後遺障害等級5級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説
後遺障害等級5級の慰謝料の適正な相場はどのようなものでしょうか。後遺障害等級5級の認定を受けた方やそのような等級が想定される方向けに、適正な補償を受けられるよう慰謝料の相場等を解説します。
この記事の監修者
弁護士 馬屋原 達矢
弁護士法人サリュ
大阪弁護士会
交通事故解決件数 900件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2005年 4月 早稲田大学法学部 入学
2008年 3月 早稲田大学法学部 卒業(3年卒業)
2010年 3月 早稲田大学院法務研究科 修了(既習コース)
2011年 弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【著書・論文】
交通事故案件対応のベストプラクティス(共著:中央経済社・2020)等
【獲得した画期的判決】
【2015年10月 自保ジャーナル1961号69頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の足首の機能障害等について7級という等級を判決で獲得
【2016年1月 自保ジャーナル1970号77頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の腰椎の機能障害について8級相当という等級を判決で獲得
【2017年8月 自保ジャーナル1995号87頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責14級の仙骨部痛などの後遺障害について、18年間の労働能力喪失期間を判決で獲得
【2021年2月 自保ジャーナル2079号72頁に掲載】(交通事故事件)
歩道上での自転車同士の接触事故について相手方である加害者の過失割合を7割とする判決を獲得
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目次
1 後遺障害等級5級に対する補償の計算の全体像
後遺障害等級5級の認定を受けた方の補償は、以下の4つで構成されています。
①加害者(任意保険会社)からの賠償金 ②加害者の自賠責保険からの自賠責保険金 ③被害者の人身傷害保険 ④労災保険・国民年金・厚生年金からの社会保障 |
本記事では、まず、加害者(任意保険会社)からの賠償金として重要な、後遺障害慰謝料、近親者慰謝料、逸失利益、介護費について解説します。
次に、自賠責保険金の受け取り方について解説します。
続いて、人身傷害保険の使い方を解説します。
その上で、実際の保険会社との交渉において弁護士を入れて裁判をすることの意味をご理解いただくために弁護士法人サリュの解決事例を紹介します。
最後に、加害者から受け取る慰謝料等の補償金とは別に、労災保険等の社会保障を申請することのメリットを解説します。
2 後遺障害等級5級の後遺障害慰謝料
(1)後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の説明と相場
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことに対する将来の精神的苦痛に対する賠償です。後遺障害が残ったことによる収入減の賠償や介護に必要な賠償とは別に、精神的な苦痛に対して補償される損害項目です。
後遺障害等級5級の後遺障害慰謝料の相場は裁判の基準(赤い本基準)で1400万円です。
後遺障害慰謝料の自賠責基準と裁判基準との差額
弁護士基準の後遺障害慰謝料相場
自賠責基準 | 弁護士基準 | ||
別表第1 | 別表第2 | ー | |
1級 | 1650万 | 1150万 | 2800万 |
2級 | 1203万 | 998万 | 2370万 |
3級 | 861万 | 1990万 | |
4級 | 737万 | 1670万 | |
5級 | 618万 | 1400万 | |
6級 | 512万 | 1180万 | |
7級 | 419万 | 1000万 | |
8級 | 331万 | 830万 | |
9級 | 249万 | 690万 | |
10級 | 190万 | 550万 | |
11級 | 136万 | 420万 | |
12級 | 94万 | 290万 | |
13級 | 57万 | 180万 | |
14級 | 32万 | 110万 |
