むちうちで残業代・賞与・各種手当が減ったら請求できる?休業損害の計算と証明方法

「事故後も出勤していますが、首が痛くて残業や夜勤ができず、手取りが減りました」

「賞与の査定で欠勤や業務制限を理由に減額されました。交通事故の損害として請求できますか」

「基本給は変わらないので、保険会社から休業損害はないと言われました」

追突事故でむちうちや頚椎捻挫となっても、生活のために出勤を続ける方は少なくありません。しかし、定時勤務はできても、長時間のパソコン作業、夜勤、休日出勤、車の運転、荷物運搬などが難しくなり、残業代や夜勤手当、歩合給、賞与が減ることがあります。給与明細上の基本給が同じであっても、事故前より実際の収入が減っていれば、休業損害の問題になり得ます。

結論からいうと、残業代・賞与・各種手当も、事故によるけがのために得られなくなった収入であることを具体的に証明できれば、休業損害として請求を検討できます。ただし、事故前から毎月必ず支給されていたとは限らない変動給については、「事故がなければその金額を得られた可能性が高いこと」と「事故の症状が減収の原因であること」の両方を示す必要があります。

保険会社との交渉では、単に事故前後の給与明細を並べるだけでは足りないことがあります。勤務シフト、勤怠データ、残業実績、給与規程、賞与査定表、上司の説明、医療記録などを組み合わせ、どの業務ができなくなり、どの項目が、どの期間、いくら減ったのかを整理することが大切です。

この記事では、残業代・賞与・各種手当を休業損害として請求する条件、項目別の計算方法、勤務先に依頼したい資料、保険会社に否定されたときの対応を、治療中の方にも分かるように順番に解説します。

この記事でわかること

まずは、残業代や賞与の減少を休業損害として整理するための全体像を確認します。すでに否定された方は第7章、賞与が減った方は第5章、勤務先へ何を依頼すべきか迷う方は第4章から読むと整理しやすいでしょう。

  • 基本給が減っていなくても休業損害を請求できる場合
  • 残業代、夜勤・休日手当、歩合、賞与を項目別に計算する方法
  • 変動給について「事故がなければ得られた収入」を示す考え方
  • 勤務先へ依頼する勤怠・シフト・給与規程・減額理由の資料
  • 医療記録と仕事内容をつなげて休業の必要性を示す方法
  • 保険会社に減収を否定されたときの具体的な対応

ケース別の読み方
残業代や夜勤手当の減少が中心の方は第3章・第4章、賞与の減額が中心の方は第5章、保険会社から「出勤しているので休業損害はない」と言われた方は第6章・第7章、会社役員や自営業者の方は第8章を確認してください。

弁護士 山田 洋斗

この記事の監修者
弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所
千葉県弁護士会

交通事故解決件数 1,200件以上
(2025年9月時点)
【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した

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1. 結論|基本給が変わらなくても、減った変動給は休業損害になり得ます

最初に結論を整理します。休業損害は、丸一日仕事を休んだ場合だけの損害ではありません。事故によるけがのために残業、夜勤、休日出勤、外勤、出来高業務などができず、実際の収入が減少した場合には、その差額も請求対象になり得ます。出勤日数や基本給が同じでも、事故前に継続的に得ていた変動給が失われたのであれば、項目ごとに検討します。

残業代・賞与・各種手当の整理

1-1. 確認されるのは「けが」「就労制限」「減収」のつながりです

請求の中心は、①事故によるけががあること、②その症状と仕事内容から残業や特定勤務を控える必要があったこと、③その結果として実際に収入が減ったことです。残業代が減っていても、会社全体の残業削減や繁忙期の終了が原因であれば、事故による損害とは評価されにくくなります。反対に、医師の診察内容、本人の症状、勤務先の配置変更、事故前後の勤務実績が一つの経過として整合すれば、説明しやすくなります。

1-2. 項目を混ぜず、月別・項目別に差額を出します

「給料が月3万円減った」というまとめ方だけでは、何が減ったのか判断できません。基本給、時間外手当、深夜手当、休日手当、職務手当、歩合、賞与を分け、事故前の基準と事故後の実績を比較します。支給条件が異なる項目を混ぜると、二重計上や因果関係の説明不足につながるため注意しましょう。

