後遺障害等級12級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説

後遺障害等級12級の慰謝料の適正な相場はどのようなものでしょうか。後遺障害等級12級の認定を受けた方やそのような等級が想定される方向けに、適正な補償を受けられるよう慰謝料の相場等を解説します。

この記事の監修者
弁護士 馬屋原 達矢

弁護士法人サリュ
山口県弁護士会

【略歴】
2005年 4月 早稲田大学法学部 入学
2008年 3月 早稲田大学法学部 卒業(3年卒業)
2010年 3月 早稲田大学院法務研究科 修了(既習コース)
2011年  弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【著書・論文】
交通事故案件対応のベストプラクティス(共著:中央経済社・2020)等
【獲得した画期的判決】
【2015年10月 自保ジャーナル1961号69頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の足首の機能障害等について7級という等級を判決で獲得
【2016年1月 自保ジャーナル1970号77頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の腰椎の機能障害について8級相当という等級を判決で獲得
【2017年8月 自保ジャーナル1995号87頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責14級の仙骨部痛などの後遺障害について、18年間の労働能力喪失期間を判決で獲得
【2021年2月 自保ジャーナル2079号72頁に掲載】(交通事故事件)
歩道上での自転車同士の接触事故について相手方である加害者の過失割合を7割とする判決を獲得

1 後遺障害等級12級に対する補償の計算の全体像

後遺障害等級12級の認定を受けた方の補償は、以下の4つで構成されています。

  1. 加害者(任意保険会社)からの賠償金
  2. 加害者の自賠責保険からの賠償金
  3. 被害者の人身傷害保険
  4. 労災保険からの保障

本記事では、まず、加害者(任意保険会社)からの賠償金として重要な、後遺障害慰謝料と逸失利益について解説します。

次に、後遺障害等級申請の方法と自賠責保険金の受取り方について解説します。

その上で、実際の保険会社との交渉において弁護士を入れて裁判をすることの意味をご理解いただくために、弁護士法人サリュの解決事例を紹介します。

続いて、人身傷害保険の使い方を解説します。

最後に、加害者から受け取る慰謝料等の補償金とは別に、労災保険等の社会保障を申請することのメリットを解説します。

2 後遺障害等級12級の後遺障害慰謝料

(1)後遺障害慰謝料の相場

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残存したことによる被害者の精神的損害を賠償するものです。後遺障害の程度(1級~14級の後遺障害等級)に応じて算定します。

後遺障害等級12級の後遺障害慰謝料の相場は290万円です。

ただし、この金額は裁判所基準により算定される金額です。自賠責基準や任意保険基準における後遺障害等級12級の慰謝料相場は94万円です。

弁護士基準の後遺障害慰謝料相場

  自賠責基準 弁護士基準
別表第1 別表第2
1級 1650万 1150万 2800万
2級 1203万 998万 2370万
3級   861万 1990万
4級   737万 1670万
5級   618万 1400万
6級   512万 1180万
7級   419万 1000万
8級   331万 830万
9級   249万 690万
10級   190万 550万
11級   136万 420万
12級   94万 290万
13級   57万 180万
14級   32万 110万

関連記事:後遺障害慰謝料【交通事故】等級相場・計算方法・もらい方を解説

(2)後遺障害慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリット

後遺障害慰謝料の算定基準には、最低限度の補償である「自賠責基準」、自賠責基準とほとんど変わりませんが、多少上乗せされた「任意保険基準」、そして裁判で認められる「裁判基準」(「弁護士基準」や「赤本基準」と言ったりもします。)の3つの基準があると言われています。

上記の表のように、後遺障害慰謝料は、裁判基準と自賠責基準で196万円もの差があります。弁護士に依頼をしない場合、任意保険会社から提示される後遺障害慰謝料は、任意保険基準と言いつつも、ほとんど自賠責基準と変わらない金額であることが多いです。

弁護士に交渉を依頼すれば裁判基準での慰謝料の交渉が可能となり、慰謝料の増額が見込めます。示談交渉がまとまらない場合は裁判で争っていきます。

任意保険会社から賠償金の提示があったら、まずは金額が妥当なのか弁護士に相談することをお勧めします。

交通事故の慰謝料について
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(3)後遺障害慰謝料の増額

例外的ではありますが、弁護士に依頼することで、次のような事情がある場合は、後遺障害慰謝料が増額される可能性があります。

 ア 症状が重く将来の手術の可能性を考慮した事例

【千葉地裁平成20年6月23日】

右股関節の機能障害及び疼痛12級相当の後遺障害を残した58歳主婦につき、後遺障害が10級に近いものであること、将来人工骨頭置換手術を余儀なくされる可能性があることを考慮し、後遺障害慰謝料として550万円を認めた。