ただし、これはほかの後遺障害でも共通することですが、以下のような事由があれば、本人の後遺障害慰謝料がさらに増額されることもあります。
・加害者が飲酒運転、ひき逃げ、速度超過、信号無視などしていた場合
・財産上の損害の算定が困難であるため慰謝料で調整せざるを得ない場合
近親者慰謝料
近親者による被害者の介護が必要な場合には、近親者にも別途、慰謝料が認められることがあります。その結果、本人の後遺障害慰謝料と近親者の慰謝料を併せた合計額が1400万円を超えることもあります。以下、2つの例を紹介します。
- 千葉地方裁判所平成22年 5月28日判決
-
【例1】高次脳機能障害(別表第2第5級2号該当)の後遺障害が残った大学院生(男・固定時26歳)に、記憶力の低下や怒りっぽくなるなどの状況を呈し、食事の準備や洗濯等ができず、両親がそれらを代行している等の場合(千葉地方裁判所平成22年 5月28日判決、自保ジャーナル 1853号40頁)
この裁判例では、逸失利益の計算が学齢に鑑みて過小となっている可能性があることや、症状固定後も整体等の治療の必要を生じていることなどを理由に本人の慰謝料が増額され、本人の後遺障害慰謝料は1700万円と認定されています。さらに、介護を余儀なくされた父母の固有の慰謝料として各50万円が認定されています。つまり、近親者慰謝料として合計100万円が本人の慰謝料に加えて認められています。
- さいたま地方裁判所令和元年12月24日判決
-
【例2】高次脳機能障害(別表第2第5級2号認定、自賠責3級3号)の後遺障害が残った小学生(男・事故時6歳)について、幼い年齢で受傷し後遺障害を負ったこと、近親者との関係性における葛藤や将来に対する不安など相当な精神的負担を考慮した場合(さいたま地方裁判所令和元年12月24日判決、自保ジャーナル 2065号1頁)
この裁判例では、小児で受傷して後遺障害を負ったことなどが考慮され、本人の後遺障害慰謝料は1700万円と認定されています。さらに、父母には各100万円が認定されています。よって、合計1900万円が慰謝料として認められています。
後遺障害等級5級の慰謝料のまとめ
被害者本人の後遺障害慰謝料の相場は1400万円ですが、事故態様が悪質な場合や、近親者に介護をしてもらう必要がある場合には、1400万円を超える慰謝料を認める事例もありますので、弁護士にご相談ください。
関連記事:後遺障害慰謝料【交通事故】等級相場・計算方法・もらい方を解説
(2)後遺障害慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリット
保険会社が後遺障害慰謝料の相場の金額を提示するとは限らない。
保険会社は、自賠責基準という国が定めた最低限度の補償については、支払う義務があります。一方で、自賠責基準を超える賠償金については、保険会社から被害者に対して、提示する義務がありません。
そのため、以下のとおり、被害者に示される賠償金の内訳は、一見して、正しそうに見えても、いわゆる裁判基準に比べると、低いことが通常です。
①自賠責基準 618万円
国が定めた最低限度の補償です。
加害者側の任意保険会社は、少なくともこの金額を支払う義務があります。
②任意保険基準 618万円~
任意保険会社が、独自で定めた基準です。
自賠責基準とほとんど変わらないことが多いです。
③裁判基準 1400万円
裁判で認められる基準です。
先ほどの後遺障害慰謝料の相場で述べた金額は、この裁判基準の金額です。
このように、後遺障害慰謝料の自賠責基準と裁判基準は、782万円の違いがあるのです。
弁護士に依頼するメリット
保険会社は、自賠責基準以上の賠償金を被害者に対して提示する義務がないので、強制的に裁判基準の金額を支払わせるためには、裁判が必要です。後遺障害5級の裁判は、後遺障害慰謝料も高額となりますので、高額な裁判業務の代理ができるのは、法律の専門家である弁護士だけになります。
また、裁判までは望まないというケースにおいても、弁護士が示談交渉をすることで、裁判基準に近い金額で示談するということも可能です。
3 後遺障害等級5級の後遺障害逸失利益
(1)逸失利益の計算方法
逸失利益(いっしつりえき)とは、被害者の身体に後遺障害が残り、労働能力が減少したために将来発生するものと認められる収入の減少に対する損害賠償の項目です。
以下の計算式を使って、算出します。
【計算式】基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間の年数のライプニッツ係数 |
