交通事故の弁護士特約とは?賢い使い方とメリット・デメリット

交通事故の賠償手続きでよく耳にする弁護士費用特約(弁護士特約)とは何のことでしょうか。

今回のコラムでは、

・弁護士特約とは?
・弁護士特約の賢い使い方
・メリット・デメリット

を解説します。
「交通事故の賠償手続きを弁護士に依頼したいけど費用倒れが心配…」という方や、弁護士特約のメリットを最大化させたい方にとって参考となるコラムとなっておりますので、ぜひご覧ください。

この記事の監修者
弁護士 西内 勇介

弁護士法人サリュ
横浜事務所
神奈川県弁護士会

交通事故 解決件数 500件以上(2024年1月時点)
【略歴】
京都大学法科大学院修了
【獲得した画期的判決】
死亡事故、高次脳機能障害や引き抜き損傷等の重度後遺障害の裁判経験
人身傷害保険や労災保険等の複数の保険が絡む交通事故の裁判経験
その他、多数
【弁護士西内の弁護士法人サリュにおける解決事例(一部)】
事例339:無保険で資力に不安な相手方に対し裁判。200万円を回収した事例
事例368:主婦の休業損害を、すべての治療期間で認められた事例
事例373:過去の事故による受傷部が悪化、新たに後遺障害申請を行い、併合7級を獲得した事例

動画でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。

【弁護士】弁護士費用特約について【解説】

1 交通事故の弁護士特約とは

交通事故の被害に遭われた方が加害者への損害賠償請求手続きを弁護士に依頼した場合、弁護士費用は被害者自身が負担します(裁判に発展した場合は弁護士費用の一部を加害者に請求することができます)。弁護士特約は、その際にかかる弁護士費用を保険会社が負担してくれるという保険商品です。

2 弁護士特約のメリット

弁護士特約を使用するメリットは、いうまでもなく、損害賠償請求にかかる弁護士費用を保険会社が支払ってくれる点です。通常であれば費用倒れになってしまうことから諦めていた弁護士への依頼も、費用を考えることなく依頼することができます。

3 弁護士特約の使用を検討すべきケースとは

(1)もらい事故のケース

追突事故のように被害者が無過失となるケース(もらい事故など)では、保険会社は被害者に代わって加害者と交渉することができません。そのため、被害者自身が加害者または相手方保険会社に対して損害賠償請求手続きをしなければいけません。保険会社の担当者に比べて十分な法律知識を有していない被害者が交渉すると、妥当な賠償金をもらえないケースが多いため、弁護士への依頼は有効です。

(2)保険会社の担当者による交渉が上手くいかないケース

双方に過失が生じる物件事故の交渉の場合、被害者側の保険会社が相手方保険会社と交渉することができます。しかし、その場合でも、被害者側の保険会社担当者が十分に被害者の事情を汲み取って交渉してくれるとは限りません。また、保険会社の担当者も、法律の専門家ではないことから、弁護士による交渉に比べて交渉力に劣ることもあります。

(3)相手方に弁護士が立ったとき

加害者側に弁護士が立っているケースでは、被害者側と加害者側と間に交渉力についてパワーバランスの差が生じてしまいます。そのため、被害者側も弁護士を入れることで対等に交渉する必要があります。

(4)弁護士基準の慰謝料を獲得したいとき

交通事故で怪我をした場合、傷病名や通院期間に応じた精神的損害(通院慰謝料)を請求することができます。慰謝料には

①最低補償額の自賠責基準
②保険会社の内部基準である任意保険基準
③弁護士基準

の3つの支払基準があり、もっとも高額で妥当な慰謝料の支払基準は弁護士基準です。

弁護士基準の慰謝料をもらうためには、弁護士に依頼して保険会社と交渉することが必要です。しっかりとした補償をしてもらいたいのであれば、弁護士に示談交渉を依頼することが有益です。弁護士特約を使用すれば費用負担を気にする必要はありません。

