SALUT 弁護士法人サリュ

生きた解決事例 弁護士&リーガルスタッフ対談

 

高級外車との追突事故で、
多額の修理費を請求されて

齋藤 この案件は、小倉さんが電話を取ったんですよね。

小倉 トラックに乗っていた依頼者の方が、高級外車に追突してしまったという相談で、相手方から多額の修理費を請求されていた。つまり、加害者側でした。

齋藤 サリュは被害者からの依頼専門です。小倉さんから相談カードを受け取ったとき、僕も「法人としてこの件を受けられるのか」と悩んだ記憶があります。

小倉 ところが、お会いしたら、もう見るからにいい人そうな方だったんですよね。60代後半ぐらいで、屋根の修理などをされていらっしゃった。真っ黒に日焼けした、いかにも職人さんという方。お話を聞いていたら、その方が一方的に追突したわけではなく、相手の高級車が強引な割り込みをしてきたようだった。急に目の前で強引な割り込みをされて、車もへこんで、さらに高額なお金まで請求されている。これは、むしろ被害者です。この人がウソをついたりなんてしない、何の根拠もないですが、そう思いました。

証拠はない、保険もない、ないないづくしの「負け筋」の案件だった

齋藤 二人とも直感でしたよね。こういう話は水掛け論で、プロとしては相談者を信じつつも話半分に聞かなければいけないところもあるのですが、今回は違った。相手方は1500万円を軽く超えるような高級外車、依頼者の方は走行距離22万㎞超のボロボロのトラック。依頼者の方自身もお世辞にもお金を持っているわけではありませんでしたし、どこの事務所も受けなければ、この人は70歳手前で数百万円の債務を負ってしまう。これは受けてあげないとかわいそうだと思ったのです。2人とも報酬がどうなるとか、その後のことは何も考えていなかった。
とはいえ、追突か割り込みかの争いは、ドライブレコーダーがないかぎり、証明が難しい。だから、最初にやったことは、そもそも相手が要求してきている修理費自体が妥当なのか。ただ、依頼者の方が自動車損害賠償責任保険(自賠責)にしか加入していなかった。基本的に自賠責は人身損害しか補償しませんから、物損については無保険状態でした。

小倉 保険会社には物損の専門家であるアジャスターという人がいます。額が妥当かどうかと鑑定して出してくれる。依頼者の方をサポートしてくれる保険会社はなく、アジャスターもいない。つまり、相手方から請求されている修理費の見積もりが正しいかどうかもわからないのです。まず、協力してくれるアジャスターを独自に探すところから始まりました。

齋藤 最初が一番キツかったですね。相談にのってくれる保険会社の専門家もいない、外国車だから未知数の部分も多い。こんな“負け筋”の案件を、普通の事務所のように弁護士一人で抱えていたら潰れてしまいます。リーガルスタッフである小倉さんと相談しながら進めることができたので、戦えたんだと思います。

小倉 なんとか協力してくれるアジャスターを見つけて、相手方から出てきた修理見積りを見てもらったんですよね。相手は590万円の修理費に加えて、代車料も請求してきた。それで計740万円。代車も高級車でないとダメだと。
確かに高級車だったので、修理費に妥当な部分はあったのですが、それにしても高すぎる。修理費は最小限度に抑えようと思えば250万円程度に抑えられる、また同じ車両の時価額が480万円だということがわかったので、ウチとしてはそんな高い請求には応じられないという書面を出した。そうしたら、相手はすぐに訴訟提起してきたのです。なので、こちらは被告になりました。

齋藤 相手方の請求額は約740万円。ベンツとかポルシェとかと違ってレアな車でしたから、アジャスターですら頭を悩ませるようなケースでした。なのでこちらの主張する修理費は、ダメ元な部分もありました。
通常の国産車レベルの工賃で計算してようやく250万円ですからね。こちらの主張した時価額に対しては、限定仕様の車だからもっと高いという主張をしてきていました。それもまた、事実。とにかく筋悪です。もっとも、小倉さんが普段から依頼者の方と頻繁に連絡を取り合っていたので、信頼関係を構築しながら進めることができましたよね。

