慢性硬膜下血腫は後遺障害認定の可能性が低い!認定基準やコツを解説

「慢性硬膜下血腫で後遺症が残った場合、後遺障害に該当する?」

「後遺障害に該当する場合、慰謝料はいくらくらいもらえるの?」

交通事故のあと慢性硬膜下血腫と診断された人の中には、治療を行ったものの完治せず、今後の生活や働けなくなることに対して不安を感じている人もいるのではないでしょうか。

慢性硬膜下血腫が後遺障害認定される可能性は低いです。慢性硬膜下血腫は脳そのものが損傷を受けるわけではなく、後遺症が残ること自体が少ないためです。

しかし以下のケースに該当する場合は、後遺障害に該当する可能性があります。

後遺障害認定される可能性がある状態

1.半身麻痺で手足が動かない・感覚が鈍い
2.言語障害で言葉が出てこない・言葉が理解できない
3.認知症で物忘れ・失禁などが起こる

とはいえ症状の程度にもよるため、自分のケースが後遺障害に該当するかわからないときは、後遺障害や交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

なお、後遺障害慰謝料を請求するためには、後遺障害申請を行い後遺障害認定される必要があります。

申請は自分でもできますが、等級認定を受けるための申請には有力な資料集めを行う必要があるため、やはり弁護士のアドバイスを受けながら進めるのがよいでしょう。

この記事では、後遺障害認定される可能性のあるケースや等級ごとの後遺障害慰謝料の目安、後遺障害慰謝料を請求する3STEPについて解説します。

今後の生活や症状が改善しないことについて不安を抱えている人も、この記事を参考にして不安を取り除きましょう。

この記事でわかること
・後遺障害認定される可能性のある症状がわかる
・後遺障害認定された場合に慰謝料がいくらくらいもらえるのかがわかる
・後遺障害認定されなかったときにどのようなことができるのかがわかる
・損害賠償金の請求方法がわかる

等級認定を受け、適切な後遺障害慰謝料を請求するためにお役に立てたなら幸いです。

この記事の監修者
弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所
千葉県弁護士会

交通事故解決件数 1,100件以上
(2024年1月時点)
【略歴】
2014年 明治大学法科大学院卒業
2014年 司法試験合格
2015年 弁護士登録、弁護士法人サリュ入所
【獲得した画期的判決】
【2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載】(交通事故事件)
【2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載】
会社の代表取締役が交通事故で受傷し、会社に営業損害が生じたケースで一部の外注費を事故と因果関係のある損害と認定した事例
【弁護士法人サリュにおける解決事例の一部】
事例333:弁護士基準の1.3倍の慰謝料が認められた事例
事例343:相手方自賠責保険、無保険車傷害保険と複数の保険を利用し、治療費も後遺障害も納得の解決へ
事例323:事故態様に争いがある事案で、依頼者の過失割合75%の一審判決を、控訴審で30%に覆した

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1. 慢性硬膜下血腫が後遺障害認定される可能性は低い

慢性硬膜下血腫が後遺障害認定される可能性は、一般的に低いといわれています。

なぜなら慢性硬膜下血腫は脳そのものが損傷を受けるわけではなく、後遺症が残るケース自体が少ないためです。

基本的には、脳梗塞や脳出血とは違い、脳の外側に血が貯まる病気です。
血が貯留することで、脳を外側から圧迫し、多彩な症状が出てきますので、血腫を除去することで、 基本的には後遺症を残すことなく症状は改善します。

引用:慢性硬膜下血腫の病態|近畿大学医学部脳神経外科

また、交通事故から何カ月も経ったあとに症状が出る傾向にあるため、交通事故との因果関係が認められにくいということもあります。

ただし、まったく可能性がないとはいいきれません。中には慢性硬膜下血腫で後遺症が残り、後遺障害認定されるケースもあります。

後遺障害認定される可能性があるケースについては次章で紹介します。

2. 後遺障害認定される可能性がある3つのケース

前述のとおり、慢性硬膜下血腫で後遺障害認定されるケースはそれほど多くありません。

しかし以下の3つのケースに該当する場合は、後遺障害認定される可能性があります。

1.半身麻痺で手足が動かない・感覚が鈍い
2.言語障害で言葉が出てこない・言葉が理解できない
3.認知症で物忘れ・失禁などが起こる

それぞれ解説します。

2-1.半身麻痺で手足が動かない・感覚が鈍い

交通事故による慢性硬膜下血腫で半身に麻痺が残った場合、後遺障害認定される可能性があります。

半身麻痺とは、体の片側に現れる麻痺のことです。腕であれば右腕か左腕、足なら右足か左足というように、片側に症状が出ることが特徴です。手足ではなく、顔に現れることもあります。

