自転車事故で家族が死亡したら|事故後の全手続きと遺族がすべきこと

自転車事故で残念ながら身近な存在を亡くしてしまった場合、「これからどんな手続きが必要になるだろうか」「遺された私は、悲しみの中、一体何をすればいいの?」と途方に暮れてしまう方も多いことでしょう。

自転車事故といっても、

・自転車に載っている被害者が車に衝突されてしまうケース

・加害者が自転車であるケース

・自転車同士の衝突事故であるケース

などさまざまな状況があるため、それぞれによってその後すべき対応は異なる部分もあります。

ただし、基本的には以下の流れを辿ると理解していただくと良いでしょう。

このように、失意の中でも、たくさんの手続きを進めなければなりません。手続きの中で重要なものの一つに、交通事故加害者との間の示談交渉があります。一般的に、示談交渉は、四十九日が終わった頃から始めることが多いです。

大切な家族を亡くした遺族は、加害者に対して、死亡慰謝料・死亡逸失利益(事故に遭わなければ得られた収入)・葬儀関係費用を請求することができます。

通常であれば加害者が加入している任意保険会社とのやり取りとなりますが、加害者が保険に加入していない場合や、自賠責など最低限の保険にしか入っていない場合には、ご遺族が、加害者本人と直接交渉しなければならないのです。

どの方法が使えるのか、加害者が加入している保険会社の特定方法、そしてそれぞれのやり方などを、この記事では詳しく解説していきます。

「これから何をしたら良いか分からない」という方は、見通しを持って対応していけるよう、この記事をぜひ何度も読み返しながらこの先のことを進めてください。

この記事の監修者
弁護士 馬屋原 達矢

弁護士法人サリュ
大阪弁護士会

交通事故解決件数 900件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2005年 4月 早稲田大学法学部 入学
2008年 3月 早稲田大学法学部 卒業(3年卒業)
2010年 3月 早稲田大学院法務研究科 修了(既習コース)
2011年  弁護士登録 弁護士法人サリュ入所
【著書・論文】
交通事故案件対応のベストプラクティス(共著:中央経済社・2020)等
【獲得した画期的判決】
【2015年10月 自保ジャーナル1961号69頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の足首の機能障害等について7級という等級を判決で獲得
【2016年1月 自保ジャーナル1970号77頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責非該当の腰椎の機能障害について8級相当という等級を判決で獲得
【2017年8月 自保ジャーナル1995号87頁に掲載】(交通事故事件)
自賠責14級の仙骨部痛などの後遺障害について、18年間の労働能力喪失期間を判決で獲得
【2021年2月 自保ジャーナル2079号72頁に掲載】(交通事故事件)
歩道上での自転車同士の接触事故について相手方である加害者の過失割合を7割とする判決を獲得

1. 自転車死亡事故の後の全ての流れ(手続き・対応・遺族がすべきこと)

自転車事故で残念ながら大切な方を亡くしてしまった場合、遺された家族でその後の手続きを進めていかなければなりません。

自転車事故で死亡した場合にすべきことは、「①葬儀に関連する内容」、「②死亡したことに関連した各種手続き」、「③交通事故が起きたことに関する諸手続き」の3つに大別できます。

これらを、自転車事故発生からの時系列順に並べると、以下のようになります。

【自転車死亡事故が起こった後の手続き・流れ】

事故直後~葬儀まで


①交通死亡事故が発生する


②「検視・検死」が行われる


③遺族に連絡が来て「遺体の確認」を行う


④必要に応じて司法解剖が行われる


⑤遺体が引渡され「死体検案書」が交付される


⑥葬儀社に遺体を搬送してもらう


⑦死亡届・火葬許可申請書を提出する


⑧葬儀(通夜・告別式・火葬)を行う

⑨各種手続きを順次進める


四十九日が終わった頃


⑩示談交渉が開始となる

※これ以外にも、場合によっては、交通事故加害者の刑事裁判に参加することもあります(参加は義務ではありません)。刑事裁判については、「交通事故被害者と刑事裁判 ~交通事故被害者も刑事裁判に積極的に参加しましょう!~」の記事も参考にしてください。

