【交通事故で腰椎圧迫骨折】慰謝料・後遺障害等級・逸失利益を解説
交通事故で圧迫骨折になってしまった場合、慰謝料はどのように算定されるのでしょうか。また、後遺障害の等級や、後遺障害逸失利益はどのように算定されるでしょうか。今回のコラムでは、交通事故で圧迫骨折になってしまった方向けに、慰謝料や後遺障害のことについて解説します。
交通事故解決件数 1,100件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した
目次
1 交通事故でよくある圧迫骨折とは
圧迫骨折とは、主に頚部・胸部・腰部の椎体の骨折の一つであり、椎体の中央から前方に骨折をきたし、単純X線写真側面像で楔状を呈する骨折です。
骨折が椎体の前方部分にとどまっている状態であることで、破裂骨折と区分されます。
受傷部位(骨折箇所)に直接外力が加わる直達外力、受傷部位とは離れたところ(たとえば頭部)に外力が加わることによって生じる外力(介達外力)の双方によって生じ得ます。車が大破するような交通事故、自動車と自転車との交通事故、自動車と歩行者との交通事故のように、頚部・胸部・腰部に直接的に外力が加わるような事故態様で発生することが多いとされています。
(1)圧迫骨折の症状
圧迫骨折の主な症状は、受傷部位の疼痛、脊椎の変形障害と、骨折箇所の運動制限です。その程度により、手指などの上肢や足指などの下肢の末梢神経領域に放散痛や麻痺が生じることもあります。特に、脊髄損傷のような症状(脊髄症)が生じていないかは、要注意です。
疼痛については、日常生活に支障がない方もおられますが、多くの方は重労働への支障や、日常生活の動作にも支障が生じます。
また、変形が重度の場合には、歩行や立位、呼吸機能などにも支障が出ることがあります。
(2)交通事故では腰椎の圧迫骨折が頻発し、若い人でも発症する
車が大破するような交通事故や、生身の身体に直接外力が加わる交通事故の場合、圧迫骨折が生じることが多くあります。
また、胸腰椎の移行部(専門的には「Th12」という12番目の胸椎と「L1」という1番目の腰椎、「L2」という2番目の腰椎)は、安定的な上中位胸椎と可動性を有する腰椎の間にあたる箇所で、ストレス(応力)が集中しやすいことから、圧迫骨折の好発部位だとされています。
この部分の骨折は、骨粗鬆症を併発している高齢者の方のみならず、その構造から若い人でも発生するとされています。
なお、胸腰椎移行部ほどではないですが、腰椎と仙骨の移行部も、弯曲することにより安定性を保っているという構造をもっているので、交通事故による転倒や尻もちをついてしまった場合には、腰椎の下位同士(4番目と5番目の腰椎)や、腰椎の下位と仙骨に、圧迫骨折が生じることがあります。
【注意!】自賠責保険上の後遺障害等級に関して、「仙骨」及び「尾骨」は、「せき柱」には含まれないとされています。解剖学上は仙骨も尾骨も「せき柱」なのですが、自賠責保険における後遺障害等級は、頚部及び体幹の支持機能ないし保持機能及びその運動機能に着目したものだからと説明されています。
ただし、せき柱の運動障害のみは、腰仙関節の動きを含めて後遺障害該当性を判断するものとされています。
2 交通事故で圧迫骨折になった場合の慰謝料・賠償金の相場
圧迫骨折になった人がもらえる賠償金項目には以下のものがあります。
(1)入通院慰謝料
たとえば、圧迫骨折で入院を1か月して、さらにリハビリのために通院を6か月した場合の慰謝料は、赤い本と呼ばれる損害賠償算定基準(弁護士基準)では、149万円とされています。
損害賠償算定基準における慰謝料には、別表Ⅰと別表Ⅱという2つの慰謝料算定基準があります。圧迫骨折をしたのに、別表Ⅰより慰謝料額が低額で、むち打ち症や後遺障害等級非該当のときに用いられる別表Ⅱに基づく慰謝料額を提示されていないか、しっかり確認しましょう。慰謝料に関しては以下の記事もご覧ください。
(2)後遺障害慰謝料
後遺障害等級に応じて、後遺障害が残存した場合に請求できる慰謝料の額の相場が決まっています。
後遺障害等級の説明は後述しますが、圧迫骨折では、概ね以下のとおり後遺障害等級に応じた慰謝料を請求するべきです。
(3)休業損害
圧迫骨折の主な症状は、受傷部位の疼痛、脊椎の変形障害と、骨折箇所の運動制限です。外傷性の圧迫骨折の場合、初期は激痛で動くこともできないことが多いこと、その後も疼痛や運動障害などでお仕事や家事への支障があったことを立証して、休業損害を請求すべきです。具体的には、以下のとおりです。
ア 給与所得者の場合
ご勤務先に、「休業損害証明書」と題する書類を書いてもらいます。そのうえで、交通事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したことによる現実の収入の減少分を請求します。
なお、有給休暇を使用した場合も休業損害として認められること、休業中に昇給、昇格があった後はその収入を基礎とすること、休業に伴う賞与の減額や不支給、昇給・昇給遅延による損害も、立証資料とともに請求する必要がありますので、これらの確認を行うことを忘れないようにしてください。