交通事故の慰謝料について
もっと詳しく

(5)自分で交渉窓口をすることに限界を感じたとき

相手方の保険会社の担当者は、被害者をお客様として扱わないため、ときに心無い言葉を被害者に浴びせたり、不誠実な態度をとったりすることがあります。被害者は交通事故で痛みに苦しみ、日常生活に支障が生じているにもかかわらず、保険会社の担当者は被害者に対してさらに心理的な圧力をかけます。そのような場合、早い段階で弁護士に交渉窓口を依頼することで、治療や仕事に集中することができ、被害者の負担を軽減させることができます。

4 弁護士特約を使用する際の注意点

 とても便利な弁護士特約ですが、以下の点に注意しましょう。

(1)法律相談費用特約とは違う

弁護士費用には法律相談料や着手金、報酬金、日当などがあり、弁護士特約は、弁護士に依頼する場合にかかるこれらの費用を、上限金額に達するまで保険会社が代わりに払ってくれる保険です。

このような弁護士特約と似ている保険商品として、「法律相談費用特約」といったものもあります。法律相談費用特約の場合、弁護士に法律相談をする際にかかる費用を保険会社が負担してくれるだけで、実際に弁護士に依頼する際にかかる着手金や報酬金などは自己負担となりますので注意が必要です。

(2)交通事故の後に加入しても使えない

弁護士特約は、交通事故が発生する前に、あらかじめ加入していないと使用できません。交通事故後に加入しても、加入前に発生した交通事故に関して弁護士に依頼する際は、自己負担となりますので注意しましょう。

(3)弁護士特約と同じ保険会社への保険金請求の時には使えない

例えば、XさんがA社の自動車保険に加入しており、Xさんの怪我の補償についてA社に対し人身傷害保険金の請求をする場合、その保険金請求を弁護士に依頼する際には、A社の弁護士特約は使用できません。法律上、保険金請求と損害賠償請求は別物であり、多くの弁護士特約は、加害者相手への損害賠償請求をする際に使用できると定められています。

ただし、保険金請求であっても、損害賠償請求が絡んでいる交通事故では、弁護士に依頼することでもらえる保険金が増額することはあります。また、2社の自動車保険に加入している場合など、一定の場合には保険金請求と弁護士特約を使用して解決することも可能です。交通事故の保険金請求で悩みや不安があった時も弁護士に相談してみましょう。

(4)弁護士特約には上限がある

多くの弁護士特約はその上限が300万円に設定されております。弁護士費用が300万円を超えるような場合は、獲得した賠償金が1600万円~1800万円を超えるような場合ですから、ほとんどの方は自己負担なく弁護士に依頼することができます。

むちうちで完治した方や、14級の後遺障害を獲得した方の場合、上限300万円を超える弁護士費用が発生することは、極めて稀ですので、費用倒れの心配は不要です。

(5)事前に保険会社に利用について相談しましょう

後でも説明しますが、弁護士特約を契約していたとしても、適用外となる場合が一定程度あります。そのため、弁護士特約が使えるかどうかについては、一度自身が契約している保険会社に利用の可否を確認するといいでしょう。

5 弁護士特約の対象、適用範囲

(1)弁護士特約を使える人

弁護士特約を使える人は、契約している保険会社、保険契約の種類や契約期間によって異なります。

概ね、保険証券に記載されている被保険者の他、配偶者や同居の親族、未婚の子、契約自動車に同乗していた人は、弁護士特約を使えるケースが多いです。

他方で、仕事中に交通事故に遭った場合は弁護士特約を使えない場合があります。

どの保険会社も、弁護士特約の適用条件については保険約款で定めていますので、誰が、どのような場合に弁護士特約を使えるのかを確認するといいでしょう。

(2)弁護士特約の対象となる権利

弁護士特約は、交通事故の加害者に対する損害賠償請求時の弁護士費用を保険会社が代わりに支払う保険です。そのため自身の保険会社への人身傷害保険金の請求等の場合は、弁護士特約は使用できませんので注意が必要です。

ただし、弁護士法人サリュでは、特殊な事例として、加害者への損害賠償請求とA社への無保険社傷害特約の請求を同時並行でした場合に、B社の弁護士費用特約を使用して依頼者の自己負担額をゼロにすることに成功した事例があります。

