• 後遺障害

関節の機能障害

関節の機能障害について

交通事故に遭うと、骨折や脱臼をしたり、筋肉や腱・靱帯を損傷したり、ひいては神経が損傷して麻痺が生じるということが起こり得ます。これらの傷病が後遺障害として認められるには、どのようにすればよいのでしょうか。
これらの傷病が重い後遺障害として認められるためには、これらの傷病によって、関節が曲がらなくなったり(関節の硬直・可動域制限)、不安定になったり(動揺関節)、人工骨頭や人工関節を挿入することになったりといった後遺障害としての条件を満たす必要があります。

関節が曲がらない場合

①可動域制限とその原因

可動域とは、肩、肘、手首、手指、股、膝、足首、足指といった人間の関節が、どの程度挙がったり、曲がったりするかを測定し、数値化したものです。
例えば、交通事故により右肩の腱板と呼ばれる部位を損傷した被害者に、右肩が挙がりにくいという障害が残ったとします。自賠責保険においては、負傷した右肩(患側)の可動域と、負傷していない左肩(健側)の可動域を比較することによって、どの程度の障害が右肩に残ったのかを評価します。
ただし、自賠責保険は、関節可動域の測定基準と後遺障害の評価方法を厳格に定めているので、その理解が不可欠です。
また、可動域制限があったとしても、それだけで後遺障害として認められるわけではありません。その可動域制限が後遺障害として認められるには、その可動域制限の原因となる関節それ自体の破壊や強直、関節外の軟部組織の変化や神経麻痺といった可動域制限の医学的原因を明らかにしなければなりません。 可動域制限の医学的原因が明らかとならない場合には、可動域制限自体は後遺障害として評価されず、痛みや痺れといった神経症状が後遺障害として評価されることになり、後遺障害の賠償額が低くなるおそれがあります。

②関節の強直について

<定義>

関節内の筋組織が壊死したり、骨の癒着が生じたりなどして、関節が全く動かなくなる場合をいいます(完全強直)。また、関節の可動域が腱側の可動域の10%程度以下になった場合も、「完全強直に近い状態」として、後遺障害の認定の場面では完全強直と同様に扱われます。

<後遺障害等級について>

肩・ひじ・手首を上肢の3大関節といい、股関節・ひざ・足首を下肢の3大関節といいます。
ア. 上肢について
①肩関節・肘関節・手関節(上肢の3大関節)の全てが硬直又はこれに近い状態にあり、かつ、手指の全部の用を廃した場合、「上肢の用を全廃したもの」として、両上肢の全廃であれば1級4号が、1上肢の全廃であれば、5級6号が認められます。②上肢の3大関節のうち、2関節が完全硬直またはこれに近い状態になった場合、「関節の用を廃したもの」として6級6号が、1関節であれば、8級6号が認められます。
イ. 下肢について
①股関節・膝関節・足関節(下肢の3大関節)の全てが硬直又はこれに近い状態にある場合、「下肢の用を全廃したもの」として,両下肢の用を全廃であれば第1級6号が、1下肢の用の全廃であれば第5級7号が認められます。
なお,下肢3大関節が強直したことに加え,足指全部が強直したものもこれに含まれます。
②下肢の3大関節のうち、2関節が完全硬直またはこれに近い状態になった場合、「関節の用を廃したもの」として第6級7号が、1関節であれば、第8級7号が認められます。

③関節可動域の測定基準

<はじめに>

自賠責保険における関節の可動域の測定方法は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠しています。
しかし、関節可動域を測定する主治医の先生の中には、この測定方法とは異なった方法により測定された関節可動域を後遺障害診断書に記載する方が多くいらっしゃいます。
この場合には、被害者の後遺障害等級の評価が適切になされない事がありますので、主治医の先生には、「関節可動域表示ならびに測定法」に沿った測定をしてもらえるようにしなければなりません。
以下では、特に理解して頂きたい基礎的な知識をご説明します。

<主要運動と参考運動>

各関節の運動は、主要運動と参考運動に分けられます。
主要運動とは、各関節における日常の動作にとって最も重要なものをいい、原則として、関節の可動域は、主要運動の可動域によって評価されます。ただし、場合によっては、主要運動と参考運動によって関節の機能障害の程度を評価する場合もあります。
主要運動と参考運動以外の関節の運動については、関節の可動域の評価の対象とはなりません。
主要運動と参考運動については、以下をご覧ください。