小倉 毎回、電話で30分ぐらいお話ししていましたが、半分以上は事件以外のことでした(笑)。「今日はどこの現場に行った」とか「今日は現場でこんなことがあった」という話から聞いていたので、どうしても時間が長くなっちゃっていました。
ただ、そういうことが大事だったのかなと思います。3人でカメラを持って現場に行って、報告書も作りましたしね。『ガスト』で3人でお昼ご飯を食べて、依頼者の方がこれまで職人としてどんな思いで仕事をしてきたか、ご家族はどんな方たちなのかなんていう話もじっくり聞いた。そんなやりとりを通じて、依頼者の方と信頼関係を築けたんだと思います。
ある日、いつものように雑談を交えて話していたら、依頼者の方がポロッとこんなことをおっしゃったんです。「(相手から)家に貼り紙を貼られた」と。

齋藤 本当に何気なくおっしゃったんですよね。

スタッフと依頼者の信頼関係があったから拾えた、相手方に不利な情報

小倉 そうなんです。「貼り紙ってなんですか?」と聞いたら、脅迫めいたことが書いてあるという。まだ貼り紙は手元にあるということだったので、電話を切ってすぐに齋藤先生にその話をした。ただ、依頼者ご本人はあんまりピンときていませんでした。

齋藤 当事者だから当然のことですが、依頼者の方は裁判においてどの情報が重要なのか認識されてないことも多いですからね。とにかく負け筋の裁判でしたから、裁判官の心証を変えられるものがあると、非常に大きい。
普通の弁護士と依頼者の方の関係だったら、依頼者の方が「これは別に話してもしょうがないかな」「そんな話は必要ないとか言われちゃうかな」などと思って話されないことがたくさんあると思います。そうして埋もれていく重要な証言や物証が多くある。
この貼り紙もそうなっていた可能性は大きいです。ウチはそういうものを小倉さんのようなリーガルスタッフがひとつひとつ拾いあげて、すべて僕たち弁護士に伝えてくれるのです。

小倉 実際に依頼者の方とのお話が、直接事件に反映するのは、1~2割ぐらいです。しかし、反映されない8割、9割があるからこそ、残りの部分が意味を持ちます。それに、最初お話を伺っている段階では何が事件についての重要なお話かわかりませんから。

齋藤 この貼り紙も依頼者の方は「見たくないから捨てようと思っていた」とおっしゃっていたわけですしね。この貼り紙が裁判官の心証を大きくこちらに引き寄せたと思います。第一回の口頭弁論のときの裁判官の第一声が「これが、その貼り紙ですか」でしたから。答弁書で貼り紙について指摘すると、相手も貼ったことを認めた。ただ、その理由はなんとも不合理なものでした。

小倉 それに、事故が起きた際、急な車線変更をしたのではないかというこちらの指摘に「自分はいつもあの地点でUターンしている。あのときも100m前からウインカーを出していた」と主張してきた。「いつもUターン」する地点があるなんてありえない話じゃないですか。100m手前でウインカーを出すというのもどう考えてもおかしい。

齋藤 そこで、こちらの車の修理代や貼り紙による脅迫行為に対する慰謝料などを求めて、こちらから反訴提起しました。この頃になると、もちろん明らかに負け筋の案件であることは間違いないのですが、もしもっと相手のボロを出すことができれば、ひょっとしたら勝訴できる可能性もあるのではないかと思えるようになりました。
ところが、相手方も「今回の事故で首を痛めた」と治療費と慰謝料の要求を追加、請求の総額は840万円になりました。

小倉 まさに泥沼状態でしたね。裁判の尋問はなかなか厳しかった。相手はまったくボロを出さなかったですし、反対にこちらの依頼者の方は元々そういったことが得意な方でありません。緊張されてしまって、なかなか上手く伝えられなかったですね。

840万円から250万円に減額、それでも悔しいけれど、感謝の言葉をもらった

齋藤 尋問後、裁判官から「相手の言っていることの疑わしい部分はあるけれど、そちらの主張では判決は書けない」という心証を伝えられました。非常に悔しくて、身体が熱くなったことを覚えています。
結局、250万円で和解になりました。和解の話はなかなかまとまらず、何度も何度も交代で和解室に入ったのを覚えています。粘り強くやったのでへとへとになりました。840万円という請求から考えると、悪くない結果ではあります。
ただ、一時は勝訴の可能性もありましたし、依頼者の方は余裕がある生活をされているわけではありません。完全に負け筋であることを考えれば、いい結果と言えるのかもしれませんが、勝ったのか負けたのかわからない、非常に悩ましい結果でした。

小倉 粘り強く色々な方法を試し、あきらめなかったからこそ、賠償額を減らせたと思いますが、悔しかったですね。依頼者の方から「自分だけではここまでできなかった」と、感謝していただけたのが救いでした。いろいろな意味で印象に残っている案件ですね。

 

亡くなった息子さんの無念を晴らす
画期的な判決!