ア 基礎収入とは
被害者が事故に遭わなければ本来稼いでいた額になるので、一般的には事故前年の収入額を用います。
イ 労働能力喪失率
後遺障害により労働能力がどの程度低下したかを数字であらわしたものです。
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて一応の基準が定まっています。
後遺障害等級5級の労働能力喪失率は79%とされています。
ウ 労働能力喪失期間とライプニッツ係数
労働能力喪失期間とは、労働能力喪失による収入の減少がいつまで続くかの期間のことです。後遺障害事案における労働能力喪失期間の始期は症状固定時、終期は67歳が原則です。
逸失利益は、後遺障害を前提として将来現実化すると考えられる損害です。それを紛争解決時に一括して受領するため、現在の価格(現価)に引き直す※必要があります。そのために、労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数(年金現価係数)を用いて中間利息を控除します。
※令和2年4月1日以降に発生した事故の場合は年利3%で引き直します。
※平成22年4月1日以降令和2年3月31日までに発生した事故の場合は年利5%で引き直します。
エ 計算例
令和4年1月1日発生の事故 会社員・事故前年年収500万円 症状固定時30歳・男性 500万円×79%×22.1672(37年に対応するライプニッツ係数) =8756万0440円 |
(2)逸失利益の交渉を弁護士に依頼するメリット
保険会社は、自賠責保険金の金額を超える賠償金を提示する義務がありません。
また、「基礎収入」「労働能力喪失率」「労働能力喪失期間」のいずれの点においても、以下のような争点が出てくるため、しっかりと交渉するためにも弁護士に依頼するメリットがあります。
ア 基礎収入について
サラリーマンのように給与所得者の場合は、事故前年の収入を基礎収入として計算しますが、例えば事故前年がちょうど転職した時期で、たまたま収入が低い、もしくは無職だった場合は事故前数年間の収入資料等を用いて実態に即した収入額を立証する必要があります。
次に、自営業者(個人事業主)の場合、事故前年の確定申告書を用いて計算しますが、事故前年に事業を開始したばかりであった場合や何らかの理由で確定申告をしていない方などについては、事故前の時期の帳簿など売上等が分かる資料を用いて実態に即した収入額を立証する必要があります。
イ 労働能力喪失率について
労働能力喪失率は、一応の基準が定まっている(後遺障害5級の場合は79%)とはいえ、被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度、事故前後の稼働状況、所得の変動等を考慮して判断されます。
また、公務員の方については、後遺障害の内容によっては、職場の配慮によって、仕事を継続できる場合があります。そのような場合、労働能力は失われていないとして保険会社が否定してくることがあります。
ウ 労働能力喪失期間について
年齢等によっては、もともと長く働くことはできなかったなどの主張をする保険会社もいます。
上記争点の例は一部ですが、逸失利益についても慰謝料と同じように、保険会社は様々な理由等をつけて、相場より低い金額を提示することがありますので、注意する必要があります。
4 後遺障害等級5級の介護費
(1)介護費とは
後遺障害等級5級の事案において、重要な損害項目は、①後遺障害慰謝料と②逸失利益です。
介護費とは、被害者が介護施設に入ることになったり、訪問介護を必要としたり、家族が自宅で介護をすることになった場合に、その費用や負担について賠償を受けるときの損害項目の一つです。
自賠責保険では常時介護や随時介護にあたらない後遺障害等級5級でも、1級や2級のように介護費が認められるか問題になりますが、後遺障害等級5級の事案でも介護費は認められています(ただし、3級より下位の等級になるにつれ認められにくくなる傾向です)。
(2)介護費の計算方法
症状固定後の介護費の計算は、一般的には次の計算方法によります。
【計算式】日額 × 365日 × 介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数 |
