後遺障害等級3級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説
後遺障害等級3級の慰謝料の適正な相場はどのようなものでしょうか。後遺障害等級3級の認定を受けた方やそのような等級が想定される方向けに、適正な補償を受けられるよう慰謝料の相場等を解説します。
この記事の監修者
弁護士 馬屋原 達矢
弁護士法人サリュ
大阪弁護士会
交通事故解決件数 900件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2005年 4月 早稲田大学法学部 入学
2008年 3月 早稲田大学法学部 卒業(3年卒業)
2010年 3月 早稲田大学院法務研究科 修了(既習コース)
2011年 弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【著書・論文】
交通事故案件対応のベストプラクティス(共著:中央経済社・2020)等
【獲得した画期的判決】
【2015年10月 自保ジャーナル1961号69頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の足首の機能障害等について7級という等級を判決で獲得
【2016年1月 自保ジャーナル1970号77頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の腰椎の機能障害について8級相当という等級を判決で獲得
【2017年8月 自保ジャーナル1995号87頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責14級の仙骨部痛などの後遺障害について、18年間の労働能力喪失期間を判決で獲得
【2021年2月 自保ジャーナル2079号72頁に掲載】(交通事故事件)
歩道上での自転車同士の接触事故について相手方である加害者の過失割合を7割とする判決を獲得
目次
1 後遺障害等級3級に対する補償の計算の全体像
後遺障害等級3級の認定を受けた方の補償は、以下の4つで構成されています。
①加害者(任意保険会社)からの賠償金 ②加害者の自賠責保険からの自賠責保険金 ③被害者の人身傷害保険 ④労災保険・国民年金・厚生年金からの社会保障 |
本記事では、まず、加害者(任意保険会社)からの賠償金として重要な、後遺障害慰謝料、近親者慰謝料、逸失利益、介護費について解説します。
次に、自賠責保険金の受け取り方について解説します。
続いて、人身傷害保険の使い方を解説します。
その上で、実際の保険会社との交渉において弁護士を入れて裁判をすることの意味をご理解いただくために弁護士法人サリュの解決事例を紹介します。
最後に、加害者から受け取る慰謝料等の補償金とは別に、労災保険等の社会保障を申請することのメリットを解説します。
2 後遺障害等級3級の後遺障害慰謝料
(1)後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の説明と相場
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことに対する将来の精神的苦痛に対する賠償です。後遺障害が残ったことによる収入減の賠償や介護に必要な賠償とは別に、精神的な苦痛に対して補償される損害項目です。
後遺障害等級3級の後遺障害慰謝料の相場は裁判の基準(赤い本基準)で1990万円です。
弁護士基準の後遺障害慰謝料相場
自賠責基準 | 弁護士基準 | ||
別表第1 | 別表第2 | ー | |
1級 | 1650万 | 1150万 | 2800万 |
2級 | 1203万 | 998万 | 2370万 |
3級 | 861万 | 1990万 | |
4級 | 737万 | 1670万 | |
5級 | 618万 | 1400万 | |
6級 | 512万 | 1180万 | |
7級 | 419万 | 1000万 | |
8級 | 331万 | 830万 | |
9級 | 249万 | 690万 | |
10級 | 190万 | 550万 | |
11級 | 136万 | 420万 | |
12級 | 94万 | 290万 | |
13級 | 57万 | 180万 | |
14級 | 32万 | 110万 |
関連記事:後遺障害慰謝料【交通事故】等級相場・計算方法・もらい方を解説
ただし、これはほかの後遺障害でも共通することですが、以下のような事由があれば、本人の後遺障害慰謝料がさらに増額されることもあります。
・加害者が飲酒運転、ひき逃げ、速度超過、信号無視などしていた場合
・財産上の損害の算定が困難であるため慰謝料で調整せざるを得ない場合
近親者慰謝料
近親者による被害者の介護が必要な場合には、近親者にも別途、慰謝料が認められることがあります。その結果、本人の後遺障害慰謝料と近親者の慰謝料を併せた合計額が1990万円を超えることもあります。
- 120万円が認められたケース
-