参考解決事例:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ

6 弁護士特約使用の場合の弁護士費用の計算方法

(1)弁護士費用の内訳

まずは、一般的な弁護士費用の内訳と内容について説明します。

相談料

依頼前に弁護士に相談したときにかかる費用です。

日当

弁護士が遠方に出張したとき、拘束される時間の対価として発生する費用です。

手数料

事務的な手続きを行う場合に発生する費用です。交通事故の場合は、自賠責保険への後遺障害申請をする際に発生することが多いです。

実費

依頼案件を進めるにあたって実際にかかる費用です。郵便代・収入印紙代・コピー代・各種機関への照会費用などがこれに当てはまります。交通事故の場合は、刑事記録の取得費用などで数千円~1万円程度かかることがあります。

着手金

弁護士が交渉などの実際の業務にとりかかる際に支払う費用です。基本的にどのような結果になっても返金はされません。
また、当初は交渉で依頼していたものの調停や訴訟に移行する場合などは着手金も追加でかかることが一般的です。

報酬金

事件を解決できたときに払う費用です。報酬金は経済的利益に応じて変わり、ほとんどの事務所が報酬額は経済的利益の〇%という設定方法を採用しています。

(2)LAC加盟会社の弁護士費用の計算方法

弁護士特約には、LAC基準と呼ばれる支払基準があります。LACとは、Legal access center(リーガルアクセスセンター)の頭文字を指し、弁護士特約を適切に運営するための日弁連の組織です。自動車保険会社や共済が日弁連と協定を結び、支払基準などを定めています。

交通事故の被害者は、自ら依頼したい弁護士を選び、相談、依頼することができます。しかし、LACに加盟している保険会社は、原則としてLACの報酬基準を超える弁護士費用を払うことはありません。そのため、LAC基準を超える費用で弁護士に依頼すると、一部の弁護士費用について自己負担が生じる可能性があります。弁護士費用について自己負担を生じさせたくない場合は、あらかじめLAC基準による報酬基準かどうか、依頼する弁護士に確認するといいでしょう。

なお、弁護士法人サリュは、LAC加盟会社の弁護士特約をご利用の場合は、LAC基準の報酬基準を採用しております。また、LAC非加盟会社であっても万が一自己負担が生じる可能性があれば、必ずその旨ご説明しておりますので、ご安心ください。

以下は、LACの報酬基準です(税抜き)。

経済的利益の額着手金
125万円以下の場合10万円
300万円以下の場合8%
300万円を超え
3,000万円以下の場合
5%+9万円
3,000万円を超え
3億円以下の場合
3%+69万円
3億円を超える場合2%+369万円
経済的利益の額報酬金
300万円以下の場合16%
300万円を超え
3,000万円以下の場合
10%+18万円
3,000万円を超え
3億円以下の場合
6%+138万円
3億円を超える場合4%+738万円

このほか、タイムチャージ(時間制報酬)で弁護士に依頼することもできます。タイムチャージとは、弁護士の執務時間に応じた報酬制度です。LAC基準では、1時間当たり2万円で、1事件当たり30時間(時間制報酬総額60万円)が一応の上限となります。

LAC加盟の保険会社は以下のとおりです。

2022年1月1日現在

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
AIG損害保険株式会社
au損害保険株式会社
キャピタル損害保険株式会社
共栄火災海上保険株式会社
ジェイコム少額短期保険株式会社
セゾン自動車火災保険株式会社
全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)
全国自動車共済協同組合連合会
全国労働者共済生活協同組合連合会(こくみん共済 coop〈全労済〉)
ソニー損害保険株式会社
損害保険ジャパン株式会社
大同火災海上保険株式会社
Chubb損害保険株式会社(チャブ保険)
中小企業福祉共済協同組合連合会
チューリッヒ保険会社
ミカタ少額短期保険株式会社
三井住友海上火災保険株式会社
三井ダイレクト損害保険株式会社
楽天損害保険株式会社

(3)弁護士特約を使用した場合の弁護士費用の計算例

概算ですが、弁護士特約を使用した場合の弁護士費用の計算例を紹介します。
(手数料、実費、日当は除く)

 ①むちうち14級で経済的利益が280万円の場合の弁護士費用

着手金:280万円×0.08=224,000円

報酬金:280万円×0.16=448,000円

合計:672,000円+税

 ②肩関節の可動域制限10級で経済的利益が1500万円の場合の弁護士費用

着手金:1500万円×0.05+9万円=840,000

報酬金:1500万円×0.1+18万円=1,680,000

合計:2,520,000+税

7 弁護士特約のデメリットとは?使用により保険料が上がる?

