交通事故で手指のしびれが残った場合の賠償金│後遺障害認定のポイントも解説
交通事故の被害に遭い、手指のしびれが生じることがあります。交通事故で手指のしびれが残った場合は、どのくらいの賠償金がもらえるでしょうか。慰謝料は当然として、認定される可能性のある後遺障害等級や収入補償についても気になるところだと思います。
手指のしびれが残ってしまった場合、適正な後遺障害等級が認定される可能性を高めるためにも、後遺障害に関する専門的な知識が必要となります。
本コラムでは、交通事故の被害に遭われ、手指のしびれが残った方向けに、慰謝料の相場や手指のしびれの後遺障害認定のポイントなどを解説しました。
交通事故解決件数 1,100件以上
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【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した
目次
1 交通事故で手指のしびれが現れる原因
(1)むちうち
むちうち症は、衝撃を受けた際に、むちのように首が動いてしまった結果、頚椎、首の筋肉、首の神経などが損傷したことで生じる症状の総称です。
首の痛みのほか、手や腕のしびれなどの症状も発症する場合もあります。
これは、むちうちにより、頚部の脊髄から枝分かれする神経根が損傷したり、椎間板が膨隆したりした結果、左右の神経根を圧迫することで、神経根が伸びている手の支配領域において知覚障害などが生じ、手のしびれや握力の低下などの症状が引き起こされるためと考えられています。
(2)椎間板ヘルニア
頚椎は、ブロックの形をした7つの椎骨が積み重なってできています。椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間にあって、クッション材の役割を担っている椎間板の一部が外に飛び出してしまった状態のことです。事故による衝撃で頚椎の椎間板が突出すると、その周辺にある、手を司る神経を圧迫するため、手のしびれなどの症状が現れるようになります。
ただし、椎間板ヘルニアは、交通事故を原因とするものであれば、かなりの強い衝撃が必要とされます。もし、交通事故後に撮影されたMRI画像で椎間板ヘルニアが見つかっても、加齢性のものであって交通事故前から存在していた、等と判断されるケースは多く、事故との因果関係で争いになるケースが多いです。
(3)神経損傷
交通事故で神経が損傷することがあります。神経は体の各部に信号を送る役割を果たしており、手指の感覚や動きに関連する神経が損傷すると、手指のしびれが生じる可能性があります。
(4)脊髄損傷
脊髄とは、脳から背中、腰にかけて通っている神経の束のことをいいます。
人が体を動かそうと思ったとき、脳からの指示が、脊髄→末梢神経→手足へと伝わります。物が触れた感覚も、末梢神経→脊髄→脳へと伝わりますので、脊髄は我々が生きていくうえで大変重要な組織であるといえます。
脊髄は頚椎の脊柱管の中を通っていて、事故による衝撃で脊髄が損傷すると、様々な症状が引き起こされます。脊髄の損傷がひどい場合は、半身や全身麻痺、呼吸障害、歩行障害などの重篤な症状が残ります。手指のしびれも、軽い脊髄損傷の症状の一つの可能性があります。
(5)軟組織の損傷
交通事故では、筋肉や靭帯、腱などの軟組織が損傷することがあります。これらの損傷が手指の周りに起こると、手指のしびれが生じる可能性があります。
2 手指のしびれの後遺障害認定のポイント
(1)可能性のある後遺障害等級
むちうちを原因とした神経症状(首や腰の痛み、手足のしびれなど)は、後遺障害等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)もしくは12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)が認定される可能性があります。
脊髄損傷で重篤な症状が残った場合は、9級以上の等級が認定される可能性があります。脊髄損傷については以下の記事をご覧ください。
交通事故による脊髄損傷(脊髄馬尾神経の損傷)の後遺障害等級は?弁護士に後遺症相談
ここでは、むちうち等で認定される可能性のある14級と12級について解説します。
(2)12級13号認定のポイント
12級13号と14級9号の違いは、「頑固な」神経症状か否かです。
具体的には、神経症状が残っていることが医学的に証明されるものかどうかです。
「医学的に証明されるもの」とは、自覚症状が、画像所見及び神経学的所見と整合している等、その存在が他覚的所見により裏付けられたものをいいます。
「画像所見と整合する」とは、頚部・腰部のMRI画像上、神経が圧迫されていることが確認され、その神経が支配する領域(身体の各部位)に、痛みやしびれなどの自覚症状があらわれているような場合です。
また、「神経学的所見と整合する」とは、画像上、圧迫されている神経が支配する領域において、神経学的検査で異常を示しており、その結果が自覚症状とも整合する場合です。
神経学的検査とは、深部腱反射テスト、スパーリングテスト・ジャクソンテスト、知覚検査、筋萎縮、徒手筋力テストなど、神経の機能を調べるための検査です。