右腕神経叢引き抜き損傷、頸椎損傷、高次脳機能障害等に起因する合併症状として3級3号が認定された事案の裁判例(横浜地方裁判所平成29年4月17日判決、平成27年(ワ)1596号)では、本人後遺障害慰謝料として1990万円、夫の固有の慰謝料として、被害者である妻の後遺障害の程度が重く、その介護を負担しなければいけないことを考慮して120万円が認定されています。
- 50万円が認められたケース
-
高次脳機能障害で3級の後遺障害が残った事案の裁判例(横浜地方裁判所平成21年9月17日判決、平成20年(ワ)207号)では、本人の後遺障害慰謝料として1990万、夫の固有の慰謝料として、被害者である妻が死亡したにも等しい状況の変化があり、現在まで付き添いにあたってきた夫の精神的苦痛は大きいとして50万円が認定されています。
後遺障害等級3級の慰謝料のまとめ
被害者本人の後遺障害慰謝料の相場は1990万円ですが、事故態様が悪質であったり、近親者に介護をしてもらう必要がある場合には、2000万円を超える慰謝料を認める事例もありますので、弁護士にご相談ください。
(2)後遺障害慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリット
保険会社が後遺障害慰謝料の相場の金額を提示するとは限らない。
保険会社は、自賠責基準という国が定めた最低限度の補償については、支払う義務があります。一方で、自賠責基準を超える賠償金については、保険会社から被害者に対して、提示する義務がありません。
そのため、被害者に示される賠償金の内訳は、一見して、正しそうに見えても、いわゆる裁判基準に比べると、低いことが通常です。
後遺障害等級3級の慰謝料
このように、後遺障害慰謝料の自賠責基準と裁判基準は、約1000万円以上の違いがあるのです。
弁護士に依頼するメリット
保険会社は、自賠責基準以上の賠償金を被害者に対して提示する義務がないので、強制的に裁判基準の金額を支払わせるためには、裁判が必要です。後遺障害3級の裁判は、後遺障害慰謝料も高額となりますので、高額な裁判業務の代理ができるのは、法律の専門家である弁護士だけになります。
また、裁判までは望まないというケースにおいても、弁護士が示談交渉をすることで、裁判基準に近い金額で示談するということも可能です。
3 後遺障害等級3級の後遺障害逸失利益
(1)逸失利益の計算方法
逸失利益とは、被害者に後遺障害が残り、労働能力が減少するために、将来発生するであろう収入の減少のことを言います。逸失利益は次の計算式により算出します。
【計算式】基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間の年数に応じたライプニッツ係数 |
ア 基礎収入
被害者が事故に遭わなければ本来稼いでいた額になるので、一般的には事故前年の収入額を用います。
イ 労働能力喪失率
後遺障害により労働能力がどの程度低下したかを数字であらわしたものです。
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて一応の基準が定まっています。
後遺障害等級3級の労働能力喪失率は100%とされています。
ウ 労働能力喪失期間とライプニッツ係数
労働能力喪失期間とは、労働能力喪失による収入の減少がいつまで続くかの期間のことです。後遺障害事案における労働能力喪失期間の始期は症状固定時、終期は67歳が原則です。
逸失利益は、後遺障害を前提として将来現実化すると考えられる損害です。それを紛争解決時に一括して受領するため、現在の価格(現価)に引き直す※必要があります。そのために、労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数(年金現価係数)を用いて中間利息を控除します。
※令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は年利3%で引き直します。
※平成22年4月1日以降令和2年3月31日までに発生した事故の場合は年利5%で引き直します。
エ 計算例
令和4年1月1日発生の事故 会社員・事故前年年収500万円 症状固定時42歳・男性 500万円×100%×17.4131(25年に対応するライプニッツ係数) =8706万5500円 |
(2)逸失利益の交渉を弁護士に依頼するメリット
基礎収入の点(若年者、無職者、高齢者)
若年者は、事故前年の収入で計算することには問題があります。逸失利益は将来における収入減を補償する制度ですので、将来の年収をベースに交渉する必要があります。
事故時、無職だった場合、保険会社が基礎収入を認めることは容易ではありません。そのとき無職になっていた理由が一時的なものであり、過去の職歴から将来就労する可能性が高かったことを丁寧に証明していく必要があります。
高齢者や定年退職後の事故である場合も、保険会社が基礎収入を認めるのは容易ではありません。健康状態や就労意欲や就職活動状況などを丁寧に立証する必要があります。