小杉 原付自転車による事故で亡くなった男性(Aさん)のお父様が依頼者でした。原付自転車で新聞配達をされていたAさんが交差点で右折しようとしたところ、直進してきたバイクと衝突。ほぼ即死だったそうです。普通事故にあうと、相手方の保険会社から、電話で連絡がきますよね。ところが、半年経ってもなにもない。
ようやく連絡がきたと思ったら、その保険会社の担当者から、このような場合は直進が優先なので、過失割合が8対2で、Aさんのほうが悪いと言われてしまった。あくまでAさんが無謀な運転をした結果、事故が起き、亡くなってしまったということだというのです。

上野 お父様はご自身で調べて、自賠責保険で3000万円を受け取られたのですが、どうしても事故について違和感が拭えなかった。それで、色々な法律事務所に相談に行かれていた。ただ、どの事務所も「もう取れるものはないですよ」の一点張り。
事故全体の損害が7000~8000万円だとすると、過失割合の2割分しかもらえないわけですから、8000万円の2割だと1600万円ほど。すでに自賠責で3000万円受け取っています。
「直進が優先なので、右折車の過失が大きい」と言い張る相手方の保険会社と戦ってくれる事務所がなかった。それで、サリュの横浜事務所に相談にいらっしゃったのです。

まじめな息子さんの無念を晴らしたい

小杉 お父さんの話を伺っていると、お金というよりも、やはり息子さんの無念を晴らしたいという気持ちが強いようでしたよね。お父様が「ウチの息子がそんな無謀な運転をするはずがない」と仰っていたのが印象的でした。

上野 そのとき、お父様がAさんの小さい頃のエピソードを色々と話してくださった。とても真面目で、正義感の強い人間だったと。お話を聞いていて、Aさんが無謀な運転をして、事故を起こしたというストーリーではないのではないかと思い、受任することになりました。

現場検証と、
ご両親との対話で見えてきたもの

小杉 まず事故にあった交差点の現場調査に行きました。赤信号で車が停まるたびに、車道に出て写真を撮ったり、距離を確認したり。かなり見通しがいい交差点でしたし、とても普通の速度で走っている直進車を無視して、Aさんが強引に右折しようとしたとは考えにくい。

上野 ものすごいスピードで走っていた直進車が、Aさんに衝突したのではないかという思いが強くなりましたよね。他にも、直進車と右折車による事故の判例や文献の調査も徹底的に行いました。

小杉 それと、ご両親の話を伺っていたら、Aさんには交際されていたBさんという女性がいたことがわかったのです。これは重要な点なんですよね。というのも、賠償金というのは、主に「葬儀費用」「慰謝料」「逸失利益」の3つが含まれます。一人暮らしの男性と、「一家の支柱」といって奥さんやお子さんがいる男性とでは、慰謝料の額も、逸失利益を計算する際の生活費控除率も大きく変わってくる。

上野 最初はBさんの連絡先もわかりませんでしたので、住民票を取り寄せて、なんとか彼女の居る場所を探した。手紙を出してご協力を仰ぐことにしましたが、事故から2年は経っているとはいえ、Bさんにとって決して思い出したくないことだと思います。「協力したくない」と思われてしまったら終わりです。とにかく細心の注意を払って手紙を書きました。手紙を読んで頂けて、Bさんが事務所に来てくださったときは嬉しかったです。

小杉 あれは大きかったですよね。2人は7年間交際されていて、うち4年間は同棲されていたことがわかった。これは夫婦に近い関係と言えるので「一家の支柱」に近い額をもらわなくちゃいけない。Bさんは身体が弱く、Aさんの収入で2人は生活していたようでした。つまり、彼女を扶養していた側面があるので、生活費控除率も下がります。
とくに死亡事故だと、亡くなった方の背景などをちゃんと裁判所に伝えて、評価してもらわなければいけません。やはりご両親に聞いていてもわからない部分というのはあります。判決に直接影響する部分以外でも、Bさんの協力は非常に大きかったですね。