イ 自営業者
交通事故前後の確定申告書等を証拠に、現実の収入の減少があった場合に認められます。
なお、受傷の程度や事業の規模、従業員数にもよりますが、休業中の固定経費の支出は、事業の維持・存続のために必要だと認められる範囲で、損害として請求することができます。
ウ 会社役員
受傷の程度や会社の規模(実質一人会社の場合)等により、休業損害を請求できる余地があります。
具体的には、労務提供の対価部分は休業損害として認められる余地がありますが、利益配当(役員報酬)の実態がある部分は、休業損害として認めらないのが原則です。
この点は、法人概況説明書や、確定申告書及び添付書類等で立証していく必要があります。
エ 家事従事者
専業主婦の場合には、賃金センサスを参照して、主婦として家事に従事していた部分を金銭評価して休業損害を請求することになります。
一方で、兼業主婦の場合には、現実の収入額と、女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を基礎として算出されるとされています。ただし、いわゆるフルタイムパート(週5でパート勤務をされている方)については、保険会社から、「家事従事者として認定できない」ないしは、「家事従事者として認定しても、専業主婦の場合と同視できない」旨の主張がなされて、賃金センサスによる算定を否定する主張がなされることがあります。
そのような場合には、どの期間、どの程度、どういう家事にどういう支障があったのかを細かく立証する必要があります。
オ 無職の方
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものは認められますが、仮にそれらが認められたとしても、賃金センサスよりは下回った金額が基礎額とされるケースが多いでしょう。
労働意欲とは、実際に就労支援を受けていたり、ハローワークで面談や面接を受けていたり、就職先が決まっていた方の場合には、労働意欲があると認められる可能性があります。
また、交通事故に遭う直前まで長期間就労していたり、国家資格もしくはそれに準じる専門資格をもっている方などは、労働能力があるとされています。
交通事故当時無職の方については、以上の点を立証して休業損害を請求していくことになります。
(4)後遺障害逸失利益
後遺障害が認定されると、将来の働きづらさ(労働能力の喪失の程度)に応じて、逸失利益という損害費目が請求できます。
逸失利益の算定は、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活の不便等、実際の収入状況や不利益を立証することによって行います。
計算式は、
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間 |
となります。
ア 基礎収入額
休業損害に準じて、原則として事故前の収入を基礎とします。
自営業者の場合は、事故前の所得額(売上額ではないことに注意が必要です。)を基準とすることが多いです。
また、会社役員の方の場合は、労務対価分は基礎収入として算定されることがある一方、役員報酬分など利益配当の実質をもつ部分は、基礎収入として算定されない傾向にあります。
加えて、家事従事者の場合には、休業損害と同じくその態様により、賃金センサスもしくは実収入による基礎収入額を認定します。
なお、学生の場合や、若年労働者(事故時概ね30歳未満)の場合には、今後、収入増加の機会が多くあることを考慮して、全年齢平均の賃金センサスを用いることができるケースもあります。
イ 労働能力喪失率
圧迫骨折における争点の一つです。
通常、労働能力喪失率は、自動車損害賠償保障法施行令(平成23年政令116号)の別表1及び別表2における後遺障害の等級によって、おおよその喪失率が定められています。圧迫骨折に関係する後遺障害等級に係る労働能力喪失率は、以下のとおりです。
しかしながら、保険会社からは、圧迫骨折の主たる障害は「変形障害」であることから、「脊柱が変形しているだけで体の動きや痛みによる影響があるわけではなく、労働能力喪失はない。したがって、逸失利益はない。」と主張されることがあります。裁判例でも、圧迫骨折の結果生じる障害は変形障害であることを理由に、逸失利益を否定する例もあります。
そのため交通事故の被害者側としては、実際に生じた労働や家事への支障を立証するとともに、変形障害のなかに疼痛等の障害が含まれて評価されていることを立証して、労働能力が喪失していることを主張していくことが必要となります。
3 交通事故で圧迫骨折となった場合の後遺障害等級
交通事故で圧迫骨折になった場合、以下の後遺障害等級の該当性が考えられます。
なお、圧迫骨折は、解剖学的には「せき柱」の障害とされています。自賠責保険の後遺障害等級上、「せき柱」の障害は、「変形障害」、「運動障害」とされていますが、それらには「準用等級」があることは、忘れられがちです。