以下のような症状があります。

✔チェック

・足がもつれて歩きづらい
・片側からよだれが出たり食べ物をこぼしたりする
・片側の視野が欠ける

等級は程度によりますが、第14〜7級、5級程度の等級が認められることがあります。

2-2.言語障害で言葉が出てこない・言葉が理解できない

慢性硬膜下血腫によって言語障害が残った場合も、後遺障害認定される可能性があります。

言語障害の症状はさまざまで、「言葉が出てこない」「言葉が理解できない」といった状態以外に、以下のような症状が起こることもあります。

✔チェック

・言葉は出るがろれつが回らない
・言い間違えることが多い
・文字の読み書きができない
・文字は読めるが意味が理解できない

等級は程度によりますが、第10、6級に該当する場合があります。さらに咀嚼機能も低下していると、第9・4・3級に認定される可能性があります。

2-3.認知症で物忘れ・失禁などが起こる

慢性硬膜下血腫によって認知症の症状が出た場合も、後遺障害認定される場合があります。

認知症の症状には物忘れや失禁のほか、性格の変化などがあります。

認知症による性格の変化とは
状況把握が難しくなってイライラしやすくなったり、感情抑制能力が低下することによって怒りっぽくなったりするのが特徴。おだやかだった人が短気になったら要注意。

被害者が高齢者である場合に多く見られることもあり、加齢による認知症と区別しづらい点に注意が必要です。

等級は程度によりますが、第9級や7級、5級、3級に認定される可能性があります。

ただし、重症度が低い場合は認定されない場合もあるため要注意!  
ここで紹介した症状にあてはまるからといって、必ずしも「後遺障害に該当する」とはかぎりません。  
認定される見込みがあるかどうかは、後遺障害認定に長けた弁護士に相談するのがよいでしょう。   なお、その後遺症が「後遺障害」に該当するかどうかは、医者では判断が難しい傾向にあります。医者は治療においてはプロでも、後遺障害の認定に関しては精通していないケースが多いためです。

また、以下の点にも注意しましょう。

警察に交通事故の届出をしておかないと認定されない可能性があります。  
警察に交通事故の届出をしておかないと、後遺障害認定されない可能性がある点に注意しましょう。警察に交通事故を届け出なければ「交通事故証明書」が交付されず、「事故に遭ったこと」が証明できないためです。  
事故証明書は、「自動車安全運転センター」で交付してもらえます。  
交付の手順は以下の4STEPです。

1.警察署に事故の届け出をする
2.自動車安全運転センターの事務所窓口で「窓口申請用紙」を提出する
3.手数料(1通800円)を支払う
4.交通事故証明書が交付される

申請はゆうちょ銀行・郵便局でも行えます。ただしその場合、「交通事故証明書申込用紙」を自動車安全運転センターや警察署、交番などでもらってくる必要があります。  
なお、申請時点で警察署から自動車安全運転センターに交通事故資料が届いているなら即日交付してもらえますが、以下のケースでは即日交付されず、後日郵送される点に注意しましょう。

・申請時点で交通事故書類が届いていない
・ゆうちょ銀行・郵便局で申請した
・事故現場が県外

3. 後遺障害認定されれば「後遺障害慰謝料」を請求できる

後遺障害認定される可能性のあるケースがわかったかと思います。実際に後遺障害認定されれば、「後遺障害慰謝料」が請求できるようになります。

後遺障害慰謝料とは
交通事故が原因で後遺障害が残った場合に、被害者の身体的・精神的苦痛に対して支払われる賠償金のこと。  
後遺障害慰謝料を加害者側に請求するためには、「後遺障害認定」を受けている必要がある
たとえば事故によって後遺症が残ったとしても、それが後遺障害」として認められなければ、原則として後遺障害慰謝料は請求できない。