日額は、介護の内容によって様々です。常時介護の場合、親族の介護であれば日額8000円、職業付添人による介護であれば日額1万5000円から1万8000円程度が認められることが多いです。常時介護の金額の目安がこの程度になるため、後遺障害等級5級の随時介護の場合には、介護の程度や介護にかかる時間等個別具体的な事情により上記常時介護の基準額から減額して認定されることが多いです。以下、いくつか裁判例を紹介します。
日額3000円を認めた裁判例(横浜地方裁判所平成15年 7月31日判決、自保ジャーナル 1520号20頁
-
高次脳機能障害(別表第2第5級2号)の後遺障害が残った会社員(男・29歳)について、将来にわたって随時介護の必要があるとのことで、日額3000円を認めました。
- イ 日額2000円を平均余命までの期間を認めた裁判例(東京地方裁判所平成23年10月26日判決、自保ジャーナル1861号1頁)
-
高次機能障害(別表第2第7級)、半盲(別表第2第9級)及び外部醜状(別表第2第7級、併合5級)の後遺障害が残った被害者(女・固定時24歳)について、日常生活の動作が自ら行うことはできず、誰かからの呼びかけが必要であり、外出時には付き添うことが必要であることから平均余命まで日額2000円を認めました。
付添費の日額と年額が計算できたら、その次に、介護の期間に年数に対応するライプニッツ係数を乗じます。
症状固定時30歳、事故時サラリーマンの男性の計算例 前提条件① 日額3000円 前提条件② 平均余命 52歳(ライプニッツ係数)26.1662 3000円 × 365日 × 26.1662= 2865万1989円 |
(3)後遺障害慰謝料と逸失利益と介護費の合計
ここで、ここまでに出てきた損害項目を簡単に整理します。
症状固定時30歳、事故時サラリーマンの男性の計算例 前提条件① 介護費日額:3000円 前提条件② 平均余命 52歳(ライプニッツ係数26.1662) 前提条件③ 事故前年収 500万円 後遺障害慰謝料 1400万円 後遺障害逸失利益 8756万0440円 介護費 2865万1989円 合計 1億0441万2429円 |
(4)介護費の交渉を弁護士に依頼するメリット
介護費の計算式の確認です。
【計算式】日額 × 365日 × 介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数 |
この計算式のうち、保険会社は、日額と介護の期間が争ってきます。
保険会社は、後遺障害5級の自賠責保険金額である1574万円の範囲でしか、賠償案を提示する義務がありません。そのため、保険会社は、日額を低くし、介護期間は短く認定してくる傾向があります。
そのため、現在及び将来予想される介護状況を詳しく立証し、相手と交渉することが大切です。
5 後遺障害等級5級のその他の損害項目
(1)慰謝料や逸失利益や介護費以外に認められる賠償の例
後遺障害5級が認定された場合、将来の治療費や、将来の治療に必要な交通費、紙おむつ等の雑費、家屋改造費、車椅子や介護ベッドなどの買替費用なども損害も請求できます。
また、脳挫傷で後遺障害5級の認定を受けた高校生(男・17歳)について、1年間留学した学費と1年分の通学付添費を認めた例もあります。(横浜地方裁判所平成11年2月24日判決、自保ジャーナル1330号3頁)
(2)交渉を弁護士に依頼するメリット
慰謝料や逸失利益や介護費については、保険会社から一応の提示はあるものの、これら以外の損害項目については、被害者から交渉をしていかないと、保険会社から提示されないこともあります。
たとえば、自宅改造費につき、右股関節・右膝関節・右足関節が完全硬直またはこれに近い状態で下肢の用を全廃で、後遺障害で5級7号の認定を受けた被害者(男・固定時42歳)の家屋改造費(車椅子昇降機の設置・トイレや扉の改装等)として、約177万円が認められたケースがあります(東京地方裁判所平成20年11月12日判決・交民41.6.1448)。
6 後遺障害等級5級の等級認定の流れと自賠責保険金の受け取り方
(1)後遺障害等級の審査の方法と自賠責保険金の受け取り時期の違い
後遺障害等級は、後遺障害慰謝料や介護費の計算に影響を与えます。
後遺障害等級は、症状固定時に主治医に後遺障害診断書を作成してもらった上で、①事前認定という手法、または、②被害者請求という手法で、審査を受けます。
事前認定の特徴は、被害者が資料を集める必要がない反面、後遺障害等級に対応する自賠責保険金(1574万円)が、すぐには受け取れません。
被害者請求の特徴は、被害者が資料を集める必要がありますが、等級の認定時に、自賠責保険金を受け取ることができます。