 イ 後遺障害が複数か所に残ったこと等を考慮した事例

【名古屋地裁平成27年6月26日判決】

右中足骨開放骨折後の歩行時痛、歩行障害(12級13号)、右第1ないし第5中足骨開放骨折後の歩行時痛、右足関節筋力低下、歩行障害等の症状(14級9号、併合12級)の53歳パート主婦につき、後遺障害等級併合12級であること、後遺障害が複数か所に残ったこと等を考慮し、後遺障害慰謝料として319万円を認めた。

 ウ 醜状障害の逸失利益が否定された場合の慰謝料での斟酌

【東京地裁平成24年4月25日判決】

顔面醜状12級14号の主婦(女性・65歳)につき、 顔面醜状の程度、原告の年齢に照らしても労働能力の低下は認められないとして逸失利益を否定したが、日常生活への影響、右肘頭骨折後の手術痕等の残存に照らし、後遺障害慰謝料350万円を認めた。

【さいたま地裁平成22年6月25日判決】

顔面醜状12級14号(顔面に3か所にわたり人目につく程度の線状痕)の5歳男児につき、将来手術を予定し線状痕が改善されることも予想されることから逸失利益を否定し、逸失利益において斟酌するとして、後遺障害慰謝料440万円を認めた。

3 後遺障害等級12級の後遺障害逸失利益

(1)逸失利益の計算方法

逸失利益とは、被害者に後遺障害が残り、労働能力が減少するために、将来発生するであろう収入の減少のことをいいます。逸失利益は次の計算式により算出します。

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間の年数のライプニッツ係数

ア 基礎収入

被害者が事故に遭わなければ本来稼いでいた額になるので、一般的には事故前年の収入額を用います。

イ 労働能力喪失率

後遺障害により労働能力がどの程度低下したかを数字であらわしたものです。

労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて一応の基準が定まっています。

後遺障害等級12級の労働能力喪失率は14%とされています。

ウ 労働能力喪失期間とライプニッツ係数

労働能力喪失期間とは、労働能力喪失による収入の減少がいつまで続くかの期間のことです。後遺障害事案における労働能力喪失期間の始期は症状固定時、終期は67歳が原則です。

逸失利益は、後遺障害を前提として将来現実化すると考えられる損害です。それを紛争解決時に一括して受領するため、現在の価格(現価)に引き直す※必要があります。

そのために、労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数(年金現価係数)を用いて中間利息を控除します。

※令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は年利3%で引き直します。

※平成22年4月1日以降令和2年3月31日までに発生した事故の場合は年利5%で引き直します。

令和2年4月1日以降に発生した交通事故に適用するライプニッツ係数  ▲ / ▼

エ 計算例

令和4年1月1日発生の事故

会社員・事故前年年収500万円

症状固定時42歳・男性

500万円×0.14×17.4131(25年に対応するライプニッツ係数)=1218万9170円

(2)逸失利益の交渉を弁護士に依頼するメリット

 ア 基礎収入

逸失利益については、基礎収入が争いになることがあります。

例えば、事故前年がちょうど転職した時期で、たまたま収入が低いもしくは無職だった場合や、自営業者の方で事故前年に事業を開始したばかりであった場合など、事故前年の収入が実態に即していない場合は、事故前数年間の収入資料等により、実態に即した収入額を立証する必要があります。

 イ 労働能力喪失率

労働能力喪失率についても争いになることが多いです。

労働能力喪失率は、一応の基準が定まっているとはいえ、被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度、事故前後の稼働状況、所得の変動等を考慮して判断されます。

具体的な業務への支障等を主張し基準よりも高い労働能力喪失率が認められるケースもあります。

 ウ 労働能力喪失期間

むちうち症の後遺障害等級12級の場合は、労働能力喪失期間が10年程度に制限されることが多いです。しかし、むちうち症だからといって一律に制限するのではなく、後遺障害の具体的症状に応じて判断するべきです。

多くの場合、逸失利益は損害項目の中でも金額が大きくなり、労働能力喪失率や労働能力喪失期間が少し変わるだけで金額に大きく影響します。逸失利益の交渉には専門的な知識が必要になりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