自転車死亡事故が起こった後の手続きなどは、必要に応じて並行して進めていかなければなりません。それぞれについて詳しく解説していきます。

1-1.【事故直後】①交通死亡事故が発生する

 交通事故が発生すると、通常、加害者と被害者、警察による事故状況の確認が行われます。しかし被害者が死亡しているケースでは、被害者が立ち会うことができません。被害者が不在のまま、加害者と警察、目撃者、物証などによる事故状況の確認が実施されます。

被害者の遺族は、この時点では呼ばれず、遺体の確認のタイミングで連絡をもらうことが一般的でしょう。

1-2. ②「検視・検死」が行われる

 交通事故で被害者が亡くなった場合には、警察による「検視」が行われます。検死とは、病院以外の場所などで亡くなった方について、身元や原因などを調査するために行われる刑事手続きをいいます。

引き続き、医師による「検死」が行われて、具体的な死亡原因や死亡に至った状況を医師が医学的に判断します。

検死は手続き上必要なものであり、原則として拒否することはできません。警察の指示に従いましょう。

1-3. ③遺族に連絡が来て「遺体の確認」を行う

検視・検死が終わったら、身元の確認のために警察が遺族に連絡して来てもらい、遺族の目で「ご遺体が本人であるか」を判断してもらいます。

大切な方の遺体と対面することになるため、遺族にとっては非常に辛い瞬間となります。

1-4. ④必要に応じて司法解剖が行われる

警察による「検視」の結果、必要がある場合には司法解剖が行われることがあります。事件性が疑われるケースでは、司法解剖は拒否できません。遺体の状態をより詳細に確認するために、遺体にメスを入れて詳しく調べます。

司法解剖は1日で終わることもあれば、1週間程度かかることもあります。損傷が激しく死因の特定が難しい場合には、1カ月以上かかるケースもありえます。

また、事件性は無くても死因をより明確にする必要がある場合には、「行政解剖」が行われることもあります。行政解剖は、遺族の承諾が必要となるため、断ることも可能です。

1-5. ⑤遺体が引渡され「死体検案書」が交付される

検視・検死および司法解剖が終わると、ようやく遺族に遺体が引渡しとなります。

遺体を引き取る際には、警察医から「死体検案書(死亡診断書)」が交付されます。この死体検案書がないと死亡届の提出や葬儀での「埋火葬許可」も取れないため、失くさないようにしましょう。

1-6. ⑥葬儀社に遺体を搬送してもらう

遺体を引き渡されたら、自宅など遺体を安置する場所に遺体を搬送しなければなりません。葬儀社によっては、葬儀が執り行われるまでの間に、葬儀社の「安置室」を利用できるケースもあります。

葬儀社が決まっていれば葬儀社の協力を得ることができるため、できればこの時までに葬儀社を決めておきましょう。

1-7. ⑦死亡届・火葬許可申請書を提出する

葬儀を行う前に、死亡届・火葬許可申請書の提出が必要となります。これらがないと、葬儀や火葬・埋葬を執り行えないからです。

ただし、これらの手続きは、葬儀屋が代行してくれるケースが一般的です。

1-8. ⑧葬儀(通夜・告別式・火葬)を行う

葬儀の打ち合わせを行って内容を決めたら、葬儀を執り行います。

1日目に通夜を行い、2日目に葬儀と告別式、火葬などを行うのが一般的です。しかしながら最近では、通夜を行わずに1日で葬儀を終わらせる「一日葬」も増えてきています。

また、亡くなってから7日目に行う法要「初七日」も、葬儀と一緒に済ませる方が多くなっています。葬儀をどのような形で行うか遺族で良く話し合いましょう。

 1-9.【葬儀後】⑨各種手続きを順次進める

 葬儀が終わったら、被害者が亡くなったことによる各種手続きを進めていきます。

必要となる手続きは、被害者が世帯主かどうか、どのような保険に入っているか、年金受給状況、契約しているサービスなどによって変わります。

まずは、期限が決まっている公的な手続きから優先的に手続きを進めていきましょう。

葬儀後に必要になる公的な手続き

・住民票の世帯主変更届(14日以内)