症状固定までは、保険会社が生活費などを毎月払ってもらえることがありますが、保険会社は、症状固定後は、支払を止めることが一般的です。そのため、症状固定時から最終的な示談金を受け取るまでの間には、数カ月以上かかりますので、被害者請求をして、自賠責保険金を先に受け取っておくのがよいでしょう。
(2)後遺障害等級5級の症状と認定基準
認定基準は、自動車損害賠償保障法施行令という法令の別表に整理されております。
後遺障害等級5級の認定基準は以下のとおりです。等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行います(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準第3)。
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
- 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
- 1上肢を手関節以上で失ったもの
- 1下肢を足関節以上で失ったもの
- 1上肢の用を全廃したもの
- 1下肢の用を全廃したもの
- 両足の足指の全部を失ったもの
(3)後遺障害等級の申請を弁護士に依頼するメリット
上記に説明したとおり、後遺障害等級5級には、いくつかの類型がありますが、注意しなければいけないのは、上記の等級以外でも5級になることもあり、場合によっては、3級相当の慰謝料が受け取れる場合があるということです。
例えば、「1上肢を手関節以上で失つたもの」として別表第2の第5級4号と、「1下肢に偽関節を残すもの」として別表第2の第8級9号に該当するという判断を受けた場合、併合という方法で等級が繰り上がり、全体の後遺障害を見れば、結果的に、3級相当になるということもあります。
そのため、後遺障害の等級審査は、漏れがなく、全ての症状が等級に反映されているかをチェックする必要があります。
後遺障害5級という重症事案においては示談交渉や裁判において適正な賠償金を受け取るには弁護士を入れることが事実上必須となりますので、そうであれば、後遺障害認定前から、ご依頼いただくのがスムーズです。
また、認定された等級に不服がある場合、自賠責保険に対して異議申立を行うことができますが、この場合、認定された後遺障害が妥当ではないことを新たな医療証拠等を添付する必要があります。
どのような医療証拠等を用意すべきか、またどのように取得すればいいか、交通事故の事件処理経験が多い弁護士であれば対応することができます。
7 後遺障害等級5級の保険会社との交渉を弁護士に依頼をするメリット
(1)保険会社の交渉の傾向
保険会社は、被害者に対して、後遺障害5級の賠償金として、自賠責の保険金額である1574万円を超えた金額を提示する義務がありません。
そのため、後遺障害慰謝料や逸失利益や介護費をいくらとするか、被害者と保険会社との間の交渉によって、決める必要があります。
また、将来の治療費や、将来の治療に必要な交通費、紙おむつ等の雑費、家屋改造費、車椅子や介護ベッドなどの買替費用といった損害項目は、被害者から指摘していかないと、損害として取り上げてもらえないこともあります。
(2)自賠責基準とは?
加害者は、自賠責保険と任意保険の2種類に加入しています。多くの場合、被害者が自賠責保険と任意保険の両方に分けて請求する手続きの手間を省くため、任意保険会社が自賠責保険の分も含めて一括して窓口となります。そのため、任意保険会社からの支払には、自賠責保険から出る分と任意保険会社の持ち出しの分が含まれています。
自賠責保険は、国が加入を強制している保険です。そのため、支払い基準を国が定めています。具体的には、自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払は、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める「保険金額」を限度として、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という告示によって、その基準が公表されています。
この保険金額や支払基準を、業界では、「自賠責基準」と表現します。
「保険金額」というのは簡単に言えば上限額のことです。後遺障害5級の賠償金を考える上で、重要なのは、後遺障害5級の自賠責保険の上限額は1574万円ですので、それを超えた金額が、任意保険会社の負担額であるという視点です。
(3)自賠責基準と任意基準と裁判基準の違い
