交通事故による脊髄損傷(脊髄馬尾神経の損傷)の後遺障害等級は?弁護士に後遺症相談
今回の記事では、交通事故で脊髄損傷となった方やそのご家族向けに、脊髄損傷の症状や後遺障害の内容、弁護士の活用の意味等について解説します。
交通事故で脊髄損傷となった場合、通常の後遺障害認定手続きよりも慎重な配慮が必要になります。ぜひ最後までご覧ください。
この記事の監修者
弁護士 栗山 裕平
弁護士法人サリュ
静岡事務所
静岡県弁護士会
交通事故解決件数 1,100件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2013年 京都大学法科大学院修了
2013年 司法試験合格
2014年 弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
・平成30年01月26日大阪高裁判決
歩行者との非接触事故につき,自動車運転者の過失責任が認められた事例(判例タイムズ1454号48頁他)
・平成27年7月3日大阪地裁判決
急制動措置をとって転倒滑走した原付自転車が同交差点に進入した加害車両に衝突した事故につき、加害車両運転者に過失責任が認められた事例(交通事故民事判例集48巻4号836頁他)
【弁護士栗山の弁護士法人サリュにおける解決事例(一部)】
事例337:後遺障害併合11級の認定を獲得し、逸失利益を満額回収した建設会社経営者
事例347:異議申立により外傷性ヘルニアの後遺障害併合12級を獲得した事例
目次
1 脊髄損傷とは
まず、そもそも脊髄損傷とはどのような病気でしょうか。
脊髄とは、体を支えている背骨の中を通っている太い神経です。腰椎より下位では、脊髄が細く分岐された馬尾神経も存在します。
脊髄は、その位置によって、頚髄,胸髄,腰髄、仙髄と分けて呼ばれます。そのため、脊髄損傷は、損傷した部位によって、頚髄損傷・胸髄損傷・腰髄損傷・仙髄損傷と呼ばれます。
脊髄が傷つくとさまざまな身体機能の麻痺の症状を起こします。
脱力や運動機能の消失、感覚の低下や消失、しびれや痛み、膀胱と腸の機能低下や消失などです。重症の事案においては、内臓(呼吸器、消化器、泌尿器など)や自律神経にも麻痺の影響が起こることもあります。このように脊髄が損傷し麻痺の症状が出た場合を脊髄損傷と言います。
馬尾神経が損傷された場合においても、脊髄の損傷による障害である運動麻痺(運動障害)、感覚麻痺(感覚障害)、尿路機能障害又は腸管機能障害(神経因性膀胱障害又は神経因性直腸障害)等が生じることから脊髄損傷に含めて後遺障害等級が審査されています。
2 脊髄損傷で適正な後遺障害等級をとるには?
交通事故で脊髄損傷となった場合に、適正な後遺障害等級をとるためには、以下の点に注意しましょう。
(1)外傷性の脊髄損傷であることが明らかな画像を撮影する
脊髄損傷の適正な後遺障害等級を得るには、脊髄損傷の画像所見が必要になります。
脊髄損傷は、受傷後数時間から48時間以内に撮影されたMRIにより、脊髄内の高信号領域が明らかになることが多く、この高信号領域は時間の経過とともに縮小していきます。そのため、受傷後は早期にMRIを撮影しましょう。
(2)神経学的検査を実施する
脊髄損傷の自賠責保険における後遺障害認定においては、神経学的検査に異常所見がないこと、検査結果が一貫していないこと、症状と検査結果との整合性がない場合等に、外傷性の脊髄損傷として後遺障害認定を受けられない場合があります。
神経学的検査とは、主に腱反射のテストを指します。先端が三角形になっているハンマーで肘や膝を叩き、その反応を観察します。これが腱反射のテストです。
脊髄損傷の場合、腱反射のテストの結果は基本的に「亢進」となります。これは、脳からの命令に適切に対応できていないことを示しており、脊髄に異常があることを意味します。
腱反射のテストは、患者が嘘をつくことが難しい検査ですので、脊髄損傷の客観的所見のひとつとされています。この検査結果は等級認定においてとても重要となるため、かならず実施してもらいましょう。
また、神経学的検査による異常所見は、受傷当初から症状固定時まで一貫して存在していることが重要です。
そのため、この神経学的所見の検査は、定期的に実施しましょう。
(3)具体的な症状を書面化する
被害者の症状の重症度を、自賠責保険に適切に伝えるためには、「何ができて、何ができないのか」を詳細に記載した書面を提出する必要があります。
自賠責保険の手続きでは「脊髄症状判定用」と呼ばれる書面がそれですが、作成するのは医師です。医師が被害者の症状を適切に把握し、誤りなく詳細に記載してくれれば問題ありませんが、記載が不十分であったり、実際の症状よりも軽症に読み取れるような記載をしてしまうこともあります。
そのため、普段からご家族が本人の状態をよく観察し、メモにとるなどして記録しておき、医師に正確に伝えることが重要です。
3 脊髄損傷の後遺障害等級の分類と認定の流れ
(1)後遺障害認定における脊髄損傷の評価方法
脊髄損傷の障害等級の評価は、身体的所見やMRI、CTなどの検査結果に基づいて麻痺の範囲と程度を考慮します。ただし、麻痺以外の要因、例えば胸腹部臓器や脊柱に関連する障害がより重要な場合には、これらの要素もトータルで評価されます。障害が第3級以上の場合、介護の必要性とその程度も総合的に勘案されます。
(2)脊髄損傷の後遺障害等級の分類
交通事故で脊髄損傷となり、麻痺等の症状が残存した場合、その症状の程度に応じて以下のような後遺障害が認定される可能性があります。
別表1第1級1号
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生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
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別表1第2級1号
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生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護をを要するもの
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別表2第3級3号
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生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの
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別表2第5級2号
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きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
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別表2第7級4号
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軽易な労務以外には服することができないもの
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別表2第9級10号
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通常の労務に服することはできるが、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
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別表2第12級13号