・医療保険の資格喪失届出(5日または14日以内)

・公的年金の資格喪失・受給停止・未支給年金請求(10日または14日以内)

・介護保険資格喪失届(14日以内)

・雇用保険受給資格者証の返還(1カ月以内)

・国民年金の死亡一時金請求(2年以内)

・家族埋葬料の請求(2年以内)

・葬祭費の請求(2年以内)

・高額医療費の還付申請(2年以内)

・遺族年金の受給請求(5年以内)

・故人の未支給年金の請求(5年以内)

また、公的手続きの他にも、以下のような民間サービスの停止・変更処理や、保険金の請求なども行う必要があります。

葬儀後に必要になる民間サービスの手続き例

・生命保険などの死亡保険金(死亡給付金)の請求

・運転免許証の返還

・賃貸契約の解約・契約変更

・ガス・電気・水道の解約・契約変更

・携帯電話やクレジットカードの解約

このように、必要となる手続きは多岐にわたり、個人の状況によっても内容が異なります。自分のケースではどの手続きが必要か早めに整理して、死亡からの手続き期限があるものを優先的に順次進めていきましょう。

1-10.【四十九日が終わった頃】示談交渉が開始となる

 自転車事故の被害者が亡くなって、四十九日の法要を終えたころから、加害者との示談交渉が始まります。

示談交渉の進め方については2章で詳しく解説しますが、加害者が任意保険に入っているのか、自賠責保険のみに加入しているのか、それとも全く保険未加入なのかによって、流れが大きく変わってきます。

※自転車事故の相手が車・バイクなら最低限、自賠責保険には加入しているはずです。しかしながら、相手も自転車の場合には、何の保険にも入っていないケースが考えられます。

【示談交渉のスタート方法】

加害者が任意保険に加入している場合

加害者が加入している任意保険会社から連絡が来る

加害者が自賠責保険のみに加入している場合

被害者遺族が、加害者の自賠責保険に請求手続きをする

加害者が全く保険に加入していない場合

本人に直接請求する

何らかの保険に入っている場合には、相手の保険会社から示談交渉の連絡が来るのが一般的です。一方で、自賠責保険のみ加入や保険未加入の場合には、こちらから請求手続きを行わなければなりません。

2. 自転車死亡事故の賠償金・保険金をもらう5パターンの方法

ここからは、自転車事故で死亡した被害者の遺族が、事故による損害賠償金・保険金をもらう手続きの進め方について解説していきます。

自転車死亡事故が起きた後の流れでも触れた通り、加害者の保険加入状況によって、示談交渉の進め方は変わってきます。

というのも、加害者が車両(自動車やバイクなど)の場合には、加害者側が任意保険に加入しているケースが多く、最低でも加入が義務付けられている「自賠責保険」には加入しているはずです。