部位 主要運動 参考運動
肩関節 屈曲、外転・内転 伸展、外旋・内旋
ひじ関節 屈曲・伸展
手関節 屈曲・伸展 橈屈、尺屈
前腕 回内・回外
母指 屈曲・伸展、橈側外転、掌側外転
手指及び足指 屈曲・伸展
下肢の運動
部位 主要運動 参考運動
股関節 屈曲、伸展、外転・内転 外旋・内旋
ひざ関節 屈曲・伸展
足関節 屈曲・伸展
足指 回内・回外
<自動運動と他動運動>

可動域には、次の2種類があります。
ア 自動値→自分の力で動かした場合の可動域
イ 他動値→外的な力(多くの場合、主治医等が力を加える)で動かした場合の可動域
原則として、他動値によって後遺障害等級が評価されますが、例外として、麻痺等がある場合には、自動値によって評価されます。

<参考可動域について>

可動域の評価は、負傷した側の関節の可動域と負傷していない側の関節の可動域の比較によって行いますが、事故前から他方の関節に何らかの障害が存在していた場合や、事故により両方の関節に障害が残存した場合は、負傷していない健常な関節が存在しませんので、健常な関節の平均的な運動領域(参考可動域といいます。)との比較で判断することになります。

④後遺障害の評価方法

関節可動域の測定基準は細かく定められているので、あとで説明することとして、まずは、負傷した側の関節の可動域が負傷していない側の関節の可動域と比較してどれくらい制限されれば、何級の評価を受けることができるのかを理解する必要があります。

<肩、ひじ、手首、股関節、ひざ、足首の場合>

この場合は、極めてシンプルです。原則として、負傷した側の関節の可動域が、負傷していない側の関節の可動域の4分の3になってしまった場合には12級、2分の1になってしまった場合には10級になります。注意して頂きたいのは、負傷した側の関節の可動域が、負傷していない側の関節の可動域の4分の3を上回った場合には、可動域制限自体が後遺障害として評価されることは、原則としてないということです。詳細については、以下の表にまとめてあります。

上肢の関節の可動域制限と後遺障害等級の関係
部位 制限の程度 等級
肩関節 4分の3以下 12級6号
2分の1以下 10級10号
人工関節・人工骨頭挿入置換(可動域制限無し) 10級10号
人工関節・人工骨頭挿入置換、2分の1以下 8級6号
ひじ関節 4分の3以下 12級6号
2分の1以下 10級10号
ひじ関節 人工関節・人工骨頭挿入置換(制限無し) 10級10号
人工関節・人工骨頭挿入置換、2分の1以下 8級6号
手関節 4分の3以下 12級6号
2分の1以下 10級10号
人工関節・人工骨頭挿入置換(制限無し) 10級10号
人工関節・人工骨頭挿入置換、2分の1以下 8級6号
前腕 2分の1以下 12級
4分の1以下 10級
下肢の関節の可動域制限と後遺障害等級の関係
部位 制限の程度 等級
股関節 4分の3以下 12級7号
2分の1以下 10級11号
人工関節・人工骨頭挿入置換(制限無し) 10級11号
人工関節・人工骨頭挿入置換、2分の1以下 8級7号
ひざ関節 4分の3以下 12級7号
2分の1以下 10級11号
人工関節・人工骨頭挿入置換(制限無し) 10級11号
人工関節・人工骨頭挿入置換、2分の1以下 8級7号
足関節 4分の3以下 12級7号
2分の1以下 10級11号
人工関節・人工骨頭挿入置換(制限無し) 10級11号
人工関節・人工骨頭挿入置換、2分の1以下 8級7号

なお、関節が強直した場合、人工関節・人工骨頭を挿入した場合については、別の基準になります。

<手指・足指の場合>

指の場合には、「用を廃したもの」という条件を満たすことが必要です。
複雑な条件なので、ここでは説明しませんが、肩などの場合と異なり、可動域が4分の3になったといっても、可動域制限自体が後遺障害として評価されることはないので、注意が必要です。
その詳細については、以下の表の通りです。

手指の可動域制限と後遺障害等級の関係
両手の手指の全部の用を廃したもの 第4級6号
1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの 第7級7号
1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの 第8級4号
1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの 第9級13号
1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの 第10級7号
1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 第12級10号
1手のこ指の用を廃したもの 第13級6号
1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈曲することができなくなったもの 第14級7号