自賠責基準は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という告示で公開された賠償金の上限額と支払基準です。保険会社は、この基準を下回る示談はできません。
一方で、裁判基準とは、裁判をした場合に認めらえる金額です。過失が少ない後遺障害等級別表2の5級のケースでは、ほとんどの場合、数千万円の単位で、自賠責基準より裁判基準の方が高くなります。
・事例でみる裁判基準と自賠責基準の差
別表第2の5級、過失なし、症状固定時30歳、事故時サラリーマンの男性の計算例 前提条件① 日額:3000円 前提条件② 平均余命 52歳(ライプニッツ係数26.1662) 前提条件③ 事故前年収 500万円 自賠責基準 1574万円 裁判基準 1億0441万2429円 内訳) 後遺障害慰謝料 1400万円 後遺障害逸失利益 8756万0440円 介護費 2865万1989円 合計 1億0441万2429円 |
この事例においては、自賠責基準と裁判基準で8800万円以上の差があります。
では、任意保険会社は、被害者本人に対して、いくらの賠償金を提示するでしょうか。
この点は、特に決まりというものがありませんが、任意保険会社の独自の計算を提案してきます。一概には言えませんが、裁判基準と比べると著しく低廉であることが多いです。紛争の実際は、後で記載する解決事例をご覧ください。
(4)弁護士に依頼するメリット
裁判基準で交渉ができる。
任意保険会社は、被害者に対して、自賠責基準の金額、もしくは任意保険会社が相当だと考える示談金を提示してきます。
しかし、その金額は、本来の裁判基準よりも著しく低廉であることが多いです。
弁護士にご依頼いただくことで、保険会社が提示してきた金額の不当な点を明らかにし、裁判基準で増額交渉をすることが可能です。
過失割合を争うことできる
後遺障害等級5級の事案においては、過失割合が1割違うだけで、数百万から数千万単位の金額に影響を与えます。
刑事記録や防犯カメラの映像、車の損傷状況などから、事故態様を明らかにし、適正な過失割合で交渉をすることができます。
裁判ができる。
後遺障害等級5級の裁判は膨大な損害額の計算や相手方の主張に対する反論、場合によっては証人尋問などの手続きが必要となり、弁護士を入れて行うことがほとんどです。
裁判をすることの効果としては、示談交渉に比べて、以下の点があります。
① 適正な慰謝料等を強制的に払わせることができる。
② 弁護士費用の一部を加害者に負担させることができる。
③ 過失がある場合、ご自身の人身傷害保険から受け取れる額も増える。
(5)弁護士に依頼した後の流れ
弁護士にご依頼いただくと、保険会社との窓口は全て弁護士が行います。
裁判も弁護士が出席し、被害者の方には裁判所に出頭していただかなくてもかまいません。(当事者尋問等で出頭していただくこともあります。)もちろん、全ての裁判に弁護士と一緒に同席いただくことも可能です。
計算が困難な将来の介護費などの費目も、弁護士が裁判例を調査し、適正金額を求めていきます。
8 人身傷害保険と後遺障害5級の損害賠償との関係
人身傷害保険とは、被害者が加入している自動車の保険で、ご自身のお怪我や後遺障害を補償がでる保険です。加害者がいる保険では、あまり、使われることが少ない保険ですが、ご自身に過失割合があるときには、忘れずに使わなければいけない保険です。
たとえば、後遺障害5級の総損害額が1億円として、被害者にも1割の過失があるとします。すると、加害者からは9割、つまり、9000万円が支払われることになりますが、これだけでは、将来においてかかる介護費や生活費が不安です。こんな場合でも、もし、人身傷害保険があれば、過失で控除された1000万円を人身傷害保険から受け取ることが可能です。
ただし、ご自身の保険からも自分の過失割合分の補償を受けるには、加害者との間で裁判を行い、慰謝料の金額、総損害額、さらに過失割合等をはっきりさせる必要があります。
人身傷害保険の上限額や、裁判リスクも考えながら、示談交渉で解決するか、それとも、裁判まで行うか、弁護士と一緒に考えることが重要です。
9 弁護士法人サリュの解決事例
(1)事例№69
高次脳機能障害5級の認定を受け、7000万円の賠償金を獲得
ご依頼の経緯
被害者は、一流企業の課長として将来を嘱望されていましたが、バイクで会社に向かう途中、右折してきた車にはねられ、意識不明の重体となりました。
辛うじて一命を取り留め、意識も回復したものの、ものが覚えられず、職場復帰はとても難しい状況でした。