労働能力喪失率の点(公務員、既往症)
公務員である場合、後遺障害の内容によっては、職場の配慮によって、仕事を継続でき
る場合があります。そのような場合、労働能力は失われていないとして保険会社が否定してくることがあります。
また、持病がある場合には、もともと労働能力は失われていたなどと主張し、否定してくることもあります。
これらの点についても、事故と収入減の因果関係を立証していく必要があります。
労働能力喪失期間の点(高齢者)
高齢者で持病がある場合など、もともと、長く働くことはできなかったなどの主張をする保険会社もいます。
この点についても、きちんと反論していく必要があります。
4 後遺障害等級3級の介護費
(1)介護費とは
後遺障害等級3級の事案において、重要な損害項目は、①後遺障害慰謝料と②逸失利益です。介護費とは、被害者が介護施設に入ることになったり、訪問介護を必要としたり、家族が自宅で介護をすることになった場合に、その費用や負担について賠償を受けるときの損害項目の一つです。
自賠責保険では常時介護や随時介護にあたらない後遺障害等級3級でも、1級や2級のように介護費が認められるか問題になりますが、後遺障害等級3級の事案でも介護費は認められています(ただし、3級より下位の等級になるにつれ認められにくくなる傾向です)。
(2)介護費の計算方法
症状固定後の介護費の計算は、一般的には次の計算方法によります。
【計算式】日額 × 365日 × 介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数 |
日額は、介護の内容によって様々です。後遺障害等級1級の常時介護の場合、親族の介護であれば日額8000円、職業付添人による介護であれば日額1万5000円から1万8000円程度が認められることが多いです。常時介護の金額の目安がこの程度になるので、随時介護の場合には、介護の程度や介護にかかる時間等個別具体的な事情により上記常時介護の基準額から減額して認定されることが多いです。
日額5000円で平均余命の間認めた事例
脊髄損傷で軽度の四肢麻痺(3級3号)のため、入浴については全介助が必要で、随時介助が必要な状態に近いとして、週2回程度デイサービスを受け、入浴もさせてもらっていることを考慮しても、夫による被害者の介助費用として、日額5000円を認めるのが相当とし、被害者側の主張通り18年を認めたケース(名古屋地方裁判所平成23年10月14日判決、交通民44.5.1338)。
日額4000円で平均余命の間認めた事例
生活の一部において、家族による随時の声掛けおよび見守り介護の必要があるとして日額4000円を平均余命56年間について認めたケース(東京地方裁判所平成25年12月25日判決・交通民46.6.1619)。
日額2000円で平均余命の間認めた事例
高次脳機能障害(3級3号)のため、症状固定後も看視、見守り、声かけ等の援助が必要として日額2000円を平均余命である9年間について認めたケース(東京地方裁判所平成28年6月29日判決・交通49.3.786)。
実際に介護費の年額が算出できたら、次に介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数を乗じます。
症状固定時42歳、事故時サラリーマンの男性の計算例 前提条件① 日額:5000円 近親者と職業付添人による介護の併用 前提条件② 平均余命 39歳(ライプニッツ係数22.808) 5000円 × 365 × 22.808= 4162万4600円 |
(3)後遺障害慰謝料と逸失利益と介護費の合計
ここまでに出てきた損害項目を簡単に整理します。
症状固定時42歳、事故時サラリーマンの男性の計算例 前提条件① 日額:5000円 近親者と職業付添人による介護の併用 前提条件② 平均余命 39歳(ライプニッツ係数22.808) 前提条件③ 事故前年年収 500万円 後遺障害慰謝料 1990万円 後遺障害逸失利益 8706万5500円 介護費 4162万4600円 合計 1億4859万0100円 |
(4)介護費の交渉を弁護士に依頼するメリット
介護費の計算式の確認です。
【計算式】日額 × 365日 × 介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数 |
この計算式のうち、保険会社は、日額と介護の期間を争ってきます。
保険会社は、後遺障害3級の自賠責保険金額である2219万円の範囲でしか、賠償案を提示する義務がありません。そのため、保険会社は、日額を安く、介護期間は短く認定してくる傾向があります。医師とも連携を図りつつ、現在及び将来予想される介護状況を詳しく立証し、交渉していくことが大切です。
5 後遺障害等級3級のその他の損害項目
(1)慰謝料や逸失利益や介護費以外に認められる賠償の例
後遺障害3級が認定された場合、将来の治療費や、将来の治療に必要な交通費、紙おむつ等の雑費、家屋改造費、車椅子や介護ベッドなどの買替費用などの損害も請求できます。