要点
出勤を続けたことは、直ちに「休業損害なし」を意味しません。事故前にはできた付加的な勤務ができず、収入が減ったことを具体的に示します。

2. 休業損害とは何か|自賠責基準と実際の損害を分けて考えます

前章では、変動給の減少も休業損害になり得ることを説明しました。ここでは、休業損害の基本と、自賠責基準の数字をどのように理解すべきかを確認します。

2-1. 休業損害は事故による現実の収入減少を補うものです

一般的に、休業損害は「事故の傷害で発生した収入の減少」と説明され、有給休暇の使用や家事従事者の家事の支障も含まれます。したがって、形式上の欠勤日数だけではなく、事故のために得られなくなった収入があるかが出発点です。給与所得者であれば勤務先の休業損害証明書や源泉徴収票、自営業者であれば確定申告書などが基本資料になります。

2-2. 自賠責の原則日額は、すべての請求の上限ではありません

自賠責基準では、休業損害は原則として1日6,100円とされ、これを超える収入減少を立証した場合には1日19,000円を限度に実額が支払われると案内されています。ただし、これは自賠責保険の傷害部分における支払基準です。任意保険会社との交渉や訴訟では、実際の基礎収入、休業の必要性、休業日数・就労制限の程度に基づいて損害を検討します。

注意点:自賠責基準自賠責保険から支払われる際の基準傷害部分の120万円枠の中に治療費・慰謝料等とともに含まれます

3. 残業代・夜勤手当・休日手当の計算方法

時間外労働や夜勤が減った場合は、事故前の通常の勤務実績を基準に、事故後の実績との差額を月ごとに整理します。単純に事故前1か月だけを基準にすると、繁忙期・閑散期の影響を受けるため、複数月を確認することが大切です。

休業損害の計算と証明の流れ

3-1. 事故前の平均と事故後の実績を比較します

たとえば、事故前6か月の残業代が合計24万円で月平均4万円、事故後3か月の残業代が月平均1万円であれば、差額は月3万円となります。ただし、その3万円全額が直ちに休業損害になるわけではありません。会社全体の残業状況、本人の担当業務、繁忙期、異動、同僚の実績などを確認し、事故がなければ従前程度の残業を行った可能性が高いことを示します。

3-2. 夜勤・休日手当は勤務回数を基礎に整理します

夜勤手当や休日手当は、事故前のシフト回数と事故後の回数を比較すると分かりやすくなります。事故後に夜勤を外れた理由、誰が代替したのか、主治医や会社との相談内容、勤務先の人員配置も記録します。勤務先の上司が「事故前は月4回程度の夜勤を担当していたが、首痛のため一定期間外した」と具体的に説明できれば、単なる希望や推測より説得力が高まります。

3-3. 計算例は仮定と実績を区別します

例えば、事故前の残業代直前6か月平均が40,000円だった場合で、事故後の残業代が平均10,000円に下がっているときは、月30,000円の差額を休業損害として請求することができます。
また、夜勤手当について、事故前が月4回 × 5,000円で20,000だったところ、事故後は月1回 × 5,000円になっていたときは、差額月15,000円を請求することができます。
実際の請求では、給与明細、勤怠データ、就業規則、シフト表に基づいて計算し、同じ期間の項目を重複させないようにしてください。

4. 各種手当・歩合給を証明するために集める資料

各種手当は名称が同じでも会社ごとに支給条件が違います。固定的に毎月支給される手当なのか、実際の勤務・成績に応じて変動するのかを確認し、事故後に減った理由を資料で示します。

4-1. 給与規程と過去の給与明細で支給条件を確認します

職務手当、資格手当、乗務手当、危険手当、営業手当、歩合給などについて、給与規程・賃金規程・雇用契約書を確認します。事故後に担当変更や乗務停止があり、そのために手当が外れた場合は、辞令、配置変更通知、上司とのメールなども残します。毎月定額の手当が減ったときは、なぜ支給条件を満たさなくなったのかを説明できる資料が重要です。