後遺障害認定された場合に請求できる「後遺障害慰謝料」の目安は以下のとおりです。

後遺障害等級慰謝料額(自賠責基準)慰謝料額(弁護士基準)
第1級1,650万円(要介護)  2,800万円
1,150万円(介護不要)
第2級1,203万円(要介護)2,370万円
998万円(介護不要)
第3級861万円1,990万円
第4級737万円1,670万円
第5級618万円1,400万円
第6級512万円1,180万円
第7級419万円1,000万円
第8級331万円830万円
第9級249万円690万円
第10級190万円550万円
第11級136万円420万円
第12級94万円290万円
第13級57万円180万円
第14級32万円110万円

「自賠責基準」「弁護士基準」の違いは以下のとおりです。

自賠責基準強制加入である「自賠責保険」で利用されている基準。最低限補償できる金額しか算定されない。
弁護士基準弁護士が利用する、過去の裁判例を参考にした基準。自賠責基準より高くなるが、弁護士に依頼しないと利用できないケースが多い。

このほか、各任意保険会社が設定している「任意保険基準」というものも存在しますが、任意保険基準は公表されていません。ただ、自賠責基準よりは高くなる傾向にあるといわれています。

4. 認定されれば「後遺障害慰謝料」以外の損害賠償金も請求できる

後遺障害認定されることによって、後遺障害慰謝料を請求できることがおわかりいただけたかと思います。

しかし、請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。ほかにも、以下の損害賠償金が請求できます。

請求可能な損害賠償金概要
逸失利益
※本章で計算できます
後遺障害がなければ将来得られたであろう、給料などの利益
休業損害
※本章で計算できます
交通事故によるけがで仕事を休んだために減少・喪失した収入
入通院慰謝料
※本章で計算できます
医療機関に入院・通院せざるを得なくなったことで被害者が受けた、精神的損害に対して発生する慰謝料
治療費交通事故によるけがの治療にかかった投薬代や手術代など
通院交通費けがの治療で医療機関に通う際に発生する交通費
付添看護費近親者の付き添いにかかる費用   ※医師の指示があるときや、被害者の状態・年齢上付添看護が必要になった場合に認められる
将来介護費これ以上の治療を続けても症状の回復が見込めない「症状固定」の状態になってから発生する介護費用  
※基本的に補償されないが、後遺障害1〜2級であるなど、症状が重い場合は補償される可能性がある

事故の被害者であるからといって、必ずしもすべての対象になるとはかぎりませんが、このようにさまざまな損害賠償金が存在します。

ひとつ例を見てみましょう。

例(後遺障害等級第9級に該当したケース)

・後遺障害慰謝料:690万円(弁護士基準)
・逸失利益:895万6,500円(労働能力喪失期間:10年)
・休業損害:180万円(休業日数:120日)
・入通院慰謝料:90万円(通院した期間の日数120日・実際の通院日数40日)
・治療費:10万円 ・通院交通費:4万円  

合計:1,869万6500円
※上記はあくまでも事例です。必ずこのとおりの金額が請求できるわけではありません。

なお、逸失利益・休業損害・入通院慰謝料の計算方法については、ここから詳しく解説します。

4-1.逸失利益の計算方法

交通事故によってこれまでどおりに働けなくなった場合に発生する「逸失利益」は、以下のように計算します。

逸失利益=交通事故以前の基礎収入(年間)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間から算出されるライプニッツ係数(中間利息控除率)

労働能力喪失率

後遺障害等級労働能力喪失率
第1〜3級100%
第4級92%
第5級79%
第6級67%
第7級56%
第8級45%
第9級35%
第10級27%
第11級20%
第12級14%
第13級9%
第14級5%

▼年金現価表(ライプニッツ係数 事故日が令和2年4月1日以降の場合)

労働能力喪失期間ライプニッツ係数
10.971
21.913
32.829
43.717
54.580
65.417
76.230
87.020
97.786
108.530
119.253
129.954
1310.635
1411.296
1511.938
1612.561
1713.166
1813.754
1914.324
2014.877