(2)交渉を弁護士に依頼するメリット
慰謝料や逸失利益や介護費については、保険会社から一応の提示はあるものの、これら以外の損害項目については、被害者から請求していかないと、保険会社から提示されないこともあります。
たとえば、住宅改造費につき、右下肢の欠損障害、右股関節の機能障害、左足関節の機能障害で併合3級の66歳男性に約60万円が認められたケースがあります(名古屋地方裁判所平成29年2月21日判決・交通民50.1.172)。
また、同じく住宅改造費につき、左下肢欠損障害、右膝痛で併合3級の67歳女性に1200万円が認められたケースもあります(東京地方裁判所平成29年2月20日判決・交通民50.4.1116)。
このように金額の幅はありますが、1000万円以上の住宅改造費が認められているケースもあります。ただし、これも被害者から請求して、交渉や裁判を経て初めて認められるもので、保険会社から任意の提示を期待できるものではありません。住宅改造費を請求する場合には、後遺障害の内容や被害者の年齢を踏まえてその必要性を立証するとともに、改造前と改造後の変化が分かるように、工事の前後の写真や、どの工事にいくらかかったのかという工程ごとの金額が分かるようにしておきましょう。
6 後遺障害等級3級の等級認定の流れと自賠責保険金の受け取り方
(1)後遺障害等級の審査の方法と自賠責保険金の受け取り時期の違い
後遺障害等級は、後遺障害慰謝料や介護費の計算に影響を与えます。
後遺障害等級は、症状固定時に主治医に後遺障害診断書を作成してもらった上で、①事前認定という手法、または、②被害者請求という手法で、審査を受けます。
事前認定の特徴は、被害者が資料を集める必要がない反面、後遺障害等級に対応する自賠責保険金(2219万円)は、すぐには受け取れません。
被害者請求の特徴は、被害者が資料を集める必要がありますが、等級の認定時に、自賠責保険金を受け取ることができます。
症状固定までは、保険会社が生活費などを毎月払ってもらえることがありますが、保険会社は、症状固定後は、支払を止めることが一般的です。そのため、症状固定時から最終的な示談金を受け取るまでの間には、数か月以上かかりますので、被害者請求をして、自賠責保険金を先に受け取っておくのがよいでしょう。
(2)後遺障害等級3級の症状と認定基準
認定基準は、自動車損害賠償保障法施行令という法令の別表に整理されております。
後遺障害等級3級の認定基準は以下のとおりです。3級は、後遺障害等級の中でも3番目に重症の場合の等級です。等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行います(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準第3)。
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
- 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
- 両手の手指の全部を失つたもの
(3)後遺障害等級の申請を弁護士に依頼するメリット
上記に説明したとおり、後遺障害等級3級には、いくつかの類型がありますが、注意しなければいけないのは、上記の等級以外でも3級になったり、場合によっては、1級および2級相当の慰謝料が受け取れる場合があるということです。
例えば、高次脳機能障害等の症状については、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として別表第2の第5級3号に該当するという判断を受けたとしても、他にも後遺障害等級が存在すれば、併合という方法で等級が繰り上がり、全体の後遺障害を見れば、結果的に3級になるということもあります。
また、高次脳機能障害や脊髄損傷の場合、症状の程度によって別表第1の1級1号から別表第2の9級10号まで該当する可能性がありますが、その判断基準は非常に分かりにくいものです。
そのため、後遺障害の等級認定の場面では、全ての症状が漏れなく等級に反映されているかをチェックする必要があります。
以上から、後遺障害3級という重症事案においては示談交渉や裁判において適正な賠償金を受け取るには弁護士を入れることが事実上必須となりますので、そうであれば、後遺障害認定前から、ご依頼いただくのがスムーズです。
7 後遺障害等級3級の保険会社との交渉を弁護士に依頼をするメリット
(1)保険会社の交渉の傾向
保険会社は、被害者に対して、後遺障害3級の賠償金として、自賠責の保険金額である2219万円を超えた金額を提示する義務がありません。
そのため、後遺障害慰謝料や逸失利益や介護費をいくらとするか、被害者と保険会社との間の交渉によって、決める必要があります。
また、将来の治療費や、将来の治療に必要な交通費、紙おむつ等の雑費、住宅改造費、車椅子や介護ベッドなどの買替費用といった損害項目は、被害者から指摘していかないと、損害として取り上げてもらえないこともあります。
(2)自賠責基準とは?