しかしながら、自転車死亡事故の場合、被害者も加害者も未成年であったり、任意加入の保険に入っていなかったりというケースが多い実情があります。

そのため、加害者側の保険加入状況をまずは確認し、それによって示談交渉の進め方が変わってくるので注意しましょう。

方法①:加害者が加入している任意保険会社と示談交渉する

方法②:加害者が加入している自賠責保険会社に請求する

方法③:加害者が保険未加入の場合は本人に直接請求する

方法④:加害者が不明または保険未加入で「政府保障事業」を使えるケースもある

方法⑤:被害者が加入していた保険から補償を受け取る

加害者が加入している保険の確認方法と、5つの方法の進め方について、それぞれ詳しく解説していきます。

2-1.【準備】加害者が加入している保険を確認する

示談交渉は、死亡した被害者の四十九日の法要が終わった頃からスタートします。最初にすることは、加害者の保険加入状況を確認することです。

一般的には、交通事故の示談交渉は、加害者が加入している任意保険会社から被害者側に連絡が来てスタートします。しかしながら、加害者が任意保険に加入していない場合には、当然ながら保険会社から連絡は来ません。自分から相手方に示談金を請求することになります。

自転車事故の加害者が自動車やバイクの場合ならば、何らかの任意保険に入っていることが多いでしょう。しかしながら、加害者が自転車の場合では、保険未加入というケースもあります。

加害者が加入している保険会社を確認するには、以下の方法があります。

加害者が加入している保険会社を確認する方法

①加害者本人に直接聞く

②交通事故証明書を確認する

③弁護士を通して「23条照会(弁護士会照会)」を行う

加害者本人に直接聞くことができるのであれば、問い合わせてみましょう。もし協力的でなく分からない場合には、警察が作成した「交通事故証明書」を見れば、加害者が加入している「自賠責保険」の会社が分かります(任意保険会社の情報までは記載されていません)(加害者が車両の場合)。

また、弁護士に依頼すれば、弁護士に許されている特権(23条照会)を使って、各保険会社や組合などに照会することができるので、加害者が加入している任意保険会社を突き止めることが可能です。

2-2. 方法①:加害者が加入している任意保険会社と示談交渉する

加害者が任意保険に加入している場合には、任意保険会社と示談交渉を進めていきます。通常であれば、任意保険会社の方から連絡が来るので、それを待ってみましょう。

もし任意保険に加入しているのにかかわらず連絡が来ない場合、加害者が任意保険会社に事故の報告をしていない可能性があります。この場合には、被害者遺族のほうから、任意保険会社に報告をして、示談交渉を進めていきましょう。

任意保険会社からは、慰謝料や死亡逸失利益(死亡しなければ将来得られたはずの収入)などを含めた「示談金」の金額の提案がされます。その金額に被害者遺族が合意できれば、示談成立となります。

しかしながら、任意保険会社から提案される金額が低かったり、被害者の過失を主張されたりして納得できない場合には「示談不成立」となり、弁護士を介入させた話し合いや訴訟で解決していくこととなります。

さらに詳しい情報を知りたい方は、「交通事故の死亡慰謝料の相場は?賠償金・保険金の受け取り方を解説」の記事も参考にしてください。

2-3. 方法②:加害者が加入している自賠責保険会社に請求する

 加害者が任意保険会社に加入しておらず、自賠責保険(共済)のみに加入している場合には、加害者が加入している自賠責保険から賠償金を受け取ることができます。

自賠責保険は、全ての自動車やバイクに加入が義務付けられているため、加害者が自動車やバイクの場合には加入しているはずです。

ただし、自賠責保険は任意保険と比べると賠償金の金額が低く、上限も設けられています。死亡による損害は、葬儀費用、逸失利益、被害者及び遺族への慰謝料をまとめた上限額が3,000万円となっています。

※死亡に至るまでの損害(医療費など)は、別途「傷害による損害(上限120万円)」として請求できます。

自賠責保険会社に損害金を請求する場合には、以下のステップにより「被害者請求」の手続きを行いましょう。

加害者の自賠責保険会社に被害者請求する方法

①加害者が加入している自賠責保険会社を特定する(交通事故証明書などから)

