後遺障害等級1級の慰謝料の適正な相場は?交通事故被害者側専門の弁護士が解説

後遺障害等級1級の慰謝料の適正な相場はどのようなものでしょうか。後遺障害等級1級の認定を受けた方やそのような等級が想定される方向けに、適正な補償を受けられるよう慰謝料の相場等を解説します。

この記事の監修者
弁護士 馬屋原 達矢

弁護士法人サリュ
山口県弁護士会

【略歴】
2005年 4月 早稲田大学法学部 入学
2008年 3月 早稲田大学法学部 卒業(3年卒業)
2010年 3月 早稲田大学院法務研究科 修了(既習コース)
2011年  弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【著書・論文】
交通事故案件対応のベストプラクティス(共著:中央経済社・2020)等
【獲得した画期的判決】
【2015年10月 自保ジャーナル1961号69頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の足首の機能障害等について7級という等級を判決で獲得
【2016年1月 自保ジャーナル1970号77頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の腰椎の機能障害について8級相当という等級を判決で獲得
【2017年8月 自保ジャーナル1995号87頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責14級の仙骨部痛などの後遺障害について、18年間の労働能力喪失期間を判決で獲得
【2021年2月 自保ジャーナル2079号72頁に掲載】(交通事故事件)
歩道上での自転車同士の接触事故について相手方である加害者の過失割合を7割とする判決を獲得

目次

1 後遺障害等級1級に対する補償の計算の全体像

後遺障害等級1級の認定を受けた方の補償は、以下の4つで構成されています。

①加害者(任意保険会社)からの賠償金
②加害者の自賠責保険からの自賠責保険金
③被害者の人身傷害保険
④労災保険・国民年金・厚生年金からの社会保障

本記事では、まず、加害者(任意保険会社)からの賠償金として重要な、後遺障害慰謝料、近親者慰謝料、逸失利益、介護費について解説します。

次に、自賠責保険金の受け取り方について解説します。

続いて、人身傷害保険の使い方を解説します。

その上で、実際の保険会社との交渉において弁護士を入れて裁判をすることの意味をご理解いただくために弁護士法人サリュの解決事例を紹介します。

最後に、加害者から受け取る慰謝料等の補償金とは別に、労災保険等の社会保障を申請することのメリットを解説します。

 

2 後遺障害等級1級の後遺障害慰謝料

(1)後遺障害慰謝料の相場

 ア 後遺障害慰謝料の説明と相場

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことに対する将来の精神的苦痛に対する賠償です。後遺障害が残ったことによる収入減の賠償や介護に必要な賠償とは別に、精神的な苦痛に対して補償される損害項目です。

後遺障害等級1級の後遺障害慰謝料の相場は以下の表のとおり、2800万円です。

弁護士基準の後遺障害慰謝料相場

  自賠責基準 弁護士基準
別表第1 別表第2
1級 1650万 1150万 2800万
2級 1203万 998万 2370万
3級   861万 1990万
4級   737万 1670万
5級   618万 1400万
6級   512万 1180万
7級   419万 1000万
8級   331万 830万
9級   249万 690万
10級   190万 550万
11級   136万 420万
12級   94万 290万
13級   57万 180万
14級   32万 110万

関連記事:後遺障害慰謝料【交通事故】等級相場・計算方法・もらい方を解説

ただし、後遺障害等級1級の中でも、以下のような事由があれば、本人の後遺障害慰謝料がさらに増額されることもあります。

 ・加害者が飲酒運転、ひき逃げ、速度超過、信号無視などしていた場合

 ・財産上の損害の算定が困難であるため慰謝料で調整せざるを得ない場合

 イ 近親者慰謝料

近親者による被害者の介護が必要な場合には、近親者にも別途、慰謝料が認められることがあります。その結果、本人の後遺障害慰謝料と近親者の慰謝料を併せた合計額が2800万円を超えることもあります。