4-2. 歩合給は売上だけでなく業務量の変化を示します

営業歩合や出来高給は、景気、担当顧客、季節など事故以外の要因でも変動します。そのため、事故前後の売上表だけでなく、訪問件数、商談数、配達件数、担当エリア、勤務時間、同じ部署の傾向などを確認します。事故後に運転や外回りが減り、その結果として歩合が減ったという流れを示すとよいでしょう。

4-3. 勤務先には「減額理由」を具体的に記載してもらいます

勤務先へ証明を依頼するときは、「事故により減収した」と結論だけを書いてもらうのではなく、事故前の担当業務、事故後にできなくなった業務、配置変更の期間、代替者、各手当の支給条件、実際の減額額を具体的に記載してもらいます。勤務先が作成した資料と給与明細・勤怠データの数字が一致しているかも確認してください。

勤務先へ依頼したい主な資料
給与明細、源泉徴収票、勤怠データ、残業時間一覧、シフト表、給与・賞与規程、配置変更記録、減収理由書、上司の陳述書などを、必要な範囲で準備します。

5. 賞与が減った場合の計算と証明方法

賞与は将来額が確定していないことが多く、月給よりも因果関係が争われやすい項目です。それでも、欠勤、勤務制限、業績評価の低下などが事故によるもので、具体的な減額額を示せる場合には、休業損害として請求を検討できます。

5-1. 賞与規程と査定期間を確認します

まず、賞与の算定期間、支給日在籍要件、欠勤控除、評価項目、会社業績連動の有無を確認します。事故が査定期間の一部にしか影響していない場合、賞与全体の減少を事故の損害とするのは難しいことがあります。勤務先に、通常の算定額、事故による欠勤・勤務制限を反映した控除額、会社業績等による変動部分を分けてもらうと整理しやすくなります。

5-2. 前年同額をそのまま基準にしないよう注意します

前年賞与との比較は有用ですが、会社業績や本人の評価が毎年同じとは限りません。前年・前々年の賞与、同じ査定区分の推移、賞与明細、評価表、勤務先の証明を合わせ、「事故による控除部分」をできるだけ特定します。賞与が支給されなかった場合も、事故以外の不支給理由がないかを確認します。

5-3. 退職・転職が絡む場合は別の原因も検討します

事故後に退職や転職をした場合、賞与の不支給が在籍要件によるものか、事故による就労困難の結果なのかが問題になります。退職の経緯、主治医の見解、会社とのやり取り、他の選択肢を検討したかなどを整理し、事故との相当因果関係を慎重に検討します。

6. むちうちで働けたのに、なぜ就労制限が必要だったのかを示します

残業代や手当の減収を請求すると、保険会社から「定時勤務ができるなら残業もできたはず」「医師が休業を指示していない」と反論されることがあります。そこで、診断名だけではなく、症状と仕事内容の具体的な関係を示します。

6-1. 定時勤務と長時間・高負荷勤務は同じではありません

むちうちでは、首の痛み、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれなどが生じることがあります。短時間のデスクワークはできても、長時間同じ姿勢を続ける、夜間に集中して運転する、重量物を扱う、休憩の少ない勤務を続けることが困難な場合があります。「出勤できたか」だけでなく、事故前にできたどの動作・勤務が難しくなったかを具体的に説明しましょう。

6-2. 主治医には仕事の内容を伝えて相談します

医師は患者の具体的な職務を知らなければ、残業・夜勤の可否を判断しにくいことがあります。運転時間、荷物の重さ、パソコン作業時間、夜勤の休憩体制などを伝え、症状を踏まえて避けるべき動作や段階的な復帰について相談します。事実と異なる休業指示を求めるのではなく、診察に基づく判断を診療録や診断書に反映してもらうことが大切です。

6-3. 無理をして働いた事情も説明します

人員不足、生活費、雇用への不安から、痛みを抱えながら働き続ける方もいます。出勤したことだけを見て症状が軽いと評価されないよう、服薬、休憩、同僚の補助、業務変更、帰宅後の支障などを記録します。ただし、本人のメモだけに頼らず、医療記録、勤務先との連絡、勤怠資料と整合させることが重要です。

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7. 保険会社に残業代・賞与・手当を否定されたときの6ステップ

保険会社から一部または全部を否定されたときは、感情的に反論する前に、どの項目をどの理由で否定しているのかを確認します。項目ごとに証拠が異なるため、まとめて「休業損害」として争わないことがポイントです。