加害者は、自賠責保険と任意保険の2種類に加入しています。多くの場合、被害者が自賠責保険と任意保険の両方に分けて請求する手続きの手間を省くため、任意保険会社が自賠責保険の分も含めて一括して窓口となります。そのため、任意保険会社からの支払には、自賠責保険から出る分と任意保険会社の持ち出しの分が含まれています。
自賠責保険は、国が加入を強制している保険です。そのため、支払い基準を国が定めています。具体的には、自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払は、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める「保険金額」を限度として、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という告示によって、その基準が公表されています。
この保険金額や支払基準を、業界では、「自賠責基準」と表現します。
「保険金額」というのは簡単に言えば上限額のことです。後遺障害3級の賠償金を考える上で、重要なのは、後遺障害3級の自賠責保険の上限額は2219万円ですので、それを超えた金額が、任意保険会社の負担額であるという視点です。
(3)自賠責基準と任意基準と裁判基準の違い
自賠責基準は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という告示で公開された賠償金の上限額と支払基準です。保険会社は、この基準を下回る示談はできません。
一方で、裁判基準とは、裁判をした場合に認めらえる金額です。過失が少ない後遺障害等級別表2の3級のケースでは、ほとんどの場合、数千万から場合によっては億単位で、自賠責基準より裁判基準の方が高くなります。
ア 事例でみる裁判基準と自賠責基準の差 3級3号、過失なし、症状固定時42歳、事故時サラリーマンの男性の計算例 前提条件① 日額:5000円 近親者と職業付添人による介護の併用 前提条件② 平均余命 39歳(ライプニッツ係数22.808) 前提条件③ 事故前年年収 500万円 イ 自賠責基準 2219万円 ウ 裁判基準 1億4859万0100円 内訳)後遺障害慰謝料 1990万円 後遺障害逸失利益 8706万5500円 介護費 4162万4600円 合計 1億4859万0100円 |
この事例においては、自賠責基準と裁判基準で1億2000万円以上の差があります。
では、任意保険会社は、被害者本人に対して、いくらの賠償金を提示するでしょうか。
この点は、特に決まりというものがありませんが、任意保険会社の独自の計算を提案してきます。一概には言えませんが、裁判基準と比べると著しく低廉であることが多いです。紛争の実際は、後で記載する解決事例をご覧ください。
(4)弁護士に依頼するメリット
裁判基準で交渉ができる
任意保険会社は、被害者に対して、任意保険会社が相当だと考える示談金を提示してきます。
しかし、その金額は、本来の裁判基準よりもかなり低いことがほとんどです。
弁護士にご依頼いただくことで、保険会社が提示してきた金額の不当な点を明らかにし、裁判基準で増額交渉をすることが可能です。
過失割合を争うことできる
後遺障害等級3級の事案においては、過失割合が1割違うだけで、数千万単位の金額に影響を与えます。
刑事記録や防犯カメラの映像、車の損傷状況などから、事故態様を明らかにし、適正な過失割合で交渉をすることができます。
裁判ができる
後遺障害等級3級の裁判は膨大な損害額の計算や証人尋問などの手続きが必要とな
り、弁護士を入れて行うことがほとんどです。
裁判をすることの効果としては、示談交渉に比べて、以下の点があります。
① 適正な慰謝料等を払わせることができる。
② 弁護士費用の一部を加害者に負担させることができる。
③ 過失がある場合、ご自身の人身傷害保険から受け取れる額も増える。
(5)弁護士に依頼した後の流れ
弁護士にご依頼いただくと、保険会社との窓口は全て弁護士が行います。
裁判も弁護士が出席しますので、被害者が裁判所に出頭しなければならない機会はほとんどありませんが、あるとしても1回程度です。もちろん、ご希望次第で全ての裁判に弁護士と一緒に同席いただくことも可能です。
計算が困難な将来の介護費などの費目も、弁護士が裁判例を調査し、適正金額を求めていきます。
8 人身傷害保険と後遺障害3級の損害賠償との関係
人身傷害保険とは、被害者が加入している自動車の保険で、ご自身のお怪我や後遺障害等の補償をしてくれる保険です。加害者がいる保険では、あまり使われることが多くない保険ですが、ご自身に過失割合があるときには忘れずに使わなければいけない保険です。