弁護士特約を使用すると等級ダウンとなり、保険料が上がるのでは?と心配されている方がいらっしゃいます。

しかし、多くの弁護士特約は、特約を使用しても等級に影響を与えません。

ただし、タクシー会社やバス会社などの会社所有の車両に付帯した弁護士特約を使用する場合には、保険料が増額するケースもあります。保険料が上がるかどうかについては、保険契約の中身によって変わるため、保険会社に直接確認するとよいでしょう。

8 弁護士特約の賢い使い方、弁護士の選び方

(1)弁護士特約を2社使用できる場合は600万円まで弁護士費用の負担をしなくて済む

あまり知られていませんが、一つの事故で2社の弁護士特約を使用できるケースがあります。例えば、夫婦で別の自動車保険に加入しており、それぞれ弁護士特約を契約していたケースで、夫婦の一方が交通事故に遭った場合は、2社の弁護士特約が利用できます。この場合、上限300万円のものであれば、2社合計で600万円の弁護士費用を保険会社が負担してくれることになります。特に、交通事故で重傷を負った場合で、賠償金が高額になることが予想される場合は、必ず家族全員の弁護士特約の有無を確認しましょう。

(2)LACの報酬基準を採用している弁護士を選ぶ

前記のとおり、LACに加盟している保険会社の場合、LAC基準を超える弁護士費用は自己負担となる場合があります。そのため、弁護士を選ぶ際は、できるだけLACの報酬基準を採用している弁護士を選びましょう。

(3)自身の保険会社からの弁護士紹介は不要。自分に合った弁護士を選びましょう。

被害者は、自身が契約している保険会社に弁護士を紹介してもらうことができます。しかし、紹介先の弁護士が交通事故案件を多数こなしている弁護士とは限りません。また、自身で弁護士を探したうえで依頼したとしても、弁護士特約は問題なく適用されます。そのため、できるだけ自ら弁護士を探し、納得したうえで依頼するようにしましょう。

(4)訴訟では判決よりも和解で終わった方が被害者がもらえるお金は多くなる

交通事故の損害賠償請求において弁護士を雇い、訴訟を提起して認容判決をもらった場合、弁護士費用の一部は交通事故と因果関係のある損害として加害者からもらうことができます。

しかし、この時、被害者が弁護士特約を使用していた場合は、加害者から支払われた弁護士費用相当分については、弁護士特約を契約している被害者の保険会社が取得します。

そのため、認容判決をもらっても、賠償金のうち弁護士費用相当分については被害者の取り分とはなりません。

しかし、裁判における和解の場合、通常は遅延損害金や弁護士費用を含めて「調整金」として賠償金に上乗せされます。そのため、「弁護士費用」と明示される判決の場合と異なり、被害者側の保険会社は調整金を取得することはせず、調整金はそのまま被害者に入ります。ケースにもよりますが、判決をもらう場合よりも和解で訴訟を終える方が被害者の取り分が多くなる場合もあります。この点は、遅延損害金の額や判決になった場合の見通しにもよるため、状況によって弁護士と相談すると良いでしょう。

(5)自動車保険以外の弁護士特約も確認しましょう

自動車保険以外にも、クレジットカードや火災保険、地震保険などにサービスとして弁護士特約が付帯している場合があります。自動車保険だけでなく、これらの保険証券も、一度確認してみるといいでしょう。

9 まとめ

これまでみてきたように、弁護士特約は、交通事故被害に遭われた方にとって有効な特約ですので、付帯されている方は積極的に活用することをおすすめします。また、これから弁護士特約に加入しようと考えている方も、交通事故に遭われた時に備え、付帯しておくと良いです。

弁護士特約の利用を検討している方、賢い使い方など、もし気になることや不安なことがあれば当事務所の無料相談をご利用ください。