(3)むち打ち症で労働能力喪失期間が制限されなかった事例

【京都地裁平成27年6月10日判決】

追突事故により、頚椎捻挫、背部打撲傷、左手関節部打撲傷、右肘関節捻挫、腰椎捻挫等を受傷し、頚部~上肢の神経症状12級13号、腰部~下肢の神経症状14級9号の併合12級の後遺障害を残した会社員(男性・症状固定時42歳)につき、現実の減収はないが、これは勤務先が制度を変更して社会保険料等の支払いを免れて、雇用主の責務が軽減したこと、被害者の努力によるものと認められ、後遺障害の程度、素因という器質的原因があって労働能力の回復可能性が認められないことも考慮して、労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間24年間として逸失利益が算定された事例。

【東京地裁平成21年11月4日判決】

追突事故により、第4、5、6頸椎神経根症による神経症状の後遺障害12級相当が残った会社員(男性・症状固定時32歳)につき、労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間30年として逸失利益が算定された事例。

(4)基準より高い労働能力喪失率が認定された事例

【大阪地裁平成18年8月31日判決】

左膝外側半月板損傷後の左膝関節痛等の後遺障害12級相当が残った看護師(女性・症状固定時27歳)につき、看護師一般の就労状況や事故後の就労形態(週1、2回程度、訪問入浴やデイサービス等の業務に従事)に照らし、後遺障害により労働能力が制限される割合が比較的大きく、後遺障害の内容や治療経過(6回にわたる手術)からは、将来における症状の大きな改善を期することも能わないとして、10年間17%、その後67歳まで30年間14%の労働能力喪失を認めた事例。

4 後遺障害等級12級のその他の損害項目

(1)慰謝料や逸失利益以外に認められる賠償の例

7歯に歯科補綴(ほてつ)を加えた後遺障害等級12級3号の会社員(男性・症状固定時24歳)につき、インプラントとブリッジの耐用年数を10年間として、1回あたり150万円、平均余命まで5回分217万円余の治療費を認めた事例があります(東京地裁平成22年7月22日判決)。

(2)交渉を弁護士に依頼するメリット

将来にかかる治療費や通院交通費などの損害項目については、任意保険会社から提示されないことがありますので、被害者から診断書や領収書などの資料を提出して任意保険会社と交渉する必要があります。

将来の治療関係費については争いになることが多いですので、弁護士に相談することをお勧めします。

5 後遺障害等級12級の等級認定の流れ

(1)後遺障害等級の審査の方法

後遺障害等級認定の申請方法には、①「事前認定」と②「被害者請求」という2つの方法があります。事前認定とは、加害者側の任意保険会社を通じて申請する方法です。「被害者請求」とは、被害者自身で申請を行う方法です。

事前認定は、主治医に後遺障害診断書を書いてもらい、それを加害者側の任意保険会社に提出すれば、あとは加害者側の任意保険会社が必要書類を揃えて申請してくれるため、被害者の手間がほとんどかかりません。

しかし、加害者側の任意保険会社が必要書類を揃えて申請するため、申請書類としてどのような書類が出されたか分かりません。書類に不備があったことで本来認定されるはずの後遺障害等級の認定を受けることができなくなる恐れがあります。

一方、被害者請求の場合は、被害者が申請書類を揃える必要があり手間がかかりますが、書類の不備を事前に確認し、認定に有利な資料を提出することができます。

また、被害者請求の場合は、後遺障害等級認定時に自賠責保険金(後遺障害等級12級の場合は224万円)が支払われます。事前認定の場合は、この自賠責保険金の先払いがありませんので、最終的に加害者側と示談するまで、まとまった金額の賠償金が入りません。

保険会社との交渉は長期化する可能性もありますので、最終的に示談が成立するまで賠償金が手元に入らないという点は、経済的に余裕のない被害者にとっては非常に大きなデメリットと言えますので、被害者請求により後遺障害等級の認定申請を行うべきです。

事前認定と被害者請求を
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(2)後遺障害等級12級の症状と認定基準

後遺障害等級の認定基準は、自動車損害賠償保障法施行令という法令の別表に整理されており、後遺障害等級12級の対象となる症状は1号から14号まであります。

後遺障害等級12級の症状とその認定基準は以下のとおりです。

なお、等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行います(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準第3)。