参照:就労可能年数とライプニッツ係数表|国土交通省

例をひとつ見てみましょう。

条件

・交通事故以前の基礎収入:300万円
・後遺障害等級:9級
・労働能力喪失期間:10年

上記の条件であれば、以下のように計算します。

300万円×35%×8.530=895万6,500円

4-2.休業損害の計算方法

交通事故によるけがで仕事を休んだ場合に発生する休業損害は、以下のように計算します。

休業損害=(交通事故以前3カ月間の収入÷労働日数)×休業日数

例をひとつ見てみましょう。

条件

・交通事故以前3カ月間の収入:90万円
・労働日数:60日
・休業日数:120日

上記の条件であれば、以下のように計算します。

休業損害=(90万円÷60日)×120日=180万円

4-3.入通院慰謝料の計算方法

入通院慰謝料がいくらもらえるかは、実際に入院・通院した月数によって異なります。また、後遺障害慰謝料と同様に、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準のうちどの基準で算定するかによっても異なります。

加害者が任意保険に加入しており、弁護士に依頼していないケースでは「任意保険基準」で算定することになりますが、任意保険基準は、任意保険会社ごとに設定されているうえ公開されていません。

そのため、ここでは「自賠責基準」「弁護士基準」の2パターンを比較します。

4-3-1.自賠責基準で入通院慰謝料を算定した場合

自賠責基準で算定した場合の入通院慰謝料は以下のとおりです。

入通院慰謝料=対象日数×4,300円(2020年3年31日以前の事故なら4,200円)

「対象日数」については、以下のうち短いほうを使用します。

・通院した期間の日数
・実際に通院した日数の2倍

たとえば、通院した期間の日数が120日、実際に通院した日数が40日のケースでは、以下の入通院慰謝料が請求できます。

・通院した期間の日数:120日
・実際に通院した日数の2倍:80日(40日×2)  
上記のうち、「実際に通院した日数」のほうが短いため、実際に通院した日数を用いて計算します。  
80日×4,300円=34万4,000円

自賠責基準では最低限の保証しかされません。適正な金額を請求したいなら、弁護士に依頼し弁護士基準で算定してもらう必要があります。

4-3-2.弁護士基準で入通院慰謝料を算定した場合

弁護士基準で入通院慰謝料を算定する場合、けがの状態が軽症か重症かによって金額が異なります。

たとえば重症で1カ月入院し、6カ月通院した場合にもらえる入通院慰謝料は149万円です。

なお、以下のケースでは慰謝料額が増額される可能性があります。

慰謝料額が増額される可能性のあるケース
・加害者が故意または重過失がある※
・加害者が非常に不誠実な態度をとった
・生死の境をさまよった
・複数回手術を受けた
・麻酔を使用せず手術を受けた
 
※重過失とは、加害者がひき逃げや悪質な違反(無免許・飲酒運転・スピード違反・信号無視など)を行った場合をいう

5. 後遺障害認定されない場合もできることがある!

ここまで後遺障害認定された場合に請求できる損害賠償金について解説してきましたが、実は後遺障害が認定されないケースでもできることがあります。

以下のとおりです。

1.後遺障害認定されなくても「入通院慰謝料」「治療費」などはもらえる
2.後遺障害認定されなくても、例外的に後遺障害慰謝料がもらえるケースがある
3.認定結果に納得いかなかったら「異議申立て」が可能

それぞれ解説します。

 

5-1.後遺障害認定されなくても「入通院慰謝料」「治療費」などはもらえる

後遺障害認定されないケースでも、以下の費用は請求できます。

・入通院慰謝料
・休業損害
・治療費
・通院交通費
・休業損害
・付添看護費(医師の指示があった場合や、被害者の状態・年齢上付き添いが必要になったとき)

入通院慰謝料と休業損害は、前章で紹介した計算方法でいくらもらえるかが算出できます。

基本的に、治療費と通院交通費に関しては「実際にかかった費用」の請求が可能です。

そのほか、医師の指示や被害者の状態・年齢上近親者が入院に付き添う必要があったときは、「付添看護費」も請求できる場合もあります。

5-2.例外的に後遺障害慰謝料がもらえるケースもある

例外的に、顔や体に傷あとが残った場合は、後遺障害認定されていなくても後遺障害慰謝料を請求できることがあります。

顔の傷については、以下のように後遺障害に該当するかどうかの基準があります。

後遺障害等級基準
7級12号・頭部に手の平大以上の外傷・やけどのあとが残るか、頭蓋骨の一部(手の平大以上)が欠ける
・顔に鶏卵以上の大きさの外傷・やけどのあとが残るか、10円玉以上の大きさのくぼみができる
・首に手の平大以上の外傷・やけどのあとが残る
9級16号顔に5cm以上の外傷(線状)が残る
12級14号・頭部に鶏卵以上の大きさの外傷・やけどのあとが残るか、頭蓋骨の一部(鶏卵大以上)が欠ける
・顔に10円玉以上の大きさの外傷・やけどのあとか、3cm以上の外傷(線状)が残る
・首に鶏卵以上の大きさの外傷・やけどのあとが残る