過失割合を新たな証拠でひっくり返し、画期的な判決を勝ち取った

上野 裁判での一番大きな争点は、過失割合でした。こちらは向こうのバイクは100~115㎞は出ていただろうと主張しましたが、相手は60~80㎞ほどしか出ていなかったと反論。向こうには相手のバイクが停止したとされる地点をもとにした計算式などの根拠と、証言者もいたのです。衝突した男性と一緒に彼の友人も並走していて、その友人が「自分は時速60㎞ほどで走っていた」と証言した。つまり、加害者も60㎞ほどで走っていたはずだと。

小杉 ここが一番悩んだところでしたね。このまま認定されてしまったら、ウチは負けてしまう。私たちは警察の記録から100~115㎞だと主張したのですが、何かの根拠を提出していたわけではなかった。それで、神奈川県警の科学捜査研究所(科捜研)に根拠となるデータを出してほしいと、弁護士会を通じて協力要請をした。ただ、基本的に警察は民事不介入です。可能性は薄い。

上野 裁判が始まり、証拠をやりとりして、弁論が始まっても、まだ科捜研からデータは届かなかったのですよね。弁論が終われば、あとは判決を待つだけです。ところが、弁論が終わったところでようやく出てきた。

小杉 科捜研が解析の結果を作成してくれるなんていうことは滅多にないですから、嬉しかったんですが、急いで弁論再開の申し立てをしました。

上野 この科捜研の回答書が決め手になりました。過失割合が、当初8:2でAさんの方が悪いとされていたものが、4:6になり加害者の方が悪いとされたのです。賠償額も3000万円ほどの判決がなされて、自賠責の3000万円とあわせて、6000万円となりました。この判決は、画期的な判決として自保ジャーナルという裁判例紹介雑誌にも掲載されました。

小杉 裁判が終わって、2人でAさんの仏前までご挨拶に行きました。ご両親が喜んでくださって、嬉しかったですね。お母様は最初に相談に来ていただいたときは、もうボロボロの状態で、泣きながら話をされていたのを覚えています。それが、裁判が終わって、最後に挨拶に伺ったときも泣いていらっしゃった。それが、悲しんでいる涙ではなく、結果に喜んで泣いてくださっている涙だったので本当に嬉しかった。

上野 亡くなったAさんにいいご報告ができたので、最後の挨拶に行ったあとの帰り道は、とてもすがすがしかったですよね。お父様が「死人に口なし」ということをよく仰ってましたが、それを代弁できましたから。それが代理人の役目ですからね。 

小杉 ご両親が「サリュにお願いしてよかった」と言ってくださった。やっているときはもう必死でしたが、ひとつひとつ積み重ねていって、本当によかったなと思いましたね。

 

「実態に即した被害の回復」を目指すため
既存のルールにとらわれず、やれることはやり尽くす

激痛で通院しているのに保険会社から治療費を打ち切られて

竹内 依頼者はYさんという女性です。車で丁字路を直進しようとしていたら、左側から右折しようとする車を発見した。
Yさんはその車が通り過ぎるのを待つために、自分の車を道路の左端に寄せて停車させたのですが、向こうの車は右折後、Yさんの車両にほぼ正面衝突してしまった。 事故後、Yさんは病院に行って、頚椎捻挫・腰椎捻挫という診断を受けたが、ただの捻挫とは思えない体中の痛みに襲われるようになった。しかし、治せる医者に出会えず、病院をたらい回しにされてしまった。

藤本 Yさんは事故をきっかけに線維筋痛症という病気を発症したのです。 この病気は、時には衣服がすれるだけでも全身に激痛が走るような病気で、当時(今でさえ)まだ認知度は低く、判例もほとんどありませんでした。 最初は、相手の保険会社から治療費をもらって通院していたのですが、詐病だと疑われ治療費はすぐに打ち切られました。そのため、ご自身が加入していた人身傷害保険を使って治療を続けていたのですが、それもやがて打ち切られてしまう。 治療費も、休業損害も、通院のための交通費ももらえずに、ご主人と子供二人で4人生活だったYさんの生活はあっという間に困窮していきました。