たとえば、加害者の居眠り運転により起きた事故で、遷延性意識障害の後遺障害が残り、自賠法施行令別表第1第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」の認定を受けた固定時69歳の被害者の裁判例(東京地方裁判所平成22年3月26日判決、自保ジャーナル1828号36頁)では、被害者本人の後遺障害慰謝料2800万円とは別に、配偶者に150万、子ども2人にそれぞれ100万円、合計350万円の近親者の慰謝料を認めています。

また、遷延性意識障害や四肢不全麻痺等の後遺障害が残り、自賠法施行令別表第1第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」の認定を受けた事故時35歳の被害者の裁判例(東京地方裁判所平成28年9月6日判決、自保ジャーナル1987号1頁)では、被害者本人の後遺障害慰謝料3000万円に加えて、被害者の両親に200万円ずつの慰謝料(過失相殺前)が発生したことを認めています。

他にも、言語表出不能、摂食困難、四肢痙性麻痺等の後遺障害が残り、自賠法施行令別表第1第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」の認定を受けた事故時7歳の被害者の裁判例(東京地方裁判所平成28年2月25日判決、自保ジャーナル1972号34頁)では、被害者本人の後遺障害慰謝料を2600万としながらも被害者の両親に各200万円ずつの慰謝料を認めています

 ウ 後遺障害等級1級の慰謝料のまとめ

被害者本人の後遺障害慰謝料の相場は2800万円ですが、事故態様が悪質であったり、近親者に介護をしてもらう必要がある場合には、3000万円を超える慰謝料を認める事例もありますので、弁護士にご相談ください。

(2)後遺障害慰謝料の交渉を弁護士に依頼するメリット

 ア 保険会社が後遺障害慰謝料の相場の金額を提示するとは限らない。

保険会社は、自賠責基準という国が定めた最低限度の補償については、支払う義務があります。

一方で、自賠責基準を超える賠償金については、保険会社から被害者に対して、提示する義務がありません。

そのため、被害者に示される賠償金の内訳は、一見して、正しそうに見えても、いわゆる裁判基準に比べると、低いことが通常です。

・ 自賠責基準 1150万円から1850万円

・ 裁判基準  2800万円から                                 

このように、後遺障害慰謝料の自賠責基準と裁判基準は、約1000万円の違いがあるのです。

 イ 弁護士に依頼するメリット

保険会社は、自賠責基準以上の賠償金を被害者に対して提示する義務がないので、強制的に裁判基準の金額を支払わせるためには、裁判が必要です。後遺障害1級の裁判は、後遺障害慰謝料も高額となりますので、高額な裁判業務の代理ができるのは、法律の専門家である弁護士だけになります。

また、裁判までは望まないというケースにおいても、弁護士が示談交渉をすることで、裁判基準に近い金額で示談するということも可能です。

  

3 後遺障害等級1級の後遺障害逸失利益

(1)逸失利益の計算方法

逸失利益(いっしつりえき)とは、被害者の身体に後遺障害が残り、労働能力が減少したために将来発生するものと認められる収入の減少に対する損害賠償の項目です。

逸失利益は、①どれだけ仕事ができた人が、②事故によって労働能力を失い、③何年間仕事ができない状態になったかを計算していきます。

【計算式】

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間の年数のライプニッツ係数

基礎収入は、たとえば、サラリーマンであれば、事故前年の年収となります。

労働能力喪失率は、後遺障害等級1級であれば通常は100%となります。つまり、労働能力の100%を失ったということです。  

労働能力喪失期間のライプニッツ係数とは、将来にわたって得ることができる年収を現時点に一括で受け取る場合に、将来の価値を現在価値に割り戻す際に使われる係数です。

10年であれば  8.5
20年であれば 14.8
30年であれば 19.6
40年であれば 23.1

症状固定時27歳、事故時専業主婦の女性の計算例

前提条件 女性全年齢平均賃金 385万9400円
3,859,400円 × 100% × 23.1
= 89,152,140円

主婦の基礎収入について
もっと詳しく

(2)逸失利益の交渉を弁護士に依頼するメリット

保険会社は、自賠責保険金の金額を超える賠償金を提示する義務がありません。自賠責保険金の金額の上限は、慰謝料や介護費も含めて3000万円から4000万円の範囲です。前記のとおり後遺障害慰謝料の相場が2800万円ですので、仮に後遺障害慰謝料を適正に2800万円払ってもらえるとしても、残りの自賠責保険の枠は200万円から1200万円しか余っておらず、相場の逸失利益がこの枠で収まることは稀です。

したがって、保険会社は、逸失利益についても慰謝料と同じように、相場より低い金額を提示することがあります。問題となりやすい事例について解説します。

 ア 基礎収入の点(若年者、無職者、高齢者)

若年者は、事故前年の収入で計算することには問題があります。逸失利益は将来における収入減を補償する制度ですので、将来の年収をベースに交渉する必要があります。

事故時、無職だった場合、保険会社が基礎収入を認めることは容易ではありません。そのとき無職になっていた理由が一時的なものであり、過去の職歴から将来就労する可能性が高かったことを丁寧に証明していく必要があります。

高齢者や定年退職後の事故である場合も、保険会社が基礎収入を認めるのは容易ではありません。健康状態や就労意欲や就職活動状況などを丁寧に立証する必要があります。

 イ 労働能力喪失率の点(公務員、既往症) 

公務員である場合、後遺障害の内容によっては、職場の配慮によって、仕事を継続できる場合があります。そのような場合、労働能力は失われていないとして保険会社が否定してくることがあります。

また、持病がある場合には、もともと労働能力は失われていたなどと主張し、否定してくることもあります。

これらの点についても、事故と収入減の因果関係を立証していく必要があります。

 ウ 労働能力喪失期間の点(高齢者)

高齢者で持病がある場合など、もともと、長く働くことはできなかったなどの主張をする保険会社もいます。

この点についても、きちんと反論していく必要があります。

    

4 後遺障害等級1級の介護費

(1)介護費とは

後遺障害等級1級の事案において、重要な損害項目は、①後遺障害慰謝料と②逸失利益と③介護費の3つです。

このうち、介護費とは、被害者が介護施設に入ることになったり、訪問介護を必要としたり、家族が自宅で介護をすることになった場合に、その費用や負担について賠償を受けるときの損害項目の一つです。

(2)介護費の計算方法

症状固定後の介護費の計算は、一般的には次の計算方法によります。

【計算式】
日額 × 365日 × 介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数

日額は、介護の内容によって様々ですが、常時介護の場合、親族の介護であれば日額8000円、職業付添人による介護であれば日額1万5000円から1万8000円程度が認められることが多いです。なお、介護保険の利用によって職業付添人の自己負担額の日額1万5000円から1万8000円に届いていなくても、介護保険制度の自己負担額が将来どうなるか確約はありませんので、将来の介護費については、介護保険の適用がない前提で、介護費を計算します。

日額に365日を乗じることで、年単位の介護費を計算します。

そして、介護の期間に年数に対応するライプニッツ係数を乗じます。

10年であれば  8.5
20年であれば 14.8
30年であれば 19.6
40年であれば 23.1

症状固定時27歳、事故時専業主婦の女性の計算例

前提条件① 日額:1万5000円 職業付添人による介護 
前提条件② 平均余命 59歳(ライプニッツ係数27.5)    
1万5000円 × 365 × 27.5= 1億5056万2500円

(3)後遺障害慰謝料と逸失利益と介護費の合計

ここで、ここまでに出てきた損害項目を簡単に整理します。

症状固定時27歳、事故時専業主婦の女性の計算例

前提条件① 日額:1万5000円 職業付添人による介護 
前提条件② 平均余命 59歳(ライプニッツ係数27.5)
前提条件③ 女性全年齢平均賃金 385万9400円

後遺障害慰謝料2800万円
後遺障害逸失利益 8915万円
介護費1億5056万円
合計2億6771万円 

    

(4)介護費の交渉を弁護士に依頼するメリット

介護費の計算式の確認です。

【計算式】
日額 × 365日 × 介護の期間の年数に対応するライプニッツ係数

この計算式のうち、保険会社は、日額と介護の期間を争ってきます。

保険会社は、後遺障害1級の自賠責保険金額である3000万円から4000万円の範囲でしか、賠償案を提示する義務がありません。そのため、保険会社は、日額を安く、介護期間は短く認定してくる傾向があります。

そのため、現在及び将来予想される介護状況を詳しく立証し、相手と交渉することが大切です。

   

5 後遺障害等級1級のその他の損害項目

(1)慰謝料や逸失利益や介護費以外に認められる賠償の例

後遺障害1級が認定された場合、将来の治療費や、将来の治療に必要な交通費、紙おむつ等の雑費、家屋改造費、車椅子や介護ベッドなどの買替費用なども損害も請求できます。

(2)交渉を弁護士に依頼するメリット

慰謝料や逸失利益や介護費については、保険会社から一応の提示はあるものの、これら以外の損害項目については、被害者から交渉をしていかないと、保険会社から提示されないこともあります。

また、家屋改造費についても必要性を争ってきます。家屋の改造については、改造前と改造後の変化が分かるように、工事の前後の写真や、どの工事にいくらかかったのかという工程ごとの金額が分かるようにしておきましょう。

6 後遺障害等級1級の等級認定の流れと自賠責保険金の受け取り方

(1)後遺障害等級の審査の方法と自賠責保険金の受け取り時期の違い

後遺障害等級は、後遺障害慰謝料や介護費の計算に影響を与えます。

後遺障害等級は、症状固定時に主治医に後遺障害診断書を作成してもらった上で、①事前認定という手法、または、②被害者請求という手法で、審査を受けます。

事前認定の特徴は、被害者が資料を集める必要がない反面、後遺障害等級に対応する自賠責保険金(3000万円から4000万円)が、すぐには受け取れません。

被害者請求の特徴は、被害者が資料を集める必要がありますが、等級の認定時に、自賠責保険金を受け取ることができます。

症状固定までは、保険会社が生活費などを毎月払ってもらえることがありますが、保険会社は、症状固定後は、支払を止めることが一般的です。そのため、症状固定時から最終的な示談金を受け取るまでの間には、数カ月以上かかりますので、被害者請求をして、自賠責保険金を先に受け取っておくのがよいでしょう。

関連記事:事前認定で14級の後遺障害申請をするデメリットとは

(2)後遺障害等級1級の症状と認定基準

認定基準は、自動車損害賠償保障法施行令という法令の別表に整理されております。

後遺障害等級1級の認定基準は以下のとおりです。1級は、後遺障害等級の中でも一番重症の場合の等級です。等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行います(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準第3)。

ア 介護を要する後遺障害をもたらす傷害を受けた者(別表第1)
① 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
② 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 
イ その他の後遺障害をもたらす傷害を受けた者(別表第2)
① 両眼が失明したもの
② 咀嚼及び言語の機能を廃したもの 
③ 両上肢をひじ関節以上で失つたもの
④ 両上肢の用を全廃したもの
⑤ 両下肢をひざ関節以上で失つたもの
⑥ 両下肢の用を全廃したもの

(3)後遺障害等級の申請を弁護士に依頼するメリット

上記に説明したとおり、後遺障害等級1級には、いくつかの類型がありますが、注意しなければいけないのでは、本来は1級相当なのに、2級といった誤った評価がされないかという点です。

1級の基準:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

2級の基準:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

この2つの基準の違いは、介護の程度が、「常に」なのか「随時」なのか、という点です。ここが誤ってしまうと、その後の賠償交渉において、介護費を計算するにあたって、不利になることがあります。

後遺障害1級という重症事案においては示談交渉や裁判において適正な賠償金を受け取るには弁護士を入れることが事実上必須となりますので、そうであれば、後遺障害認定前から、ご依頼いただくのがスムーズです。

   

7 後遺障害等級1級の保険会社との交渉を弁護士に依頼をするメリット

(1)保険会社の交渉の傾向

保険会社は、被害者に対して、後遺障害1級の賠償金として、自賠責の保険金額である3000万円から4000万円を超えた金額を提示する義務がありません。

そのため、後遺障害慰謝料や逸失利益や介護費をいくらとするか、被害者と保険会社との間の交渉によって、決める必要があります。

また、将来の治療費や、将来の治療に必要な交通費、紙おむつ等の雑費、家屋改造費、車椅子や介護ベッドなどの買替費用といった損害項目は、被害者から指摘していかないと、損害として取り上げてもらえないこともあります。

(2)自賠責基準とは?

加害者は、自賠責保険と任意保険の2種類に加入しています。多くの場合、被害者が自賠責保険と任意保険の両方に分けて請求する手続きの手間を省くため、任意保険会社が自賠責保険の分も含めて一括して窓口となります。そのため、任意保険会社からの支払には、自賠責保険から出る分と任意保険会社の持ち出しの分が含まれています。

自賠責保険は、国が加入を強制している保険です。そのため、支払い基準を国が定めています。具体的には、自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払は、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める「保険金額」を限度として、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という告示によって、その基準が公表されています。

この保険金額や支払基準を、業界では、「自賠責基準」と表現します。

「保険金額」というのは簡単に言えば上限額のことです。後遺障害1級の賠償金を考える上で、重要なのは、後遺障害1級の自賠責保険の上限額は3000万から4000万円ですので、それを超えた金額が、任意保険会社の負担額であるという視点です。

(3)自賠責基準と任意基準と裁判基準の違い

自賠責基準は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という告示で公開された賠償金の上限額と支払基準です。保険会社は、この基準を下回る示談はできません。

一方で、裁判基準とは、裁判をした場合に認めらえる金額です。過失が少ない後遺障害等級別表1の1級のケースでは、ほとんどの場合、数千万から億単位で、自賠責基準より裁判基準の方が高くなります。

事例でみる裁判基準と自賠責基準の差

別表第1の1級、過失なし、症状固定時27歳、事故時専業主婦の女性の計算例

前提条件① 日額:1万5000円 職業付添人による介護 
前提条件② 平均余命 59歳(ライプニッツ係数27.5)
前提条件③ 女性全年齢平均賃金 385万9400円

自賠責基準4000万円
裁判基準2億6771万円
内訳)
後遺障害慰謝料     2800万円
後遺障害逸失利益    8915万円
介護費       1億5056万円
合計        2億6771万円 

この事例においては、自賠責基準と裁判基準で2億円以上の差があります。

では、任意保険会社は、被害者本人に対して、いくらの賠償金を提示するでしょうか。

この点は、特に決まりというものがありませんが、任意保険会社の独自の計算を提案してきます。一概には言えませんが、裁判基準の 7割程度であることが多いです。紛争の実際は、後で記載する解決事例をご覧ください。

  

(4)弁護士に依頼するメリット

 ア 裁判基準で交渉ができる

任意保険会社は、被害者に対して、任意保険会社が相当だと考える示談金を提示してきます。

しかし、その金額は、本来の裁判基準の7割程度であることが多いです。

弁護士にご依頼いただくことで、保険会社が提示してきた金額の不当な点を明らかにし、裁判基準で増額交渉をすることが可能です。

 イ 過失割合を争うことできる

後遺障害等級1級の事案においては、過失割合が1割違うだけで、数千万単位の金額に影響を与えます。

刑事記録や防犯カメラの映像、車の損傷状況などから、事故態様を明らかにし、適正な過失割合で交渉をすることができます。

 ウ 裁判ができる

後遺障害等級1級の裁判は膨大な損害額の計算や証人尋問などの手続きが必要となり、弁護士を入れて行うことがほとんどです。
裁判をすることの効果としては、示談交渉に比べて、以下の点があります。

①適正な慰謝料等を強制的に払わせることができる。
②弁護士費用の一部を加害者に負担させることができる。
③過失がある場合、ご自身の人身傷害保険から受け取れる額も増える。

   

(5)弁護士に依頼した後の流れ

弁護士にご依頼いただくと、保険会社との窓口は全て弁護士が行います。

裁判も弁護士が出席し、被害者が裁判所に出頭しなければならない機会は最低1回です。もちろん、全ての裁判に弁護士と一緒に同席いただくことも可能です。

計算が困難な将来の介護費などの費目も、弁護士が裁判例を調査し、適正金額を求めていきます。

8 人身傷害保険と後遺障害1級の損害賠償との関係

人身傷害保険とは、被害者が加入している自動車の保険で、ご自身のお怪我や後遺障害を補償がでる保険です。加害者がいる保険では、あまり、使われることが少ない保険ですが、ご自身に過失割合があるときには、忘れずに使わなければいけない保険です。

たとえば、後遺障害1級の総損害額が2億円として、被害者にも1割の過失があるとします。すると、加害者からは9割、つまり、1億8000万円が支払われることになりますが、これだけでは、将来においてかかる介護費や生活費が不安です。こんな場合でも、もし、人身傷害保険があれば、過失で控除された2000万円を人身傷害保険から受け取ることが可能です。

ただし、ご自身の保険からも自分の過失割合分の補償を受けるには、加害者との間で裁判を行い、慰謝料の金額、総損害額、さらに過失割合等をはっきりさせる必要があります。

人身傷害保険の上限額や、裁判リスクも考えながら、示談交渉で解決するか、それとも、裁判まで行うか、弁護士と一緒に考えることが重要です。

9 弁護士法人サリュの解決事例(事例No.86)

 約8000万円の示談提示を裁判の結果1億9000万円に増額

 ご依頼の経緯

Aさんは自賠責で後遺障害1級1号の認定がされました。ご家族の方が保険会社から8000万円強の賠償案の提示を受けていましたが、その金額が妥当なのか不安もあったため、インターネットでサリュを調べてご相談に来ていただきました。

 サリュの解決

① ポイント1 人身傷害保険の活用+裁判の提起

今回の事故では、Aさんにも過失があるため、人身傷害保険から保険金をうまく受領することによって、Aさんの過失分についても十分な賠償を得られると判断し、まずYさんが加入している人身傷害保険会社に7000万円(自賠責保険金4000万円を含む)の請求をした上で、加害者に対し、残額を請求する訴訟を提起しました。

もともと、8000万円強の賠償案を出してきた保険会社としては、すでに7000万円受け取ったのだから、残りは1000万強と考えるかもしれませんが、そのような考えは許されません。

裁判では、人身傷害保険は、あくまで、被害者様の過失割合の補償として優先充当されますので、加害者が本来負うべき負担額はなお存在するのです。

結果的に、裁判所は、加害者が負うべき負担額が、人身傷害保険金7000万円に加えて、慰謝料など1億2000万円残っていると判断しました。

つまり、被害者は、ご依頼前はトータルで8000万円強の賠償金の提示を受けていたのが、トータル1億9000万円(内訳:加害者1億2000万、自賠責保険4000万円、人身傷害保険金3000万円)を受け取ることができたのです。

② ポイント2 介護費が3倍に増額

保険会社は、合計2300万円の介護費の提案を受けていましたが低額にすぎ、正当な金額ではありませんでした。

家族による実際の介護状況等に鑑み、将来における介護の必要性を強く主張しました。

裁判所における和解案においては、Aさんが養護学校に通学している間は1日当たり5000円、その後Aさんの親であるYさんが67歳となるまでは1日当たり8000円、その後については1日当たり1万8000円とされ、合計で7800万円程度の介護費が認定されました。

もともと2300万円の介護費が7800万円となり、3倍以上に増額しました。

10 通勤中又は業務上の事故における労災保険と後遺障害1級の損害賠償との関係

(1)労災保険とは

労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。労災保険の後遺障害1級に該当する場合、労災保険から、療養給付、休業給付、障害給付及び介護給付が支給されます。なお、労災保険から、精神的な苦痛を補償するための慰謝料の給付はありません。

(2)労災保険の障害等級

労災における後遺障害等級は、労災保険法施行規則の別表第1障害等級表に整理されております。そして、それぞれの認定基準は「障害等級認定基準」という通達で公開されています。

交通事故の自賠責保険の後遺障害も、この労災の障害等級認定基準を利用しているため、交通事故で認定された等級と同じ等級が、認定されることが多いです。

ただし、交通事故が、雇用先とは違って、まったく関係のない第三者に損害賠償責任を求めるものであることや、労災保険には過失相殺や素因減額という調整がないことから、交通事故の自賠責保険の等級と労災の等級が一致しないこともあります。

(3)労災保険の後遺障害1級の障害給付の内容

障害年金 給付基礎日額の313日分
障害特別支給金
(一時金)
342万円
障害特別年金 算定基礎日額の313日分

(4)労災保険と損害賠償との関係

労災保険の後遺障害1級の障害給付の内容として、障害年金、障害特別支給金、障害特別年金の3種類があります。

一方、加害者に対する損害賠償の後遺障害1級の後遺障害に対する補償としては、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の2種類があります。

労災保険でも1級が認定され、交通事故の自賠責保険でも1級が認定された場合には、上記の補償のうち、障害年金と後遺障害逸失利益は一部調整がありますが、その他の費目は、別々に受け取ることができます。たとえば、労災保険は慰謝料の支給はありませんから、労災保険の給付と、加害者から受け取る後遺障害慰謝料は、無関係ですので、労災保険を受け取っていても、加害者から、さらに満額の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。そのため、通勤災害や業務災害で後遺障害1級が残ってしまった場合には、労災の申請も交通事故の賠償金の交渉も、両方したほうが多くの補償を受け取ることができます。

なお、障害年金と後遺障害逸失利益は調整されます。具体的には、先に障害年金をうけとっている場合には、受け取った障害年金の額が、被害者が加害者に対して請求できる後遺障害逸失利益から控除され、その分、労災保険が、加害者に請求していくことになります。一方で、先に交通事故の賠償金を受け取った場合には、その後、障害年金が支給停止となります。ただし、支給停止期間は、最大で、事故から7年までの間です。したがって、障害年金と後遺障害逸失利益は一部調整があるものの、支給停止期間を過ぎれば、交通事故の後遺障害逸失利益とは別に、労災保険からも障害年金が受け取れるということになります。

   

11 障害基礎年金・障害厚生年金と後遺障害1級の損害賠償との関係

(1)障害年金とは

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、受け取ることができる年金です。

国民年金や厚生年金といえば老後(65歳)になってから支給されるイメージがありますが、この老後に受給できるものを老齢基礎年金・老齢厚生年金と言い、障害を理由に受給できるものを障害基礎年金・障害厚生年金と言います。交通事故で障害が残った場合には、障害年金の申請もできます。

(2)障害年金の障害等級

障害年金は障害の程度(1級から3級)によって、受給できる年金額が変わります。

通常、交通事故の後遺障害等級が1級である事案においては、障害年金の等級において1級もしくは2級の基準となることが多いです。交通事故の後遺障害等級の認定基準と障害年金の認定基準は異なりますので、制度間で、異なる等級が出ることもあります。例えば、「咀嚼(そしゃく)の機能を廃したもの」は、交通事故の後遺障害等級では1級ですが、障害年金の等級では2級となります。

(3)障害年金と損害賠償との関係

障害年金と損害賠償(休業補償及び逸失利益)は、いずれも、生活保障のための補償です。そのため、原則として、二重で受け取ることはできません。

たとえば、障害年金を示談する前に受け取り始める場合には、受け取った額が、損害賠償金から控除されていきます(障害年金を払った国は、その分、加害者に求償していくので、加害者側の支払としては減っているわけではありません。)。

一方で、示談した後に障害年金を申請しても、受け取った損害賠償のうち逸失利益に該当する費目分の金額に達するまで、障害年金が支給停止となります(厚生年金保険法40条、国民年金法22条)。

以上のように二重で受け取ることができない仕組みとなっているのですが、だからといって、障害年金の申請をしなくていいということではありません。

令和4年時点で、国が支給停止をする期間は、最大で3年分にとどめる運用をしています。そのため、二重受給が禁止されているのは、最大3年の範囲です。将来において、この支給停止期間が延長される可能性はありますが、現時点では、申請するのが最善の方法です。

なお、障害年金は、精神的苦痛を補償するものではありませんので、障害年金を受け取っても、加害者に請求できる慰謝料は減ることはありません。