②加害者の自賠責保険会社から、被害者請求に必要な書式を入手する

③必要な書類を添付して、加害者の自賠責保険会社に提出する

④加害者の自賠責保険会社から、調査事務所に書類が送付される

⑤調査事務所において、損害調査が行われる

⑥損害調査の結果が、調査事務所から自賠責保険会社に報告される

⑦自賠責保険会社が支払額を決定し、被害者遺族に保険金が支払われる

なお、自賠責保険からの賠償金で足りない部分や、自賠責保険から支払われない物損被害などは、加害者本人に請求することができます。

2-4. 方法③:加害者が保険未加入の場合は本人に直接請求する

加害者が、任意保険にも自賠責保険にも加入していない「保険未加入」の場合には、加害者本人に直接賠償金を請求することになります。加害者本人との示談を進めて、賠償金の金額を決めていきます。

加害者本人に直接賠償金を請求する方法

 ①加害者と連絡を取って話し合いを進める

②加害者が話し合いや支払に応じない場合は、内容証明郵便で請求書を送る

 加害者側が争う姿勢を見せる場合は、弁護士に相談して通常訴訟を起こす

加害者に十分な財産がある場合には訴訟を提起し、判決が確定すれば、相手の財産や給料から賠償金を回収する強制執行を行うことが可能です。

しかしながら、加害者に支払能力がない場合には、強制執行を行っても賠償金を回収できないケースがあります。こうした場合は、2-5や2-6の方法を検討してみましょう。

2-5. 方法④:加害者が不明または保険未加入で「政府保障事業」を使えるケースもある

 ひき逃げなどで相手の車が分からない場合や、自賠責保険に加入していない自動車・バイクが加害者の場合には、国の救済措置「政府保障事業」を活用する方法もあります。

政府保障事業とは、被害者が受けた損害を国が代わりに補填してくれる制度です。この制度を使えるのは、加害者が車両の場合のみですが、自賠責保険と同じ支払限度額まで、保障金が支払われます。

「政府保障事業」を使って保障金を受け取る方法

①任意の損害保険会社に連絡して「政府の保障事業 請求キット」をもらう

②必要書類を準備して、損害保険会社に書類を提出する

③損害保険会社から、損害保険料算出機構に書類が送られる

④損害保険料算出機構で、事故状況の調査と損害額の調査が行われる

⑤損害調査の結果が、国土交通省へ送付される

⑥国土交通省において、関係先への最終確認・調査が行われ、支払額が審査・決定される

⑦損害保険会社から、決定した保障金が支払われる

2-6. 方法⑤:被害者が加入していた保険から補償を受け取る

被害者(または被害者の家族)が加入していた任意保険の補償内容によっては、交通事故被害者側の保険や特約から、補償を受け取ることができるケースもあります。

交通事故の被害者自身が補償を受けられる保険や特約】

 人身傷害保険

 人身傷害保険

ケガや死亡をした場合に保険金が支払われる

搭乗者傷害保険


車に乗車している人がケガや死亡をした場合に保険金が支払われる


無保険車傷害保険

相手が無保険車だった場合に補償が受けられる

ファミリーバイク特約

バイク事故によるケガや死亡の補償が受けられる

生命保険

災害死亡保険金を受け取ることができる

共済

死亡共済金や家族死亡共済金を受け取ることができる

健康保険

死亡給付金や埋葬料、葬祭費などが支給される

労災保険

仕事中や通勤中に交通事故に遭った場合に、遺族補償給付や葬祭給付などが支給される

3. 自転車死亡事故の加害者に請求できる賠償金の内訳

ここからは、自転車事故で被害者が死亡した際に、どのようなものを加害者に請求できるのか、内訳について解説していきます。

3-1. 死亡慰謝料

自転車事故の被害者が死亡した場合に、被害者遺族が加害者に請求できる慰謝料が「死亡慰謝料」です。

死亡慰謝料とは、事故で死亡させられたことに対する精神的な損害に対する慰謝料で、死亡した本人に支払う分と、死亡した被害者の遺族に支払う分があります。

死亡慰謝料は、【①自賠責基準】、【②任意保険基準】、【③裁判基準(弁護士基準)】のどの基準を使って算定するかによって、金額が大きく変わります。

死亡慰謝料は、【①自賠責基準】<【②任意保険基準】<【③裁判基準(弁護士基準)】の順に、慰謝料の金額は高くなっていきます。

【死亡慰謝料の支払基準】

自賠責基準

任意保険基準

裁判基準(弁護士基準)