 後遺障害12級1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの

「調節機能」とは、物を見た時にピントを合わせる機能のことです。この調節機能が通常の場合の2分の1以下になった場合に「著しい調節機能障害」とされます。

頭部を固定し、眼球を運動させて直視することのできる範囲を注視野といいます。

この注視野の広さが2分の1になった場合に「著しい運動障害」とされます。

 後遺障害12級2号 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、まぶたを開けたときに瞳孔(黒目の中央部)が隠れたままの状態のもの、または、まぶたを閉じたときに角膜(黒目の部分)を完全に覆いきれない場合をいいます。

 後遺障害12級3号 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

歯がなくなったり著しく欠損した場合に、クラウン(被せ物)や入れ歯などの人工物で補う「歯科補綴」を加えた場合をいいます。

なお、「著しく欠損した」とは、歯の体積の4分の3以上が欠けた状態をいいます。治療のために抜歯が必要となったり4分の3以上削った場合も対象となります。

 後遺障害12級4号 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの

「耳殻の大部分を欠損した」とは、耳殻(耳全体のうち外に出ている部分のこと。耳介。)の半分以上を失った場合をいいます。

 後遺障害12級5号 鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの

「著しい変形」とは、裸体となったときに変形が明らかにわかるものをいいます。

したがって、レントゲン写真で初めてわかる程度の変形は対象になりません。

 後遺障害12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「1上肢の3大関節」とは、肩関節、肘関節、手関節をいいます。

「関節の機能に障害を残すもの」とは、このうちいずれかの関節可動域が、健康な方と比べて4分の3以下になった場合をいいます。

 後遺障害12級7号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「1下肢の3大関節」とは、股関節、膝関節、足首の関節をいいます。

「関節の機能に障害を残すもの」とは、このうちいずれかの関節可動域が、健康な方と比べて4分の3以下になった場合をいいます。

 後遺障害12級8号 長管骨に変形を残すもの

「長管骨」とは、上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨をいいます。

「変形を残すもの」とは、これらの骨がうまく癒合しなかったり(癒合不全)、ねじ曲がって癒合した(内旋変形癒合)場合などをいいます。

 後遺障害12級9号 1手のこ指を失ったもの

「こ指を失った」とは、次のいずれかに当たる場合です。

・手のひらの部分の骨(中手骨)または指の根元の骨(基節骨)で切断したもの

・第2関節(近位指節間関節)において、基節骨と、基節骨に接する指先側の骨(中節骨)とを離断したもの(つまり、第2関節から先を失った場合です)

 後遺障害12級10号 1手のひとさし指,なか指又はくすり指の用を廃したもの

手指の「用を廃したもの」とは、次のいずれかに当たる場合です。

・手指の先端の骨(末節骨)の半分以上を失ったもの

・第2関節(近位指節間関節)または指の根元の関節(中手指節関節)の可動域が、もう一方の正常な手指(健側)の可動域の2分の1以下になったもの

・指の腹及び側部の深部感覚及び表面感覚が完全になくなったもの

 後遺障害12級11号 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの

次のいずれかに当たる場合です。なお、「足指を失ったもの」とは、指の根元(中足指節関節)から先を失ったものをいいます。

・足の人差指を失ったもの

・足の人差指とそれ以外の1本の足指を失ったもの

・中指、薬指、小指の3本の足指を失ったもの

 後遺障害12級12号 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの

片方の足の親指か親指以外の4本の足指が用を廃した場合です。

「足指の用を廃したもの」とは、次のいずれかに当たる場合です。

・親指の先端の骨(末節骨)の半分以上を失ったもの

・親指以外の指の根元から第1関節までの間(遠位指節間関節以上)で失ったもの

・指の根元(中足指節間関節)または第1関節(近位指節間関節)の可動域が、もう一方の正常な足指(健側)の2分の1以下になったもの

 後遺障害12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

痛みやしびれ、めまい、耳鳴などの神経症状が残っていることが、医学的に証明できる場合です。骨折やむちうちを原因としたこれらの症状が該当します。

しかし、むちうちを原因とした神経症状の場合は、14級9号が認定されることが多く、一般的には12級が認定される可能性は低いとされています。

むちうちの14級と12級の違いについては、後述の「6 むちうちの後遺障害等級14級と12級の違い」の項で、むちうちで12級が認定される可能性が低いことについては、後述の「7 むちうちで後遺障害等級12級の認定はなぜ難しいのか」の項で、それぞれ詳しく解説します。

