交通事故治療費の打ち切りを保険会社が連絡してきた場合の対処法

「治療費の対応は今月末までです。」突然に加害者側の任意保険会社からそのようなことを言われ、治療費を打ち切られることがあります。交通事故に遭われ、症状も残っているのに、そのようなことを言われたらどう対処すべきか、困りますよね。
今回の記事では、治療費の打ち切りとはなんなのか、打ち切りをされた場合もう治療は継続できないのか、治療を継続できたとしてもその間に発生した治療費は誰が払うのかなど、治療費の打ち切りについて、交通事故弁護の経験が豊富な弁護士が詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。

この記事の監修者
弁護士 栗山 裕平
弁護士法人サリュ
静岡事務所
静岡県弁護士会
【略歴】
2013年 京都大学法科大学院修了
2013年 司法試験合格
2014年 弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
・平成30年01月26日大阪高裁判決
歩行者との非接触事故につき,自動車運転者の過失責任が認められた事例(判例タイムズ1454号48頁他)
・平成27年7月3日大阪地裁判決
急制動措置をとって転倒滑走した原付自転車が同交差点に進入した加害車両に衝突した事故につき、加害車両運転者に過失責任が認められた事例(交通事故民事判例集48巻4号836頁他)
【弁護士栗山の弁護士法人サリュにおける解決事例(一部)】
事例337:後遺障害併合11級の認定を獲得し、逸失利益を満額回収した建設会社経営者
事例347:異議申立により外傷性ヘルニアの後遺障害併合12級を獲得した事例
【弁護士法人サリュにおける交通事故解決件数】
950件以上(2022年12月時点)
1 交通事故治療費の打ち切りって何?
⑴ 加害者側保険会社による治療費支払いの仕組み
交通事故で受傷し、治療の必要性が生じると医療機関を受診することになります。このとき生じた治療費は、不法行為による損害にあたります。現行法上、金銭賠償が原則のため、被害者が加害者に損害賠償請求する場合は、損害の金額を立証しなければなりません。そのため、被害者は、加害者に対して損害およびその金額を立証してその損害の賠償を求める必要があります。
もっとも、実際には、加害者側の保険会社が医療機関に直接治療費の支払いを行うことが多々あります。これを一括対応といいます。一括対応は、加害者側の保険会社がサービスとして行っているものであり、加害者側に当然に発生する義務ではありません。
そのため、加害者側の保険会社は、保険会社側の都合で一括対応を打ち切ることがあります。一括対応を打ち切られた場合、医療機関は、被害者に対して窓口で治療費を請求することとなるため、被害者は自費で治療費を支払うことを余儀なくされます。
⑵ 加害者側保険会社が治療費打ち切りを連絡してくる理由
加害者側の保険会社が治療費を打ち切ってくる理由は、①治療を早急に中止させることによって支払う損害賠償の金額を少なくすることと、②治療費の払いすぎを予防することが考えられます。
①については、治療期間が長期化することによって傷害慰謝料の金額が増加することを防止する目的があります。
②については、必要かつ相当な治療期間をこえて治療費を支払いすぎた場合に、支払すぎた治療費を返してもらえなくなることを防止する目的があります。
⑶ むちうちは治療費打ち切りになりやすい?
骨折などの傷病の場合は、交通事故と受傷の関係がレントゲンやCTなどの画像上明らかとなります。このような、検査結果等によって認められる異常所見を他覚所見があるといいます。
他方、むちうちの場合は、衝撃により頚部や腰部などが揺さぶられて不自然な動きが生じた結果として痛みやしびれが発生するものですので、他覚所見はありません。そのため、治療の必要性は、被害者が愁訴する痛みやしびれなどの自覚症状を中心に判断されることとなります。
上記のとおり、加害者側の保険会社は支払う賠償金の金額を少なくしようとする傾向があるため、むちうちの場合は、他覚所見がないことを理由として治療費を打ち切ることが多くなります。
2 交通事故治療費の打ち切りの連絡がきたら?