したがって、交通事故で圧迫骨折になった場合には、その症状の程度や他覚的所見を精査して、準用等級を含めてどの障害に該当するのかを検討する必要があります。
後遺障害等級第6級5号 | 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの |
後遺障害等級第6級相当 | その原因が明らかに認められる場合であって、頚部および腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの |
後遺障害等級第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
後遺障害等級第8級相当 | その原因が明らかに認められるものであって、頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの |
後遺障害等級第8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
後遺障害等級第11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
後遺障害等級第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
後遺障害等級第14級13号 | 局部に神経症状を残すもの |
以下、各等級について詳しくみていきます。
(1)変形障害
- 後遺障害等級第11級7号
「せき柱に変形を残すもの」が、自賠責保険上の後遺障害等級第11級7号に該当するとされています。
具体的には、以下の表のいずれかの要件を満たせば、「せき柱に変形を残すもの」として後遺障害等級第11級7号が認定されます。
11級7号 | せき椎圧迫骨折を残しており、それが単純X線写真等で確認できるもの |
せき椎固定術が行われたもの(移植骨がせき椎に吸収されたものを除く) | |
3個以上のせき椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの |
- 後遺障害等級第8級準用
「せき柱に中程度の変形を残すもの」が、自賠責保険上の後遺障害等級第8級を準用するものとして定められています。
具体的には、以下の表の要件を満たせば、「せき柱に中等度の変形を残すもの」として後遺障害等級第8級相当とされます。
8級準用 | 単純X線写真、CT画像又はMRI画像によりせき椎圧迫骨折を確認できるもの | + | 次のいずれか |
せき椎圧迫骨折により、1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているもの(「前方椎体高が減少」とは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるもの) | |||
側彎度が50度以上であるもの(コブ法による)。 ※「コブ法」とは、椎体の側彎度の計測方法の一つです。 |
|||
環椎又は軸椎の変形・固定により、 ①60度以上の回旋位となっているもの、 ②50度以上の屈曲位又は60度以上の伸展位となっているもの、 ③側屈位となっており、単純X線写真等により、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と、軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの、 のいずれかに該当すること。 |
- 後遺障害等級第6級5号
「せき柱に著しい変形を残すもの」が、自賠責保険上の後遺障害等級第6級5号に該当します。
具体的には、以下の要件を満たせば、「せき柱に著しい変形を残すもの」として後遺障害等級第6級5号に該当します。
6級5号 | 単純X線写真、CT画像又はMRI画像によりせき椎圧迫骨折を確認できるもの | + | 次のいずれか |
せき椎圧迫骨折により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているもの(「著しく減少」とは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と、減少後の前方椎体高の合計の差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ以上であるもの)。 | |||
せき椎圧迫骨折により、1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生ずるとともに、側彎度が50度以上となっているもの(「前方椎体高が減少」とは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるもの)。 ※側彎度の測定はコブ法による。 |
- 参考となる画像
下の画像は、外傷により腰椎圧迫骨折が生じている方の画像です。
左の画像(CT)では、一番下の胸椎(Th12)から、腰椎の上から3番目の椎体にかけて、骨片の遊離を伴う圧迫骨折が起こっています。