このように、残存した自覚症状が、画像所見及び神経学的所見によって裏付けられ、医学的に証明できるといえる場合に、後遺障害等級12級13号が認定されます。
12級の慰謝料の相場については、以下の記事をご覧ください。
後遺障害等級12級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説
(3)14級9号認定のポイント
前記(2)のように医学的な証明とまではいえないものの、受傷状況や通院状況、症状の推移などから、自覚症状が残っていることが合理的に説明可能であるといえる場合には、後遺障害等級14級9号が認定されます。
3 手指のしびれの慰謝料の相場
(1)入通院慰謝料
慰謝料といっても、どの基準で計算するかによって、金額が変わってきます。
最低補償とされている自賠責基準、任意保険会社の独自の基準である任意保険基準、一番高く計算できる弁護士基準の3つです。
仮に、他覚的所見のない手指のしびれで通院期間が1か月間(30日)で、週2回程度のペースで合計8回整形外科に通院した場合、それぞれの基準で算出される慰謝料は以下の通りです(任意保険基準は、旧任意保険基準を採用しています。以下同じ)。
自賠責基準 6万8800円 |
任意保険基準 12万6000円 |
弁護士基準 19万円 |
通院期間が3か月間(90日)で、週2回程度のペースで合計24回整形外科に通院した場合、それぞれの基準で算出される慰謝料は以下の通りです。
自賠責基準 20万6400円 |
任意保険基準 37万8000円 |
弁護士基準 53万円 |
通院期間が6か月間(180日)で、週2回程度のペースで合計48回整形外科に通院した場合、それぞれの基準で算出される慰謝料は以下の通りです。
自賠責基準 41万2800円 |
任意保険基準 64万3000円 |
弁護士基準 89万円 |
*参照ページ
(2)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残存したことによる被害者の精神的損害を賠償するものです。後遺障害の程度(1級~14級の後遺障害等級)に応じて算定します。
後遺障害等級12級の後遺障害慰謝料の相場は290万円で、後遺障害等級14級の後遺障害慰謝料の相場は110万円です。
ただし、この金額は、弁護士基準であり、弁護士に依頼されていない場合は、これよりも低い金額が保険会社から提示される可能性があります。
場合によっては、自賠責基準である94万円(後遺障害12級)、32万円(後遺障害14級)程度になる可能性もあります。
4 交通事故で手指のしびれが生じた場合の収入補償の相場
(1)休業損害
休業損害とは、事故による怪我で、仕事ができなくなり本来もらえるはずの給与がもらえない場合に発生する経済的損失を指します。
労働者は給与を受け取れなくなり、その間の収入が減少することになりますので、その分の賠償として請求します。
実際の減収額が明らかであれば、その額を請求します。
または、被害者の日給を算出し、その日給に事故から数ヶ月(概ね1ヶ月〜3ヶ月)の期間内で仕事を休んだ日数を乗じることで計算されることが多いです。
(2)逸失利益
逸失利益とは、死亡事故の被害や後遺障害を負うことによって本来健常なままであれば得られたであろう収益などの利益を指します。
つまり、事故に遭わず後遺障害が残らなければ得られたであろう経済的利益のことです。
計算方法は、基礎収入×労働能力喪失率×喪失期間です。
(※喪失期間については、ライプニッツ係数という数値を使用します。)
例えば、14級9号の場合は、労働能力喪失率は5%が相場と言われており、喪失期間は5年程度に制限されることがほとんどです。これは、痛みが残っても、時間の経過とともに痛みに慣れたり、ほとんど感じない程度に痛みが弱くなると考えられるからです。
仮に年収400万円の方が事故に遭い、後遺障害14級9号に認定された場合の逸失利益は400万円×5%×5年(ライプニッツ係数4.5797)=91万5940円となります。
12級13号の認定を受けた場合は、労働能力喪失率は14%と言われており、喪失期間は10年程度に制限されることがほとんどです。
仮に年収400万円の方が事故に遭い、後遺障害12級13号に認定された場合の逸失利益は400万円×14%×10年(ライプニッツ係数8.5302)=477万6912円となります。
後遺障害14級認定と12級認定では、これだけの差が生まれます。
12級の後遺障害逸失利益については、以下の記事もご覧ください。
後遺障害等級12級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説
5 交通事故で手指のしびれがある場合に弁護士に依頼するメリット
(1)適正な後遺障害等級認定のサポートを受けられる
ア 申請書類の不備を事前にチェックすることができる
弁護士に依頼した場合は、基本的には被害者請求の方法で後遺障害等級の認定申請を行います。
(事前認定の場合、加害者側の任意保険会社が後遺障害の等級申請を対応します。)
なお、申請書類の中で最も大事になるのが後遺障害診断書です。
この申請に当たっては、後遺障害診断書の記載内容に自覚症状等の記載漏れはないか、不必要に不利なことが書かれていないか、事実と違ったことが書かれていないかなどを精査します。