 後遺障害12級14号 外貌に醜状を残すもの

「外貌」とは、頭部、顔面部、頚部など、上肢と下肢以外の部分で日常的に露出する部分をいいます。

「醜状」とは、傷や火傷の痕(「瘢痕」のこと)が残ることをいいます。

12級14号の「外貌に醜状を残すもの」とは、次のいずれかに当たる場合です。

・頭部に、鶏の卵の大きさ以上の瘢痕がある場合、もしくは頭蓋骨に鶏の卵の大きさ以上の欠損がある場合

・顔面部に、10円硬貨より大きい瘢痕がある場合、もしくは長さ3cm以上の線状痕がある場合

・頚部に、鶏の卵の大きさ以上の瘢痕がある場合

ただし、毛髪や眉毛で隠れる瘢痕は後遺障害に該当しません。

なお、2個以上の瘢痕・線状痕が相隣接し、またはあいまって1個の瘢痕・線状痕と同程度以上の醜状となるときは、それらの面積や長さを合算して評価されます。

(3)後遺障害等級の申請を弁護士に依頼するメリット

 ア 申請書類の不備を事前にチェックすることができる

弁護士に依頼した場合は、基本的には被害者請求の方法で後遺障害等級の認定申請を行います。申請書類の中で最も大事になるのが後遺障害診断書です。申請に当たっては、後遺障害診断書の記載内容に漏れはないか、不必要に不利なことが書かれていないか、間違ったことが書かれていないかなどを精査します。

そうすることで、適正な後遺障害等級が認定される可能性を高めることができます。

 イ より効果的な異議申立を行うことができる

後遺障害等級の認定申請を行った結果、認められるべき後遺障害等級が認定されなかった場合は、異議申立という再申請の手続を行うことができます。

異議申立には後遺障害に関する専門的な知識が必要となり、医学的知識も必要になります。後遺障害に関する知識・経験が豊富な弁護士に依頼すれば、より効果的な異議申立を行うことで認定可能性を高めることができます。

 ウ 資料収集や書類提出などの手続の負担を軽減でき迅速に申請ができる

ご本人でないと取得できない書類を除き、診断書や画像資料など申請に必要な書類は弁護士が代わりに収集することができますので、手続の負担が軽減されます。

また、被害請求手続の経験が豊富な弁護士であれば、必要な書類の作成・収集方法を熟知しておりますので、迅速に申請することが可能となります。

6 むちうちの後遺障害等級14級と12級の違い

むちうちを原因とした神経症状(首や腰の痛み、手足のしびれなど)は、後遺障害等級14級もしくは12級が認定される可能性があります。

 

12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの
14級 9号局部に神経症状を残すもの

このように、12級13号と14級9号の違いは、「頑固な」神経症状か否かです。

具体的には、神経症状が残っていることが医学的に証明されるものかどうかです。

「医学的に証明されるもの」とは、自覚症状が、画像所見及び神経学的所見と整合しており、その存在が他覚的所見により裏付けられたものをいいます。

画像所見と整合するとは、頚部・腰部のMRI画像上、神経が圧迫されていることが確認され、その神経が支配する領域(身体の各部位)に、痛みやしびれなどの自覚症状があらわれているような場合です。

また、神経学的所見と整合するとは、画像上、圧迫されている神経が支配する領域において、神経学的検査で異常を示しており、その結果が自覚症状とも整合する場合です。

神経学的検査とは、深部腱反射テスト、スパーリングテスト・ジャクソンテスト、知覚検査、筋萎縮、徒手筋力テストなど、神経の機能を調べるための検査です。

このように、残存した自覚症状が、画像所見及び神経学的所見によって裏付けられ、医学的に証明できるといえる場合に、後遺障害等級12級13号が認定されます。

そして、上記のように医学的な証明とまではいえないものの、受傷状況や通院状況、症状の推移などから、自覚症状が残っていることが合理的に説明可能であるといえる場合には、後遺障害等級14級9号が認定されます。

7 むちうちで後遺障害等級12級の認定はなぜ難しいのか

むちうちで後遺障害等級12級の認定は難しいといえます。なぜかというと、むちうちの場合は、後遺障害等級12級の認定の前提となる画像所見や神経学的所見などの他覚的所見が認められない例が多いからです。

