交通事故は人身事故扱いにすべき3つの理由と切り替え手順を解説

「相手には物損にしてほしいと言われたけど、人身事故と物損事故どっちがいいかわからない」
交通事故の後で怪我が判明したあなたは、そのように悩んでいませんか?
結論からお伝えすると、事故で怪我をした際には、できるだけ人身事故に切り替えるべきです。
なぜなら、適正な補償を獲得するためには人身事故に切り替えたほうがメリットが大きいケースがほとんどだからです。
この記事では、
・警察に対して人身事故の届け出をすることのメリットや賠償金への影響
等について解説します。
「わざわざ人身事故にする必要もないかな」と迷っているあなたが、怪我による賠償金を得られないような事態を防ぐためにも、この記事の内容を参考にしていただけたらと思います。

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【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した
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目次
1.人身事故の届け出をしなくても人身損害の賠償金はもらえる
交通事故被害に遭われた方は、「警察に人身事故の届け出をしないと、治療費や休業損害、慰謝料などの賠償金がもらえないのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。
しかし、警察に対する人身事故の届け出は、警察が刑事手続きとして過失運転致傷等の犯罪の捜査をするきっかけとなるものに過ぎません。つまり、人身事故の届け出は、加害者の刑事処分を決定するうえで必要となるものであり、民事上の損害賠償には直接的な影響を与えるものではありません。
そのため、人身事故の届け出をしていなくても、交通事故で怪我をしたことが明らかな場合は、加害者側に対して治療費や慰謝料などの賠償金を請求することが可能です。
また、保険会社も、警察へ人身事故の届け出がされていないことを理由として賠償金の支払いを拒否することは基本的にありません。
ただし、次章以降で説明するように、事案によっては、警察に人身事故の届け出を出しておく方が、もらえる賠償金が増えることもあります。
2.交通事故で怪我が発覚したら人身事故に今すぐ切り替えるべき3つの理由
冒頭でお伝えした通り、交通事故で怪我が発覚した場合、可能であれば物損事故から人身事故に切り替えるべきです。
なぜなら、人身事故への切り替えは被害者にとってはデメリットが少なく、適正な補償を受けるためには行っておくべき手続きだからです。
ここでは、人身事故に切り替えるべき理由を3つに絞って具体的にお伝えします。
1.物損での処理は基本的に加害者側にしかメリットがないから 2.後遺症が残った時に後遺障害の認定を受けられない可能性があるから 3.事故の客観的な証拠が少なくなるから |
2-1.物損での処理は基本的に加害者側にしかメリットがないから
1つ目の理由は、物損事故で処理するのは基本的に加害者側にしかメリットがないからです。
事故の直後、加害者から、
「治療費や慰謝料はこちらが払うから、物損事故で処理してほしい」
と頼まれることがあります。
なぜこのようなことを頼むのかというと、物損事故から人身事故になることで、加害者側には以下のようなデメリットが発生するからです。
・刑事責任に問われる(刑事罰の対象になる)可能性がある ・免許停止や免許取り消しになる可能性がある ・違反点数が加算される |
このようなデメリットを避けたいため、加害者側は被害者に物損事故で処理してほしいと頼んできます。
しかし、これらのデメリットについては、被害者にとっては関係ありません。
むしろ、加害者側の過失を証明できず、十分な補償が得られなくなる可能性のほうが高いのです。
「お互いに楽だから物損事故で終わらせましょう」
などと言われるかもしれませんが、それでメリットがあるのは加害者側だけだと覚えておいてください。
2-2.後遺症が残った時に後遺障害の存在を証明できない可能性があるから
交通事故により怪我をして治療をしたものの、完治せず、何らかの後遺症を残した場合は、後遺障害の申請手続きをとることになります。
後遺障害の認定を受けることができれば、保険会社から、「将来も長期間にわたり症状が残る」という前提で賠償金を支払ってもらうことができます。
後遺障害の認定を受ける場合と、受けない場合とでは、もらえる賠償金は倍以上変わってくることは珍しくありません。
しかし、この後遺障害申請手続きにおいては、「交通事故によって身体へ加わった衝撃がどれほど大きいか」が重要視される場合があります。特に、むち打ちなどで首の痛みや腰の痛みが残った場合は、この具体的な交通事故の状況の説明が重要となる場合があります。
このとき、警察に人身事故の届け出をすると、警察は、交通事故の状況を捜査し、実況見分調書という書類を作成します。これにより、現場の見取り図や、事故現場の写真、事故車の写真、事故当事者の交通事故発生時の認識などが詳細に記録されます。