被害者やその家族は、このままの状態ではいずれ職を失いかねない、そうなったときに備えてきっちりと補償を受けたいという思いで、サリュに依頼されました。
サリュの解決
幸いにも、被害者の会社は、これまでの貢献を考え、リハビリ目的で職場に復帰させた上に、以前の収入を維持したまま、再び被害者の方を迎え入れました。
高次脳機能障害で5級が認定されたといえども、職場に復帰することができ収入は減少していない状況であったため、賠償金が大幅に減額されてしまう可能性があると考え、被害者の会社に赴き、収入が減額していない理由を聞いて、その内容を陳述書にまとめ、退職金の減額の可能性、雇用延長がなされない可能性等を証明書にしてもらうなど丁寧に立証していき、7000万円での和解を成立させました。
(2)事例№164
サリュによる後遺障害診断書修正依頼で賠償金8000万円以上獲得
ご依頼の経緯
被害者は、友人の運転する自動車に同乗していたところ、友人のハンドル操作の誤りにより、自動車がガードレールに衝突するという交通事故に遭いました。
その結果、左腕神経叢損傷となり、左肩から指先までがほぼ動かなくなってしまいました。
ところが、その友人は任意保険に入っておらず、無保険でした。もっとも、幸いにも、友人が運転していた自動車は、被害者の親族が所有するものでしたので、その親族が加入していた人身傷害保険から、被害者の治療費が支払われていました。
被害者は、「適切な後遺障害の認定を受けたい」との想いから、交通事故を専門とするサリュに足を運んでくださり、サリュで後遺障害等級認定からサポートさせていただくことになりました。
サリュの解決
後遺障害の等級認定においては、主治医に作成してもらう「後遺障害診断書」が重要な書類のひとつとなり、被害者の症状が全て適切に記載される必要があります。
被害者が、すでに主治医から受け取った後遺障害診断書を確認すると、主治医の所見として、「左上肢は全くの廃用肢」との記載があるものの、左肩関節、左肘関節に、一定の自動運動が認められました。
そのため、サリュから主治医に対し、「左上肢は全くの廃用肢」と判断した医学的な理由を詳細に記載していただくようお願いし、さらに、被害者から聴取した日常生活報告書を添付して後遺障害の申請を行いました。
その結果、「左肘関節に一定の自動運動は認められるものの、左上肢全体として実用性に乏しいもの」であることが認められ、被害者は、後遺障害等級5級6号の「1上肢用を全廃したもの」という後遺障害の認定を受けることができました。
さらに、本件では、運転者が無保険であったため、当初より被害者の親族が加入していた人身傷害保険が対応していましたが、加えて親族が加入している対人賠償保険の適用があるのではないかとサリュは考えました。
一般的には、人身傷害保険は対人賠償保険に比べて賠償額が少ないので、加害者が無保険である場合には十分な救済を受けることができないのです。また、通常は親族加入の対人賠償保険は、その家族が被害者となった場合には支払いの対象になりません。
しかし、サリュは、約款を精査した結果、親族所有の自動車での事故であっても、運転者自身が親族でない場合には、親族の対人賠償保険が適用されることを主張しました。
その結果、人身傷害保険金で足りない部分が親族の対人賠償保険から支払われるようになりました。
最終的には、合計で8000万円以上の賠償金が支払われることとなり、被害者もこのような解決に満足してくださりました。
10 通勤中又は業務上の事故における労災保険と後遺障害5級の損害賠償との関係
(1)労災保険とは
労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。労災保険の後遺障害5級に該当する場合、労災保険から、療養給付、休業給付及び障害給付が支給されます。なお、労災保険から、精神的な苦痛を補償するための慰謝料の給付はありません。
(2)労災保険の障害等級
労災における後遺障害等級は、労災保険法施行規則の別表第1障害等級表に整理されております。そして、それぞれの認定基準は「障害等級認定基準」という通達で公開されています。
交通事故の自賠責保険の後遺障害も、この労災の障害等級認定基準を利用しているため、交通事故で認定された等級と同じ等級が、認定されることが多いです。
ただし、交通事故が、雇用先とは違って、まったく関係のない第三者に損害賠償責任を求めるものであることや、労災保険には過失相殺や素因減額という調整がないことから、交通事故の自賠責保険の等級と労災の等級が一致しないこともあります。