損害保険料率算出機構の「自動車保険の概況」(2021年度版)によると、2020年度に自賠責損害調査事務所で受け付けた自賠責保険の請求事案の件数は、約104万件に対し、後遺障害の認定件数は4万9267件ですので、後遺障害等級の認定率は約4.7%です。

そのうち、後遺障害等級12級の認定件数は8036件で、構成比は全体の16.31%となっています(図18 後遺障害等級別認定件数<2020年度>)。後遺障害等級が認定された人のうち後遺障害等級12級の認定を受けた人は、約0.76%ということになります。この中でもむちうちを原因とした神経症状はさらに絞られるはずですので、統計上もむちうちで後遺障害等級12級の認定は非常に難しいといえます。

そうはいっても、後遺障害等級12級の認定事例はありますし、異議申立てによって12級が認定された事例もありますので、後遺障害等級12級の認定率が低いからといって諦める必要はありません。後遺障害に該当しないと判断された場合や14級9号の認定を受けても納得できない場合には、異議申立てを検討してみるべきです。

後遺障害の異議申立てには専門的な知識が必要になりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

【むちうちで12級が認定された弁護士法人サリュの解決事例】

  非該当から12級が認定された事例

事例350:異議申立てから介入し、後遺障害等級獲得に至った事例

事例228:執念の紛争処理調停で非該当から12級獲得し、示談金約9倍増

  14級から12級が認定された事例

事例287:むちうちによる痛みやしびれについて、異議申立てで12級13号を獲得

事例344:異議申立てで、むちうち症状の後遺障害等級を第14級9号から第12級13号へ覆した事例

8 後遺障害等級12級の保険会社との交渉を弁護士に依頼をするメリット

(1)保険会社の交渉の傾向

例えば、後遺障害等級12級のケースで、後遺障害に関する損害賠償金(後遺障害慰謝料と逸失利益の合計)として300万円という賠償案を任意保険会社が提示してきたとします。実はこの300万円のうち224万円は後遺障害等級12級の自賠責保険金ですから、任意保険会社の支払額は76万円のみということになります。

このように、示談交渉において任意保険会社は、自賠責基準とあまり変わらない金額を任意保険会社の基準として提示してくることがあります。

(2)自賠責基準とは?

自賠責保険とは、「自動車損害賠償責任保険」の通称で、交通事故の被害者救済のため、損害賠償に関する最低限の資力を確保することを目的とした強制加入の保険です。自賠責保険には保険金額(上限額)が設定されています。

自賠責基準とは、自賠責独自の損害算出基準のことをいいます。自賠責保険からは、自賠責基準で算出した損害額が、自賠責保険金額を限度として支払われます。

(3)自賠責基準と任意基準と裁判基準の違い

自賠責基準・・・交通事故被害者救済のため最低限の保障を目的とした金額です。

任意基準・・・・任意保険会社独自の基準です。任意保険会社は自賠責基準を下回る金額で示談をしてはならないため、自賠責基準を下回ることはありません。自賠責基準と裁判基準の中間に位置しますが、自賠責基準寄りであることが多いです。

裁判基準・・・・裁判をした場合に認められる金額です。

(4)弁護士に依頼するメリット

裁判基準は裁判をした場合に認められる金額ですが、弁護士に依頼すれば、示談交渉でも裁判基準で交渉することで、裁判をしなくても裁判基準に近い金額で示談できる可能性があります。当初の任意保険会社から提示された金額から大幅に増額できることもあります。

また、弁護士に依頼すれば、仮に示談交渉で折り合いがつかなかったとしても、裁判で適正な金額を求めて争うことができます。裁判では、弁護士費用の一部を加害者に負担させることができます。

(5)弁護士に依頼した後の流れ

弁護士に依頼したあとは、保険会社との窓口は全て弁護士が行いますので、保険会社とのやり取りの負担からは解放されます。

また、もし裁判になったとしても、裁判には弁護士が出席しますので、被害者が裁判所に出頭しなければならない機会はあるとしても1回です。もちろん、全ての裁判に弁護士と一緒に同席いただくことも可能です。

9 弁護士法人サリュの解決事例

事例347:異議申立により外傷性ヘルニアの後遺障害併合12級を獲得

・ご依頼の経緯

被害者は、自動車を運転して青信号で交差点へ進入したところ、赤信号を無視して進入してきた加害車両に衝突され、外傷性腰椎椎間板ヘルニア、外傷性頚部症候群の怪我を負いました。事故から5か月半が経過しても、腰の痛み、左下肢のしびれ、首の痛みの症状が改善しないため、被害者はサリュに依頼して後遺障害の申請を行いました。