たとえば、後遺障害3級の総損害額が2億円として、被害者にも1割の過失があるとします。すると、加害者からは9割である1億8000万円が支払われることになりますが、過失分の2000万円は控除されてしまいます。このような場合でも、もし人身傷害保険があれば、過失で控除された2000万円を人身傷害保険から受け取ることが可能になります。
ただし、ご自身の保険からも自分の過失割合分の補償を受けるには、加害者との間で裁判を行い、慰謝料の金額、総損害額、さらに過失割合等をはっきりさせる必要があります。
人身傷害保険の上限額や、裁判リスクも考えながら、示談交渉で解決するか、それとも裁判まで行うか、弁護士と一緒に考えることが重要です。
9 弁護士法人サリュの解決事例(事例№267)
(1)3級の後遺障害等級認定を受け約7500万円の賠償金を獲得
(2)ご依頼の経緯
被害者は、バイクで一般道を直進中に側道から進入してきた自動車と衝突し転倒してしまいました。被害者は意識のないまま救急搬送され、頭蓋骨折、脳挫傷、鎖骨骨折等の診断を受け、その後高次脳機能障害や動眼神経麻痺を発症し、一人では日常生活さえままならなくなりました。そんな被害者の状況を心配したご家族が被害者の将来のためにも適切な補償を受けたいと考え、サリュに相談に来られました。
(3)サリュの解決
ポイント1 成年後見の申立てをサポート
被害者は、ご家族に付き添われて当事務所に来所されましたが、思うように言葉が出ない、注意力が散漫である等高次脳機能障害によくある症状を呈しておりました。サリュは高次脳機能障害がどのようなものであるか、被害者に適切な後遺障害の等級が認定されるにはどのように後遺障害診断書を書いてもらうべきか等のアドバイスを行いました。
そして、ご契約に当たっては、まずはじめに成年後見申立てのサポートを行いました。
被害者は、高次脳機能障害により意思の疎通がスムーズに図れなかったため、当事務所と契約を締結するために、管轄の家庭裁判所に成年後見の申し立てをする必要がありました。
そこで、当事務所で成年後見の申し立てに必要な戸籍や診断書等の資料の案内をし、被害者の兄が成年後見人として申立てをする準備をサポートした結果、無事に被害者の兄が成年後見人となることが認められました。
ポイント2 3級を獲得
その後、サリュは後遺障害の等級申請を行いましたが、当初被害者に認定されたのは「軽易な労務以外の労務に服することができないもの(5級)」でした。
自賠責では、高次脳機能障害の後遺障害等級を認定する際に、4大能力(意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続・持久力、社会行動能力)がどれだけ失われたかでどの等級に当たるかを判断します。
被害者に認定された5級とその1つ上の等級の3級との大きな違いは、「軽易な労務であれば自立して行えるかどうか。」という点です(※高次脳機能障害では5級の上の等級は3級になります。)。
被害者の場合、近所の農園で簡単な農作業を行っているから、軽易な労務であれば自立して行えるであろうと自賠責で判断されたのでした。しかし、農作業といっても被害者に任されていたのは畑の石拾いや草抜き等の単純作業だけであり、それらも休憩を挟まないと行えないほどでした。また、被害者は失語症も発症していたため、園内の人とうまくコミュニケーションを取ることができず、一般社会に出たとしても人間関係の構築は困難であろうと予想されました。
そこで、サリュは被害者が通っている農園の園長に詳細に話を聞き、その内容を意見書とした上で異議申立を行いました。
その結果、被害者の高次脳機能障害の後遺障害等級は5級から3級(終身労務に服することができないもの)に上がりました。
後遺障害等級は、1つずつの症状を等級に評価し、等級を繰り上げるという作業が行われます。そのため、何が原因で、どのよう症状が残ってしまっているのか、きちんと漏れなく整理して等級申請をすることがポイントです。
ポイント3 丁寧な交渉
その後、サリュでは、被害者の後遺障害による支障を丁寧に説明し、交渉することで保険会社から自賠責保険金を含む約7500万円の賠償金を獲得することができました。
高次脳機能障害の事案では、判断基準があいまいで分かりにくいこともあるため後遺障害等級そのものを争われることが多いです。そのため、等級を獲得したことで満足せず、被害者は後遺障害によって何ができて何ができなくなったのか等の支障をしっかり確認し、交渉することが肝要となります。
10 成年後見人が必要になるケース