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通常の労務に服することはできるが、多少の障害を残すもの
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後遺障害の等級は、もらえる賠償金に大きな影響を与えますので、上記の表を参考に、適切な等級が認定されているのかどうか、しっかり確認しましょう。
4 後遺障害等級をとった後の交通事故加害者との交渉のポイント
脊髄損傷の後遺障害等級を取得した後の加害者との示談交渉において、いくつかのポイントが重要です。賠償金を支払う保険会社は、低い賠償金を提案することがありますので、以下の点をしっかり確認しましょう。
(1)賠償金の項目に漏れがないか
交通事故で脊髄損傷となった場合、治療中に発生する治療費、交通費、休業損害、入通院慰謝料のほか、以下のような項目も賠償の対象となります。
漏れがないかどうか、必ず確認しましょう。
項目
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定義
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後遺障害慰謝料
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交通事故や疾病により生じた身体的・精神的な障害や後遺症を将来にわたって抱え続けなければいけないという精神的苦痛に対する賠償金。後遺障害の程度や影響に応じて評価されます。
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後遺障害逸失利益
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事故や疾病により生じた後遺障害による労働能力の制約によって受けた収入の損失に対する賠償です。
後遺障害逸失利益は、 事故前年度の収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 で算出します。 |
将来治療費
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事故や疾病により将来的に必要となる治療や医療費用の費用です。
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将来介護費用
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事故や疾病により将来的に必要となる介護にかかる費用です。将来の介護サービスや介護費用を補償するための金額。
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将来介護雑費
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事故や疾病により将来的に必要となる介護に伴う追加的な費用や経費です。おむつや褥瘡防止クッション等の介護雑費等を指します。
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自宅改造費
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身体的な障害や後遺症により自宅で生活しにくい環境となっている場合に、生活環境を改善するための自宅の改造や修繕費用です。バリアフリー化や補助具の導入などを含みます。
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車両改造費
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身体的な障害や後遺症により自動車の運転や乗車が困難な場合のための車両の改造や装備の費用です。バリアフリー化や手制御装置なども含まれます。
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(2)弁護士基準の慰謝料が算定されているか
賠償項目の一つである慰謝料には、大きく入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の二つに分けられます。これらは、いずれも自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)という3つの基準があります。最も低い基準が自賠責保険基準であり、最も高い基準が弁護士基準です。任意保険基準は両者の間位の金額です。
以下の表は、後遺障害慰謝料に関する自賠責保険基準と弁護士基準の差を示したものです。
自賠責基準 | 弁護士基準 | ||
別表第1 | 別表第2 | ー | |
1級 | 1650万 | 1150万 | 2800万 |
2級 | 1203万 | 998万 | 2370万 |
3級 | 861万 | 1990万 | |
4級 | 737万 | 1670万 | |
5級 | 618万 | 1400万 | |
6級 | 512万 | 1180万 | |
7級 | 419万 | 1000万 | |
8級 | 331万 | 830万 | |
9級 | 249万 | 690万 | |
10級 | 190万 | 550万 | |
11級 | 136万 | 420万 | |
12級 | 94万 | 290万 | |
13級 | 57万 | 180万 | |
14級 | 32万 | 110万 |
保険会社との交渉では、弁護士基準をもとに請求することが肝要です。
(3)適切な過失割合が算定されているか
交通事故で脊髄損傷となってしまった場合、事故の類型によっては保険会社から「被害者側にも落ち度がある」と主張され、賠償金が減額されてしまう場合があります。
これを過失相殺といいます。
しかし、保険会社の主張する過失割合が、交通事故の実態に合っていないケースも多くあります。本来は被害者:加害者=1:9とすべきところを、2:8として算定していたり、3:7として算定しているケースは往々にしてあります。
交通事故で脊髄損傷となってしまった場合には、発生する損害額も高額になるケースが多く、1割過失割合が異なるだけで、数百万円、数千万円の賠償金を失ってしまうこともあります。
そのため、過失割合の算定は慎重になる必要があります。
もし、実態に合致していない過失割合を主張された場合には、ドライブレコーダーや刑事記録、物損資料など駆使して、できるだけ有利な過失割合となるよう交渉することが重要です。
5 脊髄損傷になったときに弁護士に依頼するメリット
脊髄損傷の事案において、弁護士に依頼することには多くの利点があります。
弁護士は専門的な法的知識と豊富な経験を持っており、被害者が適正な補償を受ける手助けを行います。
特に交通事故被害に注力し、専門的知見を有している弁護士に依頼することが重要です。
これにより、適切な後遺障害等級を獲得するために、後遺障害診断書等の医証を不備なく揃えることが可能になりますし、賠償金を漏れなく請求することができます。刑事記録などの必要な証拠を揃え、交渉を有利に進めることが可能になります。
また、裁判になった場合も、弁護士は訴訟手続についても専門的なアドバイスとサポートを提供することができます。
弁護士に依頼することで、被害者はストレスを軽減し、治療や回復に専念できるでしょう。
6 交通事故で脊髄損傷となった方の解決事例
事例351:丁寧な聞き取りと資料収集で、頚髄損傷による後遺障害1級1号が認定。住宅改装費用等も示談交渉で獲得
事例203:びまん性軸索損傷、脊髄損傷などの重傷を負った家族のために、裁判で戦う。
事例65:脊髄症状で9級10号獲得。素因減額なしに2200万円で解決。
事例48:中心性脊髄損傷 事故前の収入を遡って立証し適正な逸失利益を獲得