・サリュの解決

1度目の申請では後遺障害等級は認められませんでしたが、治療中に撮影された画像や各種検査結果を詳細に検討し、症状の原因を指摘した異議申立を行った結果、腰の痛みと左下肢のしびれについて後遺障害等級12級13号が、首の痛みについて後遺障害等級14級9号が認められ、併合12級と判断されました。

この結果、賠償金は後遺障害非該当の場合と比べて約640万円も増加しました。被害者は、賠償金が増額したことはもとより、腰の症状について適切な後遺障害等級が認定されたことに大変満足していました。

事例283:右鎖骨変形で12級5号認定後、保険会社提示額の2.6倍の金額で示談成立!

・ご依頼の経緯

被害者は、自動車を運転中、赤信号を無視して交差点内に進入してきた加害車両に衝突され、右鎖骨骨幹部骨折を受傷し、1年2か月という長期の治療を経て、右鎖骨の変形とその周辺の痛みが後遺障害として残存しました。

そして、保険会社の担当者に勧められて後遺障害の「事前認定」を行った結果、後遺障害等級12級5号が認定されました。保険会社からは「224万円ならば支払えます」という話があったので、その金額が妥当なのかを相談するために、被害者はサリュの無料相談に訪れました。

・サリュの解決

サリュは被害者に対して、224万円というのは後遺障害等級12級が認定された被害者であれば、自賠責保険から支払われる最低保障金額であって増額の余地があることを説明し、示談交渉の依頼を受けました。

被害者のように変形障害の後遺障害が残存した場合には、逸失利益が争点になることが多く、交渉が長期化する可能性が高いです。

サリュでは、被害者の治療経過・収入状況・日常生活の支障の程度等に関する資料を収集し、それぞれ精緻に分析を行いました。それらの分析結果をもとに保険会社との示談交渉を進めました。

最終的には600万円(自賠責保険金224万円を含む)という、保険会社からの当初提示額の約2.6倍の金額で示談成立となりました。

保険会社からの賠償金提示額は必ずしも適正なものであるとは限りません。保険会社の社内基準に従って計算されていることが大半です。このことを知らずに示談に応じてしまう被害者が多いのが実情です。

事例276:左手首開放骨折、正中神経断裂で12級を獲得し、和解斡旋手続を用い、ゼロ回答だった逸失利益を550万円に!

・ご依頼の経緯

被害者は、バイクに乗車中、対向車との右直事故に遭い、左手首開放骨折、正中神経断裂等の怪我を負いました。被害者は、約4年間のリハビリに耐えましたが、正中神経麻痺による手のしびれ等が残存し、12級13号の後遺障害等級が認められました。

被害者は、その結果を踏まえて保険会社と示談交渉をしましたが、保険会社は被害者に減収が生じていないことのみを理由に逸失利益は0円であり、最終支払額は300万円弱であると主張してきました。

被害者は、事故前は社内での営業成績がトップの会社員でしたが、事故による後遺障害のために手に力を入れることができず、業務に大きな支障を生じていました。被害者に減収がないのは、本人が事故前よりも努力をして仕事を続けていたことと、会社の上司や同僚のサポートがあったからなのです。

被害者は、それら全てが否定されたように感じ、保険会社の対応に激しい憤りを覚えてサリュに示談交渉を依頼することにしました。

・サリュの解決

サリュが被害者の就労状況等を調査したところ、毎月の給与に減収はないものの、被害者の営業成績が同僚と比べて伸び悩んでいる結果、ボーナスの金額が著しく低くなっていることが分かりました。

サリュはそのような事情を保険会社に伝え、交渉を行いました。しかし、保険会社は当初の「減収がないから逸失利益は0円」という主張を崩しませんでした。

そこで、サリュは紛争処理センターの和解斡旋手続を利用して、被害者の後遺障害が業務にどれだけ支障を生じているのかを訴え続けました。その結果、逸失利益を含めて800万円以上(うち逸失利益は約550万円)での和解が成立しました。