(1)成年後見とは
上記解決事例でも紹介したとおり、被害者本人が高次脳機能障害や遷延性意識障害の場合には、成年後見(または保佐人・補助人)が必要になるケースが多いです。
成年後見とは、認知機能等の障害で、適切な判断ができない人の権利を保護する制度で、成年後見人として選任された人が本人の代わりに財産管理や様々な法律行為等を行います。
交通事故の相手方に損害賠償請求を行っていく場合にも、被害者本人が適切な判断ができなければ、成年後見人として選任された人が示談交渉をしなければなりません。弁護士に依頼する場合も同様で、成年後見人として選任された人が本人の代理人として弁護士と契約を締結しなければなりません。
本人との意思疎通が困難な場合には、保険会社と示談交渉をするのも、そのために弁護士に依頼をするのも、まずは成年後見の申し立てをする必要があるのです。
(2)成年後見が必要になるのは
高次脳機能障害で1級、2級の後遺障害が残るようなお怪我を負っている場合には、被害者本人と意思疎通が困難であることが多いため、成年後見人の選任が必要になるでしょう。上記の解決事例のとおり、3級が認定されるようなケースでもおそらく成年後見が必要になることが多いと思います。
高次脳機能障害は、1級1号、2級1号、3級3号以外にも、症状の程度によって5級2号、7級4号、9級10号に該当する可能性があります。一概に何級だと成年後見(または保佐人・補助人)が必要という決まりはありません。その方の状況に応じて異なります。たとえば、後遺障害等級が同じ5級でも成年後見が必要な場合とそうでない場合はあるでしょう。気を付けたいのは、意思の疎通が困難であったり、本人の判断力が低下している場合には、損害賠償請求に先立って成年後見人(または保佐人・補助人)を選任する必要があるということです。必要と判断されるような場合、本人が成人していれば(未成年者であれば、いずれにしてもご両親が代理人となります。)、ご家族であっても本人の代わりに勝手に示談をすることはできないのです。
(3)成年後見の申立てと選任後の役割
成年後見の申立ては、必要書類を準備して家庭裁判所に提出します。申立てに求められる資料は、戸籍、診断書、財産関係の資料等多岐にわたります。
そして、家庭裁判所の審判によって成年後見人に選任された人は、その後本人の財産を適切に管理する義務が生じるとともに、家庭裁判所にも定期的に入出金記録等の提出を求められます。
なお、本人の財産が大きい場合等には、ご家族ではなく弁護士などの第三者が成年後見人に選任されることがあります。その場合には、ご家族であっても被害者本人の財産に関与することはできません。出金をする必要があれば、その都度成年後見人に依頼して手続きを採る必要があります。
(4)弁護士に依頼する場合
ご家族が交通事故の被害に遭い大きなお怪我をされた中、保険会社や病院等のやり取りに加えて成年後見申立ての準備も行っていくのは、非常に負担が大きいことと思います。また、成年後見人(または保佐人・補助人)が必要になるケースは、慰謝料等賠償額も高額になるケースが多く、適切な賠償を受けるためには保険会社との交渉が不可欠です。
弁護士に依頼すれば、病院とのやり取りのサポート、保険会社との交渉、成年後見申立て手続きのサポート等を任せることができるのでご家族の負担も軽くなります。
なお、本人との意思疎通が困難で、いまだ成年後見の申し立てをしていない場合でも弁護士との相談自体はもちろん可能です。成年後見が必要かどうかの判断も含めて、早めに弁護士にご相談されるのがよろしいかと思います。
11 通勤中又は業務上の事故における労災保険と後遺障害3級の損害賠償との関係
(1)労災保険とは
労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。労災保険の後遺障害2級に該当する場合、労災保険から、療養給付、休業給付、障害給付及び介護給付が支給されます。なお、労災保険から、精神的な苦痛を補償するための慰謝料の給付はありません。
(2)労災保険の障害等級
労災における後遺障害等級は、労災保険法施行規則の別表第1障害等級表に整理されております。そして、それぞれの認定基準は「障害等級認定基準」という通達で公開されています。
交通事故の自賠責保険の後遺障害も、この労災の障害等級認定基準を利用しているため、交通事故で認定された等級と同じ等級が認定されることが多いです。
ただし、交通事故が、雇用先とは違って、まったく関係のない第三者に損害賠償責任を求めるものであることや、労災保険には過失相殺や素因減額という調整がないことから、交通事故の自賠責保険の等級と労災の等級が一致しないこともあります。