⑴ 加害者側保険会社に対し医師から治療継続の意見を言ってもらう
被害者以外で、被害者の治療経過や症状推移を最も熟知しているのは、継続的に治療にあたっている医師です。そのため、継続的に治療をしてくれている医学の専門家である医師から保険会社に治療の必要性を説明してもらうことは効果的と言えるでしょう。
⑵ 治療費打ち切りに対する意見を弁護士に述べてもらう
依頼している弁護士も治療経過や症状推移だけでなく、受傷起点や受傷態様をよく理解しているため、一括対応の延長交渉をしてもらうことが有効な場合もあるでしょう。
3 それでも打ち切られてしまった場合
⑴ 人身傷害保険を利用して通院する
人身傷害保険を付帯している場合は、人身傷害保険会社に人身傷害保険使用の意思表示をすることによって、一括対応をしてもらうことができることがあります。
⑵ 健康保険に切り替えて立替通院を行う
健康保険を使用せずに自由診療で治療を継続すると、被害者が窓口で支払う治療費の金額が高額になり、経済的負担が大きくなります。そこで、健康保険を使用してできるだけ経済的負担を軽減しながら治療を継続し、症状の緩和などに努めることが有用です。
ただし、労災事案の場合は、制度上、健康保険を使用することができないため、労災から療養給付を受けて治療をすることとなります。
⑶ 自賠責保険から医療機関へ治療費が直接支払われるようにする
自賠責保険を使用して保険金請求をする方法として、加害者側が保険金請求をする事前認定と被害者が保険金請求をする被害者請求があります。被害者請求の方法で保険金請求を行い、医療機関の口座を指定して支払いを受けることによって、治療費を医療機関に直接支払わせることができます。
このような手続きは、一般の方にとっては煩雑なため、弁護士などの専門家に手続きを依頼するという手もあります。
4 治療終了後に症状が残っている場合には?
⑴ 自賠責保険会社に被害者請求手続きをして後遺障害の申請をする
現代医療でもすべての傷病を完治させられるわけではありません。そのため、治療に専念したにもかかわらず完治せずに症状が残存し、これ以上治療を継続しても症状の改善が見込まれない状態となることがあります。これを症状固定といいます。この症状固定に至った場合は、残存してしまった症状が自賠責保険における後遺障害に該当するかの調査を自賠責保険会社に対して申請することができます。
この申請によって、自賠責保険における後遺障害が認定された場合は、認定された等級に基づいて後遺障害慰謝料や逸失利益という費目を損害に含めて加害者に対して賠償請求することができます。
自賠責保険への後遺障害認定申請は、被害者ご本人でもできますが、妥当な認定をきちんとえられるように書類を準備することは、なかなか大変です。加害者側の保険会社が代わりに申請する手続きもありますが、十分な資料を準備してもらえないなど、被害者に不利益になることも少なくありません。医療に詳しい弁護士などの専門家に依頼し、十分準備をして申請することが望ましいです。
⑵ 加害者相手に裁判を起こして裁判官に後遺障害を認定してもらう
加害者が無保険の場合や加害者が自転車を運転していた場合など、自賠責保険を使用できない場合は、紛争を終局的に解決する公的機関である裁判所に判断を仰ぐこととなります。
この場合は、症状固定に至ったにもかかわらず残存してしまった症状が、後遺障害に該当することを主張立証して、裁判所に後遺障害が残存している事実を認定してもらう必要があります。裁判所が、後遺障害が残存している事実を認定した場合、被害者は当該後遺障害が残存した結果として生じた損害を認容してもらうことができます。
交通事故の裁判は、専門的な知識を多く求められるため、被害者の方個人で提訴されるよりは、十分な知識と経験のある弁護士を代理人として立てることをお勧めいたします。
5 交通事故の治療費に関する解決事例
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