10 人身傷害保険と後遺障害等級12級の損害賠償との関係

人身傷害保険とは、被害者が加入している自動車の保険で、ご自身のお怪我や後遺障害を補償がでる保険です。加害者がいる保険では、あまり使われることが少ない保険ですが、ご自身に過失割合があるときには忘れずに使わなければいけない保険です。

例えば、後遺障害等級12級で損害賠償金総額が1500万円で、自身の過失割合が2割であった場合、加害者からは1200万円が支払われます。人身傷害保険があれば、過失で控除された300万円を人身傷害保険から受取ることができます。

ただし、ご自身の保険からも自分の過失割合分の補償を受けるには、加害者との間で裁判を行い、慰謝料の金額、総損害額、さらに過失割合等をはっきりさせる必要があります。

人身傷害保険の上限額や、裁判リスクも考えながら、示談交渉で解決するか、それとも裁判まで行うか、弁護士と一緒に考えることが重要です。

11 通勤中又は業務上の事故における労災保険と後遺障害等級12級の損害賠償との関係

(1)労災保険とは

労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。労災保険の障害等級12級に該当する場合は、労災保険から、「療養給付(治療費に相当する)」、「休業給付(休業補償に相当する)」、「障害給付(逸失利益に相当する)」、「障害特別一時金」、「障害特別支給金」の給付を受けられます。

なお、労災保険から慰謝料は支払われません。

(2)労災保険の障害等級

交通事故の後遺障害等級の認定基準は、労災保険の認定基準に準拠していますので、同じ交通事故で同じ怪我であれば、交通事故で後遺障害等級12級が認定されたら労災でも基本的には同じ後遺障害等級12級が認定されます(自賠責保険と労災保険が異なる制度である以上、例外的に異なる等級が認定されることはあります。)。

労災保険の障害等級は、労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級表に、1級から14級の等級が定められています。それぞれの等級ごとに給付内容と身体障害の内容が定められています。労災保険の障害等級12級の給付内容は、次のとおりです。

障害給付給付基礎日額の156日分
障害特別一時金算定基礎日額の156日分
障害特別支給金20万円

※ 給付基礎日額:事故直前3ヶ月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額

※ 算定基礎日額:事故前1年間の特別給与総額を365で割った額

(3)労災保険と損害賠償との関係

通勤途中の交通事故で後遺障害を残し、後遺障害等級12級が認定された場合、後遺障害に関する損害項目としては、後遺障害慰謝料と逸失利益があります。

また、労災保険から12級の障害等級が認定された場合は、給付内容としては障害給付、障害特別一時金、障害特別支給金があります。

労災保険の給付は人身損害についての補填を目的としているものですので、民事の損害賠償と同じ性質を持つものとされています。そのため、労災保険給付と損害賠償金を二重に受け取ることができないことになっています。

先に労災保険から給付を受けた場合は、その給付の限度で、加害者に請求する休業損害や逸失利益などの損害項目から控除します(被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権を国が代位取得し、被害者はその分損害賠償請求権を失う。)。

また、先に加害者から損害賠償金を受領した場合は、労災保険からは、労災保険の給付と同一の事由に相当する額を控除して給付がなされます(休業給付に対応する項目は休業給付、障害給付に対応する項目は逸失利益です。)。

なお、労災保険給付には慰謝料はありませんので、慰謝料は労災保険給付とは無関係に受け取ることができます。

また、労災保険の特別支給金は、受け取ったとしても加害者へ請求する損害賠償額からは控除されることはなく、支給調整もされません。

まとめ

・労災保険から先に障害給付を受け取った場合、加害者に請求する逸失利益の金額から控除される。

・加害者から損害賠償金を先に受け取った場合、逸失利益の金額の限度で、障害給付が減額される。

・慰謝料は労災保険給付を受けていても減額されることなく受取れる。

・特別支給金は損害額から控除せず、支給調整もされない。

12 後遺障害等級12級で身体障害者手帳はもらえるか

身体障害者手帳は、身体に障害があり、その状態が一定の障害に該当すると認められる場合に交付されます。手帳を取得すると各種福祉サービスを受けることができます。

身体障害者手帳の障害等級は、障害の種類別に重度の側から1級から7級が定められています。6級までが交付対象で、7級の障害は単一では交付対象とならず、肢体不自由で7級の障害が2つ以上ある場合は6級となります。

身体障害者手帳の交付対象の障害は、交通事故の後遺障害等級12級より重度の障害が対象となりますので、後遺障害等級12級で障害者手帳の取得は難しいでしょう。