減収を否定されたときの6ステップ

STEP1. 否定された項目・期間・理由を確認します

残業代の減少自体を否定しているのか、減収は認めるが事故との関係を否定しているのか、計算期間や単価を争っているのかを分けます。可能であれば、電話だけでなくメールや書面で説明を求めます。

STEP2. 月別・項目別の差額表を作ります

事故前と事故後を同じ項目で並べ、支給額、勤務時間、シフト回数を一覧にします。比較期間が繁忙期・閑散期で偏っていないか、賞与と月給を重複していないかを確認します。

STEP3. 勤怠・給与・規程をそろえます

給与明細だけでなく、タイムカード、残業申請、シフト、就業規則、賃金規程、賞与規程を確保します。会社全体の残業削減など別原因がある場合は、その影響も正直に切り分けます。

STEP4. 症状と就労制限を医学資料で確認します

診療録に症状や仕事への支障が十分記載されていない場合、今後の診察で正確に伝えます。過去の記録を事実と異なる内容に書き換えてもらうのではなく、現在の症状と職務内容を共有し、医学的判断を確認します。

STEP5. 勤務先の具体的な証明を追加します

上司や人事担当者に、事故前の通常勤務、事故後の配置変更、残業・夜勤を外した理由、減額の計算を記載してもらいます。会社印の有無だけでなく、内容が具体的で資料と一致することが重要です。

STEP6. 再請求・紛争解決手続を検討します

資料を追加して再交渉し、なお争いが残る場合は、交通事故紛争処理センター、民事調停、訴訟などを検討します。請求額、証拠の強さ、解決までの期間を踏まえ、弁護士へ相談することも選択肢です。

提出資料の並べ方
差額表の各行に資料番号を付け、「給与明細No.1」「勤怠No.2」「勤務先説明No.3」「診療録No.4」のように対応させると、争点が伝わりやすくなります。

8. 雇用形態・職業によって証明方法は変わります

同じ減収でも、給与所得者、会社役員、自営業者では基礎収入と証明資料が異なります。ご自身の働き方に合わせて整理しましょう。

働き方 主な確認資料 特に争われやすい点
会社員・公務員 給与明細、源泉徴収票、勤怠、シフト、給与規程、休業損害証明書 残業・手当が恒常的だったか、会社都合の減少ではないか
会社役員 役員報酬資料、職務内容、会社決算、代替人員、報酬減額決議等 報酬のうち労務対価部分と利益配当的部分の区別
自営業者・フリーランス 確定申告書、帳簿、請求書、入金、受注・キャンセル記録 売上減と経費減、季節変動、事故以外の要因
歩合・出来高中心 給与明細、成績表、担当件数、売上、同僚・部署データ 将来の成績に不確定要素があること

8-1. 会社役員は報酬の性質を確認します

役員報酬が減額されなかった場合でも、会社が代替人員を雇った、本人が実働できず会社に具体的損害が生じたなどの事情が問題になることがあります。一方、役員報酬には労務対価だけでなく利益配当的な性質が含まれる場合があり、給与所得者と同じ計算がそのまま適用されるとは限りません。職務内容と会社の状況を詳しく確認します。

8-2. 自営業者は売上減だけでなく所得減を見ます

自営業者では、事故後に売上が減っても、同時に外注費・仕入れ・交通費などの経費が減ることがあります。原則として、事故がなければ得られた所得から実際の所得を比較し、固定費・変動費を整理します。受注を断った記録、予約キャンセル、代替者への支払も重要です。

9. 治療中に生活費が不足するときの請求方法

変動給が減ると、示談までの生活費が不足することがあります。最終示談を急いで不利な条件に応じる前に、利用できる請求方法を確認しましょう。

9-1. 任意保険会社へ内払いを相談します

休業損害の資料がそろった月ごとに、任意保険会社へ内払いを依頼できる場合があります。すべての保険会社が同じ運用ではなく、争いがある項目は留保されることもあります。支払対象、対象期間、最終示談時の精算方法を確認してください。