ただし上記基準に該当しなくても、以下のような事情があると認められやすい傾向にあります。

・モデルやホステス、CAなど、容姿が重要な職業に就いている
・年齢が幼く、将来傷あとを気にする可能性が高い
・看護師など、直近で人と接する機会が多いため傷跡が目立つ

自分の状態が後遺障害慰謝料がもらえるケースに該当するのかわからない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

5-3.認定結果に納得いかなかったら「異議申立て」が可能

認定結果に納得いかない場合は「異議申立て」が可能です。

後遺障害の異議申し立てとは
認定結果に納得がいかない場合に、保険会社に対して再度等級認定を求めたり、別の機関に認定結果の正当性を審査してもらう方法のこと。

ただし、異議申立てを行えば必ず結果が覆るというわけではありません。損害保険料率算出機構が公表している「自動車保険の概況(2023年度版)」でも、「異議申立ての成功率は10.73%」という非常に低いデータが出ています。

「納得いかない」という気持ちだけで準備もなしに申立てをしても、結果は変わらない可能性が高いでしょう。

異議申立てを検討したほうがよいケースは、等級認定申請の際に提出した書類や後遺障害診断書の内容に不足があったり、必要な検査を行っていなかったりした場合です。不足を補ったうえで再審査してもらうことで、初回とは異なる結果を得られる可能性があります。

異議申立ての方法は以下の3つです。

保険会社に申し立てる・等級認定申請した保険会社に申し立て、再審査してもらう
・何度でも申立て可能
自賠責保険・ 共済紛争処理機構に申し立てる・第三者機関に、認定結果が正当であったかどうかを審査してもらう
・1回しか申立てできない
訴訟を提起する・認定や等級についてではなく損害賠償問題に対して訴訟を行う
・保険会社などへの申立てを経なくても提起可能

保険会社に異議申立てを行う場合の流れは以下のとおりです。

1.「事前認定」「被害者請求」のうちどちらの方法で異議申立てを行うか決定する
2.異議申立書の作成・追加書類の収集
3.異議申立書を送付する(事前認定なら任意保険会社・被害者請求なら自賠責保険会社)
4.再審査が行われる
5.再審査の結果が送付される

認定結果を覆すには、新たな検査を受けたり有効な追加資料を準備したりといったことが必要です。また、資料や検査結果をもとに、認定結果が不当であることを立証しなければなりません。

そのため、専門知識や経験がなければ対応は難しいでしょう。異議申立てを検討している場合は、交通事故や後遺障害に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

なお、後遺障害の異議申立てについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

別記事:「後遺障害の異議申立てのすべて|認定を覆すための全プロセス解説

事前認定と被害者請求についての詳細は、次章で解説します。

6. 損害賠償金を請求する3つのSTEP

慢性硬膜下血腫で後遺障害認定されるのは難しいものの、認定されれば後遺障害慰謝料や逸失利益などの損害賠償金がもらえることがわかりました。

ここでは、損害賠償金を請求する方法について解説します。損害賠償金は、以下の流れで請求します。

それぞれ解説します。

6-1.STEP1.後遺障害申請を行う

後遺障害申請は以下の流れで行います。

交通事故発生後、症状が出たら必ず医療機関を受診しましょう。警察への通報や届出も忘れず行います。

その後治療を行い、「症状固定」の診断を受けたら後遺障害申請に向けて準備を始めます。

症状固定とは
これ以上治療をしても、回復する見込みがない状態のこと。

症状固定後に行うことは、「後遺障害診断書の作成」です。できあがった後遺障害診断書は保険会社に提出しますが、以下の方法のうちどちらを選択するかによって準備すべき書類や書類の提出先が異なります。