(3)労災保険の後遺障害5級の障害給付の内容
障害年金 | 給付基礎日額の184日分 |
障害特別支給金(一時金) | 225万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の184日分 |
(4)労災保険と損害賠償との関係
労災保険の後遺障害5級の障害給付の内容として、障害年金、障害特別支給金、障害特別年金の3種類があります。
一方、加害者に対する損害賠償の後遺障害5級の後遺障害に対する補償としては、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の2種類があります。
労災保険でも5級が認定され、交通事故の自賠責保険でも5級が認定された場合には、上記の補償のうち、障害年金と後遺障害逸失利益は一部調整がありますが、その他の費目は、別々に受け取ることができます。たとえば、労災保険は慰謝料の支給はありませんから、労災保険の給付と、加害者から受け取る後遺障害慰謝料は、無関係ですので、労災保険を受け取っていても、加害者から、さらに満額の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。そのため、通勤災害や業務災害で後遺障害5級が残ってしまった場合には、労災の申請も交通事故の賠償金の交渉も、両方したほうが多くの補償を受け取ることができます。
なお、障害年金と後遺障害逸失利益は調整されます。具体的には、先に障害年金を受け取っている場合には、受け取った障害年金の額が、被害者が加害者に対して請求できる後遺障害逸失利益から控除され、その分、労災保険が、加害者に請求していくことになります。一方で、先に交通事故の賠償金を受け取った場合には、その後、障害年金が支給停止となります。ただし、支給停止期間は、最大で、事故から7年までの間です。したがって、障害年金と後遺障害逸失利益は一部調整があるものの、支給停止期間を過ぎれば、交通事故の後遺障害逸失利益とは別に、労災保険からも障害年金が受け取れるということになります。
11 障害基礎年金・障害厚生年金と後遺障害5級の損害賠償との関係
(1)障害年金とは
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、受け取ることができる年金です。
国民年金や厚生年金といえば老後(65歳)になってから支給されるイメージがありますが、この老後に受給できるものを老齢基礎年金・老齢厚生年金と言い、障害を理由に受給できるものを障害基礎年金・障害厚生年金と言います。交通事故で障害が残った場合には、障害年金の申請もできます。
(2)障害年金の障害等級
障害年金は障害の程度(1級から3級)によって、受給できる年金額が変わります。
通常、交通事故の後遺障害等級が5級である事案においては、障害年金の等級において2級の基準となることが多いです。交通事故の後遺障害等級の認定基準と障害年金の認定基準は異なりますので、制度間で、異なる等級が出ることもあります。例えば、「咀嚼(そしゃく)の機能を廃したもの」は、交通事故の後遺障害等級では1級ですが、障害年金の等級では2級となります。
(3)障害年金と損害賠償との関係
障害年金と損害賠償(休業補償及び逸失利益)は、いずれも、生活保障のための補償です。そのため、原則として、二重で受け取ることはできません。
たとえば、障害年金を示談する前に受け取り始める場合には、受け取った額が、損害賠償金から控除されていきます(障害年金を払った国は、その分、加害者に求償していくので、加害者側の支払としては減っているわけではありません。)。
一方で、示談した後に障害年金を申請しても、受け取った損害賠償のうち逸失利益に該当する費目分の金額に達するまで、障害年金が支給停止となります(厚生年金保険法40条、国民年金法22条)。
以上のように二重で受け取ることができない仕組みとなっているのですが、だからといって、障害年金の申請をしなくていいということではありません。
令和4年時点で、国が支給停止をする期間は、最大で3年分にとどめる運用をしています。そのため、二重受給が禁止されているのは、最大3年の範囲です。将来において、この支給停止期間が延長される可能性はありますが、現時点では、申請するのが最善の方法です。
なお、障害年金は、精神的苦痛を補償するものではありませんので、障害年金を受け取っても、加害者に請求できる慰謝料は減ることはありません。