こういった警察の作成した実況見分調書が決め手になり、無事に適切な後遺障害が認定され、賠償金が大幅に増額するということは珍しくありません。
このように、人身事故の届け出をしておくことで、万が一後遺症が残った時に、交通事故によって後遺障害が残ったことを証明することが可能になるのです。
2-3.事故の客観的な証拠が少なくなるから
前記のとおり、物損事故のままだと、警察の捜査や事故証明書での「人身扱い」ほど詳細な調査が行われないことがあります。
人身事故では警察が実況見分を行い、被害者・加害者双方の状況を詳しく記録するため、事故の状況を立証する資料として活用しやすくなります。
実況見分では、以下のような事故の詳細を被害者・加害者の双方に確認し、事故の証拠として記録します。
1.見分場所(事故が起こった場所) 2.路面状況(事故現場の写真や図面など) 3.交通規制の有無 4.道路条件(周辺の明るさや当日の天気、見晴らし、混雑状況など) 5.車両の情報(損傷の程度や部位など) 6.立会人の情報、当事者の事故当時の認識等 7.目撃者の事故内容の説明 |
人身事故にすればこのような客観的な証拠が残りますが、物損事故のままだと証拠が十分に残りません。
もし、事故状況について、加害者が保険会社に対して真実と異なる説明をした場合、被害者が相手の保険会社から不利な過失割合を押し付けられ、賠償金が不当に減ってしまう可能性もあります。
その際、人身事故の届け出をした結果行われた警察の実況見分調書等が決め手になり、納得いく過失割合になることがあります。
3.一度物損事故で処理しても後から人身事故へ切り替えられる
事故後に一度物損事故として処理をしても、怪我が発覚した時点で人身事故に切り替えることができます。
もし「物損事故にしてくれ」と頼まれていたとしても、怪我が判明したら警察への報告を優先しましょう。
むしろ、交通事故で怪我をした場合には、警察への報告義務があるため、加害者の言葉やメールでのやり取りよりも、そちらを優先して警察に連絡をするようにしましょう。
4.交通事故で物損から人身事故へ切り替える手順
ここまで、交通事故で怪我をしたら物損事故ではなく人身事故に切り替えるべき理由をお伝えしてきました。
「じゃあ人身事故に切り替えようかな」
そのように考えた方に知っていただきたいのですが、実は、物損事故から人身事故に切り替えるには手続きが必要になります。
ここでは物損事故を人身事故に切り替えるための手続きを4ステップで解説します。
1.病院へ行って診断書を書いてもらう 2.自分が加入する任意保険会社と相手側の任意保険会社の双方に連絡する 3.警察に人身事故への切り替えを申請する |
4-1.病院へ行って診断書を書いてもらう
まずは病院へ行き、診断書を書いてもらいましょう。
何科に行けばいいか迷った場合は、交通事故の対応を行っている整形外科を選べば問題ありません。
病院では、診察の前に「交通事故で怪我をした」ということを事前に伝えるようにしてください。
なぜなら、交通事故による怪我とそれ以外の怪我では、病院側の対応や保険に差があるからです。
また、事故による怪我であることを伝えておかないと、診断書にも十分な記載を残すことができません。
医師に「事故による怪我である」ということを伝えた上で、診断書には、「事故に遭った日付」と「初診(最初に診断を受けた日)の日付」を必ず記載してもらってください。
医師の書いた診断書がないと、人身事故への切り替えはできません。
医師の判断に従って必要な検査(レントゲン・MRIなど)を受け、診断書を書いてもらってください。
4-2.自分が加入する任意保険会社と相手側の任意保険会社の双方に連絡する
怪我が判明し、診断書を書いてもらったら、自分と加害者側双方の任意保険会社に電話などで連絡し、
「交通事故による怪我が発覚したので、人身事故に切り替えたい」
という意向を伝えてください。
4-3.警察に人身事故への切り替えを申請する
交通事故が起こった場所を管轄する警察署に、「人身事故へ切り替えたい」とまずは電話で連絡します。
警察から切り替えのための案内があるので、その指示に従って手続きを進めましょう。
一般的には、指定された日に警察署を訪問し、診断書などの書類を提出します。
そのうえで、基本的には警察官と加害者、被害者が一緒に交通事故の現場に行き、当事者が事故の状況をそれぞれ説明し、警察が現場見取図や当事者の認識を記録します。
5.人身事故に切り替えができないときは「人身事故証明書入手不能理由書」を提出しよう
通常、事故発生から1か月以内程度であれば、問題なく人身事故へと切り替えができますが、さまざまな事情で事故発生から時間が経ってしまった場合、警察から人身事故への切り替えを思いとどまるよう説得されることがあります。
(1か月以上経過していても、人身事故への切り替えは可能です。)
このような時には、「人身事故証明書入手不能理由書」を作成し、保険会社に提出しましょう。
人身事故証明書入手不能理由書とは、交通事故でケガを負ったにもかかわらず、やむを得ない理由で警察に人身事故の届出ができなかった場合に提出する書類のことです。
記入するための書式は、保険会社の担当者から送られてきます。