※「用を廃したもの」とは
ア 末節骨の長さの半分以上を失ったもの
イ 中手指節関節又は近位指節関節(おや指では指節間関節・第1関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの
ウ おや指については、橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

足指の可動域制限と後遺障害等級の関係
両足の足指の全部の用を廃したもの 第7級11号
1足の足指の全部の用を廃したもの 第9級15号
1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの 第11級9号
1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの 第12級12号
1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの 第13級10号
1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの 第14級8号

※「用を廃したもの」とは
ア 第1の足指の末節骨の長さの半分以上を失ったもの
イ 第1の足指以外の足指を中節骨若しくは基節骨を切断したもの又は遠位指節間関節若しくは近位指節間関節において離断したもの
ウ 中足指節関節又は近位指節間関節(第1の足指では指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限

なお、関節が強直した場合、人工関節・人工骨頭を挿入した場合については、別の基準になります。

⑤神経麻痺による関節自動運動の喪失

<定義>

関節の動きをつかさどる神経が断裂するなどして、他動では可動するものの(他人が動かせば動く状態)、自動では関節の神経が動かせなくなった状態(自分の意思では動かせなくなった状態)をいいます。
また、他動では可動するものの、自動では健側の関節可動域の10%程度以下になった場合も、「完全弛緩性麻痺に近い状態にあるもの」として、関節自動運動の喪失として扱われます。

<後遺障害等級について>

ア. 上肢について
上腕神経叢の完全麻痺により自動運動が不能になった場合、「上肢の用を全廃したもの」として、両上肢の全廃であれば1級4号が、1上肢の全廃であれば、5級6号が認められます。上肢の3大関節のうち、2関節が関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にある場合、「関節の用を廃したもの」として6級6号が、1関節であれば、8級6号が認められます。

イ. 下肢について
仙骨神経叢の完全麻痺により自動運動が不能になった場合、「上肢の用を全廃したもの」として、両下肢の全廃であれば1級6号が、1下肢の全廃であれば、5級7号が認められます。下肢の3大関節のうち、2関節が関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にある場合、「関節の用を廃したもの」として6級7号が、1関節であれば、8級7号が認められます。

人工関節か人工骨頭を挿入した場合

①定義

骨折等により骨頭が壊死したり、関節の不適合性を生じた場合や、痛みを取り除く場合、可動域の改善等を目的として、人工の関節や骨頭を挿入したり、これに置き換えたりすることをいいます。

②後遺障害等級について

3大関節のうち、2関節に人工関節または人工骨頭の挿入置換したもので、その可動域が人工関節または人工骨頭を挿入していない側の2分の1に制限された場合、「関節の用を廃したもの」として、6級6号が、1関節であれば、8級6号が認められます。
また、可動域制限が2分の1以上なくても、人工関節又は人工骨頭の挿入置換した場合、「関節の機能に著しい障害を残すもの」として、10級10号が認定されます。

関節が不安定になった場合(動揺関節)

①定義

動揺関節とは、関節内の筋や靱帯が断裂するなどして、関節の安定性を失い、異常な動きをすることをいいます。

②後遺障害等級について

上肢の動揺関節:
常に硬性装具を必要とする場合は、「関節の機能に著しい機能障害を残すもの」として、10級10号が認定されます。時々硬性装具を必要とする場合は、「関節の機能に機能障害を残すもの」として、12級6号が認定されます。
なお、硬性装具とは、四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助器具のうち、硬性材料で製作した装具を指しますので、お使いの装具が軟性装具である場合、常に着用することが必要であるからといっても、10級10号になるとは限りません。

下肢の動揺関節:
常に硬性装具を必要とする場合は、「関節の用を廃したもの」として、8級7号が認定されます。
時々硬性補装具を必要とする場合は、「関節の機能に著しい機能障害を残すもの」として、10級10号が認定され、重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないものは、「関節の機能に機能障害を残すもの」として、12級6号が認定されます。

なお、前記「上肢の動揺関節」と同様に、軟性装具を常に着用することが必要であっても、8級7号になるとは限りません。

習慣性脱臼について

①定義

外傷性脱臼の治癒後、関節包の弛緩(しかん)、関節窩(か)などの骨の変化などを原因として、たびたび脱臼を重ねる症状をいいます。ただし、先天性のものは除かれます。

②後遺障害等級について

「関節の機能に障害を残すもの」として、12級6号が認定されます。