(3)労災保険の後遺障害3級の障害給付の内容
障害年金 給付基礎日額の245日分 障害特別支給金(一時金)300万円 障害特別年金 算定基礎日額の245日分 |
(4)労災保険と損害賠償との関係
労災保険の後遺障害3級の障害給付の内容として、障害年金、障害特別支給金、障害特別年金の3種類があります。
一方、加害者に対する損害賠償の後遺障害3級の後遺障害に対する補償としては、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の2種類があります。
労災保険でも3級が認定され、交通事故の自賠責保険でも3級が認定された場合には、上記の補償のうち、障害年金と後遺障害逸失利益は一部調整がありますが、その他の費目は、別々に受け取ることができます。たとえば、労災保険は慰謝料の支給はありませんから、労災保険の給付と、加害者から受け取る後遺障害慰謝料は、無関係ですので、労災保険を受け取っていても、加害者から、さらに満額の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。そのため、通勤災害や業務災害で後遺障害3級が残ってしまった場合には、労災の申請も交通事故の賠償金の交渉も、両方やったほうが多くの補償を受け取ることができます。
なお、障害年金と後遺障害逸失利益は調整されます。具体的には、先に障害年金を受け取っている場合には、受け取った障害年金の額が、被害者が加害者に対して請求できる後遺障害逸失利益から控除され、その分、労災保険が、加害者に請求していくことになります。一方で、先に交通事故の賠償金を受け取った場合には、その後、障害年金が支給停止となります。ただし、支給停止期間は、最大で、事故から7年までの間です。したがって、障害年金と後遺障害逸失利益は一部調整があるものの、支給停止期間を過ぎれば、交通事故の後遺障害逸失利益とは別に、労災保険からも障害年金が受け取れるということになります。
12 障害基礎年金・障害厚生年金と後遺障害3級の損害賠償との関係
(1)障害年金とは
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、受け取ることができる年金です。
国民年金や厚生年金といえば老後(65歳)になってから支給されるイメージがありますが、この老後に受給できるものを老齢基礎年金・老齢厚生年金と言い、障害を理由に受給できるものを障害基礎年金・障害厚生年金と言います。交通事故で障害が残った場合には、障害年金の申請もできます。
(2)障害年金の障害等級
障害年金は障害の程度(1級から3級)によって、受給できる年金額が変わります。
通常、交通事故の後遺障害等級が3級である事案において、障害年金の等級においては1級もしくは2級の認定となることもあります。
交通事故の後遺障害等級の認定基準と障害年金の認定基準は異なりますので、制度間で異なる等級が出ることもあります。例えば、「咀嚼(そしゃく)の機能を廃したもの」は、交通事故の後遺障害等級では1級ですが、障害年金の等級では2級となります。
気を付けたいのは、1級、2級の場合は障害基礎年金と障害厚生年金の2階建てで受給することが可能になるのに対して、3級の場合は受けられる年金が障害厚生年金のみとなる点です。
(3)障害年金と損害賠償との関係
障害年金と損害賠償(休業補償及び逸失利益)は、いずれも、生活保障のための補償です。そのため、原則として、二重で受け取ることはできません。
たとえば、障害年金を示談する前に受け取り始める場合には、受け取った額が、損害賠償金から控除されていきます(障害年金を払った国は、その分、加害者に求償していくので、加害者側の支払としては減っているわけではありません。)。
一方で、示談した後に障害年金を申請しても、受け取った損害賠償のうち逸失利益に該当する費目分の金額に達するまで、障害年金が支給停止となります(厚生年金保険法40条、国民年金法22条)。
以上のように二重で受け取ることができない仕組みとなっているのですが、だからといって、障害年金の申請をしなくていいということではありません。
令和4年時点で、国が支給停止をする期間は、最大で3年分にとどめる運用をしています。そのため、二重受給が禁止されているのは、最大3年の範囲です。将来において、この支給停止期間が延長される可能性はありますが、現時点では、申請するのが最善の方法です。
なお、障害年金は、精神的苦痛を補償するものではありませんので、障害年金を受け取っても、加害者に請求できる慰謝料は減ることはありません。