竹内 それでサリュに相談にいらっしゃった。事故から3年ほどが経っていました。

藤本 相談に来られた時は、杖をつきながら何とかやってきた、という感じで、法律相談の間もずっと辛そうでした。 痛みのせいで一日中寝ているしかないような日々が続いて、家事もできず、中学生と小学生の息子たちに世話をしてもらう毎日で、罪悪感にも苛まれていらっしゃいました。 「自分の保険会社からも見捨てられてしまった」と悔しさをにじませていたのを覚えています。 治るまで通院できるようにしてほしい、きちんと症状に見合った適切な賠償をしてほしい、というのがYさんのご希望でした。

後遺障害14級では到底救われない。7級認定を求めて裁判へ

竹内 後遺障害の認定をまだ受けていなかったので、自賠責へ後遺障害の申請をしました。自賠責は一番低い等級の14級という認定でした。

藤本 私たちは、もともと保険会社が線維筋痛症による症状を認めないのに、自賠責がまともに認めるわけはないと初めから想定していましたよね。ですから、竹内先生も私も、Yさんの本当の被害回復のためには裁判しかないと考えて訴訟を提起しました。Yさんの症状は、14級なんて軽いものじゃないですよ、7級相当の重い障害が残っていますよと。 相手方(保険会社)は、Yさんの症状は精神的なもので、事故との因果関係はなく、14級以上の賠償責任は負わないという主張でした。

竹内 裁判では、まず事故の過失割合を争ったのですが、調べていくと、事故の実況見分調書の数字が間違っていたことがわかった。ある数字とある数字が逆になっていて、それによってどちらに過失があるかがガラリと変わってしまうような間違いだった。 警察の単純ミスだったと思いますが、私は、この実況見分調書の誤りを認めてもらうべく、警察署に電話をかけて、当時の警察官を突き止め、警察署長が責任をもって回答するよう働きかけました。ついには警察署から実況見分調書記載の数字は誤りであるという回答を得て、Yさんに過失がないということを立証しました。
もっとも、裁判の一番の争点は、Yさんの症状が線維筋痛症によるものなのか、そうだとしても、現実にどの程度の障害なのか、ということでした。 線維筋痛症が医学的にまだ完全には解明されていないことや、過去の数少ない判例からして、最初の裁判官の心証は14級プラスアルファ程度だったと思います。

藤本 でも、Yさんの症状が14級程度のわけがない。 とはいえ、判例もほとんどないし、線維筋痛症は、医学的にもまだ十分に解明されていない病気なので、医学的見地からの立証も難しい。 竹内先生と私は何度も頭を悩ませましたが、私は、判例もなく、純粋に医学的な立証が難しいんだったら、そこに拘るのではなく、Yさんの実際の症状・障害を、裁判官が認定しやすいように客観的資料を集めるしかないと思いました。 そこで、思いついたのが、サリュで扱ってきた多くの後遺障害事例との比較をすることでした。また、その症状を客観的に立証するために、既存の検査表など流用できるものを流用し、医師にも作成の協力をお願いしました。

竹内 この時の藤本さんのアイデアは、本当に良かったですね。以後、他のケースでもノウハウとして利用しています。

藤本 実際、そんな奇抜なアイデアでも何でもないと思います。ですが、私たちのように専門でやっていると、逆にそれまでの事例や実務の枠内でしか、いつの間にか考えなくなったりしてしまい、むしろそれが専門性だというような勘違いが生じやすいと思う。そこを、諦めずに、フラットに物事を見直して、別の方法が本当にないのかと考えるかどうかがやっぱり重要なんだと思います。
竹内先生は、毎回、裁判期日の後に、その日の裁判官とのやりとりや心証、相手方の雰囲気まで全部共有してくれていたので、私としては本当に「チーム」で事件に取り組んでいるという実感がありました。Yさんのために何をすべきなのか、いつも一緒に考えていたという感じです。

竹内 裁判官は、線維筋痛症かということより、実質的な労働能力喪失の程度がどれくらいなのか、といったことを気にしていた。線維筋痛症だといくら主張しても、そこにキャッチャーミットはないんだと思った。 Yさんがどれぐらい日常生活の動作が不便なのか、それが何級の労働能力喪失に相当するのか、その道を作らないと裁判官は乗ってこないと考えました。 ただ、普通は、線維筋痛症だと負け筋だと思ってしまう弁護士も多いと思う。それだけ難しい案件だったと思います。 でも、藤本さんは全然納得していなかったですもんね。私が「こういうことを立証したい」と言うと「じゃあ、こういうやり方はどうか」と提案してくれる。 まさにそれが実際に裁判でこちらに有利な証拠となった典型例だと思います。