400万円~最大1,350万円

保険会社による

2,000万円~2,800万円程度

(裁判では3,000万円事例あり)

①被害者本人分:400万円(※)

②遺族分:

・遺族1名の場合550万円

・遺族2名の場合650万円

・遺族3名以上の場合750万円

③被害者に被扶養者がいる場合は200万円を加算

自賠責保険基準より高いものの、弁護士基準より大幅に低い独自の基準に基づいて提示


・被害者が一家の支柱である場合:2,800万円程度・被害者が母親・配偶者である場合:2,500万円程度・その他の場合:2,000万円~2,500万円程度

※:2020年3月31日以前に発生した事故については350万円。

例えば、自転車事故の加害者が自賠責保険にしか加入していない場合に、自賠責保険会社に慰謝料を請求した場合には、400万円(遺族なしの場合)〜1350万円(遺族3名以上+被扶養者がいる場合)となります。

加害者の任意保険会社に慰謝料を請求した場合には、任意保険会社が独自に設定している基準に基づいて、慰謝料の提示があります。

一方、裁判基準(弁護士基準)では、死亡慰謝料は2,000万円~2,800万円が一般的となります。保険会社からの提示額に納得できず、弁護士に相談する場合には、裁判基準を目安に示談交渉を進めることができます。

ただし、被害者の方の生活状況や具体的な事故の状況などによって慰謝料の金額は変わりうるため、

一概に死亡慰謝料はいくらとは言えないので注意しましょう。

3-2. 死亡逸失利益(事故に遭わなければ得られた収入)

自転車事故の被害者が死亡した場合に、被害者遺族が加害者に請求できるものに「死亡逸失利益」があります。

死亡逸失利益とは、事故に遭わなければ得られたはずの収入のことです。例えば、一家の大黒柱が亡くなった場合、自転車事故に遭わなければ得られていた賃金を、遺族は受け取ることができなくなってしまいます。

そのために、その部分を加害者や、加害者が入っていた保険会社に請求するというものです。

 死亡逸失利益の計算方法

 死亡逸失利益の計算方法基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

死亡逸失利益は、被害者の年収が高いほうが高くなり、年齢が低いほうが高くなる傾向があります。

3-3. 葬儀関係費用

死亡慰謝料や死亡逸失利益の他に、葬儀や埋葬などにかかった費用も、自転車事故の加害者に請求することが可能です。

【葬儀関係費用の目安】

①自賠責基準

100万円(2020年4月1日以降に発生した事故に適用)

②任意保険基準

保険会社により異なる

③裁判基準(弁護士基準)

実際に葬儀等に要した費用
(ただし150万円程度が上限となることが多い)

4. 自転車死亡事故では「過失割合」が賠償金を大きく左右する

被害者の過失がある場合には、その過失割合に応じて賠償金を減額されてしまうため、賠償金の金額が少なくなります。

例えば、賠償金の金額が1,000万円のケースでも、被害者の10%の過失が認められてしまうと、10%分が減額され900万円になってしまいます。被害者の過失割合が50%なら、賠償金も半分の500万円です。これを、過失相殺といいます。

「こちら側は死亡しているんだから過失にはならないでしょ」と考える方もいるかもしれませんが、被害者が死亡している場合にも被害者の過失が認められるケースはあります。

例えば、被害者側が信号無視していた場合には、被害者にも過失が認められます。

例 :自転車と車が交差点での直進同士で事故を起こした場合

・自転車の信号が赤、自動車の信号が青だったなら、自転車側の過失は80%(車は20%)