また、右の画像(MRIのT2強調画像)では、一番下の胸椎と一番上の腰椎部分に棘上靭帯の断裂と皮下出血が認められます。なぜ棘上靭帯の確認と皮下出血の確認が重要かは、「4 腰椎圧迫骨折で後遺障害認定されないケースとは」 で述べます。
引用:最新整形外科学体系10脊椎・脊髄203頁
(2)運動障害
- 後遺障害等級第8級2号
「せき柱に運動障害を残すもの」が、自賠責保険上の後遺障害等級第8級2号に該当します。
具体的には、以下の要件を満たせば、「せき柱に運動障害を残すもの」と認定されます。
8級2号 | 頚部又は胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されたもの | + | 次のいずれか |
頚椎又は胸腰椎にせき椎圧迫骨折を残しており、そのことが単純X線写真等により確認できるもの | |||
頚椎又は胸腰部にせき椎固定術が行われたもの | |||
項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの | |||
頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたもの |
- 後遺障害等級第6級5号
「せき柱に著しい運動障害を残すもの」が、自賠責保険上の後遺障害等級第6級5号に該当します。
具体的には、以下の要件を満たせば、「せき柱に著しい運動障害を残すもの」と認定されます。
6級5号 | 頚部及び胸腰椎が強直したもの | + | 次のいずれか |
頚椎及び胸腰椎のそれぞれに圧迫骨折が存しており、そのことが単純X線等で確認できるもの | |||
頚椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎固定術が行われたもの | |||
項背軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの |
【注意!】頚部のみの強直のみでは6級の後遺障害等級には該当しないとされています。
【注意!】運動障害による後遺障害等級ですが、この運動障害が、痛みを原因とするものである場合(痛くて動かせないという場合)には、運動障害としての認定ではなく、後述する神経症状として後遺障害等級に該当するか否かの判断となります。
【コラム】「強直」とは関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいいます。「これに近い状態」とは、関節可動域が原則として健側の可動域角度の10%程度以下に制限されているものをいい、せき柱にあっては、参考可動域角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度を「10%程度」といいます。
(3)荷重機能障害
以上に挙げた変形障害や運動障害は、交通事故による圧迫骨折後の後遺障害として有名ですが、実は、せき柱の障害には、後遺障害等級第8級と第6級に相当するとされている後遺障害があります。それが、荷重機能障害です。
- 後遺障害等級第8級相当
「その原因が明らかに認められるものであって、頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの」という場合に「荷重機能障害」としての後遺障害等級の認定可能性があります。
後遺障害等級第8級相当の要件を詳述すると、以下のようになります。
8級相当 | せき椎圧迫骨折・脱臼、せき柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化が存し、それらがエックス線写真等により確認できる場合(この場合を「その原因が明らかに認められるもの」といいます。) | + | 頚部または腰部のいずれかの保持に困難があること | + | 常に硬性補装具を必要とするもの |
- 後遺障害等級第6級相当
「その原因が明らかに認められるものであって、頚部及び腰部の保持に困難があり、常に硬性補装具を要するもの」という場合です。
後遺障害等級第8級相当で記載した要件とほぼ同一ですが、後遺障害等級8級相当が「頚部または腰部のいずれか」の保持が困難であることに対し、後遺障害等級6級相当の荷重機能障害は、「頚部及び腰部」のいずれにも器質的障害があり、荷重機能が害され、常時硬性補装具を必要とする場合に該当することになります。
後遺障害等級第6級相当の要件を詳述すると、以下のようになります。
6級相当 | せき椎圧迫骨折・脱臼、せき柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化が存し、それらがエックス線写真等により確認できる場合(この場合を「その原因が明らかに認められるもの」といいます。) | + | 頚部及び腰部の保持に困難があること | + | 常に硬性補装具を必要とするもの |
(4)神経症状