日常生活をビデオに撮ってみせるというやり方

藤本 このケースではこの程度が実務の通例だから、と妥協するのは簡単だけど、私はやっぱりそれでは納得できなかったですね。 ビデオもそうでした。線維筋痛症の第一人者の先生に相談して、現時点でのありうる医学的資料を準備はしましたが、その先生ですら「現時点で医学的に立証することは難しい。ビデオでも撮って見せたらどうですか」と言われた。それで、Yさんが家から病院に行くまでの様子をすべて撮影することにしたのです。 Yさんは一人では病院に行けませんでしたから、中学生の息子さんに付き添われて通院していました。今思い出してもその光景は切ないです。 お金もないので、バスや電車を乗りついで1時間以上かけて行きました。 Yさんは、病院に着くなりぐったりして待合室のソファに横たわりました。私はそこまでをすべて撮影しました。 竹内先生に聞いたら、裁判の証拠としてビデオを出すことはあまりないという話だったけれど、実際に見てもらわないと分からないんだから、こうして撮ったものを見てもらうしかないし、裁判官絶対これ見るべき!ぐらいの気持ちでした(笑)。

竹内 裁判をしている間、Yさんもご家族も大変でしたね。経済的に困窮されて、途中からは生活保護を受給されるようになった。

藤本 途中、Yさんの旦那さんも事故に遭うといったトラブルもあって、経済的にも苦しく、夫婦関係も崩壊しそうになったことも何度かあったそうです。それでも、2人のお子さんたちが、通院の手助けや家事など献身的にサポートしてくれた。それで、乗り越えられた部分はあったと思います。

竹内 そんなYさんが日常生活でどれだけ不自由を被っているのかを裁判官に見せたかった。裁判では、陳述書というものを提出しますが、この時はそれに代わり、Yさんの通院の様子や、事故に遭ってからの心情を語るところをビデオに撮ってそのまま提出したのです。もちろん、ビデオの内容を説明する書面や、陳述書も出しましたが、できるだけありのままを伝えるべきだと思ったのです。

藤本 ただ、そもそも陳述書の代わりにビデオを出す慣習がないというのもおかしいと思いますね。慣習がないから出さないというのも違うと思いますが。日本の裁判って堅いですよ。 それから、大きかったのは、相手が証拠として提出してきた海外の文献。一緒につけてきた日本語訳と原文の意味が違っていたのです。多分、原文はろくにチェックしていなかったのでしょう。そこに竹内先生が気付いて指摘した。

竹内 あれはラッキーでした。それによって、裁判官の心証も大きくこちらに引き寄せられたと思います。結局、尋問前に相手から和解の申し出がありました。賠償金は2400万円。後遺障害を7級程度に評価した内容でした。 事故からは8年弱が経っていました。

妥協せずに、あらゆる方法を尽くしたから結果が出た

藤本 8年という年月は取り戻せないけど・・・最後は良い解決に着地できて本当に良かった。

竹内 Yさんが「これできれいさっぱりゼロからスタートできます」と喜んでくださったこと、サリュの対応に感謝してくださったことがとても嬉しかったですね。

藤本 結局、どこまで戦うかということですよね。過去の判例や実務を踏襲して「この辺かな」とする弁護士事務所も多いと思います。 そういった妥協をせず、「実態に即した」被害者の本当の損害を回復するために、諦めずに想像力を駆使して行動する、それがこの結果につながったんだと思います。
弁護士とリーガルスタッフのチームで一緒に依頼者のために解決に取り組む、というサリュのやり方はやっぱり強いと思います。一人より二人だし、弁護士二人より、弁護士と専門性高いリーガルスタッフのコンビの方が、私は依頼者に対するきめ細やかな対応や共感ができて、依頼者の満足にも寄与しているのではないかと思っています。 サリュを退職して、他のいろんな事務所を見てきましたけど、この「サリュ式」がサリュのサービスの質を高めていることは間違いないと思います。

藤本薫里(元リーガルスタッフ)…サリュに10年勤務後、ウェブ関連の企業に転職し、弁護士事務所のマーケティング支援に携わる。現在は独立し、リーガルスタッフの育成や業務効率化、HP制作など、各地で弁護士事務所の運営をサポートしている。

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