 事前認定被害者請求
準備すべき書類後遺障害診断書のみ後遺障害診断書+その他の医学資料
書類の提出先加害者側の任意保険会社加害者側の自賠責保険会社
申請期限損害賠償金支払い前であれば期限なし症状固定から3年

「事前認定」は、後遺障害診断書のみ自分で準備し、あとは加害者側の任意保険会社に任せる申請方法です。

手続きの手間が省けるうえ費用がかかりませんが、書類や検査が不足しやすいというデメリットがあります。加害者側の任意保険会社が、わざわざ被害者のために適正な等級認定が受けられるよう動いてくれるとはあまり考えられないためです。

書類や検査が不足していると、後遺障害認定を受けられなかったり、認定されても等級に影響を与えたりする可能性があります。等級の認定を目指すなら、事前認定ではなく「被害者請求」を選択することをおすすめします。

「被害者請求であれば認定される」というわけではなく手間もかかりますが、被害者自身が交通事故と後遺症の因果関係を証明するための資料を工夫しながら準備できるため、事前認定よりも等級認定される可能性があるといえるでしょう。

認定結果は、申請後1カ月〜数カ月程度で出ます。後遺障害認定された場合は等級、認定されなければ「非該当」であることが通知されます。

6-2.STEP3.加害者の保険会社と示談交渉を行う

後遺障害の認定結果が出たら示談交渉に進みます。

示談交渉の相手は、加害者が任意保険に加入しているかどうかによって異なります。

加害者が任意保険に加入している場合加害者の任意保険会社
加害者が任意保険に加入していない場合加害者本人、加害車両の所有者や加害者の使用者等

示談交渉では、まず加害者の保険会社から損害賠償金の金額を提示され、同意を求められます。

その金額で納得できれば交渉成立ですが、保険会社の基準は自賠責保険でも任意保険でも被害者が受け取るべき金額より少なく、とても適正な金額とはいえません。

適正な金額を請求したいなら、増額を求める必要があります。ただし、自分で交渉しても増額に応じてもらえない可能性が高いです。

たとえばもっとも高額な算定基準である「弁護士基準」で算出した金額を主張しても、認められにくいでしょう。そのため自分で対応するのではなく、弁護士に交渉を依頼するのがおすすめです。

なお、一度示談に応じてしまうと、あとから「やっぱり納得がいかない」と思ってもやり直せないのが原則です。示談に応じてしまう前に、提示された金額が適正かどうかを弁護士に判断してもらいましょう。

6-3.STEP3.損害賠償金が支払われる

加害者が任意保険会社に加入している場合、示談が成立し、示談書に署名・押印したら、通常であれば2週間後程度で指定した銀行口座に損害賠償金が振り込まれます。

金額が早い段階で判明しやすい治療費や休業損害などは、示談が成立する前に受け取れることもありますが、慰謝料や逸失利益などは示談が成立してからでないと受け取れません。

後遺障害が残るような事故の場合、事故発生から示談成立まで2年程度かかることもあります。そのため、「もっと早くにまとまったお金がほしい」というケースもあるでしょう。

以下の方法を行えば、示談成立を待たなくてもまとまったお金を受け取れます。

方法概要請求先
仮渡金制度を利用する被害者の当座の出費に対して保険金を支払う制度
※けがの程度に応じて金額が異なる
加害者の自賠責保険会社
被害者請求をする示談前でも通院や治療にかかった費用を請求できる
※書類に問題がなければ1カ月程度で支払われる
内払い金を請求する損害賠償金の一部を前払いできる加害者の任意保険会社
自分が加入している
保険を使う
「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」などから補償を受ける被害者の任意保険会社

上記の制度や保険を活用すれば、示談成立までに補償を受けられます。ただし、仮渡金制度については、任意保険会社による一括対応中に行うと、一括対応が打ち切られる可能性があるので、慎重な検討が必要です。

7.認定のための資料集めは素人には難しい!早めに弁護士に相談したほうがいい

解説したとおり、後遺障害慰謝料を受け取るためには等級認定される必要があります。

しかし、「6-1.STEP1.後遺障害申請を行う 」でもお伝えしたように、等級認定を受けるための申請には有力な資料集めを行う必要があり、慣れていない人にとっては難しいでしょう。