9-2. 自賠責の被害者請求・仮渡金を確認します

加害者側から賠償を受けられない場合、被害者が加害車両の自賠責保険会社へ直接請求できることがあります。自賠責保険への請求は、総損害額の確定前でも、限度額の範囲内で治療費等を支払った都度、複数回請求できるものとされています。また、傷害の程度に応じた仮渡金制度もあります。必要書類や既払額との調整があるため、利用前に自賠責保険会社へ確認しましょう。

9-3. 勤務先の制度や公的給付との調整も確認します

業務中・通勤中の事故であれば労災保険、健康上の理由で就労できない場合には加入制度に応じて傷病手当金等が問題になることがあります。給付と損害賠償の間で調整・控除が行われる場合があるため、同じ損害を二重に受け取ることはできません。勤務先・加入保険・専門家へ確認してください。

10. 弁護士法人サリュの解決事例から分かること

ここまでの考え方を、弁護士法人サリュの公開解決事例に照らして確認します。以下は個別事案であり、同じ資料を出せば必ず同じ結果になるものではありませんが、変動給や休業の必要性の立証方法を考える参考になります。

解決事例は結果を保証するものではありませんが、証拠の集め方と交渉の進め方を知る具体的な手がかりになります。

10-1. 夜勤手当の減少を、上司への聴取と陳述書で立証し満額獲得した事例

事例371:夜勤ができなかった分の手当について、綿密な調査を行い、示談交渉で獲得した事例
事例の概要:頚椎捻挫・腰椎捻挫後に14級9号が認定された方が、首と腰の痛みから夜勤対応が難しくなり、勤務先との話し合いで夜勤を控えた事例です。事故前の夜勤状況の整理、上司へのヒアリングと陳述書の作成により、事故がなければ夜勤を行っていた可能性を具体的に示し、休業損害に加えて夜勤手当分の請求が満額認められました。
本記事との関係:第3章で説明した「夜勤・休日手当は勤務回数を基礎に整理する」方法の実例です。給与明細上の差額だけでなく、業務内容、事故前の実績、勤務先の判断、代替体制を具体的に説明する重要性が分かります。

10-2. 会社役員の休業損害が大きく争われた事例

事例236:むち打ち14級で会社役員の休業損害340万円超
事例の概要:追突事故で頚椎捻挫・腰椎捻挫となり、腰部症状について14級9号が認定された会社役員の方について、休業損害が問題となった事例です。会社役員は給与所得者と異なる論点があるため、職務内容や報酬の性質などを精査して主張し、休業損害を認めさせました。
本記事との関係:第8章で説明した会社役員の休業損害の実例です。肩書だけで請求を諦めず、実際の業務内容と収入への影響を資料で示すことが結果につながることが分かります。

10-3. 本業を休まず働きながら、副業分の休業損害が認められた事例

事例355:本業の休業がなくても、副業を全休し収入が減少。訴訟手続きにより、副業の休業損害の多くを判決で勝ち得た事例
事例の概要:追突事故で左肩関節挫傷等を負った方が、責任の重い本業は休めなかった一方、週3日行っていた副業を一切できなくなった事例です。保険会社は事故当初の1週間分しか認めませんでしたが、裁判でけがが副業に及ぼす影響を詳しく主張立証し、判決では約4か月半分の休業損害が認定されました。
本記事との関係:第1章・第6章で説明したとおり、「出勤している=休業損害なし」ではありません。本業を続けながらでも、事故のためにできなくなった勤務と減収を具体的に立証すれば認められ得ることが分かります。

10-4. 事故前年の年収が低くても、実態に沿った基礎収入を主張した事例

事例349:復職後の通院頻度減少や事故前年の年収減少があったが、適切な賠償額を獲得
事例の概要:頚椎捻挫を負った方が、事故前年に別の事情で休職しており、事故前年の年収では本来の稼働力に見合わない計算になるおそれがあった事例です。事故前々年の収入資料を取り付けて蓋然性を主張した結果、形式的な計算より約65万円の増額につながり、14級の獲得と合わせて納得の解決となりました。
本記事との関係:第2章・第8章で説明した「基礎収入」の考え方の実例です。直近の給与明細だけで機械的に計算せず、事故がなければ得られた収入を実態に即して主張することの大切さが分かります。