・自転車の信号が赤、自動車の信号が黄だったなら、自転車側の過失は60%(車は40%)

・自転車の信号が赤、自動車の信号も赤だったなら、自転車側の過失は30%(車は70%)

例:自転車と歩行者が交差点での直進同士で事故を起こした場合

・歩行者の信号が赤、自転車の信号が青だったなら、歩行者側の過失は80%(自転車は20%)

・歩行者の信号が赤、自転車の信号が黄だったなら、歩行者側の過失は60%(自転車は40%)

・歩行者の信号が赤、自転車の信号も赤だったなら、歩行者側の過失は25%(自転車は75%)

※ただし、上記はあくまで過失割合の基準とされるものであり、個別の過失割合は、個々のケースに応じて決まります。

また、被害者がスマホを見ながら自転車を運転していた、酒気帯び運転をしていた、急に飛び出した場合などは、被害者の過失が加算されることがあります。

ただし、被害者が死亡している場合には、被害者側の過失について証言できる本人がいないため、過失割合についての主張をするのが難しいケースがあります。この場合には、防犯カメラやドライブレコーダーの記録を確認するなどして、被害者側に過失がなかったことを証明するなどの方法が有効です。

過失割合によって賠償金の金額が大きく減額されてしまうケースもあるため、しっかりと争っていきましょう。

※なお自賠責保険では、被害者保護の観点から、被害者に重大な過失がない限り、被害者の加湿による損害賠償額の減額はありません。重大な過失がある場合にも、被害者の過失割合が7割未満であれば減額されません(最大で5割減額)。

この仕組みを踏まえると、任意保険会社から被害者の過失を指摘されて損害補償額の大幅な減額を主張された場合には、あえて自賠責保険への請求に切り替えたほうが良いケースがありえます。

5. 自転車死亡事故の損害賠償金は交渉次第でかなり差が出るので注意しよう

3章で解説した通り、自転車死亡事故で加害者側に請求できる賠償金には、主に死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬儀関連費用の3つがあります。

そして、これも3章で解説した通り、慰謝料の金額は、【①自賠責基準】、【②任意保険基準】、【③裁判基準(弁護士基準)】のどの基準を使って算定するかによって、金額が大きく変わります。

自賠責保険会社から出る慰謝料や、任意保険会社から最初に提案される慰謝料の提示額は、かなり低い水準になっています。慰謝料を含めた損害賠償金の金額に納得できない場合には、弁護士に依頼して「裁判基準(弁護士基準)」で交渉してもらうのがおすすめです。

自転車死亡事故の過去の判決を調べてみると、賠償額が数千万円となるような高額賠償事例も出ています。

【自転車死亡事故の高額賠償事例】

 賠償額

概要

6,779万円


男性がペットボトルを片手に持ったままスピードを落とさずに下り坂を走行して交差点に進入したところ、横断歩道を横断中だった38歳の女性と衝突。女性は脳挫傷などで3日後に死亡した。(東京地方裁判所、平成15年9月30日判決)

5,438万円


自転車に乗った男性が昼間の時間帯、信号無視をして速いスピードで交差点に進入し、青信号で横断歩道を横断中だった55才の女性と衝突。女性は頭蓋内損傷などで11日後に死亡した。(東京地方裁判所、平成19年4月11日判決)

4,746万円


自転車に乗った男性が昼間の時間帯、信号無視をして赤信号で交差点を直進し、青信号で横断歩道を歩行中だった75才の女性に衝突。女性は脳挫傷などで5日後に死亡した(東京地方裁判所、平成26年1月28日判決)