ここでいう神経症状とは、「痛み」や「しびれ」のことを指します。交通事故により圧迫骨折となった場合で、交通事故からずっと「痛み」や「しびれ」が残っている場合には、神経症状として評価される場合があります。
【注意!】変形障害や運動障害として後遺障害等級が認定された場合には、「痛み」などの神経症状は、変形障害や運動障害に含まれるものとして判断され、別途、神経症状として後遺障害等級が認定されるわけではありません。
しかし、上で記載した「逸失利益」の観点からは、単なる変形障害ではなく、痛みを包含する変形障害であると主張する必要がありますので、主治医の先生には痛みやしびれなどの神経症状を伝えておくとともに、診断書などの医証に記載漏れがないよう注意する必要があります。
- 後遺障害等級第14級9号
「局部に神経症状を残すもの」が、後遺障害等級14級と判断されます。ここでいう神経症状とは、たとえば、「痛み」や「しびれ」です。
この要件は、単に症状が残っていれば認定されるというものではなく、たとえば、
- 交通事故の大きさや受傷機転
- 通院頻度、治療内容
- 治療期間
- 画像所見
- 症状の一貫性、症状推移
などを医学的な書類で総合的に考慮して、等級該当性が判断されます。
- 後遺障害等級第12級13号
「局部に頑固な神経症状を残すもの」が、後遺障害等級12級と判断されます。
後遺障害等級14級との区別は、「頑固な」とされているところです。ここで、「頑固」とは、単に痛みの程度が強いというだけでなくて、神経症状の存在が、医学的に立証できる場合を指すとされています。医学的な立証は、圧迫骨折の場合は、画像所見がメインになります。
4 腰椎圧迫骨折で後遺障害認定されないケースとは
(1)高齢者など外傷性の圧迫骨折であると認定されないケース
高齢者の方の中には、もともと、圧迫骨折が不顕性で存在していた、という方がおられます。事故によって症状が発生したことは間違いないとは思いますが、もともと圧迫骨折が存在していたということで、交通事故と圧迫骨折との因果関係が否定されてしまいます。その結果、後遺障害認定もされないことになります。
そのため、高齢者の方の圧迫骨折は、
- 圧迫骨折が多発性か局所性かを医証から確認する(例外はあるが、交通事故による外傷性の圧迫骨折は、局所性であることが多い。)
- 交通事故前の通院履歴を調べる
- 交通事故後、少なくとも3~4か月の間に、受傷部位(椎体)の圧潰が進んでいるかを確認する
- 受傷直後のXP、CT画像上、椎体内のガスの程度を確認する
- 受傷直後のMRI画像上、棘上靭帯損傷、出血痕、その他軟部組織の損傷があるかを確認する
- 骨密度を調べる
- 椎間板及び椎体の変性が進んでいないかを確認する
などといった検討が必要になります。
(2)受傷機転が明らかでないケース
バイク事故のように、生身の身体と自動車が衝突した交通事故や、高所から転落した交通事故の場合には、交通事故と圧迫骨折の因果関係は比較的理解しやすいところです。しかし、たとえば、追突事故で圧迫骨折になった場合など、交通事故の態様からなぜ圧迫骨折が生じたか、受傷機転が不明な場合があります。
その場合には、頚部もしくは腰部にどのような力が加わったのか、運転姿勢はどのようなものだったのか、交通事故によって車体にかかる力はどの程度だったのかを、調査する必要があります。
場合によっては、受傷に疑義がある事案として、保険会社から治療費が支払われないこともあります。
(3)圧迫骨折か否かが明らかでないケース
圧迫骨折は、レントゲンやCTさえ撮影すれば、一目瞭然と思われがちですが、実はそのようなケースばかりではありません。
椎体は、変性により脂肪や水が入り込むことがあり、それが画像上、白く映ったり灰色に映ったりするために、「圧迫骨折か脂肪変性かわからない」という事態が起こりえます。
その場合には、(1)であげた1~7などの内容を確認する必要があります。
5 圧迫骨折でしびれを感じた場合の注意点
交通事故で圧迫骨折が生じた場合、手足にしびれが生じたり、麻痺が生じたり、排尿障害が生じたりすることがあります。「破裂骨折」や、「Chance(チャンス)骨折」は、圧迫骨折より脊髄損傷が併発しやすいとされている骨折態様ですので、「破裂骨折」やChance(チャンス)骨折の傷病がついている場合は、注意を要します。
このような場合には、圧迫骨折に併せて、脊髄損傷が併発している可能性があります。
外傷性の圧迫骨折は受傷部位の強い痛みを伴う場合が多いので、痛みに隠れてしびれや軽度の麻痺が見逃されることがありますが、脊髄損傷は場合によっては日常生活に重大な支障を及ぼし、歩行自体も困難になる場合も多い障害です。被害者の方はもちろん、ご家族様など近くで被害者の方を見ている方も、手足にしびれがないか、膀胱や直腸の障害と思しき事実がないか(頻尿、尿もれ、脱糞等)、手足は動くか、温度を感じることができるか等、確認さされたほうがよいと思います。
もし脊髄損傷が疑われる症状が生じている場合は、ただちに担当医に伝えましょう。脊髄損傷に関しては、以下のページもご覧ください。
6 交通事故で圧迫骨折になった場合の有効な検査は?