10-5. 休業の必要性を否定されても、証拠の提出と交渉で認めさせた事例

事例305:頚椎損傷で7級4号認定、休業の必要性を認めさせた事例
事例の概要:頚髄損傷で両手のしびれが強く、溶接工の仕事ができなくなった方について、保険会社が休業の必要性を認めなかったものの、証拠資料を提出し交渉を継続した結果、事故から約1年間の休業損害を受け取った事例です。
本記事との関係:第6章・第7章で説明したとおり、保険会社に否定されても、症状と仕事内容の関係を証拠で示して交渉を続けることで結論が変わり得ます。職種特有の負荷を具体的に説明することが立証の中心になります。

解決事例を読むときの注意
解決結果は、事故態様、傷病、医療記録、年齢、仕事、相手方の対応などによって異なります。公開事例は対応の考え方を知る参考であり、同じ等級・金額・治療費の支払を保証するものではありません。

11. よくある質問

11-1. 出勤していると休業損害は請求できませんか?

出勤していても、事故によって残業・夜勤・休日出勤・歩合業務が制限され、現実に収入が減っていれば請求を検討できます。ただし、定時勤務ができた理由と付加勤務ができなかった理由を具体的に説明する必要があります。

11-2. 事故前1か月の残業代を基準にしてよいですか?

事故前1か月が通常の勤務を反映しているとは限りません。繁忙期・閑散期を考慮し、3か月、6か月、前年同時期など複数の資料を確認します。適切な比較期間は仕事の性質によって異なります。

11-3. 会社が休業損害証明書を書いてくれません

証明書の目的と、会社に法的責任を認めてもらう書類ではないことを説明し、給与・勤怠の事実を記載してもらえるよう依頼します。難しい場合は、給与明細、勤怠データ、雇用契約書、メール等の代替資料を検討します。

11-4. 賞与の減額理由を会社が明らかにしてくれません

賞与は査定資料が社内情報であることもあります。少なくとも、査定期間、欠勤控除の有無、事故前の標準的な算定額、事故による控除額を回答してもらえないか相談します。開示範囲は勤務先の判断もあるため、必要性を絞って依頼しましょう。

11-5. 残業代の減少と休業日の日額を両方請求できますか?

同じ時間・同じ収入減を二重に請求することはできません。欠勤日の日額に通常の変動給が含まれている計算をしたうえで、さらに同じ残業代を加算していないか確認します。項目別・期間別に重複を除いてください。

11-6. 症状が改善して残業を再開した後も請求できますか?

事故による就労制限が必要だった期間までが中心です。回復に伴って段階的に勤務を戻した場合は、その経過に応じて差額を計算します。症状が改善した後も一律に事故前平均との差額を請求することは難しくなります。

12. まとめ|減収額と事故との関係を、項目別の資料でつなげましょう

むちうちで基本給が変わらなくても、残業代、夜勤・休日手当、歩合給、賞与などが事故によって減った場合には、休業損害として請求を検討できます。重要なのは、単に手取りが減ったことではなく、事故前に得られていた収入、事故後の差額、症状と仕事内容、勤務先が勤務を制限した経緯を一つの流れで説明することです。

給与明細、勤怠、シフト、給与・賞与規程、勤務先の減額理由、診療録を早めに確保し、月別・項目別の一覧表を作りましょう。保険会社に否定された場合は、どの項目・期間・理由を争っているのかを確認し、不足資料を補って再請求します。

最終チェックリスト

  • 残業代・夜勤手当・休日手当・歩合・賞与を別々に集計した
  • 事故前の比較期間が繁忙期・閑散期に偏っていない
  • 給与明細、勤怠、シフト、給与・賞与規程を確保した
  • 事故後にできなくなった具体的な業務を整理した
  • 主治医へ仕事内容と就労上の支障を正確に伝えた
  • 勤務先から配置変更・減額理由の具体的な証明を得た
  • 同じ収入減を欠勤日と手当で二重計上していない
  • 保険会社の否定理由を項目・期間ごとに確認した

大切なポイント
変動給は資料が失われやすく、後から勤務シフトや査定理由を再現するのが難しいことがあります。治療中の段階から給与明細・勤怠・会社との連絡を保存してください。

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