判決による賠償額は、法律に基づいてその事故ごとに算出した適正な賠償額です。

一方、保険会社から提示される賠償額は、裁判基準と比べると金額が低く、適正な賠償額を受け取れないケースがあります。

自転車事故で大切な家族を失った遺族の方が「適正な賠償額を受け取りたい」という場合には、弁護士を介入させて適正な賠償金の受け取りを目指すのがおすすめです。

6. 自転車死亡事故の交渉は弁護士に相談するのがおすすめ

自転車事故で被害者が死亡してしまった場合、遺族がおこなうべきことは多岐にわたります。その中でも、加害者サイドとの慰謝料などの損害賠償金の交渉は、大変に労力のかかるものです。

特に、加害者が自転車で何の保険にも入っていなかったり、相手が車でも任意保険に加入していなかったりする場合には、保険会社を挟まずに加害者本人とやりとりしなければならないケースもあります。

任意保険に加入していたとしても、加害者が加入している保険会社から「低額な慰謝料」を提示されてしまうこともあるでしょう。

いずれの場合にも、「裁判基準(弁護士基準)」の適正な金額の慰謝料をもらうために、弁護士に相談することをおすすめします。

なぜならば、被害者本人が保険会社や加害者本人と交渉しても、「裁判基準(弁護士基準)」の慰謝料を認めてくれることは考えにくく、多少の増額しか期待できないからです。

裁判基準による高額な慰謝料を手にするためには、弁護士に介入してもらい、交渉してもらう必要があります。過失割合の算定も含めて、示談交渉を円滑に行うためには弁護士の介入がベストなのです。

ただし、弁護士であれば誰でもいいという訳にはいきません。納得のいく慰謝料を手にするためには、交通事故被害者救済に強く、国・裁判所・保険会社の実情に精通している弁護士がおすすめです。

サリュは、業界トップクラスの2万件以上の解決実績を持っている交通事故救済のプロです。それでいて、相談料・着手金は0円。「まずは話を聞くだけ」のような気軽な相談が可能で安心できる弁護士法人です。

交通事故の中でも慰謝料のトラブルに発展しやすい自転車事故だからこそ、できれば早い段階から我々に気軽にご相談いただければ幸いです。

まとめ

本記事では「自転車事故で被害者が死亡した場合」について、さまざまな観点から解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。

自転車死亡事故のあとの手続き・対応・遺族がすべきこと

①交通死亡事故が発生する

「検視・検死」が行われる

③遺族に連絡が来て「遺体の確認」を行う

④必要に応じて司法解剖が行われる

⑤遺体が引渡され「死体検案書」が交付される

⑥葬儀社に遺体を搬送してもらう

⑦死亡届・火葬許可申請書を提出する

⑧葬儀(通夜・告別式・火葬)を行う

⑨各種手続きを順次進める

⑩示談交渉が開始となる

自転車死亡事故の賠償金・保険金をもらう方法(5パターン)

方法①:加害者が加入している任意保険会社と示談交渉する

方法②:加害者が加入している自賠責保険会社に請求する

方法③:加害者が保険未加入の場合は本人に直接請求する

方法④:加害者が不明または保険未加入で「政府保障事業」を使えるケースもある

方法⑤:被害者が加入していた保険から補償を受け取る

自転車死亡事故では「過失割合」が賠償金を大きく左右する

・被害者の過失が認められてしまうと、過失割合に相当する金額が減額される

・賠償金の金額に大きな影響があるため、しっかりと争う必要がある

自転車死亡事故の損害賠償金は交渉次第でかなり差が出るので注意しよう

・①自賠責基準、②任意保険基準、③裁判基準(弁護士基準)によって慰謝料の金額が大きく変わる

・適正な賠償額を受け取りたい場合には、弁護士を介入させて交渉するのがおすすめ

自転車死亡事故では、加害者が保険未加入のケースがあったり、被害者の過失について揉めたり、損害賠償金の金額の折り合いがつかなかったりとさまざまなトラブルが発生しがちです。

大切な家族を亡くした悲しみの代償として、しっかりと加害者に正当な賠償金を請求し、罪を償ってもらうことを目指していきましょう。