交通事故で圧迫骨折になった場合に有効な検査は、
(1)神経学的評価
(2)画像診断
です。
(1)の神経学的評価は、ASIA Impairment Scale(AIS)という尺度を用いて、5段階で判断します。併せて筋力も評価します。
また、(2)の画像診断には、まずは単純X線で損傷の有無及び部位を確認したのち、損傷が疑われる場合には、CTやMRIで、骨傷(CT)や軟部組織の損傷(MRI)を確認します。交通事故と圧迫骨折との因果関係の判断のために、交通事故から3~4か月の間は少なくとも、XPを経時的に撮影していただくほうがよいと考えています。椎体の圧潰の進行を確認するためです。医学的な判断を伴うので、ご担当の先生に相談されてください。
7 交通事故で圧迫骨折となった場合に弁護士に依頼するメリット
(1)因果関係の判断を調査することができる
そもそも圧迫骨折か否かが不明な場合、外傷性の圧迫骨折か不明な場合など、圧迫骨折と交通事故との因果関係を調査する必要があります。このような調査は、専門家である弁護士に委ねたほうがいい場合が多いと思われます。
(2)後遺障害等級の建付けを理解して必要な検査を判断できる。
上に挙げたとおり、圧迫骨折に関係する後遺障害等級は、変形障害、運動障害、荷重障害など、様々な障害と等級があり、それぞれに複雑な要件が設定されています。また、検査だけをとってみても、「側彎度」、「後彎」、「コブ法」など、なかなか被害者の方だけではどの場合にどの検査を行ってよいか、判断がつかない場合も多いと思われます。
この要件を理解して、必要な検査を行わなければそもそも後遺障害が認定されないのですから、等級の理解と必要な検査を一緒に考えることができる点も、弁護士に依頼するメリットだといえるでしょう。
(3)逸失利益や素因減額など、賠償法上の争点に対応できる。
圧迫骨折のうち、特に変形障害などは、保険会社からは逸失利益がないと主張されることがあります。
また、圧迫骨折を認めるか否かにかかわらず、ご高齢の方が被害者になってしまった事案では、骨密度や既往症の関係から、「素因減額」という主張を保険会社が行ってくることがあります。素因減額の詳しい解説はここでは割愛しますが、既に支払っている治療費を含めて、保険会社の賠償分(割合)を、減額しようとする主張です。
このような保険会社の主張に予め備えておいたり、対応したりするのは、専門家である弁護士が適任と考えます。
(1)にも記載したとおり、圧迫骨折は因果関係判断に始まり、等級該当性、必要な検査、賠償法上の争点といった複雑かつ重要なポイントが多くある傷病です。
お一人で悩まれる前に、専門家である弁護士にご相談ください。
8 圧迫骨折の場合に弁護士に相談するタイミングは?
ご相談は、早ければ早いほうがいいと考えています。上にも記載しましたが、圧迫骨折は、受傷当初から、検討すべき事項が多くある傷病です。実は経時的にレントゲンをとっていなかった、必要な検査をしていなかった、因果関係調査をしていなかった、となってしまった状態からご相談される方もおられますが、過去には戻れませんので、弁護士にご相談された段階では、時すでに遅し、となっている事態も有り得ます。
もちろん、どのタイミングで依頼されても、弁護士として全力で取り組みますが、「もっと早く依頼しておけばよかった」とならないためにも、なるべくお早めにご相談ください。
ご加入されている保険に弁護士費用特約が付帯している場合には、費用倒れになる心配はありませんし、仮に弁護士費用特約がなくとも、圧迫骨折が明らかであれば弁護士費用を考慮してもなお弁護士に依頼されるほうが賠償金が高くなる可能性が高いので、是非ご相談だけでもご検討ください。
9 弁護士法人サリュの圧迫骨折に関する解決事例
弁護士法人サリュでは、圧迫骨折に関する様々な事例を取り扱っております。あくまでも一例ですが、以下紹介致します。
【弁護士法人サリュが画像所見を発見した事例】
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事例277:主治医が認識していなかった画像所見も、リーガルスタッフが発見!その結果、14級を8級に!賠償額は5倍に!
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事例126:サリュが発見した腰椎圧迫骨折を後遺障害診断書に記載してもらい、脊柱の変形障害11級を獲得