また、「6-2.STEP3.加害者の保険会社と示談交渉を行う」でも解説したとおり、認定されたとしても、加害者の保険会社との示談交渉で適正な慰謝料額を認めてもらうことは困難です。

そのため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。

弁護士に依頼するメリット
・適切な後遺障害等級が認定される可能性が高い
・示談交渉や手続きをしてもらえるため、自分で加害者側とやりとりする必要がない
・「弁護士基準」で適正な金額が請求できる

弁護士にアドバイスをもらいながら後遺障害申請の準備をすれば、適切な認定を受けられる可能性が高くなります。

また、加害者側とのやりとりも一任できるため、自分で対応しなければならないストレスを軽減できます。

何より、弁護士が示談交渉を行うことで、「弁護士基準」による適正な慰謝料額が請求できるようになる点は大きなメリットといえるでしょう。

しかし、弁護士=高額の費用がかかるというイメージが強く、依頼をためらう人もいるのではないでしょうか。その場合は、以下の方法を検討してみてください。

・見積りをとり、弁護士費用よりも慰謝料の増額可能額が多いか確認する
・任意保険に付帯している「弁護士費用特約」を利用する

弁護士事務所で費用を見積ってもらいましょう。弁護士に依頼することで増額できる金額が弁護士費用よりも上回るなら、少なくとも費用倒れを心配する必要はありません。

そのほか、自身が加入している任意保険に「弁護士費用特約」が付帯しているなら、費用を気にしなくて済む可能性があります。まずは、任意保険の補償内容を確認してみましょう。

加入している保険会社によっても異なりますが、多くの場合、300万円まで弁護士費用を負担してもらえます。

サリュにご相談ください!
後遺障害認定された場合に請求できる「後遺障害慰謝料」は、弁護士に依頼した場合としなかった場合とで金額が大きく異なります。
たとえば後遺障害等級5級に認定された場合の慰謝料額は、自賠責基準で618万円です。
しかし弁護士に依頼し、「弁護士基準」で算出すると1,400万円まで跳ね上がります
加害者側の保険会社から提示される金額は自賠責基準よりは高くなりますが、弁護士基準には及びません。
交通事故被害者専門の弁護士法人サリュは、解決実績2万件以上、年間相談件数3,000件以上の実績がある法律事務所です。
サリュなら、相談料・着手金無料で対応可能です。賠償金がどの程度上がるかの目安もお伝えできるため、まずは一度お問合せください。

8. まとめ

慢性硬膜下血腫の後遺症が後遺障害に該当するかどうかや、後遺障害に認定された場合に請求できる慰謝料額、慰謝料を請求する方法などを解説しました。

どのような症状であれば後遺障害に該当する可能性があるのか、後遺障害認定された場合の慰謝料額や請求できる損害賠償金について理解できたのではないでしょうか。

慢性硬膜下血腫で後遺障害に認定されることは簡単ではありません。しかし以下のような後遺症が残っている場合は、後遺障害に認定される可能性があります。

1.半身麻痺で手足が動かない・感覚が鈍い
2.言語障害で言葉が出てこない・言葉が理解できない
3.認知症で物忘れ・失禁などが起こる

後遺障害に認定された場合、以下の損害賠償金が請求できます。

・後遺障害慰謝料
・逸失利益
・休業損害
・入通院慰謝料
・治療費
・通院交通費
・付添看護費
・将来介護費

後遺障害に認定されなかった場合でも以下の損害賠償金が請求でき、ケースによっては「付添看護費」も請求できることがあります。

・休業損害
・入通院慰謝料
・治療費
・通院交通費

後遺障害に認定されるためには、「後遺障害申請」を行う必要があります。

「事前認定」「被害者請求」のうちいずれかの方法で申請し、認定結果をもって加害者の保険会社との示談交渉に進みます。

後遺障害申請も示談交渉も、自力での対応は可能です。しかし「少しでも等級認定される可能性を上げたい」「適切な慰謝料額を請求したい」という場合は、迷わず弁護士に依頼することをおすすめします。

もちろん「弁護士に頼めば100%等級認定される」というわけではありませんが、後遺障害や交通事故に精通した弁護士に依頼すれば、少しでも有利になるようサポートしてもらえるでしょう。

等級認定されるために、この記事がお役に立てたなら幸いです。