基本的には人身事故に切り替えると連絡し、人身事故への届け出ができなかったことを伝えれば保険会社から送られてくるので、指示に従って記入・送付してください。
書式には、保険会社によっても異なりますが、主に以下のような内容を記入します。
・人身事故扱いの交通事故証明書が入手できなかった理由 ・警察への事故発生の届出の有無 ・被害者本人の署名 |
6.物損事故から人身事故へ切り替えたら、弁護士への依頼を検討しよう
物損事故から人身事故へ切り替えたら、弁護士への依頼を検討してください。
なお、物損事故から人身事故に切り替えるか、まだ迷われている場合は、どちらにすれば良いかも含めて、弁護士に相談するのも良いでしょう。
そもそも「被害者が怪我をしているのに物損のままにしたい」という相手の姿勢は、あとでトラブルが発生する大きなサインです。
「適正な示談金や治療費を払ってもらえない」などのトラブルを避けるためにも、切り替えたタイミングで早期に弁護士へ相談・依頼することを強くおすすめします。
弁護士の有用性を感じられない人に向けて、「依頼したほうがいいかも」と思えるよう、ここでは弁護士に依頼する主なメリットを3つ紹介します。
1.相手の保険会社との対応から解放される 2.過失割合を適正に主張できる 3.慰謝料・休業損害などの賠償金を適正な金額で受け取れる可能性が高くなる |
6-1.相手の保険会社との対応から解放される
1つ目のメリットは、相手の保険会社との対応から解放されることです。弁護士に依頼すると、相手保険会社との交渉窓口を弁護士が代行してくれます。
「相手の保険会社は親切そうだったし、自分でやり取りしても困らなそうだけど」
そのように感じた方もいるかもしれませんが、実は、相手の保険会社が被害者に対して不当な条件を押し付けてくることもあります。
加害者側の保険会社は賠償金を少なく済ませるため、あれこれと理由をつけて加害者に有利な条件で交渉を進めようとしてきます。
そのため、被害者が自分で対応していると、本来受け取れるはずの賠償金よりも不当に低い金額で決着させられる可能性が高まるのです。
不当な条件に対して交渉しようとしても、必ずしも法的知識が十分でない被害者が反論するのは難しく、相手に有利な条件で交渉が進んでしまいがちです。
しかし、交渉経験の豊富な弁護士に任せれば、相手の保険会社の言いなりにならずに交渉を進めてくれます。
被害者を丸め込もうとしてくる相手の保険会社との対応を任せられるのが、弁護士に依頼する最初のメリットです。
6-2.過失割合を適正に主張できる
2つ目のメリットは、過失割合を適正に主張できることです。
人身事故に切り替えた場合、少しでも補償を少なくするために、加害者や加害者側の保険会社が被害者の過失を訴えてくることがあります。
実際には被害者に過失のない事故であっても、
「このようなケースでは過失割合は5:5です」
「(実際には加害者の信号無視にも関わらず)あなたが赤信号で進んだのが事故の原因です」
などと、納得できない過失割合を主張されることもあるのです。
このような時に、事故の状況や証拠を見返し、適正な過失割合を主張してくれるのが弁護士に依頼するメリットです。
6-3.慰謝料・休業損害などの賠償金を適正な金額で受け取れる可能性が高くなる
最後のメリットは、弁護士が介入することで慰謝料や休業損害などの賠償金を適正な金額で受け取れる可能性が高くなることです。
相手の保険会社は、できる限り最低限の補償で済ませたいと考えているため、以下のような手口で提示する賠償金を少なく算出しています。
・入通院慰謝料を最低限に近い基準で計算する ・治療費や通院交通費などの本来請求できる金額を含めない ・休業損害などが認められるはずの怪我なのに、認めない |
弁護士に依頼すれば、事故のケースに合わせて適正な賠償金を計算し、相手が提示した金額が妥当なものなのかを判断してくれます。
相手が提示する賠償金が本当に適正なものなのかを判断し、不当に低かった場合には増額に向けて交渉してくれるのが、弁護士に依頼する3つ目のメリットです。
7.まとめ
この記事では、物損事故から人身事故への切り替えを考えている方に向けて、切り替えを行うべき理由やそのための方法などをお伝えしてきました。
内容のまとめは以下の通りです。
▼交通事故で怪我が発覚したら人身事故への切り替えをするべき理由
1.物損での処理は基本的に加害者側にしかメリットがないから 2.後遺症が残った時に交通事故と怪我の因果関係が証明できない可能性があるから 3.事故の客観的な証拠が少なくなるから |
▼一度物損事故として届け出を出していても、後から人身事故へ切り替えることは可能
▼物損事故から人身事故への切り替えの手順は以下の通り
1.病院へ行って診断書を書いてもらう 2.自分が加入する任意保険会社と相手側の任意保険会社の双方に連絡する 3.警察に人身事故への切り替えを申請する |
▼事故から約1か月程度が経ち、人身事故に切り替えができないときは、保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」を提出する
これらの内容を参考に、交通事故での怪我が発覚したら人身事故への切り替えを行ってください。