後遺障害等級の審査は、基本的には形式的審査であるため、被害者との面談等を行わずに審査されます。(なお、醜状面接などは例外的に行われることがあります。)
つまり、後遺障害診断書に記載された自覚症状等の内容しか審査されないため、自覚症状に不足があれば、その症状は後遺障害等級の認定対象になりません。そのため、後遺障害診断書の内容に不備がないかをチェックすることが重要になってきます。
そうすることで、適正な後遺障害等級が認定される可能性を高めることができます。
イ より効果的な異議申立を行うことができる
後遺障害の等級申請を行った結果、認められるべき後遺障害等級が認定されなかった場合は、異議申立という再度の等級申請の手続を行うことができます。
異議申立は、1回目の後遺障害の等級申請の時のように単なる資料を集めるだけではなく、異議申立書という書面を作成することが重要になります。
この書面を作成するには、後遺障害に関する専門的な知識が必要となり、医学的知識も必要になります。
後遺障害に関する知識・経験が豊富な弁護士に依頼すれば、より効果的な異議申立を行うことで認定可能性を高めることができます。
ウ 資料収集や書類提出などの手続の負担を軽減でき迅速に対応ができる
被害者本人でないと取得できない書類を除いては、毎月作成される自賠責保険用の診断書や画像資料など申請に必要な書類は弁護士が代わりに収集することができますので、手続の負担が軽減されます。
また、被害請求手続の経験が豊富な弁護士であれば、必要な書類の作成・収集方法を熟知しておりますので、迅速に対応することが可能となります。
(2)賠償金が増額する
「入通院慰謝料」の項でも説明しましたが、賠償金の多くを占める慰謝料については、どの基準で計算するかによって、金額が変わってきます。
最低補償である自賠責基準、任意保険会社の独自の基準である任意保険基準、裁判所や弁護士が利用する弁護士基準の3つです。
弁護士に依頼すれば、この各基準の中でも一番高く慰謝料を計算できる弁護士基準を利用して交渉することが可能です。その結果、自賠責基準や任意保険基準よりも高額な慰謝料を獲得できるケースが多くあります。
また、後遺障害慰謝料についても、同様です。
(3)保険会社対応を弁護士に任せられる
相手方任意保険会社の担当者には様々な方がいます。中には、被害者に寄り添って対応してくれる担当者もいれば、マニュアル通りに淡々と対応される担当者もいます。
場合によっては、相手方任意保険会社の担当者とのやり取りで精神的に疲れてしまうケースもあります。
弁護士に依頼すれば、そういった対応の窓口をすべて弁護士に任せられることになります。
6 交通事故を弁護士に依頼する場合の費用
交通事故を弁護士に依頼する場合、依頼者にどれくらいの費用負担がかかるでしょうか。
交通事故の損害賠償請求を弁護士に依頼する場合、通常は依頼時に発生する着手金と、事件終了後に発生する報酬とに分かれます。このほか、郵送費用などの実費も別途かかります。
最近は、着手金を無料にして全て後払いの報酬のみとする事務所が増えてきました。概ね、税別で基本料20万円+獲得賠償金の10%とするところが多いようです。
なお、当事務所の交通事故の弁護士費用は、以下のリンク先からご確認ください。
弁護士費用は、各法律事務所で自由に設定することができます。中には、旧日弁連報酬基準を使用している法律事務所もあります。
依頼を検討している法律事務所がある場合は、相談前にホームページなどで弁護士費用を確認しておくと良いでしょう。
なお、交通事故の弁護士費用相場についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
交通事故の弁護士費用相場はいくら?費用倒れとならない4パターン
なお、自動車保険には「弁護士費用特約」と呼ばれる保険商品があります。これは、交通事故を弁護士に依頼する際にかかる費用を保険でカバーするという保険商品です。最近では自動車保険に自動付帯されている保険会社もあるようです。
多くの弁護士費用特約は、その上限が300万円に設定されているものが多いです。
この300万円の弁護士費用がかかるケースは、概ね賠償金が1600万円から1700万円を超えるケースですので、ほとんどの被害者は実質的に弁護士費用の自己負担をゼロにして交通事故を弁護士に依頼することができます。
交通事故の弁護士費用特約については、以下の記事をご覧ください。
7 交通事故で手指のしびれが生じた場合の弁護士法人サリュの解決事例
最後に、当事務所で扱った交通事故でしびれが残った被害者の解決実績についてご紹介します。
交通事故でしびれが残った場合でお困りごとがあれば、まずは当事務所の無料相談をご利用ください。
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事例350:異議申し立てから介入し、後遺障害等級獲得に至った事例
事例334:事前認定後遺障害非該当に対し、諦めずに異議申立て。後遺障害第14級9号を獲得した事例
事例329:医師面談を行い異議申立をし14級を獲得。さらに事前提案から270万円以上の増額