事前認定で14級の後遺障害申請をするデメリットとは

後遺障害申請をする方法は事前認定と被害者請求の2つがあります。今回のコラムではそれぞれのメリットとデメリット、交通事故を弁護士に依頼するメリットなどを解説します。

この記事の監修者
弁護士 馬屋原 達矢

弁護士法人サリュ
大阪弁護士会

交通事故解決件数 900件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2005年 4月 早稲田大学法学部 入学
2008年 3月 早稲田大学法学部 卒業(3年卒業)
2010年 3月 早稲田大学院法務研究科 修了(既習コース)
2011年  弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【著書・論文】
交通事故案件対応のベストプラクティス(共著:中央経済社・2020)等
【獲得した画期的判決】
【2015年10月 自保ジャーナル1961号69頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の足首の機能障害等について7級という等級を判決で獲得
【2016年1月 自保ジャーナル1970号77頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の腰椎の機能障害について8級相当という等級を判決で獲得
【2017年8月 自保ジャーナル1995号87頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責14級の仙骨部痛などの後遺障害について、18年間の労働能力喪失期間を判決で獲得
【2021年2月 自保ジャーナル2079号72頁に掲載】(交通事故事件)
歩道上での自転車同士の接触事故について相手方である加害者の過失割合を7割とする判決を獲得

1. 後遺障害の事前認定とは

交通事故に遭い怪我をして、ある程度の期間、病院に通い治療を続けても、症状が残ってしまうケースも少なくありません。これ以上治療を続けても医学的に症状が良くならない状態を「症状固定」と言い、その時点で残存している症状が後遺障害(いわゆる「後遺症」)です。

後遺障害について慰謝料などの賠償金を受け取るためには、加害者側の自賠責保険に対し、後遺障害等級の認定申請を行い、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。後遺障害等級には1級から14級まであり、例えば、むち打ち症で首の痛みが残った場合は、後遺障害等級14級9号や12級13号に該当する可能性があります。

この後遺障害等級認定の申請方法には2つの方法があります。「事前認定」「被害者請求」という方法です。事前認定とは、加害者側の任意保険会社を通じて後遺障害の申請する方法です。いわば「保険会社お任せパック」です。一方「被害者請求」とは、被害者自身で申請を行う方法です。

通常、治療期間中は加害者側の任意保険会社が窓口となって治療費の支払いをしているため、後遺障害等級の申請手続きもそのままの流れで加害者側の任意保険会社に任せてしまうケースが多いです。

しかし、事前認定には、以下で説明するようにメリットとデメリットがありますので、事前認定を行う場合にはそれらを十分に検討した上で行うようにしましょう。

2. 事前認定による後遺障害認定のメリットとデメリット

(1)事前認定のメリット

事前認定では、主治医に後遺障害診断書を書いてもらい、それを加害者側の任意保険会社に提出すれば、あとは加害者側の任意保険会社が必要書類を揃えて申請してくれるため、被害者の手間がほとんどかかりません。被害者の手続き的な負担が少ないという点が事前認定の最大のメリットと言えます。

一方、被害者請求の場合は、被害者自身が申請を行いますので、必要書類は被害者自身で揃える必要があります。必要書類とは、交通事故証明書、交通事故発生状況報告書、診断書、診療報酬明細書、後遺障害診断書、画像などです(ただし、後遺障害診断書以外の診断書と診療報酬明細書は、保険会社が治療費の一括対応をしている場合、保険会社が保有していることがほとんどですので、保険会社から取り付ければ足ります)。

(2)事前認定のデメリット

事前認定では、加害者側の任意保険会社が必要書類を揃えて申請するため、申請書類としてどのような書類が出されたか被害者は分かりません。後遺障害の認定手続きは、基本的に書面審査ですので、書類に不備がないことはもちろんのこと、認定に有利な書類は積極的に出すべきです。

しかし、加害者側の任意保険会社は、被害者に対して賠償金を支払う立場にありますので、より上位の後遺障害が認定された場合には、より多くの賠償金を支払わなければなりません。そのような関係にあることから、後遺障害等級認定に必要となる最低限の書類の提出しか期待できず、積極的に有利な等級認定に向けて動いてくれることはありません。

結果として、事前認定の方法を選択した場合には、本来認定されるはずの後遺障害等級の認定を受けることができないおそれがあります。

また、被害者請求の場合は、後遺障害等級が認定されると、被害者に対し自賠責保険から、賠償金の一部として後遺障害等級に応じた自賠責保険金が支払われます。例えば、後遺障害等級14級が認定されると、基本的には自賠責保険から75万円の保険金が等級認定時に支払われます。

一方、事前認定の場合は、この自賠責保険金の先払いがありませんので、最終的に加害者側と示談するまで、まとまった金額の賠償金が入りません。保険会社との交渉は長期化する可能性もありますので、最終的に示談が成立するまで賠償金が手元に入らないという点は、経済的に余裕のない被害者にとっては、非常に大きなデメリットと言えます。

(3)事前認定と被害者請求どちらで申請する方が良いか

 

メリット

デメリット

事前認定

被害者の手続的な負担がほとんどない。

どのような書類が提出されたか分からないという不透明さが残る。

被害者請求

書類の不備を事前に確認し、認定に有利な資料を提出することができる。

等級認定時に自賠責保険金が受け取れる。

被害者の手続的な負担がある。

このように、どちらの申請方法にもメリット・デメリットがありますが、納得のいく結果を求めるならば、被害者請求をおすすめします。

3. 事前認定で14級の後遺障害が認定されたら

事前認定で14級が認定されると、加害者側の任意保険会社から、後遺障害の損害も含めた賠償案(示談金)の提示があります。しかし、加害者側の保険会社に言われるがままに示談の手続きを進めるのではなく、その前に一度弁護士に相談をすることをおすすめします。その理由は大きく2つあります。

(1)より高い後遺障害等級が認定される可能性がある

後遺障害等級14級が認定されたとしても、それが適切な等級であるとは限りません。賠償金の額というのは、後遺障害等級に応じて変わっていきます。より高い後遺障害等級ほど賠償金の額も上がっていきます。ですので、適切な等級が認定されるかどうかというのは非常に大切です。

認定された後遺障害等級に納得がいかない場合には、異議申立の手続きをとることができます。異議申立によって適切な後遺障害等級の認定を受けることができる可能性があります。

そのためには、当初の認定が不適切であることを新たな証拠(例えば、新たな診断書や意見書、画像資料等)によって立証していく必要があります。それには専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。

まずは、認定された後遺障害等級が適切であるかどうかを弁護士に判断してもらい、さらに上位の等級認定を受けることができる可能性がある場合には、弁護士に依頼するとよいでしょう。

保険会社との間で示談が成立した後では、たとえ認定された後遺障害等級が不適切なものであったとしてもそれを覆すことはできません。

そのため、保険会社と示談を成立させる前に弁護士に相談に行くようにしましょう。

(2)賠償金額を増額することができる可能性がある

後遺障害等級14級が認定されると、後遺障害の有無にかかわらず請求できる傷害慰謝料(入通院慰謝料)や休業損害とは別に、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。

そのうち慰謝料は、被害者が交通事故によって被った精神的苦痛を金銭的に賠償するものですが、被害者の主観ではなく客観的な算定基準によって金額を算出します。慰謝料の算定基準には以下の3つの基準があります。

・自賠責保険基準

・任意保険基準

・裁判所基準(弁護士基準)

3つの基準のうち、自賠責保険基準が最も低い金額になる傾向にある基準であり、裁判所基準が最も高い金額になる傾向にある基準です。事案によっては、2倍から3倍程度金額に差が生じることもありますので、どの算定基準を採用するかが非常に重要となります。例えば、14級の後遺障害慰謝料は自賠責基準では32万円ですが、裁判所基準では110万円となり、78万円もの差額が生じます。

裁判所基準と自賠責基準の慰謝料の額の比較

  自賠責基準 弁護士基準
別表第1 別表第2
1級 1650万 1150万 2800万
2級 1203万 998万 2370万
3級   861万 1990万
4級   737万 1670万
5級   618万 1400万
6級   512万 1180万
7級   419万 1000万
8級   331万 830万
9級   249万 690万
10級   190万 550万
11級   136万 420万
12級   94万 290万
13級   57万 180万
14級   32万 110万

※上記自賠責基準は、令和2年4月1日以降に発生した事故に適用する基準。

被害者としては、当然最も高額になる裁判所基準を採用したいと考えますが、裁判所基準を採用することができるのは、原則として弁護士に示談交渉を依頼した場合か裁判を起こした場合です。少しでも多くの慰謝料を獲得したいという場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

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4. 後遺障害認定を受けることにデメリットはあるか

後遺障害申請を検討している被害者の中には、「後遺障害の認定を受けることで日常生活や仕事上のデメリットがあるのでは?」と不安になっている方もいらっしゃいます。特に、体を資本とする職業(建設業や警備員など)の場合、後遺障害の認定による昇級や昇進への影響を懸念される方がいらっしゃいます。

しかし、後遺障害の認定は、あくまで適切な賠償金算定の指標としての意味合いが強く、障害者手帳を交付されるものでもなければ、外部に公表されるものでもありません。後遺障害の認定を受けることによる日常生活上、仕事上のデメリットはありませんので、ご安心ください。

5. 後遺障害の認定を弁護士に依頼するメリット

  後遺障害の認定を弁護士に依頼するメリットとしては、大きく2つあります。

(1)後遺障害等級が認定される可能性を高めることができる

被害者側専門の弁護士に依頼した場合は、多くの場合、被害者請求の方法で後遺障害等級の認定申請を行います。そして、その際、必要書類に不備がないかの確認をすることは当然として、被害者にとって有利な資料がないかを精査した上で、有利な資料があれば提出します。

このように、弁護士に後遺障害の認定を依頼した場合は、綿密な準備を行った上で申請するため、適切な後遺障害等級が認定される可能性を高めることができます。

(2)手続き的な負担を軽減できる

後遺障害等級認定の手続きを被害者請求の方法で行う場合でも、弁護士がすべてサポートしますので、被害者請求による手続き的な負担は、事前認定による場合とほとんど変わりません。

6. まとめ

弁護士に後遺障害等級の認定申請を依頼することで、手続き的な負担が少ないという事前認定のメリットを享受しつつ、後遺障害等級が認定される可能性を高めることができるという被害者請求のメリットをも享受することができます。

また、もし仮に納得のいかない認定結果であったとしても、弁護士が異議申立の手続きを行い、適切な後遺障害等級が認定されるようサポートします。

交通事故の被害に遭った場合には、保険会社とのやり取りをすべて被害者が行わなければなりません。仕事や家事・育児で時間がないにもかかわらず、保険会社との交渉まで行わなければならないというのは大きな負担です。

弁護士に依頼をすることによって、そのような面倒なやり取りをすべて弁護士に任せることができます。後遺障害等級の認定申請や示談交渉には、専門的な知識が必要になりますが、弁護士に任せてしまえば安心です。

7. 弁護士法人サリュの後遺障害認定実績【14級・12級】

弁護士法人サリュでは、基本的に被害者請求による後遺障害申請をおすすめしています。その結果、多くの妥当な後遺障害認定を獲得することができました。

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