さないというGさんの思いを聞いていた担当弁護士の力強い交渉により、慰謝料は330万円程度まで増額し、全体としても